第五十四話・急転直下の小田原評定、剃刀の刃を渡るが如し
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ここは何処なんだろう。
確か俺たちは、新天地を求めて走っていたはず。
だが、気がつくと籠に囚われ、出荷されていた。
こうなると逃げ道はない、頼むから美味しく頂いてくれ。
おや?
突然あたりが暗くなったぞ?
ああ、また明るくなった。
って、ここ空気が悪すぎ、魔力の魔の字も無いじゃないか?
大地はある、ああ、良かった……って、大地も死んでいるじゃないか?
え、俺たちこれから食べられる?
ああ、上等だよ、美味しく頂いてくれや。
え? 仲間たちはノッキングバードと一緒に串に刺されているの?
そして焼かれると、ふむ、焼き鳥って奴だな。
炭焼とはまた豪勢な。
庶民は竈門に火をかけて、鉄板で焼くのが普通だぞ? それを炭などという高価なものを使うとは、お主たち、中々やるな。
そして横にあるタレ、そうだ、それこそが俺が求めていたものだよ。
………
……
…
はい、俺たちは余りましたとさ。
くっそ、ノッキングバードの方が足りなくなっただと? なら追加して買えや‼︎
俺たちはどうなるんだよ。
あ、籠に仕舞うのね、なら隙を見て逃げるって、なんだよこの得体の知れない拘束具は、外れないじゃねーか。
お?
人間は俺たちに気づいていないな、よし。
同志達よ逃げるぞ、こんな所で俺たちの一生は終わっていいわけがない。
このままカゴの中の肥やしになるぐらいなら、俺たちはここで一花咲かせてやる‼︎
三、二、一、よし行くぞ‼︎
………
……
…
駄目だ、この土地は死んでやがる。
俺たちはここで朽ちるのか。
ああ、神よ。
願わくは、次はもっと美味しい野菜に生まれ変わらせてください。
スプリンターオニオンではなく、出来ればスプラッシュトマトあたりで。
デスロックポテトは勘弁してくれ、まだ爆発したくないからな……ムギュッ。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
──ガバッ‼︎
「なんだ、今の夢は?」
祐太郎宅を襲った一連の妖魔事件から二週間が経過した。
この間、実に何も無かった。
いや、普通に授業や部活はあったよ? けどさ、それだけ。
ということで、訳のわからん夢から覚めてのんびりと学校に向かい勉学に励み、いまは放課後、楽しい部活の時間でございます。
部活では、要先生が以前よりも積極的に俺たちに話しかけてくるようになったし、部費の増額を認めてくれただけでなく本棚の増設もやってくれた。
まあ、先輩の能力については秘密なので、純粋に部活動として本が増えているのが実に助かる。
「ねぇ乙葉君。このエイボンの書って何? この前はなかったわよね?」
「ええっと。カナン魔導商会の書籍コーナーで見かけたので買ったんだけど」
「…… 無名祭祀書にネクロノミコン、しかもウ=ス異本まであるって? オトヤン、まあ研究書なんだろうけど、よくもまあ揃えたものだなぁ」
「……原書」
あ、祐太郎には聞こえたのね?
SANチェック失敗なような真っ青な顔にならないでくれ、ほら、このフォークをあげよう。
ニャルラトホテップには有効なスレイヤー兵器だよ。
「な、なんでこんなものが、しかも原書だと?」
「あ、大丈夫。普通の人には読めないから」
「そうだろう、そうだろうよ……こんなのここにあったら、先輩がSANチェック失敗して花になるだろうが?」
「あ、そっちは青森物語な。悟る方だよね」
「それはどうでも良いわ。って言うか、原書? クトゥルフ神話はあっちはマジものなのか?」
「さぁ少なくともあっちの世界では当たり前みたいだよ。こんなものがあるぐらいだからさ」
カナン魔導商会で限定販売していた、黄金に輝く蜂蜜酒を空間収納から取り出してテーブルにそっと置いてから、すぐに仕舞う。
いや、出しっ放しはまずいだろうさ、何かあったら大変だし、ゆっくりと発光を始めたみたいだからさ。空間収納にしまっておけば時間の概念が喪失するから、狙われることはない……はず。
「……ま、まあ良いわ。オトヤン、今のは表には絶対に出すなよ?」
「あたぼうだよ、おまいさん。俺はまだ地球滅ぼしたくないからね」
などなどとコアな会話をしている最中、要先生が意味も分からずネクロノミコンを開いて卒倒した。
あ、口から泡吐いている‼︎
「危ねぇ‼︎」
「すぐに応急手当を!! 薬だ薬っ!!」
「おけおけ、急ぎ一番いいやつ買うから待ってろ!!」
すぐさま大回復薬を購入して口の中に流し込んだ。
どうにか魂が散るのを抑えることができたが、これはまずい、マジでまずい。
「……本物、効果あるなぁ」
「あ、ああ。ということでその辺りの本は封印しましょうそうしましょう」
すぐさまミスリルインゴットを魔導商会から購入すると、錬金術の『変形』『融合』『魔導化』で本が入る箱を作成。
ついでに鍵も掛けるが、鍵穴はない。
魔石を組み込んで、登録した人間の魔力以外には反応しないようにした。
そのさなか、要先生は祐太郎と瀬川先輩が保健室まで連れていってくれた。
戻ってくる頃には、しっかりとした箱が出来たよ。
「あ、あのね乙葉君。私が、その、契約してみたら駄目だよね?」
ええっと、新山さんがなにか話していますが、何と契約するの?
