第六十三話・窮猿投林、猫を噛む。(反撃開始)
『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週火曜日と金曜日、日曜日を目安に頑張っています。
次回公開については、指の通風が安定化次第執筆再開しますので、少々お待ちください。
さて。
俺と祐太郎が怒りに身を任せて妖魔ぶっ殺すモードで外に飛び出そうとしたところを、忍冬師範が止めてくれたよ。
そして今は、俺のマンションのリビングで俺と祐太郎は正座モード。
ついでに言うと、要先生が部屋に来たときに先輩は深淵の書庫で情報を検索している最中だった。とっさに見られないように慌てて解除してんだけれど、あれって高速検索時には解除不可能なんだってさ。
つまり‥‥
「はぁ。まさか瀬川さんまで後天性覚醒魔術師だったとは、思ってもいませんでしたよ」
ため息混じりに、深淵の書庫の中で項垂れている先輩を眺めつつ、要先生が呟いている。
そりゃそうだわ。
そして忍冬師範もこめかみに指をあてて考え事をしていた。
「祐太郎、まだ隠していることがあったら全部話しておいたほうがいいぞ。俺は御影と違って妖魔容認派でもあるし、御神楽さまとも通じているんだからな?」
淡々と問いかける忍冬師範なんだけど、祐太郎はどうする?
ちらっと横目で顔を見たら、覚悟を決めていいかっていう目で俺を見るので、俺も腹をくくることにしたよ。
「俺とオトヤン、瀬川先輩は確かに後天性覚醒魔術師っていう枠で間違いはないです。けど、新山さんは違います」
「お前が闘気制御を身につけて、浩介が魔術制御を身につけた。瀬川くんは解析魔術をとなると.…新山くんが万が一覚醒したら回復魔術師の可能性があるな?」
──ビクッ‼︎
その問いかけに、思わず俺と祐太郎は頭を背けてしまったじゃねーか。
これだから忍冬師範は怖いんだよ、的確な判断と推測で追い詰めてくるからな。
「無言ということは図星か。それでいつ覚醒する?」
「そ、それはわからないんですよ‼︎」
「やっぱり覚醒の可能性はあるんだな」
しまった‼︎
もうバレバレだと思って叫んじまったよ。
横で祐太郎が驚いて俺を見ているんだけど、もうしゃあないだろ。
「はぁ。オトヤン、忍冬師範相手に誤魔化しは利かないわ。新山さんは覚醒魔術師候補です。属性は治癒系ですが、覚醒条件が不明なため、まだ魔術は使えません」
「成る程なぁ。その覚醒条件だが、他の人が覚醒させると云う手段は知らないか?」
「「 知りません 」」
キッパリと言い切るよ。
だって、本当に知らないんだからさ。
「たとえば、俺は闘気を修めている。この修行方法は人に伝授することはできるが、才能が無いと開花できない。同じように浩介の魔術は人に教えて開花できるものなのか?」
ほら、今度は俺に来たよ。
そして、現状で誤魔化しても、もう無駄なのは分かっているよ。
もしもこれが『ラノベの世界』なら、俺の能力に気づいた貴族や王族がなんとか俺を取り込もうと考えて動くだろうけど、現代には貴族も王族もいないから関係ね。
「ぶっちゃけると、無理。体内の魔力回路を開くどころか、そのために必要な魔力を生み出したり制御できないだろうから。それに、魔導書もないし、発動媒体の秘薬だって入手できないから」
「浩介は秘薬をどうやって手に入れている?」
「俺は秘薬なんて使っていないよ。その代わり魔力消耗が多くなっているし、魔導書がある程度魔力の肩代わりをしているから」
「魔導書か。見せてもらえるか?」
それは構わないよ。
どの道、魂登録で登録しているから。
空間収納から魔導書を取り出して手渡すと、忍冬師範は開いて眺めている。
「あの、師範、そこの文字って読めるのですか?」
「さっぱりわからん。けれど、最初のページが説明書のようなもので、その後のページが魔術についての説明だろうという想像はつく」
「うわ、師範が怖いわ」
思わず祐太郎も呟く。
「浩介たちが妖魔共存派なのは報告書で分かっている。御神楽様も、お前たちについては強制ではなく、協力体制を取るようにと指示を受けている。でもな、お前たちが自分たちの力を秘密にしている限りは、俺たちとしても何処まで協力していいか判断に困る部分もあることは理解してくれ」
ま、まあ、それって大人の論理だよね。
でも、御神楽さんの言い分もわかるし、師範の言葉も理解できる。
だからこそ、俺自身の本当の力を説明していいのか、腕を組んで考えてしまう。
そして、俺のその動きに祐太郎がアチャ〜って顔をしている。
「成る程なぁ。浩介、本当に隠し事が苦手だろ?」
「え?」
「オトヤン、師範の言葉に反応しすぎ。その態度でまだ隠し事しているってバレているぞ?」
「マジ?」
思わず師範を見ると、師範も頷く。
