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【書籍化】ネット通販から始まる、現代の魔術師  作者: 呑兵衛和尚
第一部・妖魔邂逅編、もしくは、魔術師になったよ、俺。
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第六十一話・轍鮒之急は自ら助くものをタスク処理する

『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週日曜日と火曜日、金曜日を目安に頑張っています。

 盟約。

 

 大氾濫の折に人間世界に流れてきた、あるいは侵攻したものの帰る術を失ったものたちは、この世界で生きるためにさまざまな手段を講じた。


 人間たちの使う武具では傷一つつかない妖魔ではあるが、退魔法具と呼ばれる武具ならば、彼らを滅する可能性がある。

 例えるなら、大氾濫の時に転移門ゲートを越えた妖魔1,000体に対して、魔術師100人と退魔法具100振りがあったとしよう。

 それらを用いて妖魔を殲滅し、転移門ゲートは閉じられたのだが、こちらに残された50の妖魔は、残された20の魔術師と60の退魔法具に狙われることになる。


 この脅威から逃れるために妖魔派が取った手段が、時の権力者との『盟約』である。


 盟約条文は至極簡単であり、妖魔は人に姿を見せないこと、契約者である人間の益となること。

 そして人間は、妖魔の糧である人間を供与すること。


 この取り決めは裏の世界で長く用いられており、一枚の石碑に高位魔術式によって刻まれていた。

 どちらか一方が盟約を破らない限り、この石碑は効力を発揮し続ける。

 

『妖魔の力を1/10にする』

『人間の魔力を1/10にする』


 この結果、妖魔は不死性以外の全てを失い、人間は魔術の行使力を失った。

 

 そして先日、とある場所に隠されていた石碑が砕けた。理由は簡単、人間が盟約を破ったから……ではない。

 

「ふぅ。今まで傀儡でいてくれてありがとうね。でも、貴方がこれを隠していたから悪いのよ?」


 傍に転がっている首のない死体と、砕け散った石碑。

 それを薄ら笑いを浮かべつつ、ルクリラは手にした『菅野議員』の頭を握りしめ、そして砕いた。

 

「あなたたちに追従していた妖魔は、これで盟約から解放されるわね。でも、貴方が悪いのよ? 先王派の妖魔が与している人間を抑えられなかったから」


 血糊と脳漿に塗れたまま、ルクリラの姿がスッと消えた。


「あ〜、これで憤怒にも貸しができたわね……」


 何もない空間で、ルクリラだけが嬉しそうに呟いていた。


 そして翌朝、家族によって菅野の死体が発見されるが、この事件は報道されることなく菅野が心臓発作で死去というニュースのみで終わった。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



「まじか.…」


 所変わって札幌。

 突然発生した結界により、中央区の大通りを中心とした一角は誰も立ち入ることができなくなっていた。


「電波は通じている、テレビも映っているけど、街の中は混乱しているな.…」


 スマホ片手に祐太郎が告げると、すでに部屋の片隅では瀬川が深淵の書庫アーカイブを展開し、情報を集めている。


「結界らしき壁の大きさは直径3kmのドーム状、中心地は札幌テレビ塔ですわ。札幌市は市長が非常事態宣言を発していますし、結界内の警察は結界内に避難所を設置、可能ならそこに逃げるようにとの連絡が入っています」


