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【書籍化】ネット通販から始まる、現代の魔術師  作者: 呑兵衛和尚
第十部・幻想郷探訪と、新たな敵

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第552話・当意即妙、一難去ってまた一難(開かない異界門と、始原の魔族)

 北海学園大学のオープンキャンパスを堪能した俺達は、そのまま久しぶりのデートを楽しんだ後、健全な男女の行動の一貫として妖魔特区の札幌テレビ城へと向かった。


 ね、何となく解せないでしょ?

 午後3時ごろには見学も終わったので、久しぶりにうちに来るかいって誘おうとした瞬間に、瀬川先輩経由・白桃姫からの召集が掛かったんだよ。

 ということで、がっかりしたものの先輩と白桃姫の呼び出しということなので、急ぎ札幌テレビ城までやって来たのはいいんだけれど。


――ゴゴゴゴゴ

 うん。

 テレビ城の横に聳える精霊樹、その正面に立つ巨大な門。

 ほら、日本各地にあるでしょ、オーギュスト・ロダン作・地獄の門。

 あんな感じのものが目の前に存在しているんだけれど、扉は閉じたままでね。

 その正面で白桃姫と瀬川先輩、忍冬師範の三人が集まって話し合いをしている真っ最中。

 そして愛も変わらず、大通二丁目には『退魔機関・仮設テント』と『特戦自衛隊・妖魔特区ベースキャンプ』まで待機している。

 そして、なにやら慌ただしく走り回っているんだけれど……この仮称・地獄の門関連で動いているんだろうねぇ。


「おお、ようやく来たか乙葉夫妻や」

「だ、だ、誰が夫婦だよ」

「そうです、まだ夫婦ではありませんっ……もう少しその……恋人っていうか……」

「はいはい、夫婦でじゃれっているとおいておくわよ。まずは、この巨大な門について、二人の見解を聞きたいのですけれど」

「先輩まで……もう……」


 顔を真っ赤にしてプウッと膨れている新山さんが可愛いのは置いておくとして。

 それにしても、なんだろうねぇ、このけったいな門は。

 そして門の近くに立っているクリムゾンさんは、どうやってここにきたんだ?

 まさか、その門となにか関係があるって言わないよね?


「あの、まず一つ一つ確認させてください。クリムゾンさんって、俺の記憶が確かならば、ボルチモアのノーブル・ワンにいたはずだよね? どうやってここに来たんですか?」

「ああ、ヘキサグラムで正式な手続きを経て、一時的だが日本に来ることになってな。もっとも、俺の任務はミラージュの護衛だがね」

「うっそ、ミラージュも来ているのかよ、それっていつから?」


 そう問いかけると、クリムゾンさんが指折り数えて……。


「2時間前かな? ミラージュは両親と会ってから、ヘキサグラム・札幌支部のラボに向かったが」

「ああ、そういうことね、まさかここにひょっこりと来るとかないのね」


 まずは一安心。

 ミラージュの事については、後で考えることにしよう。


「それじゃあ、本日のメインイベントと行きますか。ヘルメスさん、ちょいと力を借ります」

『うむ』

「魔皇式、鑑定眼起動……我は求める、彼のものの真なる姿を……」


 右掌を地獄門に向けて伸ばし、左手で右手首を支える。

 こうすることで、輪のように繋がった腕の中にも神威回路が形成されて、より体内神威の増幅力が増すっていう事。

 ほんと、基本からやっているからシャレになっていないわ。


『……解析データ、異界門。地球とは異なる並行世界へと繋がる道を閉ざすための門であり、開けるためには鍵が必要。なお、鍵を所有するものは七徳の始原の魔族のみである』


「ふぅん。瀬川先輩は、深淵の書庫(アーカイブ)で何処まで解析できたのですか?」

「七徳の魔族により解放可能……そして、この異界門は、封印大陸と呼ばれている位相空間に存在する大地に繋がっているっていうことぐらいかしら? ちなみにこの門の属性は武神、つまりブライガー神殿へと繋がるみたい」

