第七十一話・因果応報も一歩から
『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週日曜日と火曜日、金曜日を目安に頑張っています。
それは、いつもの日常。
「なあ乙葉。俺にも魔法を教えろ‼︎」
のんびりと箒に跨っての登校、そして教室に入った時の、いきなりの一言。
誰かと思ったら、手品部の織田じゃねーか。
自称・ストリートマジシャン甲乙兵の弟子が、何を俺に学ぶと言うのかね?
「断る。なんで俺がお前に魔法を教えないとならないんだ?」
「本気で知りたかったら教えるって話していただろ? 俺は本気だ」
「妖魔に狙われるぞ? それでも良いのかよ」
「よ、妖魔なんか怖くないぜ。それよりもあれか? 俺に魔法を教えて、俺に抜かれるのが怖いのか?」
ふむふむ。
こいつは人に物を頼むという方法を、『煽って失言を引き摺り出す』と思っている奴だな。
そんなアホを相手にするほど暇じゃないが、かと言っていつまでも絡まれても癪に障る。
(面倒だけど……)
考え込むフリをしてカナン魔導商会をオープン。
よし、アップデートが終わっているので空間収納にある虹貨をすべてチャージ。
そのまま魔導具の欄にあった『魔力感知球』というのを購入。
『チーン。お買い上げありがとうございます。残りチャージポイントは12億9千9百万クルーラです』
この魔力感知球というのはとんでもないアイテムで、使用した対象の持つ魔力、闘気を数値化することができる。
しかも数値ではなく色によっても表現できるようで、一般人平均の上限30以下なら赤、最低限の魔法使いの素養がある31以上はオレンジ。
そして一般の魔法使いと呼べるレベルの50以上なら黄色、上位魔術師の才能ありの100オーバーなら青く輝く。
しかも、賢者クラスの魔力である300を超えると白く輝くというおまけ付きだ。
でも。これってカナン魔導商会のある世界の基準らしいから、こっちではどうなんだろうなぁ。
──ゴトッ
空間収納から魔力感知球を取り出して机の上に置く。
「こいつに手をかざしてみろよ。これは魔力感知球って言ってな、かざした奴の魔力の強度を測るんだ。ちなみに魔法を使うために最低必要なのはオレンジゾーンで魔法使いの平均魔力値なら黄色く輝く。悪いがオレンジ程度じゃ教えてやらん、黄色に輝くなら教えてやるよ」
この俺の話を聞いていた周りの友達連中も、俺も俺もと並び始めた。
「よし、この俺の輝かしい魔法使いライフの第一歩だ、周りの愚民よ見て驚け‼︎」
──ボウッ
案の定、真っ赤に輝いた。
でも、なぜか織田はドヤ顔。
「見たか乙葉‼︎ これで俺が魔力が高いことが知らされただろうが‼︎」
「あ、説明忘れ。才能ないのは赤く輝くから。はい次の方どうぞ〜」
「な、なんだって、これは何かの間違いじゃないか? そうだよ、このマジックアイテム壊れてるんだよ‼︎ やり直しを要求する‼︎」
「お前は異世界転生者のテンプレートかよ‼︎ 壊れているのはお前の魔力だ。いや、壊れてはいないか」
そう言うと、織田がまたもやドヤ顔。
「そうだろう、俺は壊れてはいない」
「まあな。現代人平均値だ、数値で言うと8。普通に就職する分には問題ないから頑張れ」
「はぁぁぁぁ?」
まだブツブツと叫んでいる織田は廊下まで連行された。そして並んでいるクラスメートが次々と魔力感知球を使ってて見たが、当然ながら黄色表示なんて出るはずがない。
「あら、面白そうね、私もやってみて良い?」
いつのまにか朝のHR。
要先生も来たのでやってもらったんどけど。
──フゥゥゥゥン
黄色く輝きましたとさ。
まあ、普段から第六課として動いているし、なにかと妖魔今回の事件にも触れてきていたんだろうからあるだろうなぁ。
問題なのは、その結果を見てまたも織田が暴走、余程、自分の魔力が低かったのが気に入らないんだろうなぁ。
「み、認めない、おれが皆よりも魔力が低いなんて認めない‼︎」
そう叫んで、織田は早退した。
まあ、織田が何かやらかすのは日常茶飯事なのでクラスのみんなも慣れたもの。
そのあとも、噂を聞きつけた生徒が休み時間ごとにクラスまで魔力感知球を試したくてやってくるから、面倒なので要先生に魔力感知球を預けることにした。
昼休みには、透明なアクリルケースに収められた魔力感知球が職員室前の廊下に設置され、誰でも自由に手をかざすことができるようになった。
なお、黄色もしくは青く光った場合は要先生に出頭するようにと説明まで書き込まれている。
未来の高位魔法使いを育成したいとかで、まだ魔法が世界に浸透していないのに青田刈りってどうよ?
