第五十七話・明鏡止水で天命を待つ(鏡の中から妖魔?)
『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週火曜日と金曜日、日曜日を目安に頑張っています。
ちょっと文字数がいつもより少なかった、済まぬ。
日曜日早朝。
今日はいよいよサイドチェスト鍛冶工房への納品日。
とにかくやることはやった、夕方になって急遽カスタードプリンを追加で作ることにして、今朝まで冷蔵庫で冷やしてあった。
一応みんなは帰宅して午前十時にまた集まることになっていたので、俺ものんびりとしていた。
「のんびりとしていたはずなんだけどなぁ」
朝食を食べてから、のんびりとテレビを見ていたのだが、リビングに設置してあった鏡が静かに輝き始めていた。
「なんで鏡が輝いているの?」
とりあえずサーチゴーグルセット、妖気を発しているか確認すると、センサーには魔力波の反応があった。しかもかなり強烈な奴、魔力値でいうと2000前後、現代人の1000人分ぐらい?
「鑑定は‥‥無理か。一体なんだっていうんだ?」
――ニョキッ
そう呟いているとも突然鏡の向こうから足が生えてきた。
かかとの位置から右足、白い皮膚ですべすべしていそう。
年齢なんてわからないけれど、たぶん女性だよね。すね毛は生えていないから。
――ニュニュッ
やがて太ももまで出てきたので、俺は慌てて鏡に向かって駆け寄っていくと、その足をぐっと押し戻した。だってさ、いきなり鏡の向こうから足が生えてくるなんてぶっちゃけありえなーい。
っていうか怖いわ!!
――チャポン
足が全て鏡の向こうに戻っていくと、鏡の表面に波紋が浮かび上がる。
まだ輝きは失われていないから、何か出てくることを考えて魔法機動甲冑を装備して待機する。
――ニョキッ
今度は右手だよ。
ほっそとした、綺麗な女性の右手が生えてきた。
うん、押し返そうとすると絶対に捕まるパターンだよね。
それならと空間収納からミスリルハリセンを引っこ抜いて、力いっぱいぶん殴った。
――スパァァァァァァァァァン
その勢いに驚いたのか、右手は慌てて戻っていく。
そして鏡は波打ったのち静かになるのだけれど、まだ輝きは失われていない。
「‥‥いったいどうしろって言うんじゃろうなぁ?」
今度は、出てきた腕とか足を鑑定してやるつもりで待機する。
そのまま何も起こらない。
ただ、鏡が輝いているだけ。
まあ、なんだかんだいっても、それほど大きくない鏡だし、人が一人出入りできるかというとできる大きさではないから無視していいんじゃないかなぁ。
でも、定理?については大きさ自由とかだったらどうするか?
でも、それだったら一発で全身飛び込んできているよなぁ。
そんなことをのんびりと考えつつ、朝の『超戦隊シリーズ』と『仮面ビルダー・ストームRX』をのんびりと見る。やっぱり特撮はいいよね。この後の『二人はマスキュラー・マックスパゥアー』もなかなか嫌い所ないけどさ。
――ピンポーン
そんなこんなでのんびりとしていると、一番近所‥‥つていうか地下鉄ですぐにこれる祐太郎が到着する。
「よう、おはよう‥‥って、おとやん、鏡から足が生えているんだけど、なんだあれは?」
「さぁ? ちょいと待ってて」
――ピッ
『鑑定開始‥‥上級人魔・白桃姫、侯爵級階位妖魔であり、現十二魔将4位。ピグ・ラティエの異名を持つ『怠惰の氏族』。空間操作系魔術を得意とする』
「あ、ユータロ、そいつ十二魔将の一人らしい。そんでもって、現魔将の配下らしいから排除対象でいいんじゃね?」
「あ、なるほど。そんじゃあ手加減無用ってことだな」
鏡から生えている足を無造作に掴むと、力いっぱい押し戻す祐太郎。
うむ、そういうのは祐太郎に任せるよ。
――ニョキッ
すると、今度はお尻が鏡から出てくる。ってムリだから、その鏡からお尻出しても出てこれるはずないから。
鏡のサイズ判っている? 左右に動かして無理やり入ってこようとしてもだめだからね。
「あ~。リアル壁尻ってこんなかんじなのかぁ。色気も何もないわ。それでどうするこれ?」
「どうもこうもないわ。早いところ処分しないと先輩たちが来るわ」
――シュッ
俺は右に、祐太郎は左に立つ。
二人ともミスリルハリセンを構えると、俺は魔力を、祐太郎は闘気を込めて全力でミスターフルスイング!!
