第六十六話・古今東西、思案の外?
『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週火曜日と金曜日、日曜日を目安に頑張っています。
――ティロ・フィナーレ、乙葉宅では
瀬川雅は、乙葉宅で深淵の書庫を展開している。
外回りの調査に向かっている築地達と乙葉達から送られてくるデータを次々と思念入力し、随時妖魔と対抗するための知識を蓄えているのである。
それと同時に、深淵の書庫のデータ書庫として登録されている文化部部室にあるネットワーク端末とも深淵の書庫をリンクし、ちょっと遠回りではあるが深淵の書庫による結界内の監視カメラを完全に掌握、妖魔が憑依している対象を、随時追跡するように設定してある。
彼女がずっと魔導モニターを見ている必要はなく、深淵の書庫は指示に対して忠実に作業を繰り返している。
「‥‥‥はい、先輩、紅茶が入りましたよ。お茶請けはアップルパイです」
「ありがとう。新山さんのほうはどう? 何かきっかけは掴めてきましたか?」
やや疲れ気味の新山の様子を見て軽く問いかけてみると、彼女は軽く頭を振るだけである。
「目を通したスクロールは120本。文字は読めますし魔力伝達もできますから、スクロールのまま発動することはできると思いますけれど、問題は携行に不自由なことですね」
カナン魔導商会のある世界では、スクロール魔術というものがある。
幅30cm、長さ1mの魔術処理されたスクロールに直接術式などを刻印したものであり、広げて空気中にある魔素に触れることで発動が可能になる。
なお、使い捨てではなく術者の魔力が許す限り何度でも使えるので便利であるが、その大きさ故持ち運びが面倒であり、もっぱら研究施設や魔法を教える学園などで使用されているだけらしい。
「‥‥って、乙葉君が買ってた魔法の解説書には書いてありましたよ。おかげで、使い方は熟知しましたし、いくつかのスクロールについては登録契約することもできます」
「登録契約?」
「はい。そのスクロールを使いますよっていう登録らしいです。こう、開いた最初の部分に血を垂らすことで契約は履行されるらしくてですね、これを行わないと魔法が使えないそうです」
新山は簡単な説明をしつつ、いくつかのスクロールを並べていく。
「こっちが呪詛解除、これは浄化、中回復、大回復ですね。再生治癒もありましたので、骨折とかも治せますよ‥‥」
「へぇ。便利ですわね」
「ええ。けれど、私は契約できなかったので、これは使えないのですよ‥‥私は神聖魔術の加護があるようですので、これは必要ないと判断されたらしいです」
少し悲しそうにスクロールを開いて血を垂らしてみると、それは羊皮紙に垂れる前にジュワッと蒸発する。
そしてスクロールに浮かび上がる文字。
『神聖魔術の複数契約は、これを認めない』
つまり、すでに新山は契約自体は完了しているのである。
「ふぅん。それなら、回復系のスクロールを熟読して、魔術式を記憶してみたらどうかしら?」
「え? あ、そうですよね。どうして気が付かなかったんだろう‥‥先輩、ありがとうございます」
瀬川にアドバイスがうれしかったらしく、新山は大量のスクロールをまとめて抱えると、いったん割り当てられた部屋へと戻っていった。
〇 〇 〇 〇 〇
夕方には外回りをしていた俺たちもマンションに戻ってこれられた。
瀬川先輩たちの報告では、妖魔については真新しい情報とかは特にないらしい。
ただし、それ以外の部分で大きく事態が動いているらしい。
「深淵の書庫展開。魔導出力をテレビモニターにセットして」
――ヒュゥゥゥゥッ
リビングにあるテレビモニターが白く輝く。
そして映し出されるいくつもの映像。
それはインターネットにアップされていたらしい、『現代の魔術師』と妖魔との戦闘シーン。