「そして、その隠し事を祐太郎が知っているところまでは理解したぞ」
師範のため息混じりの呟きに、今度は祐太郎の顔から汗が吹き出す。
「ほ、ほら、俺だけじゃねーし、ユータロだって隠し事できないし」
「い、今はそんなことを話している場合じゃないだろうが」
そう叫びつつも、最後の砦の先輩と新山さんは大丈夫だろうと、チラッと見てしまう。
そして師範がため息を吐く。
その先輩と新山さんは、要先生に深淵の書庫の説明をしているところである。
「もう、ここの全員知っているということでいいな?」
「「 はい、サーセン 」」
こうなると隠し事をしても無駄。
それなら現状を良い方向に向かわせることに方針を変更しよう。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
テレビ塔一階。
外にある広い空間には、催眠状態の男女がボーッと立っている。
その周囲には既に正体を明かして実体化した妖魔の群れが集まっており、それを取り囲むように警察が待機している。
そんな中。
身の丈2メートルを超える巨漢の武道家らしき姿をした男、百道烈士が両手を広げて高らかに叫んだ。
「それでは始めようか。この光景は、全国のテレビとやらに強制的に転送している。ここにいる男女は体内魔力量が極めて高い者たちだ。そういうものから生まれた子供は、さらに高い魔力を引き継ぐ」
百道烈士のいう通り、結界内の、このテレビ塔下の彼の演説は全国各地のテレビに転送された。
たとえ電源を切っていても、魔力波長による転送は自動的に映像化されていたらしい。
「それでは始めようか‼︎ これより人間牧場初の公開種付けを‼︎」
──バサッ
刹那。
意識が朦朧としていた男女が衣服を脱ぎ捨てる。
そしてそれぞれが『魔力的相性の良いパートナー』の近くにふらふらと近寄っていく。
さらに一人の女性は、百道烈士の下へと歩み寄る。
「これがメスの本能だ。貴様ら人間も、強者の種を求める本能には抗うことができないだろう‼︎ さあ、女よすべてを曝け出せ、股を開け‼︎ われらがある時の糧となる、魔力の高い子を産め!!」
高らかに笑う百道烈士。
だが、その笑いは一瞬で凍りついた。
──ドッゴォォォォォォッ
テレビ塔下、少し離れた大通り広場から、いきなり強大な魔術が飛んできたのである。
しかもそれは、寸分違わず百道烈士の右耳に直撃し吹き飛ばした。
「何者だ‼︎」
百道烈士が魔法の飛んできた方角に向かって叫ぶ。
その声に合わせて周囲の妖魔たちも大通り一丁目広場に向かって駆け出すと、そこにはペストマスクをつけてローブを羽織った俺が立っていた。
さて、覚悟は決めた、どうせこの光景もテレビで流れている。
なら。できる限り外見はばれないようにして、全力でやらせてもらうことにしたよ。
「趣味で魔法使いをやっている者だ……はさっき使ったよな。問われて名乗るも烏滸がましいので名前を明かす気はない。まあ、一言で言えば初代妖魔王派で妖魔共存派の一人、『現代の魔法使い』だ」
そう叫ぶと同時に、集まってきた妖魔が襲いかかってくる。
腕を武器に変化したもの、身体の一部がレンズ化してレーザーを撃ってくるもの、口からブレスを吐くものなど、まさに妖魔のオンパレードである。
だが、それらを全て躱しつつ、『現代の魔法使い』こと乙葉浩介は真っ直ぐに百道烈士に向かって走っていく‼︎
「はーーーっはっはっはっ。面白いぞ貴様!! たかがサルの進化した存在が、肉体を捨てて進化した我々に歯向かうというのか!!」
「歯向かうもなにもねぇ‥‥‥」
そう呟いて右手を上げる。
そのタイミングで、忍冬師範の部下たち『第6課』の人々が突入してきた。
右手にはミスリルの剣、左手には取り回しのいいミスリルバックラー。
剣道や柔道などの段位者で構成されている第6課なら、その程度の武器の取り回しは難しくはないらしい。
そしてその通り、『後付けで魔力を付与した』ミスリルの武器は、近くにいた妖魔たちを次々と切り裂き、霧散化させていった。
「な、なんだ、いったい何が起こっているんだ!! あの武器は退魔法具なのか!!」
「そ。数をそろえるのには結構苦労したけれどね。なんか知らんが、いつの間にか俺のレベルが上がっていてさぁ‥‥」
――スッ
右手を拳銃の形に構えて、百道烈士に向けて構える。
これが人間だったら、銃を構えているというイメージがあるので警戒しただろうけれど、銃器というものを知らない妖魔にはわからなかったらしい。
「何を言っているのか知らぬが、貴様さえ倒せば終わりということは理解したわ!!」
右腕を回しつつかけてくる百道烈士。
その手が真っ赤に輝くと、それを俺に向かって走りつつ突き出してきた!!
