第五百四十四話・一進一退? 余り茶に福あり(先達者の記憶)
幻想郷での最初の出会い……というか、俺達を発見してくれたのは、空を飛ぶ機械仕掛けの鳥に乗ってやって来た一人の女性でした。
そして俺が地球の言葉を使って返事を返してみたのだが、今一つ俺の言葉は理解できていないようで。
そして頭を傾げつつ、腰に下げている鞄をカチャカチャ弄っていますが。
いや、よく見ると鞄の中から機械のようなものが飛び出していて、そのつまみをくるくる回しているようなんだが。
「}+AP+Ser bb94567p;k:krしあヴえみこに3q5vhgpぬぁぁぁぁ、あ、この波長でアッテマスカ?」
「うわ、会話が成立した、はろはろ初めまして、アイアム・乙葉浩介・ジャパニーズピープルオッケ?」
「ハイ、おっけですね。私の持っている翻訳機は中古なので、今一つ脳波パターンを感知する受信体の感度が甘いのですよ。うん、もう大丈夫ですね」
「うはは……それはよかっ『グーーーキュルルルルル』たです」
そう笑顔で返答を返しているうちに、腹の虫が大合唱。
するとにこやかに話していた女性が瞳をパチクリしたと思ったら、いきなり大爆笑した。
「あははぁぁぁぁぁぁ。空腹でしたか。とりあえず、これでも齧っていてください。一旦村に連絡を入れておきますので、オトハを拾っていっていいか確認してみます」
「ああ、それは助かります……」
彼女から受け取ったのは、大体ハガキサイズのビーフジャーキー。
それを齧って見たところ、なんというか独特の味わいと風味が頭の中に飛び込んで来たのですが。
具体的に説明すると、『スモーク杏仁豆腐・ソフトサイズ』。
ね、意味が分からんでしょ?
でもこれが意外と病みつきになるので、とりあえずは齧って口の中に放り込んで、味わいを楽しむことにします。
「うん、歯ごたえはなんというか、ホタテの貝柱の干した奴だよね。それでこの味……うん、なんていうか不思議ぃ」
「そう? それは良かった。それでね、村の評議会の決定で、一応あなたを客人として迎え入れることになったのですけれど、確か、地球人っていいましてたよね?」
「はい、地球というか、裏地球というか、そんな場所です」
地球を知っているようなそぶりだけれど、それってつまり、ここは地球との接点でもあるっていうこと。以前聞いた話では、レムリアーナは中間世界、つまり地球の鏡刻界を繋ぐ世界の一つだっていうこと。
プラティさんの住むアトランティスのようなところだろう。
「そう、私たちの村にも地球人は結構いたので、気軽にしていいわよ。そろそろ行きましょうか」
――スチャッ
目の前の女性は鳥の首の付け根にある鞍のような場所に飛び乗ると、その後ろをパンパンと叩く素振りを見せる。つまり、そこに座れっていう事だよな。
「そこに座れっていうことですよね?」
「アキテクターの速度についてこれるのなら、地上を走ってきても構わないわよ?」
「あはは、はい、お世話になります」
よっこいしょとアキテクター……鳥型飛行機? 鳥型ゴーレム? の後ろに乗って、鞍の横についている握りのような場所をしっかりと掴む。
うん、座り心地は馬の鞍に座っている感じだけれど、このアキテクターとかいう機械生命体、なんとなく体温のようなものを感じる。
それになんというか、呼吸もしているように胴部がゆっくりと拍動しているんだよなぁ。
こういう生命体なんだろう、そう思っていた方が気が楽だわ。
「それじゃあ行きますからね、ソーレイ」
――ヒュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ
タッタッタッとアーキテクターが走り始め、そして翼を広げて羽ばたき始める。
その直後、フワッとアーキテクターが空に舞い上がると、グングンと速度を上げていく。
翼を羽ばたいて飛び上がるのではなく、翼から何かを噴出して滑空するように上昇しているんだよ。
本当に、スチームパンク世界の疑似生命体っていう感じだよねぇ。
「ひょわぁぁぁぁぁぁぁ、こ、この速度でも呼吸ができる、これって魔法なのか?」
「あはは。このアーキテクトは飛び上がった瞬間に全身をマーギアで包み込むからね。と、ほら、あれが私達の村だよ」
マーギアっていうのが魔法のようなものだろうと理解できた。
そして女性が指さした先に見えたもの、それは俺が地上から見た風景の一つ。
巨大な岩石のような城、それがどんどんと近づいてきて、やがて巨大な壁のようにそびえたった。
「うわ……なんだこれは?」
「さあね、私達はこれを村と呼んでいる。見た感じだと、巨人の住む城っていうところだろうけれどさ……」
