第五百二十七話・一触即発、論より証拠(転移現象がはじまった)
白桃姫が霊脈の異変を感じ取り、その解決策として瀬川先輩の深淵の書庫の真の力を開放しようとしましたが。
残念なことにマスターコードとやらが書き換えられてしまったため、新たな鍵が必要になったとかで。
そし、その鍵を持つのが、以前俺や瀬川先輩が出会った、御神楽様ということを先輩が伝えてくれましたので、俺たちは地下遺跡にて儀式を執り行っている御神楽様との謁見をお願いしたのですが。
一週間経ちましたが、未だ返答は帰ってきません。
そして今日も今日とて、学校です。
まあ、三年生の三学期最後ということもあり、授業らしい授業というのはあまりなく。
ほとんど消化試合のような感じで学校に通っているわけでして。
――北広島西高等学校
「いよいよ、あと二週間で卒業式か……」
「本当、色々なことがあったよなぁ」
「私は、卒業できると思っていなかったので……うん、今でも乙葉君には感謝しているんだよ?」
今日は2月15日。
今だ御神楽さまとの謁見許可が出ていないため、いつものように学校に出て高校生活最後の授業を受けている真っ最中でした。
ちなみに俺と新山さんは北海学園へ推薦入学が決定、祐太郎も北大に通いつつ親父さんである築地晋太郎議員の警備のアルバイトをするらしく、あと二週間間で俺たちはそれぞれの道を進むわけでして。
まあ、魔術研究部OBやOGになっても、いつも通り連絡を取り合って色々とやることは決まっているし、なによりも隣の家だからなぁと。
「はいはい、教室内ではイチャラブ禁止な。卒業間近で、最後の望みに掛けようとしているソロプレイヤーたちがイラついているからな」
「あ~って、別にいちゃついていないからな」
「それよりも祐太郎はどうするんだ? 祐太郎ファンクラブは継続して活動するらしいって聞いていたけれど」
「それについてはあいつに任せてある」
グイッと親指で立花さんを指さしているんだが。
ああ、彼女が築地祐太郎ファンクラブを取り仕切っていたんだよなぁ。
「あいつ………ねぇ。随分と砕けていらっしゃることで。付き合っているんだよな?」
「まあ、な。それよりも、そろそろ予鈴が鳴るんじゃねーのか?」
「おおっと」
祐太郎に促されて、俺は急ぎ席に戻る。
そしてチャイムがなるまえに次の授業の準備を……。
――ドッゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ
鞄に手を突っ込んだ瞬間、窓の外から爆音が響き渡った。
まるで何かが爆発したような、そんな音が響き渡り、窓ガラスがビリビリと震えていた。
窓の外は真っ白い雪がもうもうと吹き荒れていて、一体何が起きたのかまったくわからなかったんだけれど。
「おい、なんだあれ」
「町だよな………いや村か? それよりも住宅地ってどこに消えたんだ?」
窓側の生徒が、窓の外を眺めて口々にそう呟いているんだけれど。
その声と同時に、俺と祐太郎は窓辺に向かってダッシュ、外を睨むように見てみたんだけれど。
「……最悪だな」
「ああ、最悪っていうもんじゃないよなぁ……」
そう呟いてから、俺と祐太郎は教室の外に飛び出す。
そのタイミングで心配そうな表情の新山さんに念話を送ると、すぐに俺と祐太郎は戦闘モードで正面玄関から飛び出すと、道路を挟んで向かい側に出現した大森林に向かって走り出した。
ああ、予想の斜め上だよ、精霊樹を中心に始まると思っていた『双方向転移現象』が、まさが学校の前で発生するとはね。
それも、何処かの深い大森林と、ついでにそこに住んでいたらしい巨大なドラゴンまで連れてきてくれるなんて……。
「って、ちょいまち、祐太郎。この住宅街って、鏡刻界の大森林のど真ん中に出現したっていう事だよな!!」
「ああ、だから最悪なんだって……来るぞ!」
俺たちの姿に気が付いた、緑色の鱗を持つドラゴン。
体長は12mぐらい、あっちたの世界でいうスモールドラゴン種は、俺たちを見て舌なめずりすると、全力で走ってきたよ。
「祐太郎……一人でいけるか?」
「どうだろな。まあ、出来る限りやってみるわ。オトヤンはどうするつもりだ?」
「そりゃあ、この場所で、あっちの世界に向かう扉を構築するよ。せめて結界だけでも張ってみるか、もしくはこっちに連れて帰って来てみるさ」
精霊樹を媒体としない、異世界への転移門。
以前なら鏡刻界で、水晶柱を媒体に転移門を構築できたけれど、今の俺はそんなものは必要ない。
聖徳王の天球儀に記されている『永遠の旅路』という術式を用いることで、あっちの世界へと繋がる扉は構築できる。まあ、精霊樹があればより安定するし、余計な神威を消耗することは無いんだけれどさ。
今はそんなことを言っている余裕はないっ、ということで!!