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
「その魔力感知球がこれねぇ?」
職員室前から回収した魔力感知球を前に、美馬先輩が手を翳して遊んでいる。
因みに反応は黄色、正直言って部員全員が驚いたわ。
「まあ、ルールですから説明しますけど。美馬先輩は魔法使いの基礎部分の魔力はあります。ここから魔導書に認められるレベルまで高めるにはかなりの修行時間が必要になりますが、どうしますか?」
「バスケ部と兼部なら構わないけど?」
いや、まあ、そうだよなぁ。
「兼部は無理かなぁ。魔力循環はかなり集中力が必要だったから。俺や新山さんも、かなり時間が掛かったし……オトヤンはまあ、基礎ができていたから」
「ユータロの言う通りですよ。どうします?」
「それなら良いや。今はバスケットボールの方が面白いからな。将来的に何か、そういう魔術を学べる学校とかができたら考えるよ」
あっさりと魔法使いの道を捨てる美馬先輩。その横では、必死に手をかざして唸っている高遠先輩の姿がある。
ちなみに反応はオレンジ、時々黄色。
すごく微妙な49と50を行ったり来たり。
それでも凄いので、魔法使いになるかどうか聞いたんだけど、ちゃんと黄色く固定したら考えるとのこと。
「さて、そんじゃ部活に戻るか。高遠も行くよ」
「分かった。それじゃあ、また暇を見てくる」
手を振りつつ部室から外に出る先輩たち。
因みに廊下では、魔法研究部に入部希望者が……もとい、入部希望者の無残な残骸が転がっている。
彼女たちは文学部に入ったは良いものの、一日で退部して魔法研究部に入部届を持ってきた人たちで、入部資格に『魔力感知球で黄色以上』を追加した結果、才能なしの色である赤く輝いて凹んでいるのである。
まあ、今は低いけどこれから強くなりますって言い切ったら、まだ考えなくもないんだけどさ。
赤色という色彩効果が、『あんたはダメ』って烙印を押されたように感じてトボトボと退室していったみたいだ。
「さて。バージョンアップしたカナン魔導商会、その追加システムを説明しよう‼︎」
ちょうど要先生は職員会議で留守。
それならばと遮音結界を施しての追加効果の説明である。
「お、何か楽しいことがある?」
「購入先が追加された。自動追加で『ウォルトコ』からも購入可能ってお〜い‼︎」
ウォルトコは、アメリゴ資本の郊外型超巨大スーパー。揺り籠から墓場までの言葉がよく似合う、それこそ金さえあればクレムリンだって仕入れてくるという噂のネットストアである。
元々はアメリゴのなんでも売りまくる武器商が始まりだったらしく、戦場で傭兵相手に商売したり軍の払い下げ品を購入して前線に売り飛ばして資本を作ったらしい。
その時の稼ぎでここまで大きくなったらしく、アメリゴでも裏メニューとして戦闘機やら大型戦車まで販売している。
一部噂では、原子力空母すら仕入れるとか仕入れないとか。
「ウォルトコかぁ。フードコートのホットドッグが安くて良いんだよなぁ」
「わ。私のお母さんが会員証を持っています。この前も買い物に行ってきたんですよ、お寿司のパックが美味しかったです‼︎」
流石は祐太郎と新山さん。
それじゃあ瀬川先輩は?