――ゴウッ!!
そこから放たれる青い炎。
高速で飛んでくる炎だけれど、俺は力いっぱい足元のアスファルトを踏みつけて魔力を注ぐ!!
――ドゴグシュァッ
畳4畳半分のアスファルトがめくれ上がり壁を形成する。
そこに俺の魔力が注がれているのは言うまでもない。
「力の壁!! 魔力48倍範囲拡大、名付けて必殺アスファルト返しの術!!」
――ドッゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ
爆音と同時にアスファルトと炎が激突。
一瞬でアスファルトが蒸発したが、俺の作った力の壁の部分はびくともしていない。
「な、なんだその魔力は!!」
「その魔力って‥‥‥俺を化け物のように言うなよっ!!」
――チュンッ
右手で銃を撃つしぐさをする。
放った魔術は第二聖典・光の弾。
それを限りなく圧縮して小さな弾丸に仕立て上げる。
さらに風の壁で細い銃身を形成し、風の流動によりライフリングも形成。
これにより、俺の独自魔術『光の銃』が完成していた。
いやあ、忍冬師範に頼み込んで本物の銃を見せてもらった甲斐があったよ、魔法はイメージが大切だからね。
なお、この『光の銃』は、第四聖典として登録されてしまった。
そしてその効果はというと。
――ビジュッ!!
たった一発。
それで百道烈士の右腕が肩から吹き飛んだ。
「な、なんだとっ!!」
慌てて停止して横に飛ぶ。
しっかりとちぎれとんだ腕をつかんで横の茂みに向かって走り出すと、力いっぱい口笛を吹いた。
――ピィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィッ
その音と同時に、第6課と戦っていた妖魔たちは蜘蛛の子を散らすように大通公園から撤退を開始。
すでに別動隊として突入していた祐太郎率いる救出チームは無事に催眠状態の人たちを保護に成功しているため、無理な追撃はしない。
‥‥‥
‥‥
‥
『‥‥‥本部から各位に。妖魔チームは大通公園から撤退を開始、肉体から精神体へと移行したため視認による追跡は不可能となりました。保護した人たちは一度ティロフィナーレ一階ロビーへ搬送をお願いします』
ティロ・フィナーレ、乙葉浩介宅では。
瀬川が深淵の書庫を展開して大通近辺のカメラを掌握して状況を監視、横で待機している要先生に都度説明ののち指示を受けて各位に通達していた。
「ふぅ。それにしても乙葉君の錬金術ってすごいわね。こんな簡単に魔導具が作れるなんて」
「私や乙葉君では、これを作るという発想はなかったですよ。そういうアイデアをくれて感謝しています」
『私たちが使っているインカムって、乙葉君の錬金術で魔導具にできるの? それができるなら、瀬川さんの深淵の書庫を本部にして、各員に随時適切な指示ができるわよね?』
この一言を実際に試してみると、あら不思議と言わんばかりに要先生の言う通りの性能を発揮することができた。
ほかの人には入手先その他一切秘密ということで、乙葉君はサイドチェスト鍛冶工房から大量のミスリルソードとミスリルバックラーを購入。
当然、配達先は空間収納にしてそこから取り出すと、乙葉君は『魔力付与』という魔法と錬金術の『魔導化』により、対妖魔用魔導具、通称・退魔法具を作り出していました。
それを第6課の分用意すると、リーダー格妖魔を引き寄せる乙葉君と、その他の妖魔をせん滅する忍冬さん率いる『遊撃部隊』、そして催眠状態になっている人たちを救出するための築地君率いる『救出部隊』に分かれて行動を開始。
それらの動きはすべて深淵の書庫によって管理され、随時指示を飛ばしていました。
結果として、すべての人々の救出に成功し、妖魔たちは撤退を余儀なくされてしまいました。
けど、これですべてが終わったわけではありません。
まだ、この戦いは始まりにすぎず、妖魔と私たち『戦える人間』の数は圧倒的な差があります。
そこをこれからどうするか、これが今後の課題になることでしょう。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。
ああっ、シリアスに描くとネタを挟む余力がない。
と言いつつも、しっかりと三つ。




