第五十八話・一蓮托生、毒をくらわば皿まで(白桃姫、参る)
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ピッピッ
鏡から突き出した妖魔の足。
それをどうにかしたいという事で、カナン魔導商会で色々と役立つものを探していたんだけれど、これと言って結界を封じるようなアイテムは売っていない。
「ダメすぁ。対魔族用結界発生装置とかありそうなんだけどないんだよなぁ」
「深淵の書庫でも解析不能ってでますわね。まあ、資料文献がまだ不足しているので、こればかりはどうしようもないのですけれど‥‥」
「いえいえ、判らない、が判っただけでよしですよ。これからどんどん資料を集めて深淵の書庫の解析能力を上げるしかないですから」
「そうですわね。一度戻ることにしましょうか」
やむなくリビングに戻ってみると、そこは阿鼻叫喚の世界が広がっていた。
「あら、お邪魔しているわよ。そちらの女性は初めましてかな?」
先ほどのように輝く鏡と突き出された右足。
その手前では、突き出された右足を猫じゃらしでくすぐっている新山さん。
それを見ている祐太郎と、お茶を飲んで見守っているタケもっこす先生という一種異様な光景である。
「あ‥‥あああああ‥‥タケもっこす先生が、ここにいるなんて‥‥」
「連絡を貰って来たのよ。おひさしぶりね」
「ちす。連絡したのはユータロ?」
そう問いかけるとニイッと笑いつつ頷いている。
ナイスだ祐太郎。
だけど、タケもっこす先生の姿を見て腰が砕けたようにその場にへなへなと座り込む瀬川先輩。
真っ赤な顔で口元に手を当てつつ、必死に自我を保とうとしているに違いない。
「うわぁ‥‥サバト? それともジャ〇アンリサイタル?」
「どっちもカオスなことは認めよう。この足が人魔・白桃姫だっていう情報は判ったけれど、タケもっこす先生にも色々と聞いてみたかったので電話してみたら、転移してきてな」
「そのタイミングでまた足が生えてきたので、今度はくすぐっているのですよ」
「なるほどね。それで瀬川先輩は生もっこす先生を見て感極まっているということでファイナルアンサー?」
座り込んで震えている瀬川先輩に問いかけると、言葉なくコクコクと頷いている。
「あ、こちらのお嬢さんには自己紹介したので。それで、この足って本当に白桃姫ね。空間を自在につなげる『越境転移術式』で、ここの鏡と鏡刻界を接続したのは理解できるけれど、どう考えても通り抜けられるわけないじゃない」
最後はため息まじりに呟くタケもっこす先生。
すると白桃姫の足が力いっぱいバタバタと動いた。
「そもそも、そこの鏡の大きさを御覧なさい。貴方がハ〇ーン・カーンぐらいのウエストでも、そこを通り抜けることなんてできないわよ。腰は通っても肩幅と頭が通るはずないんですから」
――ズボッ
すると突然足が戻っていき、今度は顔半分が鏡から飛び出した。
桃色のショートカット、頭の横から延びる羊のような角。
年齢でいえば十六歳前後というところであろうか。
「誰の声かと思ったら、ラティラハスヤではないか。何故、ルクリラ配下の貴様がそこにいるのじゃ? はようここから我を引き出すのじゃ!! そこな餌が逃げるではないか!!」
おぉっと、禁止ワードが出そろいました。
「あの、白桃姫さん? あなたは現十二魔将の一人で、人間食べるぞ派ですか?」
「何をいうか。人間など我らの餌でしかないわ。そんな当たり前のことを聞いてどうするのじゃ?」
「ということですって、あとは皆さんにお任せしますわ」
にこやかに告げるタケもっこす先生。
それならばと俺と祐太郎はフルアーマーに換装すると、俺は威力125倍の力の矢を、祐太郎は練り上げた闘気弾を両手の中に生み出していた。
「ま、待て待て、そんなものをどうするつもりじゃ? 黙っていれば痛みなどなく食べてあげようぞ。抵抗するとほら、味が下がるぞ。アドレナリンの上昇によって毛細血管まで血液が回るとなもまずくなるんじゃ!!」
「お前はどこぞのグルメ解説者かよ!!」
「誰がダチョウブラザーズだ!!」
――ドッゴォォォォォォォォォォォォォォォォッ
二人同時に顔面目掛けて攻撃をぶっ放す。
その衝撃で顔面が鏡の向こうに吹っ飛ばされると、鏡に残っていた魔力も消滅した。
「やったか?」
「その言葉はフラグだな。つまり仕留めていない」
「そうね。『怠惰の白桃姫』は、十二魔将でもトップクラスの丈夫さだからね。あの子が戦闘モードに入っていない限り、浄化・消滅は不可能よ」
「ええっと、それって、あいつが戦闘モードでないと倒せないっていうことですか?」
祐太郎が問いかけると、タケもっこす先生は頷いている。
「平常時は無敵モードなのよ、あの子は。その代わり少しでも反抗の意思があったり、やる気になっていると無敵モードが解除されて殺戮モードに切り替わるわ。そうなったあの子の力は凄いわよ」