 魔導モニターに表示されたデータを読み取り、皆に告げる。

 ちょうど外では、パトカーが非常事態宣言を告げて、緊急時以外は屋内に留まるようにと叫びつつ走っている。


「了解さ。祐太郎、ちょいとここでみんなを見ててくれる?」


 浩介はユータロではなく、はっきりと祐太郎と呼んだ。

 普段はおちゃらけている浩介でも、これはまずいと理解している。だからこそ、本気でここの守りを祐太郎に任せる気である。

 そして、その事には祐太郎も気付いている。


「結界の鑑定か?」

「そ。ここからの距離だと難しいみたいでね、近くまで行ってくるよ。新山さん、済まないけど炊き出ししておいてくれる? おにぎりのシャケと鰹をできるだけ」

「は、はい‼︎ 乙葉君、無理しないでね?」

「大丈夫。俺の信条はお気楽極楽だから。じゃあ行ってくる」


 そう告げて玄関から飛び出す。

 エレベーターは動くので、その中で魔導強化外骨格メイガスアーマーに換装すると、ゴーグルで妖魔の反応を感知する。


──ピッピッピッ

 センサー範囲内の妖魔の数は、ざっと70。そのうち人魔が46、その中でも上級妖魔は12。


「うわ。距離があるから妖気に当てられはしないけど、これはまずいわぁ」


 反応のある場所を避けるように移動する。

 一部、妖魔が集まっている場所もあるため、可能な限りそこは避けて結界に向かう。

 そして虹色の壁ギリギリまで向かうと、壁の向こうには野次馬のように集まっている人の姿が、うっすらと透けて見える。


「はぁ、そりゃあ当事者以外は野次馬根性も出るよなぁ。鑑定開始……」


 どうせ外に声は聞こえていないし、目を凝らさないとこっちは見えない。

 それなら、堂々と鑑定してみよう。


『ピッ……対物理障壁、上位結界の一つであり、物理的には破壊不可能。上位魔術師による結界中和もしくは結界を構成している結界魔を滅さない限りは破壊不可能』


「はぁ。そんじゃあ、少しだけテスト」


 右掌に魔力を集めると、結界にそっと触れる。


──バジッ‼︎

 すると浩介の触れた部分がショートしたかのようにスパークする。

 その瞬間、ほんの僅かだけ結界が緩んだような気がするが、すぐにそれは修復された。


「……これ、ヤバくね?」


 もう少し本気でやってみたいが、向こうには人が集まっている。

 なので場所を変えて人気の少ない場所を探すことにしたのだが。


──ザッ

 振り向いたそこには、二体の妖魔が立っている。

 外見はどうみても普通のサラリーマンだけど、ゴーグルでは妖魔反応がある。


「そこの君、そんなところで何をしているんだ?」

「パトカーの声が聞こえただろ? 室内に避難しないと危険だぞ」


 まるで浩介を心配しているような口ぶり。

 けど、相手は妖魔。


「あ〜、何処か出口がないか探していただけなんですよ。この辺も壁で囲まれていますか?」


──ス〜ッ

 そう問いかけつつ右掌に魔力を集めると、手前の妖魔は浩介の右手を睨みつけ、奥の妖魔は口元から涎を垂らし始めた。

 浩介の魔力は、妖魔にとっては格好の餌であるから。


「な、なぁ、貘堂鬼、こいつは牧場まで連れていかないで俺たちが食っちまっていいよな?」


 涎を垂らしている妖魔が、前の妖魔に声をかける。


「そうだなぁ。種馬としては最高だけど、俺たちがここで美味しく頂いてもいいよなぁ」


 そう呟きつつ、ゆっくりと浩介に近寄っていく。

 もしも浩介が女であったなら貞操の危機を感じて逃げていたかもしれないが、そこは浩介、ニイッと笑って一言。


「なんだ、中級妖魔が二体か。人魔って奴? うまく人間に化けているなぁ」


 その一言で妖魔は歩みを止める。

 まさか自分たちの正体をあっさりと見破ることができるものがあるとは、予想だにしていないから。


「……第六課か?」

「まっさか。まあ、あえて名乗ることはしないよ、趣味で魔法使いをしている者だ」


 そう呟くと同時に、妖魔が左右に分かれて走り出し、浩介を左右から挟み撃ちにしようとする。

 だが、浩介は両手を横に広げると、素早く魔法を発動する‼︎


炎の矢フレアアロー、威力64倍増を一本ずつ、ホーミング‼︎」


──シュシュッ

 二体の妖魔は理解できなかった。

 挟み撃ちにするはずの相手が、突然魔法を行使したこと、燃え盛る炎が飛んできて、躱したと思った瞬間に軌道を変えて胸元を貫いたこと。

 そして、反対側にいた貘堂鬼が一撃で霧散化したこと。


「ぐっ.……貴様は何者だ」

「お、鑑定結果通り、あんたは丈夫だから生き残ったか」


 すぐさま駆け寄り右手で妖魔の頭を掴む。

 すでに妖魔は瀕死、地面に座り込んで身動きが取れていないため、抵抗することもできない。


「さっきさぁ、牧場とか種馬って話していたよね? それって何か教えてくれないかなぁ?」

「ふん、どうせまもなく百道烈士(くどれっし)様が宣言する。それまでお前たち人間は震えていればいいさ」

「あっそ。それならそれで構わないわ、ただ、人間を家畜のように見ているのなら、俺も容赦はしないからな」


──ブン

 零式甲冑を起動し、胸元に手刀を突き込む。

 そこにある魔人核を掴むと、妖魔は真っ青になる。


「ま、まて、取引をしないか、お前の存在は秘密にしてやる、そうすればお前は牧場送りにならない。いや、俺がお前を取りなしてやる、最高の種馬だってな。そうすれば、お前は好きな女をよりどりみどりでフバシュ‼︎」


──バギッ

 力を込めて魔人核を握り潰す。

 それで目の前の妖魔は、名を呼ばれることなく消滅した。


「はぁ。予想外にやばいことになってね? とっとと結界を破壊しないとダメかぁ」


 目の前の結界を睨みつけると、体内の魔力循環を限界まで高める。

 さらに零式によるブーストと自身の125倍ブーストにより、右手に力の矢フォースアローを集めると、力一杯殴りつけた‼︎


──ドッゴォォォォォォン

 打撃点を中心に波紋のように威力が伝播する。

 だが、浩介の魔力を波紋状に周囲に押し流し、威力を相殺していた。


「う、うわぁ……初めて危機感覚え始めたぞ? これってかなりやばいよなぁ」


 零式の起動用魔力も枯渇し装備が外れる。

 浩介単体の魔力強化では無理と判断すると、一旦マンションに戻ることにした。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 一方、マンションでは。


