第582話・暗雲低迷、明日ありと思う心の仇桜(さて、やることが多すぎるという事でよろしいですね?)
何だかんだと休憩時間も終わり。
え、俺と新山さんの件ですか? 幻想郷への行き方ですか?
そんなの、一緒に手を繋いで眠るだけでもいいというのなら、それに越した事はないという事で決・着!! あのねぇ、全裸で抱き合ってとかそういうのは祐太郎の仕事なの、俺と新山さんはプラトニック……と言う程でもない関係を楽しんでいるんだからね。
そう、甘酸っぱい高校生活を取り戻す為、花の大学生活を楽しむ事にしたんだから。
来年度からだけれどね。
今年度は北星学園大学の魔術科客員講師としての実績を積み、それを手土産に来年度は公募推薦枠で大学に入ることが決定している。
というか、そうなるように大学にねじ込んでくれたのですよ、要先生が。
大学側としても俺には魔術科客員講師を続けて欲しいという事なので、自分の受ける必修科目以外の空き時間に講師としての仕事をする事で話は付きまして。
後は今年度の講義をしっかりと終えれば、推薦入学はほぼ決定なのです。
すまんな母校の後輩達、大切な公募推薦枠の一つは俺が使わせていただく。
「乙葉くん、そろそろ妄想タイム終了だよ?」
「おっと、妄想タイムじゃなく、ちょっと今後のことを考えていただけでね。さて、それじゃあこの後の予定は何じゃらほい?」
「乙葉君たちの12魔将就任手続き、その後で虚無のゼロさんに頼んで封印書庫に入れるかどうかの確認。プラグマティスの件は全て解決したので、残るは創世のオーブの件だけ。それについても幻想郷レムリア―ナに向かって一つを回収、その後、井戸の向こうの世界でもう一つを手に入れて、伯狼雹鬼から最後の一つを回収しておしまいよ」
「まあ、簡単に説明しておるが、伯狼雹鬼戦については乙葉頼みとなるのは止むを得んという事か。言っておくが、妾は手を貸さぬぞ」
おっと、白桃姫はこの件についてはノータッチということか。
それはまあ、仕方がないのだけれど。
俺一人じゃ勝てない可能性だって否定出来ないんだが。
「まあ、白桃姫が手伝ってくれないというのなら、何か理由があるんだろうからそれは構わない。でも、俺たちだけで勝てるのかという事だけれど……なあ、伯狼雹鬼が創世のオーブを手に入れようとしている理由ってなんだと思う?」
ここ、実は気になっていたんだよ。
だって、一度しんだ伯狼雹鬼が再生されるために創世のオーブを魔人核として使ったということはわかる。
その結果、多分だけれど真意を自在に操る力を手に入れた伯狼雹鬼が生まれたという事だろうけれど、それで目的は解決しているんだよ。
今もなお、創世のオーブを手に入れようとしている理由……いや、伯狼雹鬼たちは今から500年以上も昔から、創世のオーブを探していたんだよな。
それってつまり、何らかの明確な目的があって活動していたっていう事に繋がると思う。
その目的は一体何なのか?
