第566話・一蓮托生呉越同舟、細き流れも大河となる(流石は武神、そこに痺れる憧れる)
トゥルーソン伯爵の案内で、俺達は一度、武神ブライガー神殿へと向かう事になりまして。
とはいえ、勝手知ったるブライガー神殿、俺と祐太郎にとっては一度来た事がある場所なので、迷う事なく無事に到着。
未だ外壁工事などの補修作業は行われているらしく、大勢の職人たちが忙しそうに現場を走り回っているので、邪魔をしないようにいそいそと神殿正門から敷地内へ移動。
奥にある大聖堂入口へと到着しました。
「おお、誰か来客があると思っていたが、トゥルーソン伯爵ではないか。久しぶりだな」
「はっ、これはこれは。私どものような者を出迎えて頂けるなど、光栄の至りでございます」
すると入口の前に立っている神官のような人物に、トゥルーソン伯爵が跪いて両手を前に掲げている。手の形は抱拳礼っていうのか、それを差し出して話を始めているんだが。
「うむ。その程度の事を気に住め必要はない。それよりも誰かと思えば、そこに立っている貴様は築地祐太郎ではないか。どうだ、儂の加護はうまく使いこなせているか!!」
そう告げてから、ヅカヅカとこっちに駆け寄って来る神官。
はて、祐太郎を知っている?
俺の加護?
えええ、いや、まさかでしょう?
――ガシィィィィィッ
そう頭を左右に振ってしまった瞬間、神官と祐太郎がお互いに拳を交え始めたんだが。
お互いに繰り出す拳を、蹴りを綺麗に躱し、受け止め。そして最後には二人の拳がぶつかり合い、甲高い音が響き渡った。
これってあれだよね、どこかの武闘派ガンダムファイターとその師匠のやつだよね。
まさかそれを目の当たりにするなんて、俺ちゃんも予想していなかったよ。
「武神ブライガーさま、いつもお力をお貸しいただき感謝しています」
「うむ。体幹に僅かのブレがある。右目をかばうように動いている癖が付き始めているな、暗黒闘気の影響かもしれぬが、巧く融合して使いこなせ」
「ありがとうございます……」
そのまま祐太郎も一歩下がって抱拳礼。
いや、流石は肉体派の神様だよなぁ……って、ちょいまち。
「え、あ、あの、本物の神様? 分体とかではなく? なんで?」
「おお、貴様が乙葉浩介か。破壊神マチュアの一角、混沌より力を授かりし申し子の一人。神核の24分体の一片であり、神の悪戯によって存命している奇跡の集合体よ」
「説明が長いわ! ってこれは失礼。いえ、何だか理解出来ない説明をされてもちょいと困るのですが。まだ長そうですので簡潔に説明していただけますか」
何だろう、物騒な説明が淡々と続くので、先輩の深淵の書庫も深紅に輝き悲鳴を上げているんだが。処理落ち? いや解析速度が追い付いていないのか。
「簡潔にだな。よし、創造神配下の統合管理神の一柱・魔導神カナンの加護を持ちし正体不明の種族・現代の魔術師よ、よくぞ参った。そちらは治癒神シャルディの申し子・新山小春で、そなたは……貴腐神改め不死なる美の女神ムーンライトの巫女・瀬川雅だな。よし、よくぞ来た。しかし定命の者がこの地にやって来るとは……」
「ありがとうございます。簡潔にまとめた挙句、結局俺は何者か分からんのですね?」
思わずつぶやいたが、武神ブライガーも俺を見たまま腕を組んで頭を傾げている。
「何というかなぁ。人体を構成する肉体が既に、我々神の持つ【神威体】でもなく、亜神の持つ【亜神体】でもなく。なんというか……魔力の塊というか、人間の細胞に魔力がびっしりと浸透しているただの人……というか、そんな感じだな。強いてあげれば【神魔族】という所か」
「うわぁ……それって不老不死であったりとか、闇に落ちて魔王化するとか、そんな感じですか?」
「いや、只の人だな」
「あ。ありがとうございます」
絶対に嘘だと思うけれど、ここは神様を信用しよう。
ということで、ちょいとここからは事情を詳しく理解している先輩に委ねますか。
「武神ブライガーさま。私達は、この世界よりやってきたローラ・ギャリバンさんから封印大陸の崩壊についての話を伺いました。そしてこの地より避難すべく新たな地を求めていると。それは本当なのでしょうか」
「……そうだなぁ。まず、簡潔に説明すると、この封印大陸は滅ぶ。というのも、この世界を支える創世のオーブが何者かによって奪われてしまった。その結果として、この地は崩壊を始めている。我々神は、更なる上に存在する神域へと向かい、そこからすべての世界を見続ける事となるが、そこは神人でも立ち入ることが許されない世界。ゆえに、我は新たな地を求めるようにと【異界へと続く扉の鍵】を授けたが……どうやら、その一つが、貴殿らの世界へと繋がったという事か」
「はい。ですが……」
先輩の補足。
それは俺たちの住む世界・真刻界では、神人たちを受け入れるだけの土地をすぐには用意出来ない事。そしてそれを用意する間の保障が出来ない事。
異世界から訪れた人間となると、どの国でも情報を欲するに決まっている。
だが、これから滅ぶ世界の人たちを無償で受け入れてくれる国が何処にあるのかと。
神人たちの持つ【地球人とは異なる力】、それを教える代償としてというのならあるかもしれないが、けっして優しい道ではない事も理解している。
それに、今、鏡刻界を求めている地球人って、【新たな土地、資源、魔法】を手に入れるのが第一目標っていう感じなんだよなぁ。
日本人にだって、私利私欲で異世界に行きたい奴らもいるだろうし。
それに、魔神ダークの眷属であるオールディニックの仲間、プラグマティスの行方だって分っていない。そこに今、武神ブライガーの話にあった【創成のオーブ問題】まで付いて来るとなると、ツーペアどころかストレートフラッシュって感じで問題の難易度が上がっているんだよなぁ。
「……それで、この武神ブライガーに何を求める?」
ふと、ブライガーが真剣な顔で俺たちに問いかける。
これはあれか、神に対して何を求めているのかっていう事なのか?
