第六十九話・精金良玉、熱さを忘れる(新装備を開発しよう)
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結界の中和と大規模な対妖魔結界の起動。
その結果として、中央区内に作り出された結界内にいた人々の大半は結界の外に逃がすことができた。
まあ、それでも結界内にとどまろうと考えている人々も少なくなく、どさくさに紛れての犯罪行為などが発生しているため、警察でも取り締まりとパトロールの強化が始まっていた。
逮捕された犯罪者は自分たちの罪がすべて妖魔によるものだと主張するため、対妖魔関連法案の成立を急がなくてはならない。
それも、臨時国会では野党が話し合いに乗ってくるどころか言い訳を付けて審議拒否の姿勢をとってきているために遅遅として進まず、法案成立にはまだまだ時間がかかるようである。
そんなこととはつゆ知らず、協力体制の期限である三日が間もなく終了、明日からは乙葉ら四名も結界の外に出て自宅へと戻ることになった。
‥‥‥
‥‥
‥
「ということで、個人用の対妖魔結界は渡してあるので問題ないし、何かあった場合にも内蔵されている念話装置で話はできる。ついでに渡してあった収納バッグも内蔵し、サーチゴーグルとかの魔導具もすべて融合化した至高の魔導具でございます」
徹夜して作った甲斐があったよ。
レジストリングとかもすべてまとめて一つにした『対妖魔用ブレスレット』、名付けて‥‥。
「これはすごいわ。それでオトヤン、これはなんていう名前なんだ?」
「名前ねぇ‥‥何がいいかねぇ。ぶっちゃけると何も考えていないんだよ」
「アンチ・妖魔ブレスレットとか、略してAYブレスレットとかはどうですか?」
「先輩、これからも色々と追加能力が増えそうですから、もっと汎用的な名前でいいと思いますよ」
「新山さんの意見もあるわね。それじゃあ‥‥魔導‥‥魔法‥‥ルーン、ルーンブレスレットというのはどうでしょうか?」
おぉっと、ナイスネーミングですよ先輩。
ということで、こちらがルーンブレスレットの効果となります。
●ルーンブレスレット
登録した指定対象に念話可能
収納バッグ効果
対妖魔結界(装着者本人のみ)
センサーゴーグル効果を付与(鑑定/アクティブセンサー)
収納バッグ内装備についての換装効果
各種リング効果を登録(10個まで)
基本的にはこれだけ。
これに各自が所持しているレジストリングが登録されている。
当然俺のはワイズマンリングも組み込んであるし、何よりもうれしいのは、このルーンブレスレットの新素材。
サイドチェスト鍛冶工房で限定販売されていた『リビングメタル』というのを購入して作り出した結果、ルーンブレスレットは装着後に人体と同化するという効果が発生していた。
しかもこれ、金属だけど有機物っていうわけのわからない存在らしく、金属探知機とかにも反応しないらしい。
今は最後の調整で、各自で指輪を登録したり収納バッグの中身を入れ替えたりしている。
「よし、これでオッケー。荷物を移し終わった収納バッグはオトヤンに戻すか?」
「いらんいらん。各自で好きに使っていいよ。どうせ魂登録でみんなに登録してあるから、家族に貸し出すなり好きにすれば?」
「あっさりだなぁ。でもサンキュー。それで、明日からは学校に無事登校か。結果的には約10日間も学校に行ってないことになったし、テレビやニュースで有名になっちまったから大変だよなぁ」
「そうだけど、まあ、各自しっかりと対応することだよね。困ったときには要先生もいることだし、やばいのに付き纏られたら忍冬師範に連絡すればいいし」
そう。
面倒くさいことはすべて大人に任せる。
この結界は妖魔も自由に出ることができないので、これが消滅するまでは百道烈士も俺たちに何かしてくることはない。
逆に言えば、これがなくなった時点で奴らがなんらかの活動を開始するということになる。
そして道庁や市役所などで働いている公務員とかを守るために、大通公園の結界をすべて移動、北海道庁・札幌市役所・北海道警察の三つを結界で囲んでおいた。