「え? 私はウォルトコ・オンラインで買い物してますわよ? 直接行くとですね、なんていうか散財しそうになるので」
ですよね〜。
ということで、俺のカナン魔導商会は『サイドチェスト鍛冶工房』に続いて『ウォルトコ』でも買い物ができるようになった。
『ピッ……ホットドッグを購入しました』
──ドサッ
いきなり使ってみたら、出来立てのホットドッグと紙コップが目の前に出た。
そうか、ウォルトコのホットドッグは、オニオンとかザワークラウトとかレリッシュは自分で盛り付けないとならなかったの忘れたわ。
しかもドリンクバーだったので、紙コップしか無いわ‼︎
「う、うわぁ。便利だけど不便だわ」
「レリッシュ大盛りが美味しいのですけど……」
「これは、買い物考えるわぁ……ということで、ウォルトコで購入してもすぐに届きます。これが一つ目の追加効果だね」
「ということは、二つ目とか三つ目もあるのか」
「そういうこと」
因みに二つ目は『納品システム』。
カナン魔導商会からの発注書をもとに、納品ボタンを押して納品すると自動的に支払い分がチャージされるというシステム。
この納品については納期は最長一年以内らしく、俺たちの住む世界の物品が対象になるらしい。
「それってつまり、今までオトヤンが査定に出した商品をあっちの世界の誰かが購入していたっていうことになるのか?」
「それで気に入ったらカナン魔導商会の本店? に注文が入るので、乙葉君が納品するのね」
「多分ね。そのかわり納品した商品の査定額は二割増しになるからお得だよ」
そう。
これは、今までみたいにやたらめったら査定に出していたのとは訳が違う。
指定された商品は、確実に今までよりも高額で買い取ってもらえる。
「ちなみにだけど、納品リストとかはあるのか?」
「まぁね。注文が多いのはやっぱり香辛料かと思ったけど、意外と工業製品が多い。工具とかボルトとか、あとは自転車?」
そう。
自転車の注文が来ている。
本体セットもあれば、タイヤやチューブ、チェーンといったパーツの注文まで。
「バイクとか自動車はないのか」
「ないなぁ。俺の予測だけど、内燃機関系は魔法があるから発展していないんじゃないかな。もしくは発展しまくって、今更、内燃機関ってなっているとか」
「本当に、そのカナン魔導商会のある世界ってどこなんでしょう」
これは、いまだに謎。
てっきり妖魔とかのいる鏡刻界かと思ったんだけどなぁ。
違う世界みたいだからなぁ。
でも、ふと思ったんだけど。
俺が一番初めに転生したときに手に入れた力は『異世界のアイテムをネットストアで売買できるスペシャルアビリティ』なんだよなぁ。
ウォルトコって、現代なんだけど?
そういうツッコミはなし?
「そして、俺は貴金属の査定は停止となりました。なんでや?」
「まあ……現代知識を持つ錬金術師なら、簡単に希少金属を作れるから。正に錬金術なんだろ? だから停止……中止じゃないのか」
「まあ。そのうち再開されることを待つことにするよ。そのお詫びで虹貨が多く配布されたみたいでね」
そう説明する。
これで炭からダイヤモンドを作ったり、海水から金を抽出して査定に出すという計画もパーである。
でもまあ、発注で大きめの宝石とかがきた場合はその限りではないという注釈もあったので、取り敢えずヨシ。
「しっかし。カナン魔導商会は反則級の能力だな。オトヤンしか使えないことで制御しているんだろうけれどさ」
「私の深淵の書庫もかなりのものですわ。レベルが上がったので範囲指定が大きく広がりましたから、どこか良い場所があったら教えてもらえると助かります」
瀬川先輩の深淵の書庫は、指定エリアの書物や資料を自分自身の魔力データベースとして使用することができるスーパーコンピュータのようなもの。
しかもネット環境があれば、そこからインターネットにアクセスしてデータを引き出すのでほぼ無敵状態であるが、その際はネット環境が処理能力に左右されるらしい。
ノートパソコン程度の環境では情報収集速度が遅くなったり、深淵の書庫内での処理が遅くなる。