そう考えていると、トゥルーソン伯爵が前に出てから、ふたたび跪いた。
「武神ブライガーさま、この封印大陸が崩壊しない未来を創ることは可能でしょうか」
真剣に懇願しているのが良く分かる。
そしてローラも彼の横に跪くと、同じように頭を下げた。
「神々が神界へと向かわれると、この世界は確実に崩壊の道を進むでしょう。どうにか、その道から逃れる方法はありませんか? 私達はそれを求めます」
真剣な問いかけに、ブライガーはニヤニヤと笑っている。
え、ここって笑うとこなの?
「方法はある。が、それは果てしなく不可能に近い。が、それを成しえたのなら、この封印大陸は崩壊の道から逃れる事が出来よう」
「それは何でしょうか!!」
「創世のオーブを求めよ。そしてそれを見つけ出し、この地に持ってくるがよい。俺と残りの3神によりオーブを活性化させることが出来れば、封印大陸を『崩壊より護る』事は出来る。ただ、それは途方もなく難しいぞ」
「構いません。それが我らの生き残る術でしたら」
そうトゥルーソン伯爵が告げた時、ブライガーが俺たちをチラッチラッと見ているんだけれど。
「では、武神ブライガーの使徒たる築地祐太郎に神託を授ける。プラグマティスの手に創世のオーブが渡る前にそれを回収し、この地へと持ってくるがよい。プラグマティスは現在、鏡刻界のある地に存在している。そして創世のオーブは地球のどこかにあるとだけ伝えよう」
「マジか……」
「ああ、マジだ。本当ならあと数日以内に、貴様に神託を叩き込もうと持っていた所だ。だが、直接ここに来たので直接伝える事とする。トゥルーソン伯爵よ、各地の崩壊した神殿の再建を始めよ。神の住まう場所を再生し、神像を再構築せよ。ローラ・ギャリバンよ、トゥルーソン伯爵に助力し、この地を元の姿に作り直すがよい。さすれば一時的にだが、残る神々の力を得て崩壊の速度を遅らせる事は出来るだろう」
一人一人に神託を与えていく武神ブライガーだが、新山さんと瀬川先輩、そして俺には神託を授けないのはどうしてだろうか。
「では、急ぎ活動を開始するがよい」
「「はっ」」
トゥルーソン伯爵とローラさんはそう告げて神殿から外に向かっていく。
「ほれ、お前らもとっとと出ていけ」
「畏まりました。ですが、一つだけ教えて頂けますでしょうか」
瀬川先輩が、ニヤニヤと笑っている武神ブライガーに問いかける。
「良い」
「この地のブライガー神殿が修復されている真っ最中ということは、この封印大陸の再生が成されると確信しての事と考えてよろしいでしょうか」
その問いかけに、祐太郎も新山さんも驚いた顔になる。
まあ、これから崩壊する世界なら、修復なんてしないでとっとと神界に行けばいいだけなんだよねぇ。
それが行われていないっていう事は、つまりはそういうことなんでしょう。
「さすがはムーンライトの巫女というところか。では、その見識に免じて一つだけ教えよう。創世のオーブは今、とある者の手により三つに分かたれている。一つはそれを手に悪しき存在をこの世界で再生しようとする者が、一つは何も知らずに力を得ようとする者が、そしてもう一つは聡明なる井戸(The stone well vice versa)の奥にて彷徨っている……では、さらばだ」
それだけを告げると、武神ブライガーの姿は消え去った。
さて、こいつは厄介だな。
「……それじゃあ、私たちは地球に帰りましょうか。神の力を集めるために、トゥルーソン伯爵たちはこの世界を再建しようとしている。そして武神ブライガーは、使徒である築地くんにその役割を課したのでしょう」
「俺が……この世界を救う……って、いや、一人じゃ無理だから、力を貸してくれるか?」
うん、祐太郎のそういう所は変わらないよね。
一人で気負うことなく……みんなで力を合わせたいってことなら、手を貸すのは当然。
「上等だ親友。俺の力でよければいくらでも貸してやる」
「大切な後輩の頼みとあれば、当然です」
「現代の魔術師チームの仲間ですから」
四人で手を伸ばし拳を合わせる。
さて、それじゃあヒントを元に、一度地球へと戻る事にしますか。
それにしてもやる事が多過ぎるよ……。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




