第557話・(ラナパーナの秘宝)
沈黙。
それが今の、俺の周囲に漂っている存在。
虚無空間に向かうために必要な乗り物、それを作るために瀬川先輩と新山さんにも何かいいアイデアでも出してもらおうかなと思ったんだけれどさ。
状況を説明してから、二人は俺の周囲に転がっている有象無象の失敗作……という名の試作品を見渡して頭を抱えている。
うん、その気持ちはわかるよ。
俺だって、大切な素材をこんなに廃棄物にするとは思っていなかったからさ。
「……例えばですけれど、現存する乗り物を改良するという選択は無かったのですか? ここに転がっているものの大半は、乙葉君がアニメや漫画で見たようなものをモチーフにしているとは思いますけれど。それならいっそ、大型の飛行船や船舶を素体とした方がよかったのではないですか?」
「例えばさ、飛行船の下、キャビンにあたる部分には帆船の形をデザインして『アウトぉぉぉぉ』ってええ、アウトなの?」
「先輩のイメージは理解したけれど、そこからの新山さん案については、ちょいと不味い。そういう映画があるのを忘れたの?」
松本0士は駄目でしょ、流石に。
他とかあのシリーズの宇宙船のデザインって恰好いいものが揃っているからさ、作ってみたいというのは理解できるよ。
でもねぇ。
急ぎ、スマホで『女宇宙海賊』のイラストを引っ張り出して、彼女が乗っていた宇宙船のイラストを見せてあげる。
「……あ~、これは駄目ですね、うん。でも、この部分を改造するとか、色々と手はあるとおもうけれど、どうかなぁ」
「ふむ。帆船部分をとっぱらって、もうすこし形状を潜水艦型にか」
「それなら、後方部分を左右に大きく展開して、空間機動用エンジンを増設してみるとか? 確か、魔皇さんたちの中にそういった魔導機関を搭載している戦艦をデザインしたことがある方がいらっしゃったはずですから、彼にもアドバイスを受けてみるのもありかと思いますわ」
「それだ!! って、あの、先輩は今は魔人王じゃないので、魔皇さんの力を借りるのは難しいのでは?」
今の魔人王は銀狼嵐鬼、つまり先輩のお父さん……でいいんだよね?
このあたりの歴史については大丈夫だよね?
「私の中に存在する魔皇さんのおひとりが、そういった知識について詳しいそうでして。彼ならば、離れている魔皇さんとも連絡がとれるそうなのですわ。そもそも、魔人王に付き従っている魔皇の中には時間も空間も自在に超えることができる方もいらっしゃいますので」
「それは、妾のところのくそじじいのことじゃな。確かに、彼の力を借りるというのはありやも知れぬ。あとはそうじゃなぁ……プラティにでも相談してみると、あ奴のことじゃからノリノリで何か造り始めるやもしれぬぞ」
俺たちの話し合いの中に、白桃姫も乱入してくる。
確かに、船頭多くして船山に登るじゃないけれど、今はそういった情報を一つで多く欲している所だからなぁ。
「それじゃあ先輩、その白桃姫の祖父さんに話を持ち掛けて見てくれますか? 白桃姫はプラティさんにお願いします。新山さんは俺と一緒に、ちょいとアイデア出しをお願いできますか?」
「ええ、少し時間を貰うわね」
「妾は精霊樹経由で、アトランティスと連絡を繋いでみるとするか」
「それで、私はどんなアイデアを出せばいいの?」
「そこも不明。っていうか、まずは俺達以上に、魔術について詳しい人の所に行ってみるだけでね……まずは」
――パチィィィィィィン
指を鳴らして足元に召喚魔法陣を起動させる。
そこに魔導鎧クリムゾン・ルージュを召喚すると、その立ち膝スタイルになってもらってコクピットを展開して貰う。
「それじゃあ、まずは一つ目。俺の予測では、虚無空間ではなく封印大陸についての伝承ぐらいは知っていると思うから」
「えええ、それって誰のことですか? もう少しヒントをくれてもいいと思うけれど」
「行先は、鏡刻界・ラナパーナ王国王都。勇者の伝承が残る地に存在する、ハイエルフの血脈。フリューゲルさんなら、何か知っているかもしれないだろう?」
「ああ、なるほどね……それで、彼女からも伝承については話を聞き、可能なら虚無空間のどこかにあるはずの封印大陸を探し出し、私たちの世界に来る目的を訪ねるっていう事ね」
「そのための虚無を渡る乗り物の製作なんだけれどね……と、それじゃあ、いきますかぁ」
クリムゾン・ルージュを立ち上がらせると、俺は両手を目の前に向かって差し出す。
まだ白桃姫に頼んだ『魔導鍵杖』のコンパイルは終わっていない。
それなら、この機体自体を鍵として、鏡刻界へと向かう扉を構築すればいい。
その為の術式その他は全て、頭の中に納められているからさ。
――キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィン
クリムゾン・ルージュの前方20メートルあたりに、高さ15メートルほどの巨大な門が構築される。
俺が良く作っている転移門、あれの巨大版だな。
しっかりと門は閉じられているので、まずはクリムゾン・ルージュで近寄り、門を押し開いてみる。
「乙葉君、これって開けて大丈夫なの? 何だか嫌な予感がするんだけれど」
「この機体にある危機感知センサーに反応はない。という事はいけるはず」
――ギィィィィィッ
ゆっくりと両手で門を開く。
すると、目の前にラナパーナ王国王城が広がっている。
「うん、ドンピシャだね。それじゃあいきますよっと」
ゆっくりと機体を進ませて、門をくぐる。
すると門の向こうから、ラナパーナ王国の騎士団がフル装備で駆け寄って来る。