――ズッバァァァァァァァァァァァァァァァァァン
その衝撃でいきなり尻が引っ込むと、鏡は静かに輝きを失っていった。
「「 好し!! 」」
二人同時に指さし確認。
鏡から魔力も消滅したし、これで万事解決塞翁が馬。
そんなことをしていると、瀬川先輩と新山さんも二人一緒にマンション到着。
さっそく納品を始めるとしましょう。
‥‥‥
‥‥
‥
「えぇっと、昨日作ったのはマルムの実を使ったケーキ、スパーク小麦粉で作ったはじけるクッキー、なんだかわからない食用卵のカスタードプリン、あとはドラゴン肉とワイバーン肉の合い挽きハンバーグステーキ、同じくドラゴン肉の牛丼ならぬ竜丼で全部ですわよね?」
「はい。これで完璧ですね。そろそろ調理時の匂いで近所からクレームきそうですけれどね」
「一階の掲示板にはそういった注意書きはなかったから大丈夫そうだけどな。まあ、注意するに越したことはないか」
「ええ。もしも注意されたら、今度は築地君の家で作りましょう。隣は乙葉君のうちですし、そもそも道路と母屋がかなり離れていますから」
よし、今度は祐太郎の家の厨房を借りることにしよう。
ということで、ずらりと並んだ料理を全て査定ならぬ支払いに回す。
――ヒュッッッッ
すると、次々と料理が消えていく。
そして十分後。
『ピッ‥‥支払いが完了しました。商品が届いています』
メッセージとともに、目の前にむき出しになった装備が三人分まとめて落ちてきた。
しっかりと説明書も付属しているし、今回は日本語で書かれているから全員読むことが出来た。
でも、なんで日本語?
しかも手書きだし。
「おおおお、こ、これが俺専用装備‥‥ちょっと着替えてくるわ」
「私たちも着替えてきましょう」
「はい!!」
「部屋はいっぱいあるから、お好きにどうぞ~」
皆、自分用装備を手に取って着替えに行った。
それならばと俺も魔導起動甲冑に着替える。
普段着のスーツタイプだ、これならみんなとバランスを取れるからね。
――スッ
そして着替えた三人がリビングに戻ってくる。
うん、白衣の瀬川先輩と新山さん、実にいい。
できる女に見える先輩と、白衣に着られている感じの新山さん。
そして黒の道着に身を包んだ祐太郎。
「あ~、祐太郎、どっか行くのか?」
「ああ。俺よりも強いやつに会いに行く」
「極めろ」「道!!」「悟れよ」「我!!」「「 いぇーーーい 」」
格ゲーの歌を口ずさむ俺と祐太郎。どうやら先輩たちはついていけないらしく、説明書を見て色々と試しているようである。
「あ、三人とも、その装備は魂登録で登録してあげるからね」
そのまま登録を終わらせると、一旦全員が着替えに戻る。
そして魂に登録された装備を一瞬で換装すると、満足そうに話し始めていた。
〇 〇 〇 〇 〇
「妖魔と共存。忍冬警部補、今回、国会で公開されたこの件ですが、特に妖魔サイドは大きな動き見せていないのはどうしてでしょうか?」
乙葉浩介たちが新型装備で遊んでいたころ、新設された北海道庁・妖魔対策室第6課では、井川巡査長が忍冬警部補に問いかけていた。
国会が妖魔の存在を宣言し、他国がそれに同調するように妖魔についてのデータを公開し始めたにも拘わらず、妖魔サイドからはそれらしいアプローチが一切なかった。
そもそも目に見えていない妖魔の存在など、一般市民にとっては眉唾物でありそのために莫大な国家予算が新しく組み込まれるということの方が興味の的でしかなかった。
「妖魔の中でも、特に人間レベルの知性を持つ人魔はまだ警戒しているんだろうな。この札幌にだって、どれぐらいの人魔が潜んでいるのか判ってはいない。何よりも夏に発見された妖魔によるものと思われる殺人事件、あの件だっていまだ犯人の目星もついていないだろう?」
「はい。乙葉浩介からもらった指輪を使って妖魔を探しているのですが、見かけるのは低級妖魔もしくは動物型と呼ばれている中級妖魔程度です。中級人魔でさえ、その姿を確認できていません」
