第五百二十一話・(終わりよければ全てよし……ってそんなわけあるかぁぁぁ)
『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週火曜日と金曜日を目安に頑張っています。
ボルチモアの連邦捜査局。
そこで俺は、アメリカ大統領とヘキサグラム責任者の二人と邂逅。
邂逅というか、俺の冤罪を晴らして貰うための交渉中である。
「まあ、こちらとしても要求を二つも飲んでくれるとは予想外であったが。では、さっそく細かい条件のすり合わせと行こうじゃないか!!」
「はぁ、実に楽しそうでいいっすね」
うん?
まさかとは思うけれど、最初の三つの要求って、俺、ふっかけられた?
しかも、それに対して二つならって俺がいっちゃったっていう事だよな。
ひょっとして、一つって言っても問題なかったんじゃないか?
「ほら、やはり現代の魔術師は寛大だったじゃないか」
「ええ……こういう場での交渉については、本当に素人レベルでしかないということも理解できましたよ。それで乙葉くん、条件の一つは、私たちヘキサグラムに【災禍の赤月】についての情報を頂けるという事で問題はないかしら?」
「待ち給え、そうなると我が合衆国としての要求は一つしか通らないじゃないか。ここは二つとも、合衆国に譲り給え」
目の前でジョージ・パワードとアナスタシア・モーガンが言い争いのようなことを始めているんだけれど。
「なあ、キャサリン。ひょっとして俺って、嵌められた?」
「イエース。今回は一つでも条件が通れば御の字だって、大統領は話していました」
「なるほどねぇ。それじゃあ、交渉を始めるとしますか」
そっちがそういう態度なら、こっちにも考えはあるさ。
まあ、これで無事に日本に帰ることができるし、伯狼雹鬼の件については、今後の対応ということで日本に戻ってから考えさせてもらうさ。
「パワード大統領。さっきの条件二つですが、俺が選びますけれどいいですね?」
「ん、んん……まあ、そういうことなら仕方がないか。こちらとしては三つ条件を提示したのだ、そのうちの二つを君が選ぶのであれば、それはそれで構わない」
「ええ。ヘキサグラムとしても異論はありません」
「それじゃあ一つ目。俺が日本に帰ってから、【災禍の赤月】について瀬川先輩と情報のすり合わせを行います。そのうえで、そちらの情報をヘキサグラム本部に送りますので、よろしいですか?」
この問いかけにアナスタシア女史は満足そうに笑みを浮かべている。
「ええ、それで構わないわ。ヘキサグラムとしても、災禍の赤月という事象についての情報がほとんどないに等しいのよ。協力者である方からの情報提供だけでは、どうしても詳細を知ることができなくてね」
「わかります。俺もこの情報を得たとき、地球崩壊までの秒読みが始まったって思っていましたから。ということで、後日改めてということで」
「そうね、よろしくお願いします」
俺とアナスタシア女史はがっちりと握手。
その横では、パワード大統領が小さな声で。
(そうなると、合衆国は魔導師育成プログラムを得ることになるのか……)
うん?
どうしてそういう結論に達するのか……って思ったけれど、俺は日本政府から執拗なまでに『転移門』の開放を求められていても、絶対に開くことは無かったからなぁ。
その情報を知っているからこそ、不可能である『異世界へ向かいたい』というのも混ぜたんだろうなぁ。そうすれば、もう一つは無茶な条件であっても、そっちを俺が選ぶだろうから。
だが、この乙葉浩介、開き直ったら怖いですよ。
「ではパワード大統領。災禍の赤月騒動が終結した時点で、アメリカ合衆国の代表三名を、異世界・鏡刻界へとご案内します。今のうちに、誰を送り出すのか選出しておいてください」
「……ん?」
「そうですねぇ。向こうの宿については、高級ホテルなんていうものは存在していませんので、町の宿を使うことになります。ああ、撮影機材や記録媒体の持ちこみも自由ですけれど、物品の売買については自己責任でお願いします」
「ま、待て、君は何を言っているのだね?」
ようやく、俺が何を話しているのか理解してくれたらしい。
真っ青な顔で、俺の言葉を制してきましたよ。
「いえ、ですから二つ目の条件ですよ。おめでとうございます、パワード大統領。国家元首としては、アメリカが初めて、異世界に足を踏み入れることになりますよ」
「どうしてそうなるのかね? 日本ではあれだけ、異世界へ向かう門を開くことを拒んでいたじゃないか」
ああ、やっぱり情報を得ていますよね。
「だって、俺は学生で平日なんて学校があるのですよ? そんな中で、一週間も視察団の同行なんてできるはずありませんよ。それに、送り出しました、はいおしまいなんていう無責任なこともしたくありませんし、一週間後に時間を決めて、こちらから門を開きますなんていうこともできませんので」
そもそも、月齢に合わせて門の接続地点は微妙にずれていくからね。
地球に戻って来る最適解は、『向こうから俺が門を開く』でファイナルアンサーなんだよ。
それに、アメリカ合衆国の軍人相手に魔術のレクチャーなんて御免被る。
これで魔術に覚醒でもされたら、世界の軍事バランスが大きく傾くことになるんだよ?