その中には、以前あったことがあるラーラ・ルンバさんの姿も見えているし、なによりその後方でクリムゾン・ルージュを見て頭を抱えているフリューゲルさんの姿もあった。
「さて、これ以上は騒がせても問題があるので……」
ゆっくりと機体を立ち膝状態にしてコクピットを開く。
そしてこちらを警戒しているラーラ・ルンバさんとフリューゲルの二人に向かってを手を上げて声を掛けてみた。
〇 〇 〇 〇 〇
――ラナパーナ王城・迎賓館
俺の姿を見て、騎士たちはすぐに解散……とはならなかった。
とりあえずはクリムゾン・ルージュの周辺を警護するらしく、その場に12人の騎士がとどまり警戒態勢を取っている。
そして俺と新山さんはというと、詳しい話をするために一度、迎賓館へと案内され、そこの応接間に通されることとなった。
あとは身振り手振りも交えての、状況の説明。
封印大陸と繋がっていると思われる異界門の出現、そこを開いたものの封印大陸には繋がらず、虚無空間へと繋がってしまったという事。
そして何故、このタイミングで異界門が出現したのか、その真相を探るべく封印大陸に向かってみたいという説明をすると、フリューゲルが頭を抱えて困り果てている。
「わかったことを、かいつまんで説明する。まず乙葉浩介、貴方は非常識すぎる」
「えええ……そんなにおかしい事をしているとは思えないんだけれど」
「そもそも、封印大陸に向かおうなどと考えている時点で駄目。あの地は神々の住まう土地であり、かつて世界を崩壊させようとした魔神ダークが封じられている地……そこに向かうだなんてありえない」
「ああ、そこからの説明が必要だったか……実はさ……」
その封じられていた魔神ダークの中に存在していた『破壊神の残滓』のこと、そして奴が目覚める為に必要な儀式である『災禍の赤月』についての説明をまずは始める。
その上で、全てが終わった事、破壊神の残滓は虚無空間に飲み込まれたことなどを説明すると、ようやくフリューゲルは落ち着きを取り戻してくれた。
「……うん、やっぱり非常識にも程がある。あなたが行ったことは、この世界に伝えられている幾つもの伝承の中の勇者そのもの。亜神を倒し、滅びし世界を元の姿に戻す。その為に失ったものは当然あるはず……。でも、今はその事はいい。亜神の封印が亡くなった封印大陸、そこから時と空間を越える門が出現した。明らかに、封印大陸で何かがおきているのは事実だけれど……でも、危険性を感じない。脅威は去っているのなら、今は封印大陸は復興の路にあるといっても過言ではない」
「そう、だから、そこに行ってみて何が起きているのかを確認してみたいって」
「それは、傲慢」
え?
それってどういうこと?
「乙葉、貴方は世界を救った。それは揺るがない事実だけれど、今の話から察するに、それを真実として受け止めているのは殆どいない筈。だから、封印大陸の件についても、貴方から何かをする必要はない。あなたに助けを求めているというのなら、それは封印大陸から使者やらなんやらが来た時に対応すればいい。それを、自分から手を差し伸べようだなんて、お人好しにも程がある」
「えええ、そういう事になるの……か?」
思わず新山さんの方をちらっと見ると、彼女も頤に手を当てて考え込んでしまっている。
「確かに……なんでもかんでも乙葉君に……っていうのは違うよね」
「確かにあなたは世界を救った英雄。だからといって、救済の手を押し付けるような事はしてはいけない。助けを求められたら、それに応えるのは当たり前。だからといって、助けを求めている人がいないかどうかを聞きに行くっていうのは勇者としての力の押し付け以外何物でもない。それは、依存を生む事になる……」
「依存……かぁ」
はっきりと言われて、俺としても思う所はある。
確かに、世界を救ってから力を取り戻すまで、そして今の自分。
やるべきことを放置して、やらなくていいことに目を向けているようにも感じる。
もう少し、自分の立ち位置というか、何をすべきなのか考え直す必要があるっていう事か。
「では、説教はここまで。それじゃあ二人とも、私についてきなさい。かつての勇者が残した、天翔ける箱舟、それを見せてあげる」
「「えええ!!」」
そんなものが残っているのかよ。
そんなの初耳だわ。
「そのようなものが、このラナパーナには残されているというのですか」
「そう。初代勇者が旧神との戦いに赴いた時に使った船。残骸だけれど、今は聖域で安置されている」
「旧神って、そもそも、その初代勇者って、一体何と戦っていたっていうんだ?」
「さぁ? 不思議なことに口伝でしか残されていない。ただ、そもの悪しき存在は旧神と呼ばれていた」
ラナパーナ王国の聖勇者かぁ。
確か、侵略国家との戦いのさなか、異世界から召喚されたっていていう話だったよなぁ。
「その旧神とやらが、侵略国家の背後にいたっていう事か」
「そう。それ以上の詳しい話は、ラナパーナ王家にしか伝えられていない。だから、まずは聖域へと向かう許可を貰わなくてはならない」
「なるほどねぇ……って、それってつまり、女王様と謁見っていう事?」
「当然。では、謁見の間に向かう」
はぁぁぁぁ。
ちょっと話を聞こうと思っていただけなのに、何やら話が大きくなってきたんですけれど。
そして新山さんも、どうしてこうなったのかっていう顔でこっちを見ている。
ほんっとうにすまん新山さん、どうやら巻き込んだ!!
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




