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【書籍化】ネット通販から始まる、現代の魔術師  作者: 呑兵衛和尚
第九部・終わりの始まり

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第五百三十八話・理外の理、精神一到何事か成らざらん(そして、終りがやってくる)

 俺の周囲には、黒い人型使徒の群れ。


 その向こうでは、黒いローブを身に纏った一人の老人。

 さらに奥、幾つもの崩れ去った巨大な扉の向こうには、封印されている筈の魔人ダークの像。

 そして俺の身体から、徐々に魔力が抜き出ている……ように見せるため、神威変換型魔力を少しずつ気化放出させてみる。

 うん、災禍の暁で魔力が奪われていく感じを演出しつつも、周囲の使徒については手加減無用で切り裂いていくんだけれど。


「くっそ、いくら切り刻んでも、一向に減りやしねぇ」

『それは当然。使徒もまた、我が仮宿の眷属故。貴様が仮宿を破壊すべく来ているのなら、彼らもまたそれを守護するのは当然なれど……ほれ、急がねば真刻界(リアルコクーン)が崩壊するぞ』 

「分かっているって……ほれ、そろそろ完成するからな!」


 奴と対峙してから、ずっと並列思考で練り込んでいた術式。

 反転大規模転移術式が、ようやく完成した。

 こうなったら使徒の侵攻なんてすべて無視だ、無視。

 死神の鎌をセフィロトの杖に戻すと、俺はすかさず超高速詠唱を開始する。


『12の星辰、九曜の神々。48の系譜と白と黒の太極に基づき、我、星々に請願する……髪を滅する地殻を我に、かの者を滅する力を我に……』

「なんだと、貴様ぁぁぁぁ、その魔術を一体どこで手に入れた!! 神滅の咆哮を、貴様はどこで手に入れた!! やれ、使徒ども、その男を食い尽くせ、この世に肉片一つたりとも、残すことは許さぬっっっつっ」


 ほら、やはりこの極大魔術はあんたには有効なんだろうな……。

 神々を滅する絶対無敵の破壊魔法『神滅の咆哮』。

 聖徳王の天球儀に記された最大秘術の一つだけれど、俺はその詠唱文に神威を乗せて唱えていた……だけ。足元に広がる魔法陣も、表面だけは神滅の咆哮だけれど、その内側は送還の術式なんだよねぇ。

 ということで、もう遅いよ。

 俺の周囲に展開した巨大な魔法陣には、使徒程度の存在は立ち入ることはできない。


――ドスッ、バシュッ

 次々と魔法陣に飛び込み、俺に向かって爪を立てようとする使徒。

 だが、一歩踏み入った瞬間、その肉体が瞬時に蒸発していく。

 いや、蒸発ではない、気化した瞬間に、何処か遠くの地へと転移していったのだ。

 それはつまり、魔術の完成、完全なる発動を意味している。

 そして目の前で使徒が蒸散していくのを見て、破壊神の爺さんもワナワナと震え始めた。

 そりゃそうか、いかにも『神滅の咆哮』で消滅しましたよって感じているのだろうさ。


『くそっ……くそっくそっ糞っ……この小僧がぁ』


――ジュンッ

 いきなり空間から杖を取り出したかと思うと、その先端から俺に向かってレーザーのようなものを放ってくる。直径にして5mはある、超巨大なレーザー。

 それってつまり、魔法陣が完全発動する前に俺を焼き尽くそうっていう事だろうけれど。


「神威、全放出……黄泉路へ参れ、悪鬼邪神よ……この世界から消え去れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」


 その超巨大レーザーが俺の足元に大きく広がる魔法陣に差し掛かった瞬間、一層強く輝く魔法陣により次々と中和されていった……。


――ドシュッ

 そう、中和した筈……なんだけどさぁ。


「ガハァッ……」


 超巨大レーザーが消滅する瞬間、それは収束して糸のように細く凝縮すると、一撃で俺の左胸を穿った。ああ、心臓のちょい右でさ、多分だけど気管を貫いたんじゃないかなぁ。

 背中まで激痛が走ったから、多分だけれど貫通しているよね、これって。


「グハァァッ……」

『ふん。所詮は定命なる存在。この程度の攻撃で言葉が潰れ、詠唱が止まるとはなぁ……』

 

 にまぁっと笑っている破壊神の顔が、視界がぼやけ始めている俺にもはっきりとわかる。

 けどさ、それって完全な油断だよね。

 俺が、あの程度の攻撃を止められないとでも思ったのか?