それこそ、『乙葉浩介は日本を裏切った』なんて言い始める政治家だって出てくるに違いないよ。
まだ、地球は魔術を身につけるには早すぎるとおもうからさ。
最近読んだ小説で、『異世界から戻って来た女子高生が陸自の空挺団に所属する」っていう作品があったんだけれど、その作品の女性主人公の発想は『魔法を学びたいなら教えますよ、適性があればね』って、意外とフリーランスな発想だったんだよなぁ。
俺には真似できないわ。
誰彼構わず身に着けて、制御できなくなったら大変だからさ。
「い、いや、もう少し考えてもいいのではないかね?」
「いえ、これで決定です。そちらの三つの条件のうちの二つ、確かに選択させていただきました。『ヘキサグラムへ情報供与』と『異世界への門を開く、六泊七日異世界の旅』でお願いします。あ、サイコロとボードはこちらで用意しておきますので」
「「ブホッ!」」
最後のは緊張感を解すためのギャグだけれど、どうしてキャサリンとマックスの二人が噴き出しているんだ?
ああ、テレビ局の企画として、『異世界サイコロの旅』っていうのもありかも知れないよなぁ。
一度でも門を開いてあっちに人を連れて行ったら、どの国でもこぞって申請してきそうだけれど。まあ、今回のケース以外の転移門解放要請については、俺にとっての旨味でもない限りは却下だよ。
だって、一週間も時間を拘束されるし、このまま無事に『災禍の赤月騒動』が終結したとしても、俺は大学入学やらなんやらと、いろいろとイベント盛りだくさんだからね。
一週間なんて時間、作れるとは思えないからさ。
そもそもだ、華やかな高校生活を返して貰いたいぐらいだよ。
「うん、これでこの話はおしまいだよ……って、なんで俺が妄想大爆発している最中に、パワード大統領がシオシオになっているの?」
「まあ、ちょっと描いていた軌道が、予定より大きくずれちっゃたらしいから。ということで、この話はこれでおしまいでいいのですよね?」
「ああ、それではそつちの方向で頼む」
うん、覇気がなくなっているので、ちょっと申し訳ないなぁと思いつつ救いの手を。
「パワード大統領、異世界では魔術を学ぶための道具や魔導書も販売されています。何らかの方法でそれを入手できれば、ヘキサグラムで解読可能だと思いますよ?」
「え、そうなのか?」
「そうですね。私どもは、異世界・鏡刻界の言語の解析は成功していますので」
アナスタシア女史が合いの手を入れてくれたおかげで、パワード大統領に生気が戻っていった。
はぁ、これで話し合いは無事に終了。
ウキウキ気分で帰っていくパワード大統領とアナスタシア女史を見送ってから、俺も独房へと戻る。
事務手続きの関係で、俺の釈放は明日の夕方になるらしい。
それまでは自由にしていて構わないっていう事で。
やっと、帰れるぞぉぉぉぉぉぉぉぉ。
クローン事件? 伯狼雹鬼?
そんなのもう面倒くさいからどうでもいいわ。
あとはここを出てから、帰ってから考えるっていう事で。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




