第574話・五里霧中、開いた口へ牡丹餅(蚤の市攻防戦……って、そんなことしている場合じゃねぇ)
――北海道札幌市・豊平神社
情報収集を兼ねて、俺と新山さんの二人は豊平区の豊平神社にやって来た。
まあ、先に祐太郎の父である晋太郎おじさんから情報を得ようと思って来たんだけれど。
残念ながら、おじさんは国会の仕事が忙しいらしく留守。
という事で止むなく、俺たちは豊平神社に来たっていう事で。
「……ああ、今日は日曜日か……」
夏の日差し、木漏れ日の差す参道を進むと、その左右に露店が並んでいる。
今日は蚤の市らしく、彼方此方に骨董店やらキッチンカーが並んでいる。
「とはいえ、さすがに数は少ないか」
「でも、結構な人だかりが彼方此方にあるよね。あそこの露店なんて大盛況みたいだよ」
「ふぅん。まあ、骨とう品マニアっていうのは、こういう所でお宝を発見するんだよねぇ」
かくいう俺ちゃんも、3年前には大通りの露天商相手に色々な物を鑑定しまくったからなぁ。
そう思ってひょいと人ごみの隙間を縫って前に……行けないので、先にキッチンカーでクレープと飲み物を購入。
それを食べつつ、少し人が空くのをのんびりと待っていた。
それにしても、随分と大勢の人がいるものだなぁと辺りを見渡してしまう。
まだ8月半ば、小中高は夏休みもそろそろ終わり宿題ラッシュが始まる頃とはいえ。
親子連れの人もいれば、本当にカップルでデートがてら骨とう品を購入しているという姿も見えている。
俺の記憶では、この手の骨董市に出入りしている客層がガラッと若返ったようにしか感じないんだが。
「それにしても、何というかバラエティ豊かな客層だよねぇ」
「あ~、そうか、乙葉君は知らないんだったよね。ほら、歴史の改変期以前に魔族の存在が大きく広まったじゃない。その後の災禍の赤月事件の辺りで、暴走魔族と人間との戦いが激化した時期があったらしいのよ。これは、私も大学に入学してから学んだんだけれどね」
「へぇ……でも、それと骨とう品とどういう関係が?」
そう思って訊ねてみると、暴走魔族と戦っていたフリーランスの術師が結構いたらしく。
そういう人達が扱っていた魔導具というのが、こういった骨とう品の中に埋もれている場合があるってテレビで公表したらしいんだわ。
それで、自分も魔術師になりたいという人達が骨董市を尋ねては、ああやって色々と掘り出し物を探しているんだと。
まあ、いくら骨とう品とはいえ玉石金剛、本物もあればパチものもある。
そういったものを目利きして購入し、しかるべき場所で鑑定してもらったり本業の人に見てもらうのが流行っているとか。
「……成程ねぇ」
「それで、こういった骨とう品の中には、魔除けのような効果がある物もあるっていう事で、こうして恋人にお守りとして購入しているみたいだよ」
「恋人にお守りかぁ……」
ふと、新山さんの方をちらっと見てしまうけれど、特に何か濁しているような素振りもない。
うん、私にも買って欲しいなぁとか、そういった意味合いは含まれていないようで。
でも、男だったら、ここは一発買ってあげるっていうのもありなんだけれどなぁ。
「新山さんも、そういったお守りが欲しいの?」
「ん? 妖魔から身を守るための? あはは……乙葉君がいるから大丈夫だよ。それにほら、私には対妖魔防御楯があるからね」
ミーディアの楯かぁ。
あれって、俺の切り札も止められるんだよなぁ。
そして洗脳系の魔術や能力についても、俺があげたレジストリングで完全に防ぐ事が出来るからなぁ。物理的にミーディアの楯を突破出来ない限りは安全だし。
「そっか。でも、欲しかったらいってね」
「うん……」
「おうおう、そこのバカップル、何も買わねぇんならとっととどっかいけやぁ」
ん?
露店の方から聞いたことのある声……そう思って人混みの隙間から覗き込んだら、こめかみに青筋立ててイライラしているジェラール・浪川を発見。っていうか、ここで露店を出していたのかよ。
でも、並んでいる骨とう品の大半はアクセサリー関係だし、何だか業務形態を変えましたか?
「誰がバカップルだ。それよりも、何でジェラールがここで商売しているんだよ」
「そもそも、俺は魔導具関係の専門家だろうが。対妖魔法の緩和で、海外からそういった関係の物品を取り寄せ易くなったんだよ。それに、藍明鈴の所とも業務提携しているし、何よりこういったアクセサリー関係は新しい仕入れ先が出来たんでね。という事で、何か買っていけ」
「ああ、まあそういうなら……ちなみにだけれど、ここにあるものって全部、ジェラールが鑑定したんだよな?」
「当然。まあ、この肉体を得てからは、以前よりも更に魔術に対しての造詣が深まったというか。そういう点では感謝しているんだからな」
あ、そういう事ね。
その辺りの時間軸は修復されていない……っていうか、世界崩壊よりも前の歴史部分の修復って、今一つ理解しきれていないんだよなぁ。
「まあ、そういうのなら……」
という事で天啓眼発動。
一通り見せてもらったけれど、どれもこれもちょっとした魔術が付与されているんだよ。
それも『加護』っていう俺の知らない付与術式が。
これって具体的に説明すると、『炎の加護』というものが付与されていた場合、ちょっとだけ炎に対しての耐性が付く。同じように『氷の加護』は冷気耐性っていうかんじでいろいろとあるんだけれど『金運の加護』は本当に金運が付与されるし、『家内安全』はどうやら家での事故を防いでくれるとか。
法則性が定まっていないので、俺にも使えるかどうかは不明なんだけれど。
それでも、面白いから購入することにする。
「それじゃあ、新山さんにはこの髪留めを。『悪霊退散』っいう効果があるみたいだからさ」
「それじゃあ、乙葉君にはこのお守りを、『学業成就』っていう効果みたいだよ」
――ペッ
互いにプレゼントしてあげたら、ジェラールが境内に唾吐いているんだが。
お前、バチ当たるぞ?
「おら、買い終わったらとっとと帰れ。何でこんな場所で、お前たちのいちゃついている所を見せられなきゃならねえんだよ」
「うるさいわぁ。いちゃついていねーから。そもそもここに来たのは別の用事だから」
まったく。
とっとと当初の用事を済ませる事にしようか。
という事で、目指すは社務所。
そこでちょいと話を聞かせてもらいましょうかねぇ。
………
……
…
まったく。
何で休み返上して働いている俺が、知り合いのいちゃついている所を見せつけられているんだか。まあ、普通にカップルで来る客はいるけれど、知り合いでっていうのがまた何というか。
それにしても乙葉め、いいところに目をつけて買っていきやがったな。
そいつはあのアクセサリーショップでも滅多に入荷されない逸品らしいからな。
それに小春ちゃんの購入したやつも、普通の加護よりもグレードが二つも違う。
ま、ちょいと高い買い物かもしれないが、霊験あらたかだから安心してくれ。
「それにしても、なんであいつらここに来たんだ? まさかデートで神社巡りしているなんて言う趣味があるっていう話は聞いた事がないし。それに、別の用事で来たって言っていたよな……」
なんだ、儲け話の匂いがして来たぞ。
こりゃあ、のんびりと露店なんてしている暇はないな。
ということで飛泉凰牙、乙葉浩介を追尾して様子を見てこい。
さて、どんな情報が手に入る事やら。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




