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【書籍化】ネット通販から始まる、現代の魔術師  作者: 呑兵衛和尚
第九部・終わりの始まり

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第五百二十八話・(いやいや、あんたなにやらかしているの!!)

 俺の通っている北広島西高等学校。


 開校当時は学校前には広い空き地が広がっていて、そのずっと向こうに国道が走っていたんだよ。

 近所のバス停はそこ一か所のみ、学校に通うにもそこのバス停を利用するか、結構離れた場所にあるJRの上野幌駅から歩いて三十分……っていう感じで。

 瀬川先輩たちが入学したあたりで、いっきに周辺環境が整備され、学校の玄関口近くにバス停が増えたり、コンビニが出来たりと開けてきたんだよ。

 当初は購買部もないし食堂だって存在しなかったらしいから、今のこの環境はとってもありがたくて涙が出て来るよ。


「……とまあ、現実逃避はこの辺にしておくか……」


 そして俺の目の前には、現実世界が広がっている。

 住宅地の周辺は、広大な森林地帯。

 それも、俺が鏡刻界(ミラーワーズ)で見たことのない植生と、とんでもなくじっとりと湿った大気。

 ラナパーナ王国よりもかなり南方なんだろうと推測できるけれど、この結界の向こうに広がっている森林地帯をうろうろしている、巨大な生命体はなんでしょうか。


「はぁ。今度、白桃姫に鏡刻界(ミラーワーズ)の生体について学んだほうがいいか。まさか、恐竜が徘徊しているだなんて想像もしていなかったからさ」


 スマホ片手に撮影開始。

 尻尾も含めた全長はざっと六m、四足歩行のトリケラトプスのような奴で、頭に角が五本も生えている。体毛は灰色から白に近く、保護色的な役割は成していないように感じる。

 そんな恐竜のような生命体が、のんびりと立ち止まってはそのあたりの植物をムシャムシヤと食べている。これは恐竜学者とかが見たら絶叫して近寄っていくタイプだよ。


「まあ、まずはこの住宅地を結界で包んだので、安全性は確保と……問題は、この大気成分だよなぁ。魔素を含んでいるから、結界で包んであるとはいえ住宅の風化は進むだろし。住宅保険がどう判断するかだけど……まあ、俺には関係ないからいっか」


 という事で安全性は確保したし、魔法でサーチしてみたけれど、残っている人も存在しない。

 それなら後は、帰るだけ。

 周辺調査で結構な時間が経過したけれど、今頃は祐太郎と新山さんが上手くやっているだろうさ。

 

――シュンッ

 鍵を取り出して転移門(ゲート)を開き、学校前に出て……。


――カシャカシャカシャカシャッ

 大量のフラッシュとカメラの山。

 大勢の報道関係者が、転移門(ゲート)の前で待っていた。


「乙葉浩介さん!! 異世界から戻って来たのですよね、一言お願いします」

「ここに存在した住宅地が異世界と入れ替わったという情報がありまして。できれは、その状況を取材させていただきたいのですが。ええ、出来れば我々も。異世界へ連れて行ってほしいのです」

「もしも避難している方が一時帰宅したいと仰った場合は、また転移門(ゲート)を開くのですよね?その時は同行させていただきたいのです!!」


 うん……うっとおしい。

 

「ちょっと待った!! 気持ちはわかるけれどさ、申し訳ないけれど貴方たちを異世界に連れていくことは出来ないから」

「どうしてですか!!」

「ぜひともお願いします。なんでしたら泊りがけでも構いませんので!!」


 うん、まったく引く気がない。

 転移門(ゲート)なんて妖魔特区でしょっちゅう開いていたし、別に珍しいことでは……と、そういうことか。

 ここが妖魔特区じゃないから、取材として押し寄せて来たのか。

 妖魔特区の場合、白桃姫の管理している大通一丁目ラティエ領には無断で立ち入ることはできない。

 そして以前は、そこに存在していた札幌テレビ城の真横に水晶柱があり、そこで俺はゲートを開いていたからだな。

 一丁目の外からカメラを回すことはできても、ここまで近くにやってくることはできなかった。

 けれど、ここは北広島市であり、白桃姫の管理区域ではない。

 つまり取材については自由であると。

 

「ストーーーーーーップ! それじゃ、俺が異世界へ連れていく約束をしている人がいる。その人の後になら、報道関係者を取材として連れていくことはやぶさかじゃない。ただし、一度につき一社のみ、時間は一時間だけだ。ということで、まずはその申請を内閣府退魔機関第二課に申請して下さい。尚、一度でも俺の逆鱗に触れたことのある報道局については全面禁止とする。あと、最初に約束した人との契約があるので、そっちが終わるまでは無理だからね!」


