第571話・往事渺茫、邯鄲の夢(大切なものは、手書きと石板に)
大雪山系に存在する、魔導具を与えてくれる魔族の住む金庫岩にやって来た俺ちゃんは、そこの管理人である宝楼嶺魔に全ての事情を説明した上で、『支配のメダリオン』と『創世のオーブ』についての知識を授かる事となった。
何も知らない状態での調査よりも、少しでもヒントを得てからの方が活動しやすいからなぁと思ってここに来たのだけれど、どうやらここに来たのはビンゴだったようで。
『それでは、まずは支配のメダリオンについて説明しようか。あれは、そもそもこの世界に存在してはいけない魔導具の一つ。神器とも呼ばれているものであり、古くは幻想界において、神々が神人や魔人を支配する為に使っていたもの……ちなみに、魔人とは本来、幻想界に住まう我々原初の魔族の事を指し、神人と対極の位置に存在していた。ここまでは良いかな?』
「……ちょっと待ってくださいね……」
え、何しているのかって、メモを取っているに決まっているでしょう。
魔術を用いれば、一度聞いたものを記録の宝珠に書き込んで再生する事は可能だけれど、こうやって手を使ってメモする事で、頭の中には優先事項として記憶されるからね。
「……はい、オッケーです」
『支配のメダリオンはやがて、幻想界の支配を神人の代表に託す為に下賜したのだが、それがある日を境に焼失してな』
「消失って……それってつまり、誰かが盗み出したという事ですか?」
『いや、支配のメダリオンが、自らの意思で幻想界から逃げ出したというのが正しいだろうな。神器ともなると、自らの意思を持つものが多いのだが。神々が取り扱っていた時代は、その意思を封じ込める事が出来たので神器が身勝手な行動をとるような事はなかったのだ。神人の手に渡ってからは、どうやら意思を押さえつける事が出来なかったのだろう』
そして、支配のメダリオンは姿を変えて、俺達の世界や鏡刻界に出現するようになったらしい。
歴史的な名君や英雄という者達が所持していたらしいが、時代が変わるにつれて、支配のメダリオンは彼らの手を離れ、新たな主人を求めて彷徨っていたという。
「成程ねぇ。それで、なんであいつの所に支配のメダリオンが出て来たっていう事なのですか? それも遺跡発掘型って説明があったけれど」
『あいつというのが誰の事かはわからないが。まあ、何の事はない。新たな支配者を求めてメダリオンが遺跡にて眠りについていたのか、もしくは何らかの理由で遺跡に封じられていただけだろうな。それを発掘して入手し、自我が目覚める前にメダリオンを支配したという所だろう』
「それじゃあ、メダリオンを手放してしまえば、また支配のメダリオンの自我が覚醒するっていう事?」
『さよう。そしてまた新たな主人を探してどこかに消えていく。神器というのはそういうものだ。ここまではよいかね?』
一連の説明を聞いて、何となく納得する事が出来た。
つまり、大隅純也は偶然手に入れた支配のメダリオンを好き勝手に使っていただけに過ぎないっていう事か。それならそれで、まあ、いいか。
自我が戻るのなら、また新しい主人を探しにどこかに行くのだろうから。
「はい、一つ目の件は、大体納得出来ましたので大丈夫です。それでですが、創世のオーブについては、何かご存じでしょうか?」
『それを手にしたものは、世界を好きに作り替えることが出来る。以上だが』
「うわ。ちなみにですが、誰でも使えるっていう事はないですよね?」
『そりゃそうだ。自在に使えるのは神族のみ。限定的な使用ならば、神族の眷属、亜神といった者達ならば、一部の権能を使う事が出来るが……それでも、神器の更に上である存在ゆえ、僅かの力でも効果は絶大だな』
「亜神も使えるのかぁ……それってまずいよなぁ」
『そうなのか? この世界には、亜神がいるのか?』
いや、そもそも俺が以前は亜神だったので。
確か、歴史的にも、亜神というのは表立ってはいなかったものの存在しているって聞いたこともあったし。
「あ、ちなみにですが、亜神ではないのですが、神威を使える者って創世のオーブを取り扱う事が出来るのですか?」
『神族、眷属、亜神以外では神威を使う事など出来る筈もない。という事で、さっきの答えになるかね? 人の身で神威を自在に操れる者など存在しない』
「はぁ……それってつまり、存在している筈もないっていう事ですか?」
そう問い掛けてから、そっとステータス画面を開いて自分の種族を確認してみる。
破壊神マチュアの加護を失ってからは、魔導神アーカムの加護を授かっているんだけれどさ。
でも、今の俺の種族は人間であり、魔導神アーカムの眷属。
という事は、俺が神威を使えるのは全く問題はないんだけれど、創世のオーブを俺が使えるという事が問題。
『そうじゃな。ちなみにおぬしは魔導神アーカムの眷属ゆえ、創世のオーブを手にすれば世界の理を書き換える事など造作もない。ましてや、歴史を巻き戻し改変したおぬしならば、それ以上の事も出来るのではないかね』
「まあ、確かに……って、ちょいと待ってくれ、何でその事をあんたは知っているんだ?」
『原初の魔族ゆえに。まあ、我らは全てを見通す。そして世界の改変程度ならば、その流れに取り込まれずに傍観する事も容易い……といえば驚くかね? それを成す事が出来る魔導具を私は持っていただけだ』
「ああ、魔導具ね……ですよねぇ」
『さて、その創世のオーブがどこにあるのか。しかも三つに分かたれているというのが実に面倒くさい。では、私からも助言を。一つはそれを手に悪しき存在をこの世界で再生しようとする者、すなわち『過去の亡霊』が所持しているが、その理を知らない。一つは何も知らずに力を得ようとする者が所持、これは君たちの近しいものが保有している。そしてもう一つは聡明なる井戸(The stone well vice versa)の奥にて彷徨っている、その井戸は新たな世界へと続く。その世界にて、オーブは主を求めているという所だな』
そう告げつつ、俺に一枚の石板を手渡してきた。
いや、これってあれだよね、魔導具が欲しい時に解析して答えを出せっていう宿題。
しかも、今の宝楼嶺魔さんの告げたヒントが、そのまま刻まれているんだけれど。
「確か、魔導具を求める事が出来るのは一人一度きりだった筈では」
『それはメモ代わりであり、そして道しるべでもある。それを解いたとしても、私からは何も与えない。だが、求めていたものは手に入る……という事じゃな。ほれ、道は示したからとっとと出ていくがよい』
「ん~、まあ、色々と教えてくれてありがとうございます。自分なりに、手探りで進んでみる事にします」
『それでいい。道は一つではない、そして君では辿り着けないものもある。大切なものは、心に、友に問いかけるように』
「はい。では失礼します」
深々と頭を下げてから、俺は金庫岩から外に出た。
そして振り返って、もう一度頭を下げようとしたんだけれど……。
「金庫岩が……ない?」
そこには、金庫岩の姿は無くなっていた。
ただ、岩だったものの残骸が、そこには大量に転がっている。
まるで自然に風化して砕けたかのように、金庫岩だったものは、静かにその場に広がっていた。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




