第七話・猫に鰹節と小判をあげよう(知らぬは俺ばかりなり)
『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週火曜日と金曜日を目安に頑張っています。
追記:マルムの実の効果の一部追加、その他少々表現の追加。
予想外。
これが俺の第一印象。
みんな知ってた?
宝くじを銀行で換金する時には、三日前までに本人が電話で連絡しないとならないんだよ?
しかも未成年の場合は、高額当選の場合は自分の口座があっても身分証明書と印鑑、そして保護者が必要なんだよ? つまりどういうことかと言うとだね。
………
……
…
『ピッ…本日のお勧め賞品はこちらになります。魔法の箒、日本の交通法規に基づいた魔導ウインカーとライト、非物質型バックミラー装備、事故の際にはショックシールドが展開し、箒使用者の安全を守ります。
最高速度はマッハ3.5、上昇高度限界は50km。但し無免許での最高高度は149mまでとなります。価格・一億クルーラ』
「来た。いまの所持金なら買えるぞ同志諸君」
速攻で銀行に行ってロトくじを換金しようと考えたんだけど、銀行窓口って午後3時までなんだよね。それで学校には具合が悪いので休むって連絡して銀行に朝一番に向かったんだけれど、別の窓口に案内されて説明されましたよ。三日前までの連絡と身分証明書、印鑑、保護者同伴が必要ですって。
止む無くバタバタ帰宅してそのまま登校。一日中ガッカリしていましたよ。
兎にも角にも、この俺の16歳という年齢を恨むしかない。
そんなことをボーッと考えつつ、放課後になって部活へGO。
「ちーっす」
「ちわーっす」
「こんにちは〜」
俺と祐太郎、新山さんが部室に入る。相変わらず謙部の美馬先輩や高遠先輩は来ていないらしく、今は瀬川部長が窓辺でのんびりと外を眺めていた。
「あ、私…紅茶の準備してきます」
新山さんが部室に設置されているポットの水を汲みに行く。
元々部室にはティーセットがあったらしいのだが、誰も紅茶やコーヒーを嗜む趣味がなかったらしく、部室の隅で半ば埃をかぶっていた。
それを新山さんが目ざとく発見して、コーヒーポットは無事に日の目を見ることになったらしい。めでたしめでたしだよ。
「それで、今日のお茶当番は乙葉くんだったわね。今日は紅茶? コーヒー? それとも日本茶かしら?」
瀬川先輩が楽しそうに話しかけてくる。
そう、お茶を飲めるようになったので、皆持ち回りでお茶菓子とお茶の葉を持ってくることになっていた。
そして今日は俺の当番日。
俺の好きなのはココアなんだ。それに合うシュークリームもしっかりと用意して、保冷剤も入れて冷蔵庫にしまってあるよ、自宅に。
はい、しっかり忘れてきましたともさ。
「おっと、教室に忘れてきたので取ってきますよ」
そう説明して廊下に飛び出すと、一旦教室まで走っていく。
ここから近くのコンビニはかなり遠い。
なら、カナン魔導商会で購入するしかない。
『ピッ…本日のお勧めはマルムティーセット。マルムの葉を使った紅茶と、新鮮なアプルの果実を使ったアプルパイです。長閑な午後のひと時を楽しみませんか? 12万5千クルーラ』
うわ、ちょうどお勧めにティーセットがあるけれど高いわ‼︎
けれどお勧めであるということは、これでも安くなっているのか。
まあ、細かく探す時間もないし、取り敢えずこれを一つ……いや、めんどくさいから纏めて5つ注文だ‼︎
よく宝くじで一等とかの高額を当てると、経済観念が弱くなるとか財布の紐が緩むとかあるけど、そんな感じがするよね。
『ピッ』
机の上に宅配魔法陣が展開し、マルムティーセットが届く。
それをすぐさま空間収納に放り込んで、そのまま部室にスーパーダッシュ。
「あら、遅かったですね、見つかりましたか?」
「おや、手ぶらだね。まさか忘れたのかな?」
まあ、遅くなったのは事実。
少し探すのに時間は掛かったからなぁ。
うまくボケるとするか。
「早く帰ろうと思ってたんだけど、ホタテのバター焼き定食が美味しくって、つい……いや、教室に忘れたと思ったんですけど、よく考えたら鞄の中に入れてあるはずなので」
机の下の置いてある鞄を開き‥‥あ、開けっ放しだったか。どうせ教科書も入っていないし見られても困るものはない。その中に空間収納を開いてマルムティーセットを取り出すと、すぐさまアプルパイを取皿に置いてマルムティーの葉はティーポットで抽出しに向かう。
茶道なんてスキルは無い、煮出して飲めればそれで良い。
やがて部室内に心地よい甘い香りが広がっていく。
「これはりんごの香りかな? アップルティーですわね」
「へぇ。てっきりココアでも作るのかと思っていたよ。オトヤンは昔から永森ココア好きだったよな」
「瀬川先輩が正解だ。なんでここでまたココア飲まないとならんねん」
新山さんが気を利かせてアプルパイをカットしてくれた。まあ、異世界版のアップルティーとアップルパイみたいなものなんだろうな。
「では頂きます……パクッ」
──ホワワワ〜
みんなでマルムティーを飲んで寛いでいるのだが。
気のせいか?