――コンッ

 前のめりに倒れそうになり、慌てて杖で体を支える。

 その刹那、破壊神はさらに杖をこちらに構えたんだけれど。


――ビュウンッ

 俺が杖を突いた場所に向かって、足元の魔法陣が一気に収縮する。

 

『ははっ……はっはっははっ……ついに力尽きたか……肝心の極大魔法陣も消滅し、命の炎も瞬いているではないか……では、最後に貴様の肉体と魂を贄として、我は完全再生を果たすとしようぞ』


――グブッ

 口から血が零れる。

 力なく、膝から崩れ落ちる俺。

 うん、まだだ、まだ笑うな俺。

 意識はしっかりしている、杖の先端に魔法陣は凝縮した。

 そして勝利を確信した破壊神は、ついに後ろに立つ巨大な神像へと振り返り、両手を広げた。

 

――ゴゴゴゴゴゴゴッ

 激しい地鳴りと、石像が崩れ行く音。

 濛々と立ち込める砂煙の向こうで、静かに輝く破壊神の姿。

 その頭上には、脈動する肉片が浮かびあがっている。


『はっはっははっ……これだ、これこそ求めていた力だ、わが肉体の欠片……今こそ一つとなれ』

「そして、何処か遠くへ消えてくれ……神々の送還、発動っ!!」


 杖の先に集まった術式を発動。

 その瞬間、杖が破壊神の頭上に瞬間移動すると、そこで魔法陣が広がっていく。

 そう、頭上にあった肉片、崩れた魔人ダークの神像、そして破壊神を名乗る老人、このすべてを魔法陣が包み込んだ。


『なんだと!! この魔法陣は送還術式ではないか!! 大規模転移術式ではない、我を滅する魔法でもない……そうか、貴様は我と災禍の赤月すべてを、あの忌まわしき次元の彼方へと放逐するつもりかっ』


 破壊神は魔法陣に包まれながらも、俺に向かって杖を振るう。

 一つ、二つ、三つと放たれる魔法により、俺の左足が、右腕が千切れ飛ぶ……。

 だけどさ、頭と体にだけは当たらないんだよねぇ。そこは致命傷になるからさ、その部分だけ空間は歪曲しているんだよ。

 さっきのように超凝縮されると、ポンボイントでずらすことはできても全て流すことはできなかったからさ。でも、今のあんたは……消滅し始めているあんたの力じゃ……俺を殺して魔術を止めることはできないだろうさ。


――ヒュンッ

 そして、最初に空中に浮かんでいた肉片が消滅した。


『うぉぉぉぉぉぉお、俺の身体が、肉体の一部がぁぁぁぁぁ』


――ヒュンッ

 次に、魔神ダークだったらしい神像の欠片が消えていく。

 そこでようやく気が付いたのか、破壊神は再び俺に向かって杖を振るう。

 だが、その先端からは大した魔力も何も飛んではこない。

 ああ、これで終わりだよなぁ。


『たかが人間ごときが、このわしの復活を拒むとは……』

「悪いけどさ、俺ってただの人間じゃないんだよねぇ……」


 立ち上がれない。

 だから、俺はその場に座る。

 胡坐をかくように、だけど片足片腕は消滅しているので、どうにか座っている程度でさ。


『ただの……人間じゃない……だと?』

「ああ、ただの人間じゃないさ。だってねぇ……」


 空間収納(チェスト)に手を突っ込み、一本のハリセンを取り出す。

 すると、ハリセンは深紅に輝き、一振りの巨大な剣に変化した。


「俺ってさ、あんたのいう糞女神の加護を貰った亜神だから……これって、破壊神の眷属ってことだよね? つまり、あんたを滅ぼした破壊神の眷属なんだから、俺が負ける道理はないってことで……グッバイ!」


 残りの神威を全て集めて、それを後ろに向かって勢いよく放出。

 俺は砲弾のように加速すると、深紅の大剣を小脇に抱えて、破壊神に向かって吶喊!!


――ドシュッ!!

 うん、深紅の大剣が破壊神の頭を貫通。

 その瞬間に、神々の送還術式は完成し、完全発動する。


――ヒュンヒュンヒュンヒュン……

『くそっ……クソックソックソックソッ……離せぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ』

 

 頭を貫通してもなお、破壊神はもがく。

 けれど、その程度も想定済みでね。

 破壊神のど頭を左腕で抱えると、貫通した大剣の刀身に左手を絡める。

 これで頭から大剣は抜けないだろう? ついでに左足は腹から腰のあたりに絡みつかせるからさ、俺からはもう、逃げることもできないよなぁ。

 ああ、もうちょっと楽に戦いたかったけれどさぁ。

 やっばり、破壊神ってだけあるわ。

 油断させようと命を賭けて、賭けた命が高額ベットで支払われてくれればよかったんだけれどさ。


 イーブン……だったよ。

 

『この、人間風情がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ』

「その人間風情に、あんたは負けるんだよ……っていうか、負けた?」

『くっそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ』


――シュンッ……  


………

……


 三つの世界に浮かびあがった、災禍の赤月。

 それは、ある時を境に、突然消滅する。

 そして世界各地に広がりつつあった転移現象もまた、赤月の消滅と同時に停止。

 世界の1/5が消滅し、大陸が、地形が大きく変容したこの戦いは、突然の沈黙と同時に終わりを告げる。

 だが、失ったものは戻らなかった。

 ゆるりゆるりと元の流れを取りはじめた霊脈と龍脈が、全ての終わりを小春たちにも伝えていた。

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