第583話・五十歩百歩、家宝は寝て待て(再生怪人は、弱いんじゃないのかよ)
札幌市妖魔特区内、札幌テレビ城。
大学の講義を終えた俺達は、ここで情報の擦り合わせをする為に集まって来ているんだが。
いつの間にかプシ・キャットとかいう元12魔将で白桃姫の知り合いまで参加してしまい、何をどうしたものかと思案中。
幸いな事に、白桃姫とプシ・キャットは札幌テレビ城下の四阿頂で話をしている真っ最中なので、俺達も場所を変えて芝生の所に作られた足湯に浸かりつつ情報交換。
「……まあ、ちょいと待ってくれ。いろいろと突っ込みたいところだが、あの四阿頂っていつ出来たんだ? それとこの足湯も。そもそもここって温泉出るのか? 結界を越えて温泉が湧き出したのか?」
大雪山で宝楼嶺魔から受け取った石板を取り出して打ち合わせをと思ったんだけれど、いつの間にこんな施設ができたんだと突っ込みどころ満載。
そして新山さんとつい今しがた到着した瀬川先輩まで足湯に浸かっているってどういうこと?
少しは疑おうよ?
「まあ、この足湯と四阿頂については、私が白桃姫さんに相談を受けていた案件なのですわ。ここ妖魔特区の中に妖魔の街を作るっていう計画については、乙葉君もご存じですよね?」
「そりゃあ、まあ。そもそもこの中の建築については、俺も手を貸せって言われているからね。定住していない野良魔族ならいざ知らず、ここに越してくる予定の魔族って日本国籍を持っているからなぁ。家族もいれは家もある。そういう人達の為の支援っていう事らしいからさ。これも国家登録魔術師の仕事……じゃないよなぁ、やっぱり」
うん、なんか騙された感が満載なんだけれどねぇ。
この中に建物を作る件については、俺が一つ一つ魔力浸透建材を使って作るよりも、結界で建築予定の敷地を囲った上で、近代建築技術に任せた方が予算が安いっていう事で解決。
今は、どこに建築を任せるか競争入札があるんだと。
その後、測量を始めた上で、色々と準備をした後、来年度から建築は開始。
その辺りで俺も結界装置を設置する必要があるんだけれど、それまでにはある程度の量産はきくと思う。
「その話の中でですね、実際にこの妖魔特区内で建築ができる会社に任せるしかないという事で、この大通りの二丁目から10丁目までを実験的に使うことになったのです。まずは簡単な公園設備の拡充で、それでこの特殊な環境下で建築が可能かどうかを見極めるという話になり、そのついでにこの四阿頂と足湯が作られたそうですわ」
「成程ねぇ。ま、そういう事なら話を進めますか」
石板に魔力を注ぎ、現在までの進行状況を説明……する前に、あの特殊個体の使徒の存在についてもここで説明しておく。
いや、あの手の奴ってどこにでも出てきそうじゃない?
それなら、予め注意喚起しておいた方がいいっていう事で。
既に瀬川先輩と新山さんには念話で説明してあるので、ついでにここにいる織田と松永にも詳しく話しておく。
すると案の定、あんぐりと口を上げて驚いている。
「し、使徒ってあれだろ? 乙葉がどうにか倒せる化け物だっていう」
「ニュースで見た奴だな。確か神威というジャンルの魔術でないと、対処が難しいっていう奴だな?」
「おお、松永はしっかりと勉強しているな。織田は0点な、この使徒の話って、授業で出ていないか? 確か現代魔術史の中で学ぶはずだが」
「い、いや……ほら、俺の中の現代魔術史って、だいたい乙葉絡みの身近な事件ばっかりだったから……ああ、そうだよ、歴史っていうのは苦手なんだよ!!」
「開き直ったか。まあ、それなら話は続けるが、ぶっちゃけると俺でもやばいタイプだ、使徒の奴ら、進化している」
「進化……それはまた、厄介ですね。でも、どうして今更、使徒が現れたのでしょうか」
問題は、そこ。
「その使徒ってやつがライザー様っていう名前を出していてね。それと伯狼雹鬼も健在だっていう事がわかった。話の中でマスターっていう単語が出てきたんだけれど、それが多分伯狼雹鬼で間違いはないと思う。そもそも、あの大隅純也ってやつがマスターとしての器を持っている筈がないからな」
『そうねぇ。その使徒って、異形進化したやつよね。他とか名前は……ベルゼちゃんだったかな?』
「あ、聞こえていました?」
四阿頂の方から言葉が届く。
いや、この距離の俺たちの会話が聞こえるって、プシ・キャットってものすごい地獄耳なのか?