「へぇ……さすがは深淵の書庫(アーカイブ)ですね、俺の引っ張り出した解析データよりも情報が多いですよ」


 腕を組んで、ウンウンと頷く。

 でも、先輩曰く、封印大陸のことも、ブライガー神殿の事についてもよく分からないらしい。


「それで乙葉や、現地に向かったことのあるお主に聞きたい。この異界門は、何故、このタイミングでここに出現した?」

「さあ……さすがにそこまでは分かりませんけれど。こいつがブライガー神殿に繋がっているっていうことは、開いた先には……えぇっと、城塞都市アウズンフラっていう都市があるはずですよ。その先に武神ブライガーが祀っててあるのですけれど……」


 それ、俺が結界崩壊する直前に闘気を注いで封印を維持させることに成功したんだよなぁ。

 ただし、最後に中央神殿で破壊神の残滓と戦った時、残っていた四つの結界全てをフッ飛ばされたから今でも無事なのかどうかは不明。

 

「そんじゃ、いまの情報を踏まえて、もう一度神威による鑑定眼の再起動を要請……っと」


『異界門……武神ブライガーを祀る城塞都市アウズンフラとの接続が可能。真魔族による儀式により起動したものの、鍵が無いため開くことができない』

「あ~、封印大陸で、誰かが儀式を行って門を形成したのか。でも鍵がないから開けられないと多分、向こうでなにかが起っているんじゃないかなぁ」


 ぼりぼりと頭を掻きつつそう告げると、忍冬師範が話しかけてくる。


「浩介の魔術で、その封印大陸とかには向かえないのか?」

「えぇっとですね……以前はいけたのですけれど、今は無理っす。体内保有魔力が存在せず、神威も枯渇している状況では、『神域回廊』の術式を起動する事は出来ないのですよ。それに、神域回廊は、目標となる対象の神威を追跡して道を繋げる術式なので、道しるべとなる物が無くては、繋げる事が出来ないんですよ」


 淡々と説明すると、忍冬師範も頤に手を当てて考えている。


「白桃姫さん、貴方なら神域回廊とやらを発動できますか? この門を作った存在に、どのような意図があって地球と空間を繋げようとしているのか確認を取りたいのですが」

「ふむ、無理じゃな。妾の場合、神威は足りるのじゃが、あちらの世界には妾の知る存在が誰もおらぬ。つまり道を繋げるだけの縁を持ち合わせていないのじゃよ……乙葉や、そなたはあちらの世界で誰か親くなったものはおらぬのか?」

「親しい……ああ、アウズンフラを統治している伯爵となら、何度も話をしていたけれど。あとは……ええっと、名前を忘れたけれど女騎士さん?」


 う~ん、名前が思い出せない。

 これって、俺が度忘れしているというよりも、あっちの世界についての繋がりを希薄にしようと何かが動いているようにも感じる。

 まあ、これは俺の直感だから、どこまで正しいかは分からないけれどね。


「よっ、ちょいと遅れたな、申し訳ない」


 魔法の箒に乗って祐太郎がやって来た。

 うん、スーツを着ているっていう事は、バイト中と見た。


「おお、アルバイト中にすまなかったのう」

「いえ、それは問題ありませんが。それで、先輩から連絡のあった摩訶不思議な門が出現したっていうのは、こいつですか?」

「ええ。乙葉君曰く、武神ブライガーの神殿の門だそうですけれど、そうなると築地君の方が専門ですよね?」

「あ~、あの城塞都市のやつかぁ、どれ、ちょいと失礼」


 そう呟いて祐太郎が門に手を添えて、暗黒闘気を放出し始めた。

 祐太郎の全身に黒い炎のようなものがまとわりついたかと思うと、それは門に添えてある右手に集中していった。

 すると、門がゆっくりと輝く、何処からともなく声が聞こえてくる。


 Per me si va ne la città dolente,

 per me si va ne l'etterno dolore,

 per me si va tra la perduta gente.


 Giustizia mosse il mio alto fattore;

 fecemi la divina podestate,

 la somma sapïenza e 'l primo amore.


 Dinanzi a me non fuor cose create

 se non etterne, e io etterno duro.

 Lasciate ogne speranza, voi ch'intrate.