「あの、それってどれぐらいなのですか?」
「怠惰をまき散らして、人々からやる気を奪います。その奪ったやる気はすべてのあの子の糧となりますね。でも、恐怖におびえる人々の感情が最もおいしいそうで、そんなことはめったにしませんけれどね」
怠惰をまき散らすって怖いわ。
人々のやる気を奪い取るっていうのは、この日本ではシャレにならないぞ。
「それは今の日本にはいらないわぁ。むしろ、やる気をください、与えてあげてくださいっていう人間はいくらでもいそうだけれどね」
「十二魔将でもね、七つの大罪の名を冠に持つ氏族はその名前の通り、七つの業を操ることが出来るのよ‥‥」
「あ、確かにタケもっこす先生は愛欲ですものね」
「ええ。だからと言って、常にエロいことしているわけではないのですよ? 人々の淡い愛とかも好きですよ。そういう二人のいる空間なんて、その場にいるだけで口の中が甘くなってきますし」
ふむふむ。
そう呟いて何故、タケもっこす先生は新山さんを見るのだろう。
そして新山さんも、ギリリと顔を背けているのだろう。
何か、踏み込んではいけない気もするので突っ込まないようにしよう。
「なるほど。それで瀬川先輩、そろそろ帰ってきませんか?」
いまだ呆然としている瀬川先輩だけど、ようやく意識が戻ってきたらしくアワアワとしている。
なんだかかわいいなぁ。
「え、ええ。あまりの衝撃的な出会いにどうしていいか判らなくなりまして。ごめんなさい」
「いえいえ、そこは構いませんわ。それよりも乙葉君、貴方は確実に妖魔によって目を付けられているわよ。それも十二魔将クラスに狙われているなんて、これからどうするの?」
「う~ん。どうにかしないとならないのは理解しているけれどさ、かといって何かできるかっていうと、相手はあの鏡からしか出入りできないのでしょ?」
「違うわよ。鏡からなら、何処でも出入りできるのよ」
え?
それってつまり、俺の部屋の大きな姿見からも出入りできるの?
長さは1.2mで幅30cmの細身のパイプフレームの姿見だけど、そこからでも入ってこれそうだよなぁ。
「じ、じゃあ、ここからは来れるっていうこと?」
慌てて俺の部屋までみんなで向かうと、姿見が輝いていたではあーりませんか。
そして波打った瞬間に、全身黒いボディースーツに身を包んだ、巨乳の妖魔が映りはじめた。
『フハハハハハ。先ほどは痛かったぞ、ほんの少しだけ痛かったぞ!! 今からそちらに向かうから覚悟しろ愚民!!』
「うわぁ‥‥」
傷一つない姿の白桃姫が、鏡から右足を出してくる。
そのまま歩いてこっちに来ようとして、ジャスト隙間に引っかかってこれなくなっている。
――ゴツンゴツン
肩やら胸やら、そもそも腰も引っかかっているし色々とサイズが合っていない。
ナイスバディだけど骨格がいいのか、それともむっちり系なのか判らないが、鏡から出てこれなくなっている。今の君は、ピカピカに光っているよ。
『むう、ち、ちょっと待て、ここをこうして‥‥いや、肩をこう回して‥‥違う、そもそも翼が引っかかっているのか?』
確かに背中に巨大な翼もあるし、そりゃあ入ってこれませんわ。
っていうか、何この残念思考の妖魔は。
「白桃姫‥‥貴方、太ったわね」
――ザクザクッ!!
タケもっこす先生の『言葉の刃』がクリティカルヒット。
その一言を受けて、白桃姫と新山さんと瀬川先輩が胸を押さえてその場にへたり込んだ。
「うわぁ‥‥流れ弾がシャレにならないわ」
『べ、別に太ってなどおらぬわ』
「あら、そのお腹もむっちりしているし太ももだっで前よりもムチムチしているわよ。それってセルライト? 煮ても焼いても食べられないわよ。どうせそっちも夏だからって、美味しいものや甘いものバクバクぼりぼりと食べていたのでしょう? 怠惰の氏族ってそうよね。暇があると転がっておいしいもの食べて本能のままに寝て。そしてまた食べてころころと太るのよ!!」
――グハァァァァァァァァァァァァァァッ
タケもっこす先生の言葉が次々と三人の心をえぐっていく。
白桃姫なんて、血涙ながしてうめいているじゃないですか。
「ち、ちがうもん‥‥これから痩せるんだもん‥‥」
「あの薬があれば、すぐに痩せられるのだから‥‥少し油断したのよ」
『妾は怠惰の氏族じゃ。おいしいもの食べて仕事もせず、だらだらと生きていて何がわるいのじゃ!!』
「だから、適度な運動しないと痩せられないのよ。どうせ白桃姫のことだから、人間の国で痩せられる薬とか探していたのでしょ? そんな付け焼き刃じゃ、ちゃんと痩せられる筈ないし、直ぐにリバウンドするのですよ!」
――ズバァァァァァァァァァァァァァァァァッ
あ、白桃姫がひくひくして動かなくなっている。
それよりもさ、新山さんと瀬川先輩までピクッピクッて動かなくなっているのはどうして?