 そう、その場に居合わせた取材陣に向かってゆっくりと説明。

 ここでごねるということは、俺の逆鱗に触れるという事になると判断したらしく、取材陣は黙っている。

 だが、勇気ある記者もいるようで、手を上げて質問をしてきた。


「一つ教えてください。乙葉浩介くんが約束している人はどなたですか? その人がいつ、異世界に行くかによって、我々の方としても異世界に向かう準備がありますので」

「まあ、それもそうですよね。ではご説明します。一番最初に異世界へ案内するのはアメリカの大統領、つまりパワード大統領とその側近です。日時についてはねちょっと今かかえている案件が終わってから。それがいつ終わるのかについては見当もついていません……が、皆さんはパワード大統領が異世界へ向かった後になりますので」


 そう説明をすると、皆、口をカコーンと開いて呆然としている。

 そりゃそうだよ、あわよくば最初の一人に同行しようとしていたんだろうからね。

 

「あと、この住宅地に住んでいた人が一時帰宅を求めた場合は、こっそりと送り届ける予定ですので。つまり、取材には応じない、これもさっきの説明通り。異世界へ取材をするのなら、窓口に申請しろ、今抱えている案件が終わるのを待て、パワード大統領の次な!! 以上、はい解散っ」


――パーーーーン

 力いっぱい両手を叩くと、どうやら納得したらしい取材陣は、やや不満そうな顔をしているもののその場から立ち去っていった。


(オトヤン、そっちは大丈夫か? 取材陣が帰っていったみたいだが)

『応さ、後日取材を受け付ける約束をして、一旦お帰り頂いたよ』

(ということは、災禍の赤月が終わって、パワード大統領を異世界へ招待してからっていうことだよね? 大丈夫なの?)

『ん~、一度でも連れて行っておけば、あとは別にいいんじゃね? 追加を頼まれてもさ、『予定が詰まっていますので』って断ればいいんだし』

(蛇の生殺しか……と、そうそう、避難してきた人たちは、一時的にだけと学校の体育館に収容されているからさ。あとは学校と北広島市の判断待ちっていう事かな? 俺たちへの窓口も第二課にって話はしてあるから)

(一応だけれど、あっちから帰って来た人全員に診断(ディアグノーシス)は施してあるよ。全員被ばくしているけれど健康そのもの、病原菌などの持ち込みもないから)


 さすが、祐太郎と新山さんは仕事が早い。

 安心して任せていただけのことはある。


『一度、そっちに合流するわ。ついでに数日は帰れなくなるだろうからって説明しておいて。日用品とかの持ち出しについては、一時間後に希望者を募って行うって。あっちでの滞在時間は30分、あとは都度、要請があったら検討するって』

(了解。新山さんは避難している人達に説明してきてくれるか、おれは職員室にいって説明してくる)

(了解、乙葉君、それじゃあまた後でね)


 うん、プツッと念話が途切れる。

 さて、これでここでのやることは完了したかな……。

 と思った矢先、忍冬師範からスマホで連絡が届いたので、現状と今の対策について一通り説明。

 ここから先は退魔機関が主導で動き、自衛隊にも協力を要請するらしい。

 多分だけれど、炊事車利用とか銭湯とかをグラウンドに設置するか、あるいは目の前に広がる森林区画を切り開くんだろうなぁ……。


「って、やっべ、森を結界で包まないとやばいわ、誰か立ち入ったりしたら危険だからな!」


 新山さんたちに合流する前に、大急ぎで学校前大森林地帯を結界装置で囲っておくと、ようやく体育館へと移動。

 ちょうど忍冬師範たちも合流したので、チーム分けして自宅から荷物を回収することにした。

 取材陣も帰ったのでよけいな邪魔もないし、じつに穏やかな回収作業だったよ。


………

……


――その日の夕方

 日本は、信じられない光景を見る。

 突如、異世界へと吸い込まれるように消えていった住宅地。

 その外側に広がる大森林地帯。

 見たことのない生物が大森林を徘徊し、時折、乙葉浩介の手によって張り巡らされた結界に向かって体当たりを行っている。

 そのような映像が、夕方のKHK(国民放送協会)のニュースに流れていたのである。

 異世界への取材については、乙葉が散々釘を刺した。

 つまり、自分たちで向かうことが出来ない限り、このような映像を入手することは不可能。

 だが、それは本当に、偶然の出来事であった。


 避難民の中に、KHKの報道関係者がいたこと。

 そして彼自身は体育館に避難した者たちの取材をしていたので、乙葉と取材陣のやり取りを知らなかったこと。

 荷物を取りに行ったとき、彼の家が結界の真横近い場所であったこと。

 そして自宅にあったハンディカメラで映像を撮影し、避難場所に戻ってから札幌支社に連絡をいれたこと。

 

 そして、独断専行でKHK札幌放送局が、それをニュースとして使用。

 撮影者である、KHK札幌放送局の進藤記者は、スクープを取ってきたために社内で表彰される事となるが、それはまた別の話である。

 なお、このニュースを自宅で見ていた乙葉浩介は、しばし呆然としたのち忍冬師範の元へと連絡。

 現在、数多くの問い合わせにより第二課の機能がマヒしている事を知ったのである。



いつもお読み頂き、ありがとうございます。


・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。



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