そして外部とのゲート部分は結界一つで覆うことで妖魔がゲートを通じて外に出入りすることができないようにしてある。
あとは、百道烈士がじれてどう動くかが問題なんだけれど、結構痛手を負っているので、回復までにどれぐらいの時間がかかるかわからない。
まあ、それでも何かあったら連絡をもらうことにはなっているので、俺としてはのんびりとしたスローライフに戻ることにしたんだよ。
〇 〇 〇 〇 〇
月曜。
結界の外はいつもと変わらない日常。
ただ、違うのとは俺の家の近くに集まっている報道関係者、中継車両などなど。
そして登校するために家を出ると、カメラというカメラが俺のほうを向く。
マイクを持った人々が駆け寄ってくるので一度家に戻ることにして‥‥。
「ふ・ざ・け・る・な……って叫びたくなるレベルだわ。さて、どうすっかなぁ」
要先生や文学部のメンバーにはlinesで連絡を入れてみると、誰もかれも同じ状態らしい。
瀬川先輩のところは取材陣が少なかったらしいけれど、俺と祐太郎、新山さんのところは大勢の報道陣が待機しているそうで。
「さて、こうなると対処方法は一つしかないよなぁ」
ワイズマンリングの効果で透明化すると、こっそりとベランダから外に出る。
そして魔法の箒を取り出して浮かび上がると、そのまま祐太郎の家の庭に着地。
――シュンッ
すぐさま実体化して庭を突っ切ってリビングに向かうと、ちょうど祐太郎も登校するところであった。
「オッス!!」
「オッスオッス!! って、このネタ誰が分かるねん」
「さあ? それよりも外は取材陣で満載だけどどうするね?」
そう問いかけるけど、俺の手には魔法の箒。
何をするのかなど、祐太郎には一発でバレている。
「まあ、そうなるよなぁ。とりま学校まで行ってから考えるか。いくらなんでも校内にはやってこないだろうし、登下校とも姿を消して空から行けば問題はないでしょう」
「うむ。それじゃあ行きますか‥‥って、脚立で庭を見ている報道陣はどうするね?」
「親父がいまクレーム入れているころだよ。まあ、ただじゃすまないだろうからさ」
そう話してから、二人同時に姿を消す。
そして魔法の箒で一気に学校に向かうと、ちょうど瀬川先輩と新山さんも姿を消して空を移動中だった。いやあ、サーチゴーグル機能でお互いの姿は見えるように設定してあるから便利だよね。
文学部の部室窓が全開になっているので、俺たちはそこから部室内に侵入。
そして姿を戻して箒や絨毯をしまうと、何事もなかったかのように部室を出てそれぞれのクラスへと‥‥玄関経由で移動する。
「要先生にお願いして、部室の窓を開けておいてもらったのですよ」
「私もまさか、空飛ぶ絨毯で登校するとは思っていませんでしたから」
「まあ、そうだよなぁ‥‥」
そのまま教室に入っていくと、一瞬の沈黙ののちに皆が集まってくる。
当然質問攻めにあうんだけれど、魔法が使えるのは本当なのかとか、俺たちでも使えるのかといった質問ばかり。
これではまともな授業にならないということで、一時限目は急遽L・H・Rに変更、俺と祐太郎、新山さんに対しての質問会という形になった。
「まあ、質問の先に俺から言わせてもらうけれどな。悪いが俺たちがどうやって魔法を覚えたのかとかは『一切秘密』だ。そしてみんなが魔法を使えるようになれるかということについては『判らない』と言っておく。それでも魔法が使えるようになりたいというのなら、テレビで見ていた妖魔に狙われる覚悟を決めてから俺に聞きに来い!!」
まず先制でそう告げると、質問の方向性が変わった。
魔法で何ができるのかとか、野球がうまくなれるのかとか‥‥って、おいスポーツ部、魔法で身体強化する気満々かよ。
「乙葉が外国語べらべらになったのも魔法か?」
「まあ、そんな感じだ。俺は世界各国の全ての言語を読み書き会話できるぞ。だから英語の授業は敵ではない!!」
「魔法で賢くなれ‥‥すまん乙葉、いまの質問は忘れてくれ」
「うっさいわ。魔法じゃ賢くならないんだよ。思考速度とか並列思考とか、とにかく脳内の処理速度がクロックアップする程度でな、もともとあった知識とかは身体強化じゃブーストできないんだよ!!」
