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【書籍化】ネット通販から始まる、現代の魔術師  作者: 呑兵衛和尚
第九部・終わりの始まり

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529/591

第529話・一日千秋、月に叢雲、花に風(妖魔蟲退治と、世界の崩壊の始まり)

 学校前住宅地の転移現象から一日経過した翌日。


 朝から、うちの電話がけたたましく鳴っている。

 何事かと電話に出てみると、やはり札幌市内の報道局関係からの取材協力の電話であった。

 内容的には、結界によって包まれた内部に取材に向かうので、解説者兼護衛として俺に同行してほしいという連絡であったので……丁寧にお断りして、あとは留守電に切り替えましたよ。

 ええ、うちの両親は現在、ボルチモアのノーブル・ワンにて『ちっちゃい新山さん』の解析作業で忙しく、当面はこっちに帰ってくる事が出来ないらしいから。

 

 つまり俺ちゃん、久しぶりの一人暮らしを満喫している真っ最中なので、余計なことはするなと。

 ついでに玄関にもしっかりと張り紙をしているので、迂闊にチャイムを鳴らす客もいない。


『乙葉浩介関連の取材、及び協力要請一切お断り。俺に直接ではなく正式なルートで取材申し込みをする事。これを破るものは、以後、乙葉浩介から一切の接触はないと思ってください』


 つまり、ルールを破ったが最後、いずれ来るであろう異世界への取材も何もかも、一切無いから覚悟しろよって事。

 なんのために第二課が窓口になっているのか、理解してください。

 俺はまだ、未成年ですからね。


「はぁ。これでようやく、静かな土曜日が帰って来たよ。さて、学校に行くとしますか……」


 急いで着替えて荷物を纏めて。

 玄関ではなく裏口から外に出て、庭を越えて祐太郎の家にある発着場へと向かう。祐太郎もすでに登校準備を終えて、ストレッチの真っ最中。


「お、オトヤンは休むのかと思っていたけれど、しっかりと学校に行くんだな」

「なんで取材ラッシュ程度で休まないとならないんだろうねぇ。ということで、取材については一切無視。そう、残り僅かの学校生活を堪能させてくれ」

「まあ、それについては俺も同感ということで」


――フワッ

 魔法の箒に跨って、外で待機していた取材陣の頭の上を飛び越して、いざ学校へと大移動。

 一応は公道上空を飛行しつつ、後ろから追いかけて来る取材の車は撒くようにして学校の前まで……。


「……これは予想していなかったよなぁ」

「そうだなぁ」


 高校正門前。

 そこには、敷地外に大量の自衛隊車両が待機していましたよ。

 そして、特戦自衛隊の佐藤武志1佐が待機していたようで、俺の姿を見て手を振っている。


「佐藤……1佐? あれ? 昇任したのですか?」

「今更か。以前、妖魔特区攻防戦の時には1佐だったのを忘れたのか? それより、防衛省総監部からの協力要請が出ているんだが。詳しくはこれを」


 そう笑いながら、一通の書面を俺に手渡す。

 普通は電話とかでの打診があって然るべきなんだけれど、今回は急ぎという事と、うちの電話が留守電だから繋がらなかったのだろうと判断。

 そもそも昨日あたりから、電話の呼び出し音量は下げていたからさ。

 ということで書面を確認するんだけれど。


「あ~、この北広島西高前異世界特区とか言う場所にも、妖魔特区と同じゲートを作って欲しいっていう事ですか。そんで、そのあとで特戦自衛隊が調査に入るということでファイナルアンサーですか?」

「そういうことだな。それで、返答は?」


 防衛省からの要請は、ゲートの設営まで。

 そのあとの内部調査については、特戦自衛隊で行うという事ならば、俺たちには何も関係が無いので別に構わないと思うけれど。


「まあ、そういうことなら」


 スタスタと結界の手前まで移動して、特戦自衛隊の用意してくれたらしいゲートのフレームを結界に立て掛ける。

 そしてゆっくりと結界を中和しつつ、フレームを結界に嵌めこみ融合。

 あとはフレーム内部に『対妖魔結界・人間除く』を付与して完成。

 うん、聖徳王の秘術により、以前よりも効率よく術式が付与できている。

 