そしてその外見から、現代の魔術師が大通公園に出没していた『ストリートマジシャン・甲乙兵』と同一人物であるといううわさが流れており、特にひどいのは『甲乙兵=乙葉浩介』という書き込みがあったこと。
「‥‥まあ、予想通りだなぁ」
「まじかオトヤン。これってかなりまずくないか?」
「う~ん。まずいと言えばまずいけど、でも今更感満載、野村萬斎だよ。俺が現代の魔術師であり、魔術が使えて妖魔を倒せる。それでって感じだけど?」
あっけらかんと呟いてみる。
そしてちらっと忍冬師範と要先生のほうを見てみると、二人とも頭を抱えている。
「浩介、自分が妖魔に狙われるっていう可能性は考えないのか?」
「師範、俺は近寄ってくる妖魔を感知できますし、俺に対して悪意を持った人間を識別することもできます。なので、俺を利用して、甘い汁を吸おうとしている奴らはオミナエシになりますよ?」
「‥‥それを言うならお見通しね。でも、あなたを引き込むために、身近にいる人が巻き込まれる可能性は考えたことあるかしら?」
そう要先生に言われると、顔色がサーっと悪くなる。
「おおう、土気色の安藤じゃないけど、顔色が悪くなったぞ。でもさ、その程度の話って今更なんだよなぁ」
祐太郎がそう告げると、瀬川先輩も、スクロールを抱えてリビングに来た新山さんも頷いている。
そういう話は俺たちはとっくに終わらせているし、みんなある程度の覚悟を決めてここにいるんだからね。
「そうか。それならそれで構わないが、できるだけみんなも身辺については気を付けてくれ」
「「「「 はいっ 」」」」
この後は簡単に情報交換を行い、明日に備えてゆっくりと体を休めることにして。
明日は実験の第一段階、それを実証するために作戦を開始するのであるからね。
‥‥‥
‥‥
‥
翌日。
朝一で俺と祐太郎、忍冬師範、要先生は第6課の職員たちと一緒に移動を開始した。
目的の場所は大通西13丁目にある『札幌資料館』。
この正面入り口がちょうど結界の向こうにあり、ここから結界内からの脱出経路を作れるかどうか実験するためにやってきた。
総勢20名ほどのメンバーと、第6課局員たちに守られた同庁職員たちの有志は、結界の前に立つ俺をじっと見ている。
「そて、それじゃあ始めますか。祐太郎、あとは任せるぞ!!」
「死亡フラグじゃないからよし」
まずは『現代の魔術師』に装備を変更。
そしてゆっくりと結界に手を当てて魔力を集める。
すると結界がゆっくりと波立つので、そこに両手を差し入れると、左右に手を広げていく。
じわじわと結界が左右に広げられるので、それを固定するために『大地の壁』を発動。
当然強度は125倍、範囲は3m四方に広げてある。
それでも結界の強度はシャレにならないほど強固であるため、結界を大地の壁で開いた『空間トンネル』で中と外を接続した後でも、魔力を注ぎ続けないと大地の壁が破壊されてしまう。
「ふんぐるむぅぅぅぅぅぅ!!」
「いあいあ、すごいぞオトヤン!!」
「いあいあ言うなやぁぁぁ。師範、いまのうちに職員さんたちを結界の外に、祐太郎、後方120mに妖魔が14!!」
「感知済みだよ!! 任せろ!!」
俺の叫びと同時に、忍冬師範が人々を結界の外に誘導を始める。
そして第6課の半分の面々と祐太郎は、走ってくる『人間の姿を捨てた人魔』に向かって突撃を開始、残った第6課の人たちは俺の護衛をしてくれていた。
けど、さすがに結界を開放しているのはあいつらにとってもやばいらしい。
――シュンッ!!
突然俺の真後ろに巨大な妖気が噴出したかと思うと、転移してきた百道烈士が巨大なこん棒で俺に向かって殴りかかってきた。
「これ以上は、貴様の好きにはさせないっっっっ!!」
「うっせぇ、黙ってみていやがれぇぇぇぇぇ」
左手は結界に添えたまま、右手でこん棒を受け止める。
――ミシッ
だが、それは予想外に重く、骨まで衝撃が伝わってきた。
「ぐはっ!! なんだよその力は。この前は本気じゃなかったのかよ!!