「に、新山さん、魔法でダイエットできる?」
「私はできないわ。そもそも、私は二つしか使えないから」
「築地君、きみのそのチート能力でわが校の空手部をインターハイに連れていってくれ!!」
「勝手に行けよ。それに俺のは魔法じゃなくて闘気、よく格闘漫画にあるあれだから、その気になればみんなも身につけれるからな。まあ、オトヤンの魔法は無理だろうけれどさ」
「い、異世界に行けるようになるか?」
「魔法で異世界いけるんなら、とっくに俺が行ってきているわ。魔法ってそんなに便利なものじゃないからな」
「よくあるゲームのMPとかHPとかあるのか……いや、ラノベの鑑定眼みたいな魔法もあるのか?」
「あー、そこはわからないなぁ。そもそも鑑定眼って、ラノベの見過ぎだろうが。俺も人のことは言えないけどぁ……」
こんな感じで答えられるところは答えるけど、やばいのは適当に流しておく。
そんなこんなで一時間目が終わると、休憩時間は俺たちの姿を見たり話をしたいらしい生徒で廊下があふれかえっている。
こりゃあ、まともな授業とかは今日は無理だろうさ。
そんなこんなで午後は全校集会、LHRでの答弁を要先生が纏めてくれたので、それを使っての全校生徒に対しての説明が行われた。
それで生徒諸君の好奇心が収まるかというと収まるはずもなく、それでも午前中よりはある程度落ち着きを取り戻すことかできたので疲れをいやすために部室に向かっていった。
〇 〇 〇 〇 〇
「……おや、今日は美馬先輩と高遠先輩もいらっしゃいませ。部活はどうしたのですか?」
部室に向かうと、普段は幽霊部員の美馬先輩と高遠先輩が座っていた。
「お、きたな乙葉。いや、お前も災難だったなぁ」
「一躍有名人。そんな後輩を持って、私たちも鼻が高い」
ふむふむ。
それはどうも、何か裏があるよね?
「普段は部室に顔を出さないお二人が、今日はどうしたのですか?」
「バスケ部の部長と顧問からさ、乙葉達を部活に誘ってこいって言われただけだよ」
「同じく。吹奏楽部では、魔法使い・乙葉浩介を歓迎する……って伝えたから、これで失礼する」
え? 勧誘ってそれだけなの?
「もっとしつこく来るかと思ったんですけれど、先輩たち、何か企んでいますか?」
「築地、意外と疑り深いなぁ。あたいたちはさ、頼まれて勧誘に来ただけで本気で三人を引き抜く気はないからな」
「同じく。無理だろうけれど頼むって言われただけ。乙葉君たちが現代の魔法使いだっていうことを知ったから引き抜くなんて、どう考えても都合のいいことしか考えていないだろうから。だから、ここで私たちがみんなを勧誘したけれど。それは断られたっていうことにするので安心して」
おぉっと、美馬先輩も高遠先輩も優しいです。
その光景を見て、瀬川先輩はうんうんと頷いているけれど、眼鏡がキラーンって輝いているのはなぜ?
「それで、二人は何をおねだりに来たの?」
――ドキッ!!
その突込みに、先輩ズはいきなり両手を合わせて俺を拝んだ。
「乙葉、無理は承知で頼む!!」
「この秋ね。とっても食べ物がおいしかったの。魔法で痩せられないかしら?」
「あ~。魔法じゃ無理っす。でも、とっておきがありますよ」
そう呟いて、ちらっと新山さんを見る。
すると、ため息をつきながら新山さんがダイエットドロップの入った瓶を取り出す。
「先輩、これは私がお願いして乙葉君に作ってもらったダイエットドロップです。1錠で脂肪1kgを水に変えることができます……これでよければ、少しだけお譲りします」
ゴトッと机の上に薬の入った瓶を置く。
あれ、もう残り4錠しかないのか。
えぇっと、あれってひと瓶12錠入っていたはずだよなぁ。
効果が弱かったのかなと思って、もう一度鑑定してみる。
『ピッ……ダイエットドロップ。クルフ大森林に存在する『痩せ草』『ナント・カナリ草』をベースにした脂肪燃焼効果の高い魔導薬品。術的に体脂肪を水に精製分解し尿として排出する。一錠で脂肪1kgを水に変えることができる。一瓶12錠入り68万クルーラ』
うん、おかしくない。
つまり、新山さんはすでに8錠もフベシッ!!
