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【書籍化】ネット通販から始まる、現代の魔術師  作者: 呑兵衛和尚
第八部・狂乱のアメリカ

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五百二十話・三顧之礼? 羹に懲りて膾を吹くかな(大統領相手に交渉ですか?)

『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週火曜日を目安に頑張っています。

──香港・黒龍会本部

 体内に眠らせてあった破壊神の残滓、それが突如として暴走を開始したため、伯狼雹鬼(はくろうひょうき)は急遽、香港の黒龍会本部ビルへと強制転移した。

 そもそも魔族としての力の大半を失っている伯狼雹鬼(はくろうひょうき)は、転移など操ることは不可能。そのため試製・神の器に封じられていた幽世転移(ゆうせいてんい)という聖徳王が残した魔術を発動したのである。


 その結果、黒龍会本部の社長室に直接転移すると、すぐさまソファーに体を横たわらせつつ。必死に体内から溢れ出る破壊神の神威を押さえようとしている。


「ぐっ……収まれ……いいから静かにしろ、お前と乙葉浩介の間にどんな因縁があったかなんて俺は知らない。だが、今おれが死んだりしたら、お前は未来永劫、元の肉体を取り戻すことはできない……それは絶対に忘れるな?」


 右手を神の器にあてがい、全力で叫ぶ伯狼雹鬼(はくろうひょうき)

 すると彼の言葉に呼応したのか、溢れ出す神威が急速に収まりつつあった。


『ええい、いまいましい……またしてもあの糞創造神が関与しているのか……』


 伯狼雹鬼(はくろうひょうき)の顔の右半分がどす黒い霧に包まれると、彼とは異なる低い声でそう呟いている。


「ふん。貴様がその創造神だか破壊神とどんな因縁があったかなんて俺は知らん。だが、奴を相手するのなら、それなりの準備が必要だと覚えておけ。あんたを受け入れてから、俺の体が急激に衰えていき始めた……だが」

『分かっている。貴様は殺しはしないさ。それよりも、今はより強い力を取り込んだ方がいい。あ奴もまた、己の力を自在に操れてはいない、だからこそ、今度は奴を捕まえてこの体に取り込んで喰えばいい』


 取り込む? 喰う?

 そんな能力など伯狼雹鬼(はくろうひょうき)は有していない。

 だが、その破壊神の残滓の言葉の直後、胸元の神の器から全く異なる力が溢れてきた。


「こ、これは……まさか使徒の、オールデニックの力なのか」

『ああ。今のこの肉体では、もって半月というところだろう。災禍の赤月が完全覚醒するまでは、我も貴様も生きて居られない。だからこそ、今は生きる道を探せ、より強靭な魔族を捉え、取り込んでしまえばいい』

「それなら……乙葉の恋人である新山小春、あの女を喰らえばいいのではないか」


 回復魔術の使い手、聖女の称号を持つ癒しの勇者・新山小春。

 彼女の力があれば、傷つき弱ったとしてもすぐに回復は可能なはずだが。


『残念だが……あの女の癒しの力は治癒神シャルディの力、ゆえに、あの女を喰らったところで回復魔術を身に付けることはできない。まあ、今はいい、質より量、とにかく魔族を喰らえ。いいな……』


 そう告げると同時に、伯狼雹鬼(はくろうひょうき)の顔がもとに戻っていく。

 

「質より量……か。まったく、そんな強い力を持っている魔族など、そうそういてたまるか……」


 破壊神の残滓が深層意識の奥底に下がったことにより、伯狼雹鬼(はくろうひょうき)はようやく肉体の支配権を取り戻すことが出来た。

 そして椅子に座り直し、今後の事を考えようとしたとき。


──シュンッ

 彼の目の前に、魔神リィンフォースが転移して来た。


伯狼雹鬼(はくろうひょうき)さま、任務完了です」


 ソファーに腰かける彼の前に跪くと、頭を上げることなく淡々と報告を行う。そして次の指示が来るまでは待機になるか、もしくは新たな命令が下されるか。リィンフォースはじっと、その場で伯狼雹鬼(はくろうひょうき)の言葉を待っていた。


「ああ、そうか。ボルチモアでの囮任務を行っていたのだったな」

「はい。無事に任務は完了し、今まで摩周博士の元で治療処理を受けていました」


 破壊神ディラックにより魔神に昇華したリィンフォース。

 元は先々代十二魔将が第五位・色欲のルクリラという名前であった彼女は、今や伯狼雹鬼(はくろうひょうき)の右腕ともいえる存在にまで進化を行っていた。

 そしてそのような上質の素体を前に、伯狼雹鬼(はくろうひょうき)の中にある『オールディニックの核』が反応を示さない筈もなく。


「そうか、ご苦労だった……それじゃあ」


 伯狼雹鬼(はくろうひょうき)は右腕をリィンフォースの元へと向ける。

 その刹那、右腕が巨大な狼の姿に変化すると、一瞬で彼女の頭を噛み砕いた。


──ゴリッ、バギィッ、ゴキゴキッ

 ゆっくりと咀嚼を始める右腕の狼。

 一瞬で、しかも回復という目的のためだけに、リィンフォースはその命を散らせてしまった。

 やがて狼の顎が心臓部にある魔神核にまで達すると、かみ砕くことなくそのままゴクリと呑みこみ、神の器の中へと送り込まれていく。


──シュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ

 伯狼雹鬼(はくろうひょうき)の身体から金色の湯気のような陽炎が立ち上る。

 リィンフォースの魔神核と神の器が融合し、さらに伯狼雹鬼(はくろうひょうき)の魔神核ともリンクすることに成功した。

 それを確かめるように右手を開くと、軽く拳を握りしめる。


「……まあ、全盛期の四割、というところか。一割未満だったさっきまでとは違い、やはり魔神級の核は取り込むことにより新たな神化を得ることができるようだな」

『それは当然だな。我はそもそも、喰らったものの力を取り込むことが出来たからな』

「ああ、そうだったな。さて、体が動く今のうちに、もう少し回復させてもらうことにするか……」


 ゆっくりと立ち上がり、社長室から出ていく伯狼雹鬼(はくろうひょうき)