「何処か、高性能なパソコンがある図書館とか」
「国立図書館が最有力ですね」
「……オトヤン、それなら日本が誇るスーパーコンピュータ[富嶽百景』のシステムルームを範囲指定したら、それこそ如何なるネットワークからもアクセス可能じゃ?」
「築地君の意見も確かにありますが、古代の碑文などはまだネットワークにないものが多いのです。ですから、可能ではありそうですが、完璧ではありませんよ」
ふむふむ。
そうなると、何か裏技的なものが欲しくなるなぁ。
カナン魔導商会にネットワーク系の魔導具なんて……ないよなぁ。
「まあ、先輩の深淵の書庫については、またみんなで考えてみましょう」
「カナン魔導商会と接続……しても、魔導具とかあっちの世界のデータぐらいしか入手できないから、今の現状じゃ使い道がないし、そもそも範囲指定できないと意味ないなぁ」
結局、新しい場所の候補が決まらないため、この話はこれでおしまい。
ちょうど要先生も戻ってきたので、普通にのんびりと魔術訓練と研究を進めることにした。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
困った。
怪我が癒え、ようやく憑依対象者から離れたのはいい。
それまでの間は意識を支配し、結界から外に出ないように思考誘導もしていた。
配下からの報告では、あの『現代の魔術師』によって結界内の人間の大半が外に出てしまったらしい。
しかも、その出入り口は我々妖魔が侵入できないようにと、『対妖魔結界』によって囲まれているというではないか。
「むぅ……やむを得ない。対物理結界を解除せよ。このままでは、我々妖魔が不利である」
集まった部下たちにそう告げたのだが、皆、お互い顔を見合わせるだけで動こうとはしない。
「どうした? 結界の解除など結界妖に命じればすぐではないか?」
「恐れながら、百道烈士様にご報告します。その、結界妖ですが、既に結界内から外に逃げましてですね……誰も解除できなくなっているのですよ?」
なん……だと?
結界妖が逃げた?
待て待て、どうしてそうなった?
結界妖は、自身が生み出した結界障壁内にいる限りは一人続けることができないのだぞ?
そもそも、奴らが居なければ、このテレビ塔を中心とした結界は解除できぬし、ゆっくりとだが内部環境も鏡刻界と同じように変異を始めるのだぞ?
変異程度なら、我々にとっても好都合、大地より魔力を得ることができるので餓死することはない。
だが、この世界の、人間の味を知ってしまった以上、そんなものでは満足などできない。
しかもだ、結界から出られないということは、我々がこの中に囚われているも当然ではないか?
「何故だ、何故、どうして結界妖は逃げた‼︎」
「恐れながら。現代の魔術師……確か、甲乙兵とか申した者がですね、結界を中和したからではないですか。如何なるものでも破壊すること叶わずの結界妖の対物理障壁を、いとも簡単に中和したのですぞ?」
「しかも、それを固定化して人間を逃したのです。それは無敵を誇る結界妖もビビって逃げますわ」
な、なんということだ。
それではあれか?
この場所はこのままなのか?
「さ、探せ!! この結界から出る方法を‼︎ 必ず裏技があるはずだ‼︎」
「はぁ……百道烈士様の『妖魔砲』でも傷一つつかない結界ですぞ?」
「く、くどい‼︎ いいか、この結界から出られなければ、我々妖魔はこの中に永遠に囚われてしまうのだぞ‼︎ まだ魔術師は最後のトドメをさしていないから、望みはある。封印呪符で結界を固定されたとき、我々の敗北と知れ‼︎」
百道烈士の叫びと同時に、配下の妖魔たちは一斉に散った。
──ゴギッ、バギビギッ
そして残った百道烈士は、傍に倒れている人間の頭を掴み上げると、大きな口を開けて頭から貪り食った。
「覚えておけ‼︎ 甲乙兵とやら。貴様の臓腑は生きたまま、俺が貪り喰らってやる‼︎」
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。
・今回のわかりづらいネタ
確か三つ。