第580話・(初めての魔術講義と、ブチ切れそうな教授たち)
ライザーとやらの使徒に襲撃を受けた後。
本当ならば白桃姫の元に向かい情報共有したいところなんだけれど、この後は講義があるので大学の外にいくのもままならず。
という事で、祐太郎や瀬川先輩に念話で情報共有した後、初めての講義へ。
既に要先生の研究室にも挨拶がてら向かったし、そこでも新型使徒の説明もしたので退魔機関第6課への報告も割愛。
という事で、時間なので講義室に移動。
よく漫画やアニメで見る、階段状の講義室ってあるでしょ?
そんな感じの部屋に入ると、既に講義室内は満席状態。
そしてしっかりと、最前列に新山さんだけじゃなく小田や松永といった顔見知り連中も座ってニヤニヤしていますが。
無視だな。
「さてと……初めまして。魔術科客員教授として、本日より魔術基礎理論の講義を担当する乙葉浩介です。ちなみに年齢については皆さんと同年代もしくは年下の可能性もありますので、気軽に接していただけると助かります」
そう告げてから、右手で顔の正面に風系統魔術の術式を展開。
それを魔法陣の形に変形させた上で、術式をその場に固定。
これは声が遠くまで届くように増幅する為の術式で、これで最奥の生徒にも前列の生徒のように均一に俺の声が届くようになっている。
「前列は俺の声が届いていますが、一番奥の皆さん、声が届いていましたら手を挙げてください……と、あ、届いているようですね。ちなみにですが、今、私が目の前に展開した術式は、『一般系統基礎魔術』『風属性術式』『音量増幅』『均一化』といった4つの系統の魔術を複合し、それを一つの魔法陣のように展開して固定したものを発動しています……ここまで説明しても何が何だか分からない方が大半かと思いますので、一つ一つ順を追って説明しましょう……」
いきなり生徒たちの目の前で魔術を発動したので、みな、目を丸くして驚いている。
ちなみにだけれど、首から下がっている『北海道大学・魔術科客員講師』の身分証とは別に、左胸にしっかりと『国家公認魔術師証』というものをつけている。
これは、祐太郎の父さん、つまり晋太郎おじさんが国会で通した『魔術師登録制度』の法案により発行されたもので、現在は確か、20人近くの人が国家公認魔術師として登録されている……筈。
ちなみにだけれど、織田と松永もこれを持っているし、現代の魔術師チームは全員が登録済み。
これを掲示している事で、公共の場での魔術行使が認められているのでね。
新山さんだって、これを提示している限りは治癒魔術を普通に行使可能になっている。
まあ、基本的には怪我人に対しての応急処置ぐらいであり、彼女に直接連絡を取って治療魔術を使ってもらう事は出来ない。
という事で、まずは簡単に基礎理論の最初の部分から本日は講義を開始。
まあ、この辺りはインターネットとかを探せばちらほらと出て来る事もあるのと、大学で用意したテキストもあるのでそれ程難しくはない筈……と思ったんだけれど、皆、複雑な表情をしているんだが。
「……ここまでで、判らない事はありますか?」
――ササササササッ
おおっと、生徒の半数近くが手を挙げている。
この講義室には、各席にマイクと挙手ボタンのようなものが後付け設置されているらしく、質問がある場合などはそのボタンを押すようになっている。
そしてボタンが押された席は、俺の目の前にあるモニターに表示されていて、そこをタッチすることで質問をする事が出来るようになっているらしい。
ということで、一番早かった生徒の席をタッチして……と。
「はい。魔術を発動する為に必要な魔力の事ですが。体内に存在する魔力回路という部分から魔力を放出するという事になっていますが、それはどのような部位に多く存在しているのでしょうか」
実に基礎的です。
「まず。魔力回路が体内に存在するという部分について、少し深く掘り下げて説明します。まず、人間は3つの体を持っています。一つがこの世界に存在する肉体、一つは肉体に宿る精神体、そして精神体の中心に存在する幽体。この三つが均等に存在することで、人間は個として存在する事が出来ます。その内、魔力回路が存在するのは幽体、つまり魂の部分です。それが肉体に張り付いていると思ってください。ゆえに、肉体には存在しない器官なので肉眼で見る事は出来ません。ここまではわかりますか?」
「いえ……その精神体と幽体という部分は、テキストに掲載されていないもので」
「おおっと……そこからかぁ」
これは参った。
そういえば、今使っているテキストなんて目を通していなかったなぁと思い、ペラペラと高速で目を通してみる。
その結果、もっとも基礎である部分がすべて省かれているじゃないか。
このテキスト、使えねぇぇぇぇぇぇぇぇ。
だれだよ、これを監修したやつは、魔術基礎理論学教授・瀧山新次郎?