「当たり前だろう。格下の敵に対して、いきなり本気を見せるほど俺はおろかじゃないさ。だが、今日は本気だ!! そのまま死ね!!」
――ヒュンッ
こん棒を横水平に力いっぱいフルスイングしてくる。
ああ、そいつは食らったら、体がくの字に曲がって吹き飛んで、口からグハッと血を噴き出して意識が朦朧になって、『こ、こんなバカな!!』って叫ぶパターンだよね。
普通なら。
「零式っっっ!!」
一瞬で強化装甲モードに変化すると、結界から手を放して両手でこん棒を掴む。
――ドッゴォォォォッ
なるほど、受け止めることはできたけれど、物理法則的には吹き飛ばされるのは決定だったか。
そのまま横の壁に向かって激突する直前、体勢を切り替えて壁に向かって着地すると、腰からフォトンセイバーを引き抜いて百道烈士に向かって間合いを詰める。
――シュンッ!!
あ、一瞬で間合いが詰められたので、このままこん棒を真っ二つにすると、さらに袈裟切りに百道烈士に向かって一撃を放つ!!
――ニヤッ
だけど、これが間違いだった。
――ズバァァァァァァァッ
フォトンセイバーの一撃は百道烈士を斜めに切り裂いた。
だが、同時に俺自身も斜めに切り裂かれ、強化装甲がなければ本当に真っ二つになっていただろう。
全身から力が抜けていく感じがわかる。
その向こうで、百道烈士が傷口をシュウシュウと言わせつつ再生しているのも見える。
「おー、やっぱりか。お前、反射攻撃に対しての守りはないだろう? それに自分の使っている武器の強さに耐え切れないとはなぁ‥‥」
力なく倒れ始める俺に向かって、百道烈士が間合いを詰めてきた。
「な、なん‥‥だと‥‥」
「昔からそうさ。こっちの世界の魔術師ってやつはよぉ、自分の放った魔術が返ってくるなんて考えちゃいない。まあ、こっちも貴重な魔導具一つ使い捨てになっちまったけど、おかげでお前を殺せたから十分さ」
よく見ると、百道烈士の首には壊れたネックレスがかけられていた。
それがそうか、魔術を反射するアイテムかよ‥‥。
くっそぉぉぉぉ。
回復ポーションがおいしく感じるわ。
まあ、俺の質問にべらべらと勝ち誇って解説してくれてありがとうよ。
自分に酔いしれて俺から目を離したのがあんたの敗因だよ。
――キィィィィィィィン
よし、外傷完全復活。
勢いよく飛び起きて身構えると百道烈士の顔が悪くなっていく。
「お、お前、まさか再生能力が‥‥」
「まさか。回復ポーション、一本じゃ足りないから二本飲んだだけだよ。自分の勝利に酔いしれて、べらべらと解説ありがとうございます!! それでどうする! 切り札はもうないだろうが!!」
そう追及すると、狼狽している表情の中に、一瞬だけ笑みがあった。
あ、まだあるのね。
それなら、俺は気づかないふりして攻撃してやるよ!!
「お、おのれぇぇぇぇ!!」
拳を振り上げて殴りかかってくるので、フォトンセイバーを戻して拳でカウンターアタック!!
――ドッゴォォォッ
また反射かよ。
クロスカウンターなので威力がどれほどのものかはわからない。
ただ、俺には百道烈士の拳+自分の拳のダメージが叩き込まれたようで、もう一度後方に吹き飛んでいく。
「ハアハアハアハア‥‥二つあったおかげで助かったぜ。こっちはこれで奥の手はないが、貴様はもう身動きすることもできないだろう」
「グハッ‥‥ああ、俺はもう、指一つ動かすことはできないわ‥‥俺はな」
――ドッゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ
そのタイミンクで、百道烈士の下半身が蒸発した。
その向こうでは、祐太郎が闘気弾の強化版、闘気砲を撃ち放っていた。
「ユータロ、ナイス爆裂」
「ナイス爆裂!! だろう?」
下半身が破壊されて身動きが取れない百道烈士。
そのままゆっくりと霧散化すると思っていたが、突然バッと散ってしまった。
「また霧散化して逃げたか。結界ももう閉じちゃったし、あとはお任せしますよ‥‥」
そこで俺は意識を手放した。
傷は癒えてもさ、流れた血は戻らないんだよね。
まあ、死ぬわけじゃないから安心して、目が覚めた時には枕もとに黒い犬を用意しておいてくれな。
むぎゅぅ。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。
・今回のわかりずらいネタ
NERVOUS BREAKD〇WN / たが〇よしひさ 著
ルパン〇世 カ〇オストロの城 / 色々
あと二つ。
ネギは元気です。