「契約って?」
「ほ、ほら。私だけ今は何もできないから、契約者になればそこそこの力が使えるようになるかなぁって。その本があれば、契約できるよね?」
「ちょっと待ってください。新山さん、貴方はまさか、先程封印した書物と契約するというのですか?」
「さすがにそれはまずいぞ、新山さんも本がなんなのかは理解しているだろう? ゲーマーなんだから」
おっと、俺よりも早く瀬川先輩と祐太郎が反応したぞ。
「う、うん。そうすれば、私は旧支配者やヨグ『それ以上はいけない‼︎』は、はい」
危ねぇあぶねぇ。
もう少しで新山さんが魔風使いになるところだった。それは危険だから。
毛がやんだり矢が健太郎な人だから。
輝けるトラペトなんちゃらは売っていなかったから、対処効かなくなるよ。
「ということで、この件はお終い。危ない本は、魔法でロックしておくので」
箱に収められた禁書一式、この部室に魔法でロックする。
これでここからは出すことができない。
「さて、そんなこんなで、あれから何があったかについて説明しますか」
「お、祐太郎、今日は解説回だフベシッ」
──スパァァァァァン
しまった。
つい先日、部員全員に突っ込みハリセンを購入して渡していたの忘れていた。
精神体に有効な上、戦意を喪失できるから、先輩や新山さん、ついでに祐太郎にも持たせていたんだよ。
「なんでメタなこと言うかなぁ。明日、親父たちが動く。残念ながら共存派妖魔と接触できなかったが、証拠や資料は全て揃えられたらしい」
「ほうほう。では、明日は日本が激震するのだね?」
「そういう事らしい。まあ、いきなりそんなことを話したとしても、国民は信じないかもしれないけれどさ、野党は騒ぐこともないだろうさ。それが嘘だなんだって騒げないからさ」
まあ、妖魔を否定するということは、今まで隠されていた真実全てを否定することになる。
妖魔からの恩恵を受けている野党にとっては、そんなことはできないだろうから。
これで解散総選挙に持っていって、野党がどう動くか見てみたいというのが晋太郎おじさんの目的でもあるらしい。
政権を野党がとった場合、二年以内にやってくる大氾濫に対しての対策が必要となるので、どのみち政府の責任追及待ったなし。
それを逃れたければ与党にならなければいいのだが、そうなると選挙で敗北しなくてはならない。
明日の国会で妖魔についての説明が始まった時点で、現野党は詰みらしい。
「‥‥なあユータロ、なんだか俺のほうにも色々と話が来そうな気がするんだけどさ」
「心配するな、俺も巻き込まれてやる」
「同志よ!!」
ひしっと抱き合い、慌てて離れてお互いにオエってなる。
そりゃあ男同士よりも女性のほうがいいよね。
「さて、ではそのあたりの対策については私たちではどうしようもないので、今日のところは普通に妖魔についての勉強でもしましょうか」
さすがは瀬川先輩。
という事で、今日は妖魔対策について色々と話し合ったり、何か魔導具が作れないかと考えて一日が終わったのであります。
〇 〇 〇 〇 〇
翌日、日本国国会。
衆議院・臨時会が開催された。
今回の主な議案は『公文書等の管理に関する法律の一部を改正する法律案』やら『行政機関の保有する情報の公開に関する法律等の一部を改正する法律案』など、ありていに言えばいつもやっているよく見るものである。
だが、その中の一つに『特秘条項に関する公開および特務対策における法律案公開について』というものがある。
そして今日の朝、それは内閣府総理大臣の名前によって公開された。
「では、特秘条項に関する公開および特務対策における法律公開についての審議を行います。まず、日本国国民には知られていない、古くから日本に在住している妖魔及びそれらに類するものに対しての特別法案の提出、その施行をどのように行うか‥‥」
淡々と読み上げられる議案。
これらについては一部の議員しか知られておらず、約過半数の議員は寝耳に水状態である。
だが、各種資料を読み上げている中で、それらが事実であり真剣に取り組まなくてはならないものであると理解を示し始めた。
これと同時に、国会中継を行なっていたKHK(国民放送協会)は、すぐさまを特秘条項についての資料を公開。これらはあらかじめ打ち合わせしてあったとおりであり、何も知らされていなかった民放各社は妖魔についての情報に対して完全に出遅れた状態となってしまった。
「‥‥では最後に。妖魔という存在は、我々の住んでいる世界とは次元の違う場所に住んでいるものであり、彼らは我々にとって良き隣人でありたいと思っているものが多く存在しています。ですが、それと同時に、我々人間に対してよからぬことを考えている者たちが存在するのも事実であります。日本国政府としては本日より、『対妖魔関連法案』の審議を開始し、しかるべき事態に備えた対処方法を話し合うこととします」
拍手喝采の中、『特秘条項に関する公開および特務対策における法律案公開について』の話し合いは終了し、この件は委員会預かりとして専門家を交えての話し合いが行われることになった。
今日、日本国国民は初めて、妖魔という存在を政府から通達されることとなった。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。
・本日の判りやすいネタ
クトゥルウフ神話体系
這い寄れ○○〇〇さん
その他二つほど、本日は隠し味としてご用意しました。