第五百四十三話・一期一会、急いては事を仕損じる(第一村人、発見……いや、俺が発見された?)
幻想郷レムリアーナ。
さて、どこかで聞いたことがある単語。
それが何処だったののかとしばし考えていると、ふと数年前のことを思い出した。
「そうだ、レムリアーナってあれだよ、カナン魔導商会に売っていた書物、確かタイトルは『浮遊大陸とその伝承について』。そこに書いてあったのが、浮遊大陸自体はいくつかの異世界に存在するということ。そして単独で時空を超える力を持っているっていう事、その浮遊大陸はレムリアーナという世界とカルアドっていう世界に存在しているっていう話なんだけれどなぁ……もっとしっかりと読んでおけばよかったよ」
『今は、それを所持しておらんのか?』
鉄幹さん、簡単に言うけれどさ、俺って神の加護を全て失っているんだよ。
つまり空間収納に保管してあったその本も、今は手元には存在しないっていう事。
それに、もし再び神の加護を得られたとしても、空間収納が復活するかどうか、中身は無事なのか全く保証はないからね。
「ないよなぁ。全て空間収納の中だったし。破壊神の加護を失った今では、そういった力は全て消滅しているからさ」
『それは残念であるが……ふむ、それでは乙葉や、貴公はこの世界を知り、此処から帰るすべを探すのと同時に、新たに神の加護を得る手段を探さなくてはならないな』
「い、いや、ちょっと待って。そんなに簡単に、ポイポイって加護が得られるものじゃないでしょ? それにさ、俺は神の加護と引き換えに世界を救ったんだよ? そんな奴にまた加護なんて与えるはずがないでしょう? また神の加護と引き換えに無茶すると思うよ?」
そう頭を振りつつ呟くけれど、この俺の意見についてはヘルメスさんが頭を振っている……ように感じる。
『それはない。むしろ、神の加護をそうそう簡単に捨てることなどできない。此度は恐らく、神々としても特例であったのだろう。ゆえに、神の加護を得られたとしても、それを代償として用いることはできないだろう。また、そのような事をする愚か者に加護を与えるような神も、そうそうはいないと判断できるが?』
そのヘルメスさんの話を聞きつつ、近くに座れそうな場所を探してみる。
と、ちょうどいい石が転がっていたので、そこに腰かけて一休みすることにした……んだけれど。
――グーーーキュルルルルル
腹の虫が鳴る。
今までだったら、空間収納から食料を取り出すかカナン魔導商会で購入すればおしまいだったけれど、いまはそのどちらも存在しない。
つまり、一言で言い表すと。
「やっべ、食料が何も無い」
『そのようじゃなぁ……それで、どうするのじゃ?』
『このあたりの人工物となると、目の前の巨大な城塞ぐらいしか存在しない。それで、乙葉はどうするつもりだ?』
「まずは食料の確保。とはいうものの、狩りが出来るような装備もないので、まずは近くの森にでもいって、食べられる果実とかを探すしかないよなぁ」
幸いなことに、鉄幹さんとヘルメスさんが鑑定スキルを保有しているらしく、それで食べられそうなものを判別することは可能。
ということで、ゆっくりと重い腰を上げると、近くに見える森の中へと入っていくことにした。
………
……
…
――どこかの森?
深く深く、それでいて静か森。
獣や鳥の鳴き声も全く聞こえない。
それって、やばくね? と思ってみたけれど、命の危険に直結しそうな危険性の高い動物の気配も感じられないので、今は静かに息をひそめて森を探索するしかない。
頼むから、食べれる果実でも木の実でもいい、発見されてくれ。
「……と、思っていた俺が間抜けでした」
森に入って4時間。
延々と食べられそうなものを探してみたものの、其れらしいものは何も発見できず。
やむなくクリムゾン・ルージュの墜落現場まで戻って来て、今後の対策を考えることに。
「はぁ……本当に、オタ知識だけでは何もできないというのを痛感したよ。ボーイスカウトとか、アウトドアが趣味の奴って、こういう時は本当に強いんだろうなぁ」
大切なのは、知識だけではなく経験。
そう思って空を見上げる。
せめて鳥の一羽でも飛んでいてくれれば、ヘルメスさんの魔術式で撃ち落とすことぐらいはできただろうに。ほら、今だって、結構上空を飛んでいる鳥型の起動兵器の姿もあるんだから、あれを落とせば……。
「って、鳥型起動兵器? はぁ? ここって幻想郷だよな、人の夢の中の世界だよな? それつてつまりあれか、あの鳥型起動兵器だって誰かの夢の一つっていうことか? それよりもいきなり攻撃してこないよな? 大丈夫だよな?」
ドキドキしつつ、上空で旋回を開始する起動兵器。
そして5分ほどたってから、それはゆっくりと降下してくる。
うん、こうなると運を天に任せるしかない、虚無の中をさまよっていて生きているだけでも儲けものなんだからさ。
そんなことを考えていると、鳥型起動兵器は俺たちのちょっと先にゆっくりと降下してくる。
大きさは全長8メートル程度? 装甲の隙間から内部フレームが見えてガッチャガッチャと動いている。歯車とかベルトとか、そういったものが音を出して回転しているし、あちこちから上記のようなものを噴き出している……つてああ、スチームパンクの鳥みたいだよ
その首の付け根辺りに鞍が装着されていて、ゴーグルをつけた女性が乗っているんだけれど。
『s:ertpuieem h@nyp8esn7zap/:xwr ,g-2てス6巻都生もいすち』
右手を上げて、笑顔で話しかけてきた。
いや、本当にすいません、言葉が全く理解できないっす。
だがら俺も笑顔で同じように手を上げてみせると、女性はウンウンと頷いている。
(て、鉄幹さん、ヘルメスさん……言葉ってわかる?)
『ヘルメス老の出番だな』
『よかろう。先ほどの女性の言葉は、『こんなところに流れ人がいるとはねぇ。どこの世界から流れてきたの?』と告げていた』
(ナイスです)
これはコミュニケーションを取れる。
そう思ってにこやかに言葉を発してみよう、果たして通用するかどうか。
「俺たちは、裏地球と呼ばれている地球からやって来た。虚無の中をさまよっていたのだけれど、いつの間にかここに落下してしまったらしい。どこか、人里は近くにないですか?」
さあ、俺の言葉は通用するのか、無事に食事にありつけるのか?
そして鳥型起動兵器からひょいと飛び降りてこっちに歩いてくる女性の正体は、果たして敵か味方か? 俺は何もできない高校生ですからね、鉄幹さん、ヘルメスさん、万が一のときは力を貸してくださいね。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