知らねぇよ。
ということで、テキストは閉じてみなかったことにします。
「さて。それではみなさん、テキストは閉じてください。ここに書いていることはほぼ嘘です。全くといっていいほど使えません。こんなの信じても、魔術なんて使えるようになる筈がありません。ここの『魔力回路を活性化させる為の云々』というくだりなんて、適当もいいところでしょう。事実これを見て実践して、魔力回路が開いた生徒は手を挙げてみてください?」
そう問い掛けると、誰も手を挙げない。
それどころか、一番奥の席でこっちを見ている講師たちの一部は、顔を真っ赤にしているじゃないか。
ああ、あいつがこのテキストを書いた瀧山って教授か?
「はい、だれもいません。ということですので、まずは今から説明することを試してみましょうか。乙葉式魔力回路覚醒術……とでも言いますかねぇ」
という事で、人差し指を立てた状態で手を組んでもらう。
それを前に突き出して輪のような状態を作ってもらうと、一番前の生徒の人差し指にチョン、と触れて魔力を少しだけ流してやる。
これは呼び水のようなものであり、生の魔力に触れることで自身の魔力回路を活性化させる。
ほら、俺たちがまだ高校一年の時、新山さんの治癒魔術を受けた生徒たちの魔力回路が活性化したでしょ? あれの応用なんだよね。
すると。
「うわわわ、何か体の中を巡っている!!」
「でしょ? ということで、今日はこの場の全ての生徒の魔力を少しだけ活性化してみますか。お手伝いに国家公認魔術師の織田君と松永君、新山さん……と、奥で隠れている高遠先輩と美馬先輩、よろしくおねがいします。ちなみに魔力回路と同じように闘気経絡というのも存在しますが、こちらは闘気を操る為のものです。人間はどちらかしか覚醒できませんので、闘気覚醒を希望する方は美馬先輩と俺が担当します、魔力回路の覚醒を希望する人は俺と新山さん、織田君、松永君、高遠先輩が担当します。では、まずは魔力回路の覚醒を希望する方はボタンを押してください」
よし、全体の6割が魔術師希望。
予想よりも少ないと思ったんだけれど、闘気覚醒については、じつは一度でも覚醒したら後は自主鍛錬で強くする事が出来る。ほら、築地ブートキャンプでうちの母校の生徒達が闘気覚醒したでしょ?
でも魔術についてはここがスタートというだけで、ここから先は長いんだよ、果てしなく続く男坂のように。
という事で1時間程で講義に参加している『生徒』全ての覚醒は完了。
とはいえ、魔術師になる為には魔力弁を開かないとならないので、それについては次の講義で話をする事にしましょう。
まあ、魔力回路の中で魔力を循環する程度なら問題はないし、それを外に向けて放出するには魔力弁を開かないとならないからなぁ。
ということで、第一回目の講義は終了。
恨めしそうに俺を睨んでいる最後尾の教授達は全て無視。
そもそも、この世界で俺よりも魔術に詳しい存在がいるというのなら、ここに呼んでみろやぁって感じだよ。いっぱいいると思うけれど。
さて、講義は終わったので軽く食事をとった後、妖魔特区にでも向かいますか。
幸いな事に、先程の新型使徒の反応はなかったので大学構内は大丈夫でしょう。
使徒の餌になりそうな強烈な魔力を持っている生徒は……数人しかいないからね。
まあ、彼らなら自衛出来るし、何かあったら連絡を寄越して来るでしょう。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