『聞こえているわよぉ。ちなみに私とライザーは、伯狼雹鬼に封印を解除してもらったのよん』
「おぬし、さっきは気づくと封印から逃れていたって言っておったではないか?」
『まさか、初対面の人間の、それも魔族の敵認定されていた乙葉浩介くん相手に、真実なんて伝える筈ないじゃない。ということで、私とライザーは、伯狼雹鬼によって解放された。でも、その後で伯狼雹鬼は貴方たちに滅ぼされたっていう事。だから時が来るまではずっと身を隠していたのよ』
まあ、たしかに本当のことをホイホイと話す様な奴に十二魔将は務まらないか。
「それで、伯狼雹鬼は今、大隅純也と一緒にいるっていう事で合っているのか?」
『そうねぇ。一緒といえば一緒ね。伯狼雹鬼の疑似魔人核は、大隅純也の体内に寄生しているから。たまに意識を取り戻す事はあるけれど、まだ本調子ではないので大隅純也という屑の意識を支配出来ず、眠っているわよ』
「「「「疑似魔人核?」」」」
ほら、やっばり再生怪人として蘇ったのかよ。
でも、疑似魔人核って一体なんぞや?
確かヘキサグラムの機械化妖魔とかに使われている奴じゃなかったか?
『ええ。伯狼雹鬼の部下というのかしら。そういうのがいてね。完全消滅するところであった伯狼雹鬼の魔素を回収し、疑似魔人核の中で回復させていたっていうことらしいわ』
「はぁ。どっかの吸血鬼じゃあるまいし。殺された後で首だけ残って、そしてそこから宿敵の体を乗っ取って復活してウリィィィィィっていうパターンじゃないよな」
「それにしても、大隅純也はどこにいるのですか? 早く見つけて対処しないと危険なのですが」
「先輩のいう通りです。いつ、あの男が私を狙ってくるのか、心配で夜も眠れなくなっているのですよ。今はどうにか魔術で眠っているのですけれと……」
おぉっと、そんなところまで追いつめられていたのか。
それなら俺がどうにかせんとねぇ。
『大隅純也の居場所については、禁則処理されていて教えることは出来ないわ。でも、あなたが新山小春なのね、あなたはもう狙われないから安心してねん』
「そ、それってどういう意味ですか?」
『今頃は、別の女の上に乗っかって腰を振っているころじゃないかしら。つまりはそういう事なのよ、今の大隅純也は、本物の新山小春には興味がないっていうわけ』
「はぁ……プシ・キャットや、またやらかしたのか……まあ、そなたがそういうのなら、小春はもう狙われる事はない。安心するがよいぞ」
「そ、それならいいのですが……」
うん。
少なくとも白桃姫がそういうのなら間違いはないか。
「それに、心配なら乙葉の家に泊めてもらえばよかろう。未だ裏地球最強の魔術師であることに変わりはないのだからな。ついでにとっととくっつけ」
「「もうくっついていますっ」」
おっと、ハモった。
そして真っ赤になる新山さん。
ちなみにだが、正式にお付き合いしているというだけで、それ以上のことはないよ、まだ健全だからね。
『スンスン……うん、このこは乙女ね、そっちのメガネっ子さんも乙女だから安心してハーレムを作ってね。その時は、私も混ぜてもらっていいかしら』
「ダメに決まっていますっ!!」
「そもそも、私と乙葉君がそういう関係になることはありませんので」
まあ、新山さんの全力のお断りと、先輩の否定。
そりゃそうだ。
「それじゃあ、おぬしが伯狼雹鬼の元にいたのなら都合がよい。ちょいと教えて欲しい事があるのじゃが」
『言える事なら教えるわよ。その代わり、魔力玉を頂戴』
「構わん構わん。では、創世のオーブとやらは知っているか?」
『当然よぉ。それを使って、伯狼雹鬼の疑似魔人核は作られているのだからん』
「なるほど、では次の質問じゃが」
「「「「「「「「ちょっと待ってぇぇぇぇぇ」」」」」」
俺と新山さん、瀬川先輩だけでなく織田と松永まで突っ込みを入れている。
今、とんでもない事を話していなかったか?
「伯狼雹鬼の疑似魔人核に創世のオーブが使われているっていう事は、つまり大隅純也の体内っていうことか?」
『そうよ? それで何か問題でも?』
「問題ありまくりというか……まあ、事情を知らないのだからこれは仕方がないか」
仕方がないという事で終わらせる気はないのだが、このままだともっととんでもないことを話してきそうで怖いんだけれど。
はあ、この後の話を聞くのが不安だわ。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