 浩介が飛び出してから一時間程で、テレビには不思議な映像が映っていた。

 それは電波を介しない、魔力による干渉。

 黒い画面が白く輝き、どこかの室内が映っている。


「……なんだこれ? 先輩、これって解析できますか?」

「ちょっと待ってね。解析開始、対象は目の前のモニター……この結界内の受信可能対象に向けての、魔導発信らしいけれど、どこが発信源かまでは不明ですね」

「それがわかるだけすごいわ.と.何か出てきたぞ?」


 モニターには目付きの悪い妖魔が姿を表した。


『初めまして家畜諸君。私は十二魔将第三位、暴食の百道烈士(くどれっし)である。さて、君たち人間が、我々妖魔と共存を求めているというので、我々としても君たちを受け入れることにした』


 もしもここにジッパーのプロが来たなら、吐き気を催すならんちゃ……なんちゃらと呟いていただろう。

 それほどまでに、祐太郎と瀬川、そして新山の三人には男の笑顔が醜悪に見えていた。


『我々妖魔としても、人間は大切な糧である。よって、この結界内を人間牧場とすることにした。これが我々なりの共存方法である。なぁに心配するな、子を産めなくなった人間は食用にする、潜在魔力が低い人間も同様に食用だ。それが我々なりの、家畜に対しての愛であるからな』


「……こ、こんな非道なことが許されると思っているのか….」

「人間が家畜ですって? それで共存? これが妖魔のやり方って言うのですか?」


 そう祐太郎と瀬川が吐き捨てるように呟くと、突然画面が白くフラッシュした。


『では、これが最初の選抜だ。ようこそ人間牧場第一期のオスメスよ、テレビ塔まで集うが良い。そこが貴様たちの繁殖場だ』


 そして画面が黒く戻る。

 画面がフラッシュした瞬間に祐太郎と瀬川は頭の中に何かが聞こえたかのように感じたが、すぐにその嫌な感じは消えた。

 ただ。


──フラッ

 虚な目をした新山がゆっくりと立ち上がると、おぼつかない足取りで玄関に向かっていく。


「新山さん、どうしたの?」

「行かなきゃ……子供、作らなきゃ…妖魔王様のために……」


 ニコニコと笑う新山だが、すぐさま常軌を逸していると感じた祐太郎がミスリルハリセンを収納ポータルバッグから引き抜いて、新山の後頭部を一閃‼︎


──ジュゥゥゥゥ

 すると、頭の中から黒い霧が吹き出して消滅すると、その場に力なく倒れ、意識を失った。


「あっぶね。そうか、まだ新山さんは加護を受けていないから抵抗力が弱いってことか」

「そうね。とりあえずベッドに寝かせてくれる? 私が様子を見るから」

「了解さ。しかし危ないわ。これはマジで洒落にならないぞ」


 とは言え、何が出来るかというと色々と考える必要がある。

 相手は遠隔で人間を催眠状態にできる妖魔、正面からやり合ってどうなるか判ったものではない。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 同時刻。

 マンションに向かっていた浩介は、あちこちの家や建物から人が出始めているのに気がついた。

 

「んんん? なんで外に出てきているんだ? まだ勝手に出たらまずいだろうが」


 慌てて近寄って見ると、目の焦点が合っていない。

 

「なんだこれ? ステータス鑑定、ロックしている部分も全て解放して」


『ピッピッピッ……対象は魅了及び発情、隷属の術式に縛られています』

「マジか。それって、ここに見える全員が? いやいや、それはまずいだろ、魔術解除術式なんてないし……と、これか‼︎」


 浩介もすぐさま空間収納チェストからミスリルハリセンを引き抜くと、とにかく見える範囲の人々をぶん殴った。


──スパパパパパパパァァァァン

 次々と頭から黒い霧を吹き出し、その場に崩れ落ちる人々。

 再度鑑定して魅了などが解除されているのを確認すると、近くの建物の一階部分に気絶している人々を集めておく。

 幸い、そこには意識がしっかりしている人たちがいたので、介抱を任せて救急車。手配するように指示すると、浩介は急いでマンションに戻ることにした。


 


誤字脱字は都度修正しますので。

その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。


今回はネタなし、そして視点が一人称ではなくなっています。

まあ、こっちが元々のあっしの書き方なのですが、状況に合わせて切り替えてみます。

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― 新着の感想 ―
[一言] ならんちゃ(ボソッ)
[一言] 後半必死に張りセンで叩いて隷属を解除してますけど、万単位の人間が聞いたはずだからとてもじゃないけど対処しきれませんね。
[気になる点] 今回はネタなし? [一言] 俺は趣味で魔法使い(ヒーロー)をやっている者だ。
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