第六十二話・背水之陣は汝を玉にす
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妖魔によって作りだされた結界により、札幌市中央区の一部が外界から閉ざされた。
そして十二魔将第三位・暴食のグウラの宣言した妖魔王のための人間牧場計画。
閉ざされた結界から、すべての人を救うことはできるのか?
「っていう感じの見出し文が付きそうな状況だよなぁ。祐太郎、新山さんは無事なのか?」
「オトやん、いきなり何を言っている? まあ精神に対して作用する魔法なら、俺たちなら簡単に解除できるからな。ただ、問題なのはその数だ。テレビで見た感じだと、テレビ塔の下の広場には三十人ほどの人が集まっているらしい」
「それと、そこに集まっている人たちを助けるために警官も集まって周辺を包囲しているみたいですわ。でも、相手は妖魔ですから、どう考えても妖魔相手にどんぱちやれるとは思いませんけれど」
たしかに、祐太郎と瀬川先輩の言う通りである。
いくらなんでも状況が悪すぎる、俺一人ならなんとか戦えたとしてもそれは相手が数人程度の話である。
あの数の人たちを助けつつ、襲いかかってくる妖魔を相手するとなるとどう考えても無理。
範囲魔法はあるけれど、よほど気をつけない限りは周囲の人を巻き込みかねないし、そうなったら確実に殺してしまうのも分かっている。
だからこそ、どうにかしないとならないと考えてはいるのだが、解決策が未だ見出せていない。
「あの結界は破壊不可能なのか?」
「対物理障壁で、魔法を使ったとしてもかなり魔力を消耗するなぁ。何より、結界近くには妖魔が見張っているから、よほど上手く穴を開けないと正直きついだろうさ」
穴を開けて、そこから人を流すぐらいならなんとかできるかもしれない。けれど、その穴を維持しつつ、妖魔相手に戦うことは無理。
それなら、この結界を張った奴を見つけて解除させた方が話は早いのだが、まだその段階にはなっていない。
「今の状況から考えて、まず操られて集められている人たちを助けつつ、結界に穴を開けて皆を逃すという手が最も有力だよなぁ。そうなると、俺がテレビ塔下で救出任務、オトヤンが結界に穴を開ける、瀬川先輩と新山さんがみんなの誘導ってことになるんだが」
指折り告げる祐太郎だが、どう考えても俺たちには分が悪い。
結界に穴を開けても、そこを襲ってくる妖魔がいないとは限らないし、寧ろ守りが薄いぶん危険度は高い。
「いやいや、全て纏めてとなるときついわ。もっと人数が欲しいところなんだけれど。それにこの結界内の妖魔の数についても、正確な数字が欲しい」
──ヒュゥゥゥゥン
俺がそう話したとき、傍にいた先輩の深淵の書庫が高速で点滅を開始する。
「見えている妖魔なら、数は割り出せるわ。深淵の書庫、主要ネット回線を通じて、結界内のすべてのカメラを掌握して」
『了解……凡そカメラとなる対象の掌握完了』
「いい子ね。その画像データから妖魔の数を検知。人魔タイプも含めること、そしてこの状況下で不審な動きをしているものも全てお願い」
『了解。検知のち解析開始。15分時間を頂きます』
「……すっげー。まるでアニメの世界だわ」
「敢えて言うなら、本当のこーとさーって感じだけどな。さて、こうなると手数が欲しいところだけど、妖魔を見てビビることなく動ける……」
「「「 第六課だよ(な、ね、だなぁ) 」」」
そこは三人共通見解。
この現状を第六課がみすみす指を加えて見ているとも思えない。
「それなら、私が要先生に連絡してみます」
どうにか意識を取り戻した新山さんがリビングにやってきた。
まだ顔色は悪いのでステータスチェックのためにコンディションも含めて鑑定してみる。
見た。
見てはいけないものまで見てしまった。
(え? 好きな男性に俺? なんで新山さんが俺のこと意識しているの? えええ? どういうこと?)
ステータス異常がないか確認するということは、即ちコンディションエリアも見るということ。
そこにはかなりプライベートな部分が記されており、浩介は女性のプライベートには踏み込まないようにそこは外していたのだが。
状況から、ステータス異常がないか確認するために見たのが、裏目に出た。
「そ、そうか。なら、要先生の方はお願いするよ、俺はカナン魔導商会で何か良いアイテムがないか探してみるから」
慌てて目を逸らしてカナン魔導商会を開くと、魔導具の欄で使えそうなものがないか探すことにした。
(うわぁ、オトヤン見たのか……)
(あら、乙葉君のその態度は……彼女の気持ちを見たのね?)