「うわぁ‥‥タケもっこす先生半端ねぇ‥‥言葉だけで十二魔将を仕留めかかっているぞ」
「そもそも、私たち妖魔は精神生命体っで、心とか精神攻撃系には弱いのよ。だからほら、対象の心をえぐるようなことを呟くだけで、この通り再起不能になることもあるのよ」
そう勝利宣言のごとく呟くタケもっこす先生。
そして祐太郎の視線は新山さんと瀬川先輩に向いていた。
「そ、そっすね。さすが妖魔だよな。人間にまで効くとは思わなかったけれど」
「え‥‥あらららら。新山さん、瀬川さん大丈夫?」
「‥‥明日からご飯抜く‥‥炭水化物食べない」
「ケーキも大福も封印ですわ‥‥鳥獣戯画の方々に弟子入りしますわ」
うん。
二人とも落ち着こうね。
それよりも今は、この鏡の向こうの妖魔をどうにかしたいよね。
今は出てこれなくても、痩せたらこっちに来るよね、絶対に。
「タケもっこす先生。オトヤンちの鏡って、どうにかして来れないようにできないのですか?」
「あ、追加で説明してあげるわ。白桃姫の越境転移術式って、きちんとした手続きで発動しないと不完全につながって、体の一部しか出すことが出来ないのよ」
「「「 へ? 」」」
俺と祐太郎が驚くのはいいが、なんで鏡の向こうの白桃姫まで驚いているの?
「魔力、星辰の位置が不完全だと開くはずがないもの。だから、この部屋どころか今の白桃姫はこっちの世界に来れるはずなんてないのよ」
『そ、そんなはずないわ。ちゃんと星辰の位置は調べたのじゃ!! 十二月三十一日深夜十一時、すべての条件が揃うではないか』
「今はまだ十月。しかも、全て揃うのは丸々一年後の年末よ。貴方また怠慢しすぎて時間の概念忘れたわね? 以前の大氾濫の時だって、寝過ごして気が付いたら終わっていたでしょ」
『そそそそそそんなことないわ、ただ寝過ごしただけじゃ』
「あ~。怠惰すぎでそこまでダメなのかぁ‥‥」
祐太郎にいたっては、あきれてものも言えなくなっているし。
「ということで、そろそろ鏡は封じますからね、はいさようなら!!」
――パチッ
タケもっこす先生が胸元から取り出した呪符を鏡に貼り付ける。
するとそれまで白桃姫が映っていた鏡が、一瞬で元の鏡に戻った。
「これは『封印呪符』ってうのよ。まあ、一種の魔よけみたいなものね。妖魔を封印するときに使うんですけど、こうやって通り道を封じることが出来るのよ」
そう説明してタケもっこす先生は、俺に三枚の呪符を手渡した。
「これはあげるから、乙葉君なりに調べてみなさい」
「こ、こんな大切なもの‥‥」
「あ、それはチベットの山奥で魔導具を販売しているお店で買ったのよ。秘宝商人っていって、遺跡とかで発掘した退魔法具とかを修復して売っている人がいるの。安かったから、それはただであげるわ」
「安かったのですか‥‥では、大切に解析します」
「それじゃあ、私はそろそろ帰るわね。早く原稿を上げないと、格安印刷の締め切りに間に合わないからね」
そう呟いて、タケもっこす先生は投げキッスをしてパーッと散っていった。
「‥‥オトヤン、それ解析して作れるのか?」
「わかんないなぁ。とにかく、おやつタイムにして一休みしようか。津倉屋のエクレアとチーズケーキを買ってあるから、それでも食べて落ち着こう」
「‥‥それって、カロリーいくつ?」
「わ、私はお腹がいっぱいなので‥‥」
ふむ。
タケもっこす先生、貴方は先輩たちにとんでもない贈り物をしていきました。
それはトラウマです。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。
・今回の判りずらいネタ
判りやすいのなら四つほど。
難しいのは二つかなぁ。




