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【書籍化】ネット通販から始まる、現代の魔術師  作者: 呑兵衛和尚
第十部・幻想郷探訪と、新たな敵

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第551話・一触即発、暖簾に腕押し(オープンキャンパスはバトルの香り)

 まもなく、大学は夏休みが終わる……のかと思ったら、まだまだ終わることはないようで。


 ちなみに本日は8月10日、北海学園のオープンキャンパスがある日。

 ということで、俺ちゃんも来年度は入学する予定なので、ちょいと顔を出すことにしたのですが。

 高校時代とは異なり、あちこちに見え隠れしている在校生の人たちがあか抜けしているというか、皆、大学生なんだよ。

 なんていうかこう、大人のちょっと手前、でもガキじゃないっていうのかな。高校を卒業した瞬間に、一皮剥けたっていう感じなのかも。


「あ、乙葉くん、こっちこっち!!」

「おお、大学生の新山さんだ。なんていうか、こう新鮮だよなぁ……それで、その横に立っているのが、どうして俺じゃなくてお前なのか説明してくれるか、織田よ」


 オープンキャンパスで校内を案内してくれるということで、新山さんと待ち合わせしていたのはいい。

 だが、その横に立っているのが織田なのは解せぬが。

 

「ああ、俺は新山さんと同じ基礎魔術学科だからな。来年度、基礎魔術学科を受ける生徒たちの案内役を担当しているだけだ。ちなみに新山さんは今日は休みで、乙葉のためにここにいるっていう事」

「ああ、そういうことか。そもそも、俺だってあの激しい修行が無ければ、ここに通っていたんだよなぁ……」

「まあまあ、来年になったら一緒に通えるから大丈夫だよね。一般受験になるけれど、魔術が使える生徒については一般受験じゃなく『実践受験』っていう枠があるから、乙葉くんはそっちで受ければいいと思うよ」

「そうなんだけれどねぇ……」


 そう告げて、俺は両手を合わせて体内の神威回路に神威を巡らせ始める。

 そしてゆっくりと両手を左右に開いていくと、手と手の間に稲妻のようなものが発生した。


「……相変わらず、化け物じみた力だよなぁ」

「いや、ようやくここまで回復してさ。そもそも魔術だって、まだ三つしか使えないんだぜ。そのうちの一つだって、最近はずっとこればっかりだし」


 再び両手を合わせて神威を循環。

 そして右掌だけ上に向けると、そこに小さな魔法陣が形成される。

 これはただの魔術読破(リードマジック)の術式。

 これにより、知識のオーブや記憶のオーブを魔力分解して取り込む事が出来る……っていう、まあ、昔は魔法陣なんて使わなくても使えたんだけれど、今はこうしないと使えない。

 そもそも、これを修得しろと言っていたのは白桃姫で、必ず使うことになるから魔術読破(リードマジック)神威循環(サーキュレーション)は完全に身に付けろっていわれてね。

 だから、時間があるときはこっちに集中している。


「おおお、本当に力の制御が出来なくなっているのかよ。いや、俺に出来ることがあれば、なんでも相談してくれ。こう見えても、魔術に関しては乙葉の方が先輩だが、この大学では俺の方が先輩だからな!!」

「うわぁ……それだけは言われたくなかったなぁ……」

「クスクスクス……まあ、織田くんだって、乙葉君がいなくなってからずっと心配していたからね。という事で、そろそろ行きましょうようか」


 そう告げてから、新山さんは俺の手を取って歩き始める。

 俺もしっかりと彼女の手を握って、のんびりと構内の散策を始めた。

 うん、あちこちでサークル勧誘の学生がオープンキャンパスにやって来た高校生やその保護者に色々と説明をしている姿も見える。

 それに、気のせいかもしれないが、俺の方にも視線が集まっているんだけれど。

 なんていうか……嫉妬?

 その視線の一つが、こっちに向かって来るんだが。

 どう見ても優男だけれど、俺の方を睨みつけたかと思ったら、笑顔で新山さんに話しかけてきた。


「おや、新山さんじゃないですか……今日は休みだったのでは?」

「ええ。ですが、私の彼氏が来年、ここを受験するので案内していたのですよ」

「彼氏……ねぇ。失礼ですが、現代の聖女と呼ばれている貴方には、もっとふさわしい男性がいるのではないですか? ええ、現代の魔術師に次ぐとも言われている、この僕のような魔術師のように……」