まったりどころか、みんな恍惚とした表情になっているぞ。
それに気のせいじゃない、俺を含めた全員の体がほんのりと輝いているように見えるんだが。
(ゴーグルセット‼︎ 鑑定眼モードで……え?)
なんかやばいかもと思ってマルムティーを鑑定。
『ピッ…マルムティー。神域の果実マルムの皮と実を乾燥させたもの。選ばれしものが飲むと、全身が光り輝き神威に目覚める。選ばれたのかな~レベルのものが飲むと、ちょっとほんわかしたりランダムにスキルが神様から与えられることもある。レア度SSS』
ん?
んん?
んんん?
やっちゃいましたか俺。
でもまあ、みんなホンワカしているし、スキルなんてランダムに増えたところで使い方もわからないだろうし鑑定眼がないと理解できないんだろう、つまり安全。
まあ、一番怖いのは神の加護を持つ瀬川先輩だけど、ホンワカしているだけだからいいか。
そのまま放課後ティータイムを楽しみつつ、その日もなんとなく読書に明け暮れた。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
「なんか怪しいんだよなぁ」
俺様こと築地裕太郎は、ここ最近の親友のことが気になって仕方ない。
近所で幼なじみ、しかも、俺は小さい頃にオトヤンに命を救われたことがある。
親の仕事の関係で誘拐されかかった時に、犯人が逆上してナイフで俺を刺そうとして、そこにオトヤンが飛び込んできてっていうパターンな。
オトヤンの背中には、今でも俺を庇ってついたナイフの刺し傷が無数にある。
もしも俺が女性だったら恋愛フラグ待ったなしなのだが、今の俺は男とアーッする趣味はない。
昔からアニメやラノベで一緒に盛り上がっていたんだが、高校に入学してからはなにか、コソコソと陰でやっている感じがする。
そんなある日。
「オトヤン、なんか今日は元気ないなぁ。なんか困りごとか?」
「いや、ちょっと考え事でね。そうだ、ユータロ、ヒントくれないか?」
いつものオトヤンの癖、オトヤンが何か考え事をして思考が堂々巡りしている感じがすぐ分かる。
昔からよく見る姿なので、すぐに相談に乗ることにしたのだが、話を聞くと最近書いているラノベのネタ出しに困っていたらしい。
「例えば、小説のネタ考えてんだけど。紙の時間を進める魔法があったとするだろ、いや、紙の時間を進めてみることのできるレンズがいいか。そんなものがあったら。何に使える?」
「宝くじ売り場で、ロト7当て放題だなぁ」
はぁ?
なんでそんな簡単なことに気付かないかなぁと思いつつ一言だけ返事をすると、瀬川先輩もアドバイスを始めたので俺も聞くことにした。
その翌日からは、オトヤンは部活に来てはラノベを開いて色々と統計を取り始めている。
ちょいと覗いた感じだと、現代のアイテムで異世界に持ち込んだら高額買取してくれそうなものは何か? そんな感じのことをまとめ始めている。
ははぁ、真面目に設定から作っているのか、感心だなぁ。まさか高校生で小説家デビューでも考えているのかなと思って、俺もたまに手伝っていた。
そんなある日。
瀬川先輩が新入部員を連れてきた。
誰かなーと思ったら、うちのクラスの新山だった。
なんでも末期癌で入院していたらしいが、それが1日で全快したらしい。
現代医学って、かなり進歩しているんだなぁと思わず感心することにした。じゃないと、末期がんがそんなにあっさり治るわけないよな。
しかも、なんでこの時期に新入部員と思ったけど、部活中に新山はときおりオトヤンをチラチラと意識しているように見えた。つまりそういうことか。
(あ~、オトヤンにも春が来たかぁ)
なら、俺は後ろからオトヤンを応援してあげよう。
フレンドリーファイヤーは得意だからな、あとで怒られるだろうけれど。
そんなこんなで数日後。
新山の提案で部室でティータイムを取ることになった。
お茶葉とお菓子は当番制で持ち寄ることになったのだが、今日の当番であるオトヤンが肝心のティーセットを教室に忘れたので取りに行った。
よし、ここは恋愛のキューピッドである俺が、新山さんに話を聞いてみよう。
まずは軽いジャブから、病気で欠席していた新山さんが全快したのでお祝いの言葉をかけてあげたんだが、話を聞くとオトヤンがお見舞いに行っていたらしい。
「嘘だろ? と言いたいが、本人が言うんだから間違いはないのか」
「はい。不思議なんですよ。実はここだけの話なんですけど、検査のちょっと前に乙葉君が偶然病院に来ていましてですね、私を励ましてくれたんですよ。彼の手品、凄かったですよ?」
え?