――ヴン

 そしてすべての結界術式永続化して完成。


「はい、これで結界の出入り口は製作したので、後の管理はお任せします。そうそう、人間なら誰でも出入りできるので、しっかりと見張りは立てておいてくださいね」

「それは分かった。では、後は我々に任せてくれ」


 結界装置関連の引き渡し書類にサインをして、これで俺の管轄から防衛省へと移行。 

 目の前の広大なジャングルについては、好き勝手やってください。


「そうですね。では、お任せします……ってちょっと待て」


――キーンコーンカーンコーン……

 やっべ、予鈴が鳴っているじゃないか。

 それに気が付くと、さっきまでいたはずの祐太郎もいないんだけど。


「築地くんなら、乙葉君が作業を始めた時に『先に行っているって伝えてくれ』と話していたが?」

「あ、そういうことね……つて、それじゃぁ!!」


 走れ、とにかく早く走れ俺。

 校内は走るなと言われても、遅刻よりはまし。

 ということでギリギリ教室にとこびこんで席について、ホッと一安心したところで担任もやって来る。よしよし、せふせふ。


 あとは授業を受けるだけ。

 うん、のんびりとした楽しい授業を堪能させてもらうことにするよ。

 平和って、いいよなぁ。


………

……


──放課後・視聴覚室準備室

「それで、なんで俺がここに呼び出されているわけ?」


 放課後。

 のんびりと部活に向かう途中。

 急に校内放送で呼び出されたんだけれと。

 それも職員室とか校長室ではなく、視聴覚準備室へ。

 そしてそこに待っていたのは、あのうさん臭い細川教頭ひとり。


「ああ、遅かったな。早く視聴覚室に入り給え、取材陣の方々が待ちわびているのだからな」

「……はぁ? 俺、取材を受けた記憶はありませんが?」

「学校前の住宅地の騒動の一件、関係者である君が説明をしないで誰が説明をするというのだね?」

「はぁ……俺、関係者じゃないですけれど? まあいいや……」


 そのまま準備室を出て、視聴覚室の教壇に立つ。

 どうやらテレビカメラまで持ち込んでいる報道局もあるらしいので、まず俺は最初に一言。


「ここに来ている取材陣、報道局は以後、俺が異世界に行く時も出入り禁止な。絶対に異世界へ同行なんてさせねぇし、転移門(ゲート)自体に出入り禁止の処置するから覚悟しろよ……ということを踏まえて、この場で俺に何か質問があるテレビ局、いる?」


 前置きの直後。

 報道関係者がざわつきはじめたのち、『細川教頭に取材許可を貰った』だの、『君が説明しないでどうする』だのと、開き直って叫んでいる。

 うんうん、しっかりと鑑定してどこの報道局なのか確認させてもらいましたよっと。

 そのうえで、HTN放送が来ていないことを確認。

 さすが、以前幼稚園でのお祭りの取材時に話をしただけのことはある。

 

「まあまあ、全てはうちの細川教頭の独断専行です。ええ、僕の意見なんて無視して、自身の出世のために生徒を使い捨てようとしたら、あまつさえどこから入手したのか、催眠系魔術まで覚えていましたからね……あ、そこのカメラ、回っていましたか、それは失礼」


 うんうん。

 中継ランプがついていたのには気が付かなかったよ。

 いゃあ、やっちまったかなぁ。

 そう思っている矢先、視聴覚室の扉が勢いよく開き、真っ赤な顔の細川教頭が入って来たんだけれど。


「お、乙葉浩介、貴様は退学だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 あ、今のセリフもカメラに映っていますか。


「あの、細川教頭? 僕が退学って、どんな理由ですか?」

「煩い……煩いだまれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ。貴様なぞ、私の一声でどうにでも……」