 ああっ、こいつは痛い奴かもしれない。

 自分の力を過信して、周りに目が行っていないっていう感じだよ。


「そうですね。ですから、今日は私の彼氏である『現代の魔術師』の乙葉くんを案内しているのですけれと?」

「え……彼が現代の魔術師だって?」


 なにやり俺の方を見て、ジロジロと品定めを始めているんだけれど。

 そしてものすっごい笑顔を見せたかと思うと、必死に笑いをこらえているのが判る。


「ププッ……これは失礼。彼からは魔力を全く感じませんよ。それで現代の魔術師というのは、片腹痛いとしか言えませんよ」

「まあ、そうやって表面しか見えていないようじゃ、あんたもまだまだ二流っていうところだな」

「なんだと……貴様、零魔力の癖に、俺に対して無礼じゃないのか?」

「はぁ。ここはいつから異世界になったんだよ……」


 あ、つい失言。

 思わず思ったことを口にしてしまったじゃないか。

 いゃあ、参った参った隣の神社だよ。

 しっかし、ここに来て異世界テンプレートのようなセリフを聞かされるとは、思ってもいなかったわ。


「き、貴様ぁぁぁぁぁ、そこまでいうのなら、俺と決闘だ。そして勝った方が、新山さんと付き合うというのはどうだ!!」

「あ、すまんが断る。にいや……小春は賞品じゃないのでね。そもそもだけれど、勝負して勝ったからと言って小春がお前に惚れるっていう事は無いと思うが?」

「ふ・ざ・け・る・なっ、いいから勝負しろ、たかだか零魔力ごときが、魔術師を名乗る資格はないっていうことを身をもって覚え込ませてやるっ」


 ああ、激昂したか。

 しっかしまあ、この騒ぎで周囲に人だかりが発生しているんだけれど。

 みなさん野次馬根性が強いようで、ヤレヤレ、勝負しろだのと実にうるさい。

 そんな感じで盛り上がっていると、その人込みを分けるように大人の女性が割って入ってきましたけれど。

 

「ちょっと、なにを騒いでいるのよっ!! 今はオープンキャンパスの最中で……って、あら、乙葉くんじゃない、こんなところで何をしているのですか?」


 はい、大人の女性は知った顔でした、というか要先生じゃありませんか。


「あれ、要先生はなんでここに?」

「私は日本国陰陽府退魔機関から出向でね、基礎魔術学科の臨時講師をしているのよ……って、また大隅純也くんが何かやらかしているのね……」

「いえ、要先生。やらかしているのはこいつですよ。零魔力の癖に現代の魔術師を名乗っている嘘つきですからね。だから、この僕が直々に、実力の差というものを見せてやろうと思っただけです。ちょうどいい、今日はオープンキャンパスなので、見学者も大勢いるではありませんか。魔術の実践訓練の姿を公開してあげましょう」


 んんん、なんだか勝手に話を盛り上げているんだが。

 そして時折チラッチラッと小春のことを見ているんだけれど、ああ、小春ちゃん、めっちゃ怒っているんだけれど。


「はぁ。乙葉くん、彼はこう言い始めたら聞かないのよ……でも、勝負なんて受ける必要はないからね」

「分かっていますって。ということで要先生、俺たちはオープンキャンパス中なので、勝負なら俺の変わりに在校生である織田にやらせておいてください」

「なんで俺が?」

「だって織田、お前、あいつより強いだろう?」


 まあ、これについては俺の意見ではなくヘルメスさんの意見。彼の鑑定曰く、今の織田の魔力は大隅とかいうやつの三倍以上。

 加えて魔力回路の太さも二倍近く差をつけているので、織田が本気を出さなくても楽勝らしい。

 しっかし、その程度の実力で俺に突っかかってくるとは……まあ、今の俺じゃあ、どこまで力を制御できるか分からないけれどね。


「な、な、な、なんだと、この俺が織田よりも弱いだと?」

「魔力とそれを制御するための魔力回路、その強度が織田よりも弱い。つまり、そういうこと」

「ふざけるな、零魔力がどうして俺の資質を見切れるっていうんだ、それもハッタリだろう、この嘘つき野郎が!!」

「はぁ……そういって俺を怒らせてのせようとしても駄目だわ。悪いけれど、俺の精神は、どっかの映画の主人公よりは強いからね、腰抜け野郎(チキン)といわれて喧嘩を買うような性格じゃないのでね」


 高校時代、それで散々な目に遭いまくっていたような気がするからさ。

 気は長く持つに限るよ。


「ちっ……止めだ、止め。こんなやつ相手に本気を見せる必要はないわ」

「まあ、全力で来ても、俺には届かないがね」

「なんだと……我が名、大隅の名において命じる。炎の矢よ、我が前に」


 おっと、いきなり詠唱したか。

 でも、すでに左手のヘルメスさんの魔皇紋が活性化しているんだよね。


「甘いよっと」


――パッチィィィィィン

 ご存じ、魔術の発動をなかったことにする秘術、却下(リジェルト)を指パッチンで発動。

 すると大隅の前に出現し始めていた炎の矢が消滅した。

 

「大隅くんっ、校内での無許可での攻撃魔術の使用は禁止の筈です、この件については、担当講師にも報告させてもらいますからね」

「ち、ちょっと待ってください、発動はしていませんよ、脅しで発動して見せただけでして、ほら、途中で止めたじゃないですか」

「止めたではなく、乙葉君によって消滅させられたのよ……なんでこう、理解していないかなぁ。はい、もうこれでおしまい、解散解散っ」


 要先生がパンパンと手を叩いて、生徒たちを散らせ始める。

 そして大隅はというと、俺の方をじっと睨みつけてから立ち去っていったんだけれど。


「ふぅ、なんとかなったわ」

「そうみたいだねぇ……まだ神威って残っている?」

「ちょいとだけ。長時間の戦闘はキッツいからなぁ……まあ、それよりも、今は見学に勤しむ事としましょうかね」

「そうだね、それじゃあ、次は学食にでも行ってみる?」

「いいねぇ」


 腹が減ってはなとんやら。

 まあ、それにしても、大隅とやらだけれど、いくら詠唱ありとはいえ、しっかりと魔術を行使できそうなのは怖いよなぁ。

 そのあたりの法整備って、どうなっているんだろうか。


いつもお読み頂き、ありがとうございます。


・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。



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