手品?
オトヤンにそんなテクニックあったかな?
「へぇ。今度見せてもらおうかな」
「その後でですね、どんな病気も治る魔法の薬だよって何もないところからペットボトルを出してくれたんです。それを飲んだあとに検査したら癌がなくなっていたので、本当に魔法なのかなぁって思っちゃいましたもん」
そのオトヤンは、まだ戻ってきていない。
隣の机なので足元にカバンがあるのは知っているし、相変わらず開けっぱなし。
チラッとのぞいたけど、殆どロッカーに置き勉なので教科書とかも特に見えない。
漫画雑誌とゲームが入っているだけ。
「まあ、オトヤンが魔法使いになるとしたら、あと14年後だね。しかもあるものを守り通さないとならないからなぁ」
「えっ‼︎ あ、はい、そうなのですか」
真っ赤な顔の新山さん。
そんな話をしていたらオトヤンも帰ってきた。
「あら、遅かったですね、見つかりましたか?」
「おや、手ぶらだね。まさか忘れたのかな?」
「早く帰ろうと思ってたんだけど、ホタテのバター焼き定食が美味しくって、つい……いや、教室に忘れたと思ったんですけど、よく考えたら鞄の中に入れてあるはずなので」
そんなはずあるかーい、そのネタもかなり難易度高いわーい、と心の中で突っ込みを入れる。
ちらと見た感じでは、オトヤンのカバンの中にそんなものはいっていなかったぞ?
そう心の中で突っ込みを入れたんだが、突然バッグからティーセットを引っ張り出した。
しかもアップルパイに至ってはむき出しのまま。
(え? 本当に手品? いや種も仕掛けもあるはずだし、そんな誰も見ないところで手品なんてやるわけがないぞ? どうなっているんだ?)
そんなことを考えているうちにティータイムの準備が完了。
室内に広がる甘い香り、食べたこともない濃厚なアップルパイ。
そして、深く、そして澄み切った味わいのアップルティー。
こんなの一流レストランでもない限り扱っていないぞ?
これ飲んでいたら、さっきまでのオトヤンのことなんてどうでもよくなってくるわ‥‥。
‥‥‥
‥‥
‥
なんとか部活を終えて無事に帰宅。
ふぅ、このマルムティーってやつは危険すぎる。
スキルのランダム修得も問題あるけれど、帰り際に瀬川先輩と新山さんにどこで買ってきたのか問い詰められてしまったよ。
まあ、マルムティーはおやじから送られてきた海外のものだから手に入らないって説明したし。でもなぁ、アップルパイはごまかせなかったんだよ。
『あ、これはですね、ネット通販のお取り寄せでして。あ、もうその店は閉店してしまっていて、これ、冷凍しておいたんですよ。ははは、おいしいですよね‥‥』
そんな言葉で信じられると思っていなかったけれど、新山さんと瀬川先輩は信じてくれた。
まあ、祐太郎はマルムティーとアップルパイをお替りしていたので、もう一度バッグから取り出すときは苦労したよ本当に。
さあ、日課を終わらせてもう寝るとしますか。
明日は新商品かお勧め商品の更新があるといいなぁ。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。
・今回のわかりづらいネタ
軽井○シンドローム / たがみよ○ひさ 著
ロトくじの未成年購入については、『乙葉浩介のいる世界』では未成年でも購入は可能ですが、高額当選の換金については未成年の場合は保護者が必要であると言う設定ですので、ご了承下さい。
・カナン魔導商会残チャージ数
49万5千クルーラ