 そして入れ違いに戻って来た藍明鈴が、社長室に敷かれていたお気に入りの絨毯の上に食いちぎられた衣服が散乱しているのを見て、慌てて建物の中にいる警備員を呼びつけたのはいうまでもない。

 

………

……


──モグモグモグモグ

 うん、かつ丼ウメェ。

 独房に閉じ込められているとはいえさ、流石に食事はでてくるわけで。

 それがまあ、なんというかディストピア感満載な銀色のプレートに乗せられた、これまた原色のきっついペーストだったりスパイシーに焼き上げられた鶏むね肉だったり、ちょっと甘いマフィンだったり。

 あ、原色のペーストはマッシュポテトだったよ。

 あとはサラダがちょっとだけ、そして袋詰めクラッカーとビタミン飲料。

 ちなみに半分だけ食べて、あとは空間収納(チェスト)に収納しましたよ。

 だってさ、流石に量が多すぎたんだよ。

 だから半分だけ食べてしまっておいて、今はちょっと小腹が減って来たので、以前、こんなこともあろうかとセイコマートで購入しておいた『かつ丼』を一つ取り出して食べている真っ最中。

 というか、無事に食べ終わりました。


──ピッ

『乙葉浩介、五分後に面会だ、それまでに準備しておけ』


 頭上のスピーカーから聞こえてくる無機質な声。

 なんでも、ここの捜査官殺害についても俺が関与しているという容疑が掛かっているんだと。


「まあ、同僚殺しと思われているらしいから、そういうそっけない態度もわかるんだよなぁ。それで五分後ね、了解」


 準備といっても、上着を着るだけ。

 そして五分後には部屋の外まで警護官が迎えに来て、俺の両腕に魔法封じの腕枷が嵌められているのを確認してから、面会室へと向かいましたよ。


「ちなみに、面会ってうちの親父たち? それとも新山さんたちとか?」

「ヘキサグラムのアナスタシア・モーガン、そして我がアメリカのジョージ・パワードアメリカ大統領だ。面会室ではなく、応接室を使用する」

「ああ、ヘキサグラムの責任者さんと……ん? パワード大統領? いいの?」


 いくらなんでもさ、まだ嫌疑が掛かっている俺に直接会いに来るっていうのはないよなぁ。

 でも、モーガンさんと一緒なら、安全であると判断されたのか?

 そう思って応接室に案内されると、そこにはソファーにどっかりと座っているジョージ・パワードアメリカ大統領とアナスタシア・モーガンさん、そして二人の警備を担当しているらしいヘキサグラム・魔導セクションのキャサリンとマックスの二人が立っていた。


「……あ、キャサリン、久しぶりだね」

「久しぶり、じゃありませーん。いきなり姿が消えたと思ったら、訳の分からない事件に巻き込まれた挙句、連邦捜査局に逮捕されているだなんて、やることがおおざっぱすぎまーす」

「まあまあ、それで、二人が護衛という事で良いんだよね」


 そう告げた時、ソファーに座っているパワード大統領が俺の方を見て。


「うん、私を襲ったのは彼ではないな。まあ、座り給え、ここから先は、私たちと君との交渉だ。一国も早く自由になりたくはないかね?」

「司法取引……ですか。俺は犯罪者ではないので、この場合は『自己負罪型』ではなく『情報提供型』ということでよろしいですか?」

「話が早い、それに随分と司法取引について詳しいね」


 そりゃあ、もう。

 漫画やゲームで培った知識は伊達ではありませんよ。

 犯罪者本人が行う司法取引が『自己負罪型』っていって、俺は違うから情報提供だけの『情報提供型』に該当する。

 でもさ、この場合は誰の罪を減軽するの?

 俺の罪は数えても出てこない……筈だよ。


「まあ、色々と勉強していますから」

「それでは取引だ。一つ目は、君の知る【災禍の赤月】についての情報をヘキサグラムと共有すること。二つ目は、君が定期的にでも不定期でも構わない、合衆国の兵士に魔術をレクチャーすること。そして三つ目、一時的にでも構わない、異世界へと向かうゲートを開くこと。出来れば案内を頼みたい」


 淡々と告げるパワード大統領ですが。

 その全てっていうのは、ちょっと欲が深いんじゃありませんかねぇ。

 

「さすがに全てというのであれば、お 断 り し ま す。でも二つなら」

「よかろう、二つ、それを約束してくれるのであればすぐにでも釈放できるように手続きを行おう」


 よっし、上手くいった。

 これぞ乙葉式交渉術……って、そんなスキルはないけれどね。

 三つを二つに絞れたんだから、こっちの勝ちだよね。

 でも、二つに絞ったのに、何故かパワード大統領はニヤニヤと笑っているのはなんで?


 

いつもお読み頂き、ありがとうございます。


・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。



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