うん、高さ800mほどの巨大な石造りの城。
窓のような部分の高さが50mはあると思う。
その窓の一つに飛び込むと、床の部分に小さな街並みが広がっているのが見えた。
そしてアーキテクトが中心部分にある広場めがけてゆっくりと降下していくと、あちこちの建物から大勢の人が出て来るのが見えたよ。
老若男女、独り者もいれば大家族もいる。
服装はまばら、俺達を見てちょっと緊張しているようにも感じられる。
本当、異世界にやって来たんだなぁって理解できるわ。
「さてと。村の人は翻訳機を持っていないから、君がこれを肩から下げるといい。チャンネルは……と、これでいいかな?」
鳥から飛び降りた女性が、鞄の中から携帯型電話のようなものを取り出し俺の肩に下げるように指示してくる。そして俺が肩から下げたのち、横のつまみをぐるぐると回して周波数のようなものを調整し始めた。
ラジオのチューニング? そういった感じで調整しているうち、周囲から聞こえてくる摩訶不思議な言語が日本語にチューニングされた。
うは、これ欲しいわ。
「おお、ミナ・ハ・ライラか、その異邦人はどこの世界から来たんだい?」
「彼はルナ・テッラの異邦人だよ。ほら、シゲン・イサコザワと同じ故郷らしいから、害はないとおもうけどさ」
集まって来た人のなかでも最長老らしい老人と話し始める女性。
どうやら名前がミナ・ハ・ライラというようだ。
そして俺のことを説明してくれると、集まってきた人たちもやや緊張しているものの一人、また一人と建物に戻っていった。
「ようこそルナ・テッラの異邦人。私はこの村の代表を務めるジル・ガ・マンダムという。評議会議長も務めている。しかし、ルナ・テッラからの異邦人とはまた、随分と懐かしい……いや、どうだったかな?」
「あっはっはっ。マンダムさん、シゲンが来たのは一年前で、消えたのが半年前だからさ。そんなに古くはないはずだよ」
「そうか、その程度か……まあ、この村は流れ人の集まっている集落でね、自分のできることをして生活を送っているものばかり。食料品や生活必需品が欲しければ、畑を手入れしている人たちと交換すればいい。空いている家もあちこちにあるので、それを好きに使っても構わない。では」
そう告げてから、マンダムさんもまた、建物へと戻っていく。
しかし、この俺に出来る事って、何があるんだろう。
まずはこの世界を知ることから始めた方がいいとは思うんだけれど、そんなにのんびりともしていられないよなぁ。
「では、私はそこの家に住んでいるから、何か困ったことがあったら、いつでも尋ねに来て構わないからね……その家は、今は誰も住んでいないから好きに使って構わないので」
「はい、色々とありがとうございました」
そうルナさんにお礼を告げて、彼女が指さした家へと向かう。
建物の大きさは一階建て平屋づくり、どことなく和風な……そうだ、長屋のような造りをしているんだよ。それだけじゃない、この村に立っている建物自体がちょっとおかしいんだわ。
現代風の三階建てビルのようなものもあれば、赤レンガ造りの二階建ての建物も、そして木造藁ぶきの古い建物まであるじゃないか。
鳥の上から見た町の人達の服装だって、現代風のものもあればヨーロッパの民族衣装のようなもの、軍隊のような迷彩服とかとにかくすべてがちぐはぐで、まるでいろいろな世界から寄せ集めたような感じじゃないか。
「……はぁ。この世界というよりも、この村自体がおかしいんだよなぁ」
『いや、レムリアという特異環境を考えるのなら、これはおかしいことではない。すべてが流れてきた人たちで、自分たちの世界の文化・文明を持ち込んでいるだけのように感じるが』
『ヘルメス老のいう通りだな』
「まじか……それってつまり、俺が地球の文化・文明を持ち込むことが可能だっていうことなのか?」
『それはまだ分からない。まずは調べるところから始めないとな』
鉄幹さんがそう告げつつ、俺の右手を操ってある場所を指さした。
そこは小さな文机が置かれてあり、そこに一冊の本が置いてある。
なぜ鉄幹さんがそれを指さしたのか、その本の表紙に書かれている文字を見て俺も納得した。
『地球から迷い込んだ人々へ』
そう本の表紙には書かれている。
つまり、この建物に住んでいた人は地球人であり、ルナさんはそれを知っていたから、俺にここへ向かうように告げていたんだろう。
「そうだな。まずは、先達者の意見を確認してみますか」
文机の前に座ると、俺はその本を手に取り、そして目を通すことにした。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