 そこまで叫んでから、カメラがまだ回り続けていることに気が付いたようで。

 しっかし。

 未だ妖魔蟲に憑依されたままなのかよ。

 まあ、そいつのせいで精神がわやくちゃになり、出世欲の塊のようになっているんだよなぁ。

 さっきから教頭の体自体にも悪影響が出始めているのもわかるし、これは一発、無理矢理にでも妖魔蟲を引き剥がさないと命に関わるからなぁ。

 ということで、そろそろ種明かしと教頭の名誉回復だけでもしておきますか。


「ストーーーップ。乙葉浩介が誓願する。神代の力よ、我が手に宿れ。かの者に憑依し魔蟲を、魂より引き剥がしたまえっっっ」


 空間収納(チェスト)から引っ張り出した、一撃必殺のハリセン。

 うん、以前、破壊神マチュアに加護くださいって請願するたびに出現していた謎のハリセンです。

 こいつに先ほどの聖徳王の秘術を付与して、勢いよく細川教頭の背中に回り込んで。


──スパァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン

 ミスター・フルスイング。

 ボストンレッドソックスの本拠地であるフェンウェイパーク、その外野にそびえたつグリーンモンスターと呼ばれる高さ37フィート2インチの左翼フェンスも越えられそうな勢いで、細川教頭の背中をブッ叩いた。

 その瞬間。


──キェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ

 絶叫しながら、教頭の体内から巨大な人面芋虫がはじき出され、壁にたたきつけられて絶叫を繰り返している。

 そして集まっている関係者は絶叫。

 そりゃそうだ、まさかこんな目の前で、人間の体から妖魔蟲が飛び出すシーンなんて想像していないだろうから。


「あれが、教頭先生に憑依していた妖魔蟲です。人の心を支配し、欲望のままに操る……そうか、教頭もこの妖魔蟲に操られて、あんなことを叫んでいたのですね!!」


 そう、カメラを意識して叫ぶ。

 ん、誰か今、大根役者って言わなかった? まあ、いっか。

 しっかりと体内から化け物を引き剥がすシーンまで撮影してくれて、ありがとうございます。

 まあ、ここにいる報道関係者もこいつに操られていた教頭に(そそのか)されたという事で、今回の件は不問という事に。

 

 あとは、妖魔蟲を封印処理してゲームオーバー。

 その一部始終もライブ中継してくれたみたいだし、多少は取材協力になったかな?


………

……


──同時刻、北大

 講義を終えた雅が下校しようと荷物を纏めている最中。


『……瀬川雅、妾の声がとどいていますか?』


 それは綺麗な女性の声。

 それがゆっくりと脳裏に響いてくる。


「これは……まさかとは思いますが、御神楽様でしょうか」

『いかにも……其方と、新山小春に頼みがある。妾の神域へ至急、来てほしいのです』

 

 まさかの御神楽様からの要請に、雅もどうしたものかと考え始める。

 

「頼みというのは……今は説明できませんか?」

『霊脈と龍脈、そこに食いつき支配領域を広げつつあるものがおる。そやつから霊脈を開放するために、力を貸してほしい』


 その説明で、雅も頷く。

 そのために、雅たちは御神楽さまの元に向かい、話を聞きたかったのである。それがまさか、このタイミングで御神楽様からの連絡が届くとは予想もしていなかったのである。


「分かりました。新山さんについては急ぎ連絡を行い、そちらに向かうようにします。それで……乙葉くんや築地君には、このことを伝えて構わないでしょうか」

『構わぬが、二人には遊撃を頼みたいと伝えておくれ。すでに、世界各地で転移現象が頻発に発生しています。それに伴い、大量の魔力が地球上に吹き荒れ、災禍の赤月の活性が早まりつつあります』


 そして、転移現象が進み過ぎた場合、最悪は二つの世界が重なり、崩壊現象が始まるとも。

 その話を聞き、雅は頷く。

 目の前に広がる深淵の書庫(アーカイブ)でも、御神楽さまの説明と同じ終局がやってくる事を示唆していた。


「解りました。では、急ぎ新山さんを説得して、そちらへ向かいます」

『頼むぞ……』


 それで念話は途切れる。


「……ふぅ。予想よりも、世界の終わりが近いっていう事よね。これは一刻も早く、神域へ向かう必要があるわね」


 そう呟いてから、雅は小春の元へ連絡を入れる。

 そしてその日の夜、二人は魔法の絨毯で東京へと飛んでいった。

いつもお読み頂き、ありがとうございます。


・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。



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