「……ああ、そういうことか」


 手を放してブンブンと振ると、祐太郎が俺達の方に近寄って来る。


「お、流石は祐太郎。そうじゃないかって俺も思っていたんだよ」

「だろ?」

「ああ」

「そうなんだよなぁ」


 うん、口から出まかせを話してみただけで、詳しくは分からんわ。

 そもそもさっきの言葉っていったいなんなんだよ?

 感覚的には、さっきの声の意味するところは、この門の効果は『結界』。

 そして門の向こうに閉じ込められている人達が、逃げるために門を生み出したっていう所かなぁ。そんな感じだと思っていたら、瀬川先輩か俺の方をちらっと見た。 


「乙葉君には、どういうふうに判ったのかしら?」

「えぇっと、多分ですけれど……この門の役割って避難通路であり、そのための出入り口っていう感じじゃないかなぁと思いますが?」

「オトヤンの意見でほぼ正解です。ただ、こいつは一方通行、向こうからこっちに来るための扉でしかない。そしてここから向こうに行くためには覚悟を決めろ……ということです。本当に地獄の門だぞ、こいつは。それで、オトヤンにはこの門が開けるのか?」

「さあ……今は無理じゃね?」


 お手上げのポーズを取って見せる。

 だって、今は神威枯渇中。

 つまり一般人なんだよねぇ。


「ちなみに先輩は何か理解できましたか?」

「それが全然ダメね。さっきの声のようなものは、ダンテ・アリギエーリの叙事詩『神曲』地獄篇第3歌を呟いていたっていうことぐらい。つまり、この門の向こうは地獄っていうことかしら?」

「……地獄……ねぇ」


 あっちで 破壊神の残滓と戦ってきた俺には、その呟きの意味は理解できる。

 大気中の魔素が希薄化し、魔族にとっては生きることができない可能性だってある。

 そりに、封印大陸を守護していた十柱の神殿の大半が破壊されたうえに、柱の主神たちのことについても全くと言っていいほど分かっていない。


 あの破壊神の残滓との戦いの前に神々は滅ぼされてしまったのか?

 あの神殿に祀られていたのは神の力の断片であり、神々はまだ健在なのか?

 

 封印大陸については、色々と情報が少なすぎるんだよなぁ。


「それじゃあ、現状で俺たちが出来ることは何もないという事か。白桃姫さん、この門の前に退魔機関もしくは特戦自衛隊の警備を付けることを進言しますが」

「ああ、二人だけ許可するぞよ。ただし、妾の方でも二人、監視を付けさせていただくのでな」

「それは構いません……では、失礼します」


 そう告げて忍冬師範が立ち去っていく。

 

「さてと、忍冬師範も帰ったという事で、白桃姫、俺達をここに集めた本当の理由について説明して貰えるかな?」


 この門についての話であるということは理解している。

 ただ、今まで出揃った情報程度で、俺たちを集める必要はない。

 せいぜいが、スマホや念話で状況を説明し、時間があったら顔を出してほしいっていうぐらいで済むはずだからさ。


「そうじゃなぁ……簡単に説明すると。魔大陸の帝都に大規模転移門が出現したのじゃ。それと同時に、鏡刻界(ミラーワーズ)各地に水晶柱が出現した。そのうちの一つが、ここの精霊樹と繋がり、暫定的ではあるが『相互間転移門』が発生しつつある」


 ふぅん……。

 んんん?


「ええっと。あの、大規模転移門って、俺が百道烈士(くどれっし)をぶっ飛ばして消滅させたあれだよね? 次に儀式を行って開くことができるのは、確か500年後だよね?」

「その通りじゃ。だが、どうもこの裏地球(リヴァース)鏡刻界(ミラーワーズ)との」狭間にあるべき結界が緩み始めているように感じるのじゃよ。このままでは、二つの世界が完全につながってしまう可能性があるのじゃ」


 それってつまり。

 いつでも自由に、二つの世界を行き来する事が出来るっていうこと?

 それってかなり気まずくない?

 ほら、日本は法治国家だからまだ冷静でいられるけれど、資源不足で悩んでいる国や領土問題を抱えている国なんかは、諸手を上げて調査に行っちゃうよ?

 そして異世界に侵攻して領土戦争待ったなしっていう国も出てくるんじゃね?

 

 ああ、一難去ってまた一難って、こういう事を言うのかよ……。


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