――パンパン
いきなり後頭部を突込みハリセンでたたいてくる瀬川先輩。
「乙葉君、乙女の秘密を詮索しないでね。築地君も指折り数えない」
「「 うっす!! 」」
思わず敬礼してしまうじゃないですか。
そして先輩たちは瓶をじっと見ている。
「に、新山。これっていくらなんだ?」
「ただで貰おうなんて私は考えていない。ちゃんと代価は払う」
「‥‥ええっと。乙葉君、どうしたらいいの?」
そりゃあ、そう聞きたくなるよね。
単純計算で、一錠5万円相当。
新山さんたちはちゃんと代価を払って俺から購入しているけれど、それは俺の秘密を知っているから。
でも、先輩たちはそれを知らない。
そんな人たちから正当な代価はもらえないよなぁ。
「一週間分の学食券でいいんじゃね? あ、先輩、今回は大サービスで。このことは秘密で、ついでに言うと、材料が希少な植物とかなので俺もそうそう作ることはできませんからね」
「すまない!!」
「感謝します」
そして新山さんの前には二人分の食券14枚。
うちの高校ってさ、部活動の生徒や顧問が使えるように土日も食堂を開放しているのよ。
そして薬の瓶から二錠ずつ取り出して、お互いに顔を見合わせて一気に飲み干す。
ちなみに俺は効果がどれぐらいで発生するのかなんて知らないんだけれど、瀬川先輩が立ち上がって部室の扉を開いた。
――キィィィィィィィィィン
すると、美馬先輩と高遠先輩の体が光ったよ!!
「その光が収まるとですね、脂肪が次々と水に代わって……」
「う、うわぁぁぁぁぁぁ」
「ちょっとちょっとぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
あ、先輩たちが全力で部室から飛び出した。
へぇ、あんな感じになるんだ。
「薬の取り扱いについて説明したかったのですけれど、遅かったようで……」
「まあ、初めての時は私も驚いたわ」
そうかそうか。
ちなみに、まだ薬は残っているのですか?
そう問いかけようとしたんだけれど、いまは質問したらまずいような雰囲気がしているし。
そもそも部室の外にだって、まだ興味津々でうろうろしている生徒がいたんだけれど。
「あ、あのね乙葉君。この薬って、もう作れないの?」
今まで部室の隅っこで静かにしていた要先生が問いかけてきたよ。
「いえ、作れますよ。買います? ひと瓶12錠入りで定価68万ですよ。でも、確実に痩せられます」
「う……ボーナスが吹き飛ぶ……ちょっと考えさせて」
「俺に言わせれば、その金額払うぐらいならジムに通うけどなぁ。オトヤンもそう思うよな?」
「ユータロの言う通りですよ。そういう時間もないけれど、どうしても痩せたいっていうのなら、次に作ったら売ってあげますよ」
そう告げつつもチラッチラッとカナン魔導商会を確認する。
うん、一度購入したからか知らないけれど、しっかりと在庫が48瓶あったよ。
そろそろリチャージして次に何かあった時用にいろいろと用意しておかないとならないしなぁ。
帰りに少し高級な漆器とか購入して、査定に出したいところだよね。
缶詰とか、向こうの世界にないものは今でも高額で買い取ってもらえるし。
宝石関係や香辛料は、今は『在庫過多により買い取り停止』になっているから、新しくいろいろと探さないとならないし。
でも、こういうことを考えているとさ、ようやく普通の生活に戻ってこられたなぁって……現実逃避できていいよね。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