「さてと。肩慣らしで……ブライガー起動」
――シュンッ
一瞬でブライガーの籠手with勇者装甲から進化したらしい装甲闘着を身に着けると、そのまま低い姿勢で拳を構える。
うん、ありゃ任せて大丈夫だわ、拳に暗黒闘気も纏っているわ。
「そんじゃ、そっちは任せたわ……転移門・接続」
――ジュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ
目の前の空間に、転移門をイメージした扉を作り出す。
そして両手を翳して扉を開放すると、そのまま戸惑うことなく中にはいり。
――ガヤガヤガヤガヤ
はい、北広島西高等学校前の住宅街が広がっていました。
ちなみに自由宅外の四方は広大な大森林、一体何が起こったのかと不安そうな住民の皆さんが家から出てきて話をしている真っ最中です。
ということで、俺はこの場で音声拡大の術式を起動。
「はい、北広島西高等学校3年2組の乙葉浩介です!! 現代の魔術師といえば分かってくれますか? 今、この場所は危険なので、皆さん俺の近くまで来てください!! 詳しい事情はここで説明しますので!!」
大声で叫ぶと、ちょうど俺が突然現れた扉から出てくるのを見ていた人たちが集まってくる。
さらに声が届いたらしい人たちも集まってきたので、まずは簡単な説明を。
「世界各地で、原因不明の空間転移現象が多発しています。それで、うちの高校の前の住宅街も運悪く巻き込まれてしまったらしく、俺が助けにきました。この転移門の向こうは高校の前に繋がっていますので、10分後に門を超えて学校に避難してください」
「ど、どういうことか分からないけれど、ここは危険なんだな?」
「ちょっとまってくれ、貴重品だけ持ってくるから」
「なあ、君の魔法で街ごと元に戻せないのか!!」
などなど、いろいろなご意見ご要望有難うございます。
すぐに転移門の外に出さない理由は、祐太郎がドラゴン相手にバトっている最中だから。
10分もあれば片付くでしょ? きっと。
「はいはい、流石に俺の魔法でも、町ごと転移すなんてできません。いくらなんでも、無茶すぎます。なお、これは自然災害のようなものだと思ってください」
「なんだよ、ふざけるなよ!!」
「とっとと避難させろよ!!」
そんな声も聞こえてきますし、貴重品を取りに行った人たちが近所にも声がけしてくれたらしく、10分後にはかなりの人たちが集まってきましたよ。
まあ、土曜日の昼前なんで、子供たちの姿もあちこちに見られているし。
「ちなみにですが、家族の中で姿が見えないといった人はいませんか? この場所はまだ安全ですけれど、町の外は異世界の大森林です。化け物が徘徊しているので大変危険ですので、今一度、家族全員がいるのか確認してください」
そう叫ぶと、すぐに集まった人が家族が揃っている確認してくれた。
そしてどうやら欠員がいないことが確認できたので、時間通り転移門を開き、そこから住宅街の住民の皆さんを転移門の外へ誘導。
外では祐太郎と新山さんも、立花さんが待機してくれていたので、住民については一旦高校まで避難するようにお願いして、おれはもう一度異世界へ。
「……うん、本格的にやばいよなぁ……」
ちょうど転移門から住宅地に移動したとき。
青空に、ぽっかりと三つの月が浮かびあがっているのがはっきりと見えた。
災禍の赤月が、本格的に動き始めている。
「さて……せめて、町の外周部を結界で包んでおきますか。万が一にも元に戻ったとき、町の中に入り込んだ化け物を連れて転移しないようにしないと……」
結界発生装置をセットして、町をこのまま保存するとしますか。
ついでに、この森の場所が何処なのか、ちょっと調べてみたい気もするのでね。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