妖気感知で強い妖気をたどってみても、たいていは中級妖魔であり知性を持たない者ばかり。
人間との共存を望んでいる妖魔の存在など本当にあるのか、疑わしくなってきている。
「まあ、そうだね。けれど、私たちは妖魔に対しての警戒を続ける必要がある。せっかく、乙葉君が手を貸してくれたんだから、それを無駄にしたくはないからね‥‥」
「はい。では見回り行ってきます」
そう告げて、井川巡査長は外回りに出かけていった。
それを見送ってから、忍冬警部補はコキコキッと肩を回しつつ周囲に気を配る。
闘気をゆっくりと放出し、まるでセンサーのように広げていく。
――ピッピッ
やがて闘気の波が、二つの妖魔を見つけ出した。
だが、その時点で忍冬は全身から汗が吹き出し、ぐったりと椅子に座り込んでしまう。
「ふう。あの指輪のようにうまく妖気を探すことはできませんか。それでも至近距離に中級妖魔の気配が二つ。この北海道庁内に妖魔の反応があるというのは問題ですよねぇ」
日夜、闘気訓練をしている忍冬でさえ、わずか数秒の闘気放出で体が動かせなくなる。
この異様な力を持つものを、これからどんどんと増やさなくてはならないのである。
「追尾するほど強い能力ではありませんし。害意があるならとっくに仕掛けてきているはずですよね。まあ、様子を見ることにしましょう」
冷蔵庫からエナジードリンクを持ってきて一気に飲み干すと、忍冬は少しでも体力を回復させるためにどっかりと椅子に座り込んだ。
‥‥‥
‥‥
‥
新装備の講習会はどうにか完了。
とりあえず、当面は身を守るすべが出来たことだし、瀬川先輩と新山さんには引き続き情報収集を担当してもらうとして。
「問題は、こいつだよなぁ」
午後三時、おやつタイムを楽しんでいるさなかに突然鏡が輝いた。
今度は両足揃えていきなり生えてきたので、リビングにいた新山さんも瀬川先輩もお茶を噴き出しそうになっていた。
「あ、乙葉君、あれはいったいなんですか?」
「女性の足‥‥妖魔?」
「はい、実はですね‥‥」
朝一で起こった出来事について説明すると、とりあえず二人とも納得はした。
納得はしたけれど、すぐさま白衣を装備して様子を見ることにしたらしい。
「腕、足、尻と来て、今度は両足か。これはあれか、ジャンプして勢い付けてどうにかしようとしたんだけれど、腰あたりで引っかかって身動きが取れなくなったパターンか?」
――コクコク
お、祐太郎の言葉に対して、足首を上下に動かして反応したぞ。
「腰っていうか、そこにも至っていないような気がするなぁ、ほら、太ももでしっかりと引っかかっているし、鏡を通り抜けたかったらもっと痩せろと言いたいわ」
――ジタバタジタバタ
今度は両足をバタバタと動かして必死に何かを訴えている。
まさかとは思うけど、俺たちの声って聞こえているのか?
「なあオトヤン。これって、俺たちの声が筒抜けなのか?」
「そうみたいだよね。ということで、人間ぶっ殺す派妖魔の方にはご退場いただくとしますか」
「そうだな。じゃあ、ここは俺に任せてくれ」
そう告げてから、祐太郎は道着に換装して両手を合わせる。
その間に闘気弾をゆっくりと生み出すと、足の裏に向かって力いっぱい叩き込んだ!!
――〇×△□ファせフジコ
何か叫び声のようなものが聞こえたが気のせいだろう。
真っ赤に腫れ上がった足が鏡の向こうに向かって消滅すると、再び鏡は魔力を失って元に戻った。
「‥‥どうしても、ここを入り口として使いたいらしいなぁ」
「それは駄目だわ。ちょいとカナン魔導商会で何かいいものないか探してみるわ」
という事で、俺はカナン魔導商会のサーチを開始。
瀬川先輩も深淵の書庫を展開して、球形魔法陣の中で調べ物を始めている。
その間に祐太郎と新山さんには、鏡の監視をお願いすることにした。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。