「ふむ。例えば、魔神ダークさまの復活を望んでおるとか? もしもそうならば、事情を話せば渡してくれる……筈はないのう。魔人核として体内に保有している時点で、それを妾達に手渡すという事は死に繋がるからな」
「新たな世界の創造……っていう可能性はどうなのでしょうか。その世界には伯狼雹鬼が神として存在し、魔神ダークも復活しているというのは?」
「新山さんの発想は結構ありだとは思うのよね。世界をもう一度再生するっていう事になると、創世のオーブでないと不可能……よね」
最後の瀬川先輩の言葉だけれど、俺の方をチラッと見て呟いているのはやっぱりそういう事だよなぁ。
奇跡を生み出すオーブがあれば、代償は伴うものの世界は作り替える事さえ可能。
そう考えると、創世のオーブって俺がカナン魔導商会で手に入れたあれと同じ力を持っているっていう事になる。
この世界は、俺が『確定していた未来を歪めて再生した世界』であり、本来は存在しなかった未来の一つ。
そう考えると、創世のオーブで何をなすべきなのか、それを考える必要があるんだが。
「まあ、乙葉の考える通りじゃな」
「え、まだ何も結論が出ていないのだけれど?」
「なんじゃと!!」
「いや、このタイミングなら乙葉君が何か仮説を立てて、それを説明するパターンなのですけれど。それがないという事は、今回はかなり厄介な出来事っていう事になるのですよね」
「まあ、そうなんだよね……今までに起こったことを一つ一つ考えてもさ、伯狼雹鬼が求めていた結末って一体何だったのだろうって考えさせられるんだわ」
そうみんなに伝えたものの、俺では何も答えは出てこない。
ただ、可能性があるとすれば……まさかだろ?
「いや、伯狼雹鬼が何をしようとしているのか、一つだけ思い当たる節があるんだけれど」
「ほう、それはなんじゃ?」
「以前、も災禍の赤月事件のあたりから、いや、。その前から伯狼雹鬼が求めていた事は、魔神ダークの復活だったよな? その為に破壊神の残滓と手を組んだり、俺たちと敵対して魔障中毒者を増やしたり……」
「そうね。全てはその為だったのでしょうね」
そう、俺達の知っている伯狼雹鬼は、行動が一貫していた。
そう考えるのなら、奴はこの歪な今をどう考えるのか。
破壊神とともに消滅し、不思議な力で蘇ったら世界は平和な時代に巻き戻っていた。
ただ、魔神ダークは消滅し、封印大陸もその力を失ってしまっている。
それを元に戻すために創世のオーブが必要で゜、その一つは自身の体に埋め込まれている。
「それじゃあ、伯狼雹鬼は『何もかもやり直したい』と思っているんじゃないか? 少なくとも、その為に遥か過去にも創世のオーブを求めていたっていう事は」
「ふむう。ということは、魔神ダークに破壊神の残滓が憑りついていたことを、奴は遥か昔から知ってたいたという事か。確かに、プラグマティスから真実が告げられていたとするのなら、それは可能性としてはあり得るが……ゼロよ、その辺りはどうなのじゃ?」
白桃姫が虚無のゼロに問い掛けるも、その言葉を頭を左右に振ることで否定している。
『伯狼雹鬼がその事を私に問い掛けた事はない。但し、原初の魔族の誰かが、それを知っていたとするのなら可能性は否定出来ない」
「そこじゃな。ゼロよ、原初の魔族で今もなお残っているのはどれだけいるのじゃ?」
『私は知らない。まあ、勤勉のレビン・スターリングならば、それを知る事が出来るが。そうだな、尋ねてみるのもありという事か。ただ、ここでの話は全て仮定でしかないという事は忘れてはいけない。真実は伯狼雹鬼の中にあるという事もな』
そう告げるゼロに、俺たちは無言で頷く事しか出来ない。
今のここでの話し合いも、目的のためのレールを作っているだけ。
行動指針を確定する為のものである事は、この場の誰もが知っている。
今までもそうであったように、今もそうしているだけ。
でも、答えを得るには、行動しなくてはならない。
「それは理解しています。ただ、闇雲に動くよりも、一つの目的をしっかりと定めた方が動きやすいというだけですから」
『それでいい。我々魔族は、やや本能の赴くままに行動することが多い。ゆえに、人間族のように思慮深く、物事を計算して動くという事は苦手であるからな。では、勤勉のスターリングに問い掛けるとしよう』
そう告げて、ゼロが玉座へと歩み寄る。
その奥にあるタペストリーに触れると、その姿をスッと消してしまった。
そこには選ばれた者しか入る事は許されない、例外は一切認めないと告げているように。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