『乙葉と新山を見守る会』があったとしたら、筆頭は瀬川雅、補佐が築地祐太郎だろう。
その二人からしても、今の浩介の挙動は明らかにおかしい。
まあ、だから何というところではあるので、今はそっとしておこうと二人は考えた。
…
……
………
「……もしもし、要先生ですか、新山ですけれど、何か状況が変化しましたか?」
『今はテレビ塔に集まっている人たちを保護することが優先で動いています。それと、百道烈士という妖魔がどこにいるのか、忍冬警部補が闘気感知で探しているところですが、まだわかりません』
「了解しました、みんなにはそう伝えます」
『お願いね。それと、この件でみんなはまだ動かないで、いくら妖魔を相手にする有効手段があるといっても、貴方たちはまだ高校生なのですからね』
──ブツッ
それで電話は切れた。
「……ということです。第六課も動いているようですから、今は様子見ということになるのですか?」
「……うーん。どうするオトヤン……って、それはなんだ?」
新山さんの言葉を聞いて乙葉に問いかけたものの、その乙葉の目の前には大量の魔石が並んでいる。
そして錬金魔法陣がゆっくりと起動し、魔石に文字を刻みはじめていた。
「以前、学校に配置した結界を生み出す魔導具。それをより強力にして、妖魔自体を拒む結界を使っている最中だよ。とりあえず、以前よりも錬金術については熟知しているのでね‥‥‥」
そうこうしているうちに、対妖魔結界発生装置は完成した。
大きさは直径三〇cmほどの水晶玉だが、その中には六つの魔石が浮かび上がっている。
「へぇ、説明してくれるか?」
「この中心の魔石が結界発生核で、こっちが範囲制御、こっちは周囲の魔力を吸収してエネルギーに転換するシステム部分、これは結界内の人間に対しての精神汚染抵抗および強制解除。残り二つは結界強度の効果上昇用だよ。まずは試しに起動してみてと」
――プゥン
俺が水晶玉に魔力を注ぐと、なんとも間の抜けた音と同時に結界が生み出される。
最初は水晶球程度の大きさで、ここからゆっくりと結界が広がっていく算段で‥‥‥
――ドッゴォォォォッ
突然結界が膨れ上がり、マンションすべてを飲み込んだ。
それと同時に隣の家のベランダが砕け、何かが高速で飛んでいった。
「‥‥オトヤン、あれなんだ?」
「うーむ。お隣さんのベランダに妖魔が張り付いていたんだろうなあ、室内ならガラスが砕けているはずだから」
そう頷いていると、隣のベランダから奥さんの悲鳴のようなものも聞こえてきたが、まあ、あえて無視。これは結果としてそうなっただけで、俺は悪くない、きっと。
「まあ、これでこのマンションはすべて結界内にあるので妖魔は一つたりとも近寄ってこれない。逆転の発想を言うなら、ここに何かあると気付いた妖魔は、ここに来るんじゃないか」
「それでもこの結界は破壊できないと。安全地帯ということか」
「そういうこと。なので、新山さん、要先生にこのことを伝えておいてもらえる? 第6課の力があれば、空室を買い取るなりして避難所ぐらいは作れるでしょって」
「あ、そうですね。すぐに連絡します!!」
新山さんが連絡をしているのて、俺は次の魔導具作成に入ろうと考えているのだけれど。
「乙葉君、この結界装置って複数作れないの?」
「先輩の疑問はごもっともですが、実は、材料がないのですよ。いくら俺でも精神感応金属クルーラーなんて持っちゃいません。たまたまサイドチェスト鍛冶工房にインゴットの欠片があったので作ってみましたけれど。もう無理。代用材料もないですよ」
そう。
この魔導具の要は、精神感応金属クルーラー。
これがないと何も始まらないし、これがあったら何でも作れるかもしれない。
なんたって、この金属、伝承ではいくつもの呼び方があるらしいのと、この金属を使って『オレイカルコス合金』が作れるらしい。
そりゃあ強いわ。
そんな話をしているうちに、新山さんから要先生が話を聞きに一度来るっていう話を聞いたので、ひとまず錬金術は停止。
「‥‥‥うん、乙葉君、かなり気まずいことになりそうね」
再び起動した深淵の書庫の中で、先輩が複雑な顔をしているのが窺える。
話を聞くと、テレビ塔を包囲していた警官たちが、正体を現した妖魔によって蹴散らされたっていうことらしい。
でも、蹴散らされたっていう話で、そこまで真っ青な顔にならないよね?
「先輩、死者が出たのですね」
祐太郎がそう問いかけると、先輩は力なく頷いている。
そっか。
現妖魔王派にとっては、人間なんて糧でしかないんだものな。
今までみたいに、なんとなく何とかなるじゃなく、すぐ目の前に人の死が見え隠れしているんだよな。
妖魔との共存、それを反対する存在。
この前の祐太郎とおじさんを襲撃した妖魔といい、この結界を作り出した妖魔といい‥‥‥。
いくら俺でも、我慢の限界はあるんだよ。
――ガタッ
俺と祐太郎が同時に立ち上がる。
「あ、オトヤン、どうぞ」
「いやいや、祐太郎こそ、どうぞどうぞ」
「そ、そうか。なら、ちょっとテレビ塔まで行ってくるわ。もう我慢の限界だ、ここはオトヤンが護りを固めていてくれ」
「何をおっしゃるうさぎさん。俺こそもう無理。チート全開で突っ込んでくるから、ここは祐太郎が護っていてくれ」
「いやいや」
「いえいえ」
そう呟いて、二人同時に頷く。
そもそも、この結界あれば守りは完璧だよね?
「あ、あの‥‥‥結界強度を信じて二人で行くっていう顔していますけれど」
「まさかですわよね?」
「「 そのまさか、だよなぁ 」」
同時に走り出して玄関を開き、そして飛んでくる拳に反応しきれず俺と祐太郎は玄関奥に逆戻りである。
だってさ、そこに忍冬師範と要先生が立っているんだよ。
それも憤怒の形相で‥‥‥。
「‥‥‥まあ、どこかで切れて突っ走るかもとは思っていたが、どうやら間に合ったようだな」
「若さゆえ、走り出すのはわかるけれど。まずは冷静になって、こっちの状況を教えてもらえるかしら?」
さすがは大人の余裕。
でも、そんなことしているうちにどんどん被害者は増えていくんだよ?
どうしろっていうの?
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。
・今回の隠しネタは三つ