第五百十話・一世一代、洞が峠を決め込んだのか?(暴走するニセお兄様、貴方は堕落しましたわ)
『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週火曜日と金曜日を目安に頑張っています。
伯狼雹鬼の作戦。
それを遂行すべく、イエムセティイシスの二人はノーブル・ワン内部に潜入。
囮としてインナーハーバー付近にて暴走しているリィンフォースが撤退する前に、こちらも早々に新山小春を攫って行かなくてはならない。
だが、当のイエムセティが新山小春に一目惚れし、更に深淵の書庫内部にいる瀬川雅も一緒に攫って逃げようと算段を開始。
無理やりにでも攫って行こうと近寄っていていく二人の前に、ミラージュが割って入る。
さあ、小春たち三人の運命は如何に……。
「というかんじにテロップが流れるところなのよ」
「……はぁ? おいイシス、こいつは一体何者なんだ? このノーブル・ワンにいる現代の魔術師って奴等は、築地祐太郎と新山小春、瀬川雅の三人だけじゃなかったのかよ。こんな珍竹林の……ああ、そうか、お前も人造妖魔かよ」
ゴキッゴキッと肩を鳴らしつつ、イエムセティがイシスに問いかけるが、その様子を見てミラージュが額に指をあてて、頭を振った。
「やっぱりあなたもニセモノなのね。お兄様なら、怪しい存在と初めて対峙した場合、かならず鑑定スキルで相手を調べるわ。そののち、弱点を看破して適切な対処方法を模索しつつ、周辺環境に対してのダメージを考えて戦闘を開始するわ」
ビシッとイエムセティを指さして叫ぶミラージュだが、その背後の小春と雅はお互いの顔を見合った後、軽く頭を左右に振っている。
(乙葉君って、そこまで計算して戦っていましたか?)
(ええっと……先に作戦は立てていますけれど、あとはぶっつけ本番っていう感じですし)
(そうよねぇ……でも、ミラージュさんにとっては、そういうイメージなのよね)
ウンウンと納得する二人。
その最中にもイエムセティとミラージュの押し問答は続いいていたのだが、ついにイエムセティが業を煮やし、両手で素早く印を紡ぎ始めた。
「ああもう、ウゼェ……お前、死んでくれよ、なぁ?」
両手で印を組み終えると、イエムセティは両手を左右に広げる。
右手には灼熱の球体を、そして左手には凍える吹雪の結晶を生み出すと、それを同時に投げ飛ばしてきた。
「同時詠唱、からの投擲……うん、術式の完成速度も二流、術密度も二流、それを投げ飛ばすような扇子も二流。2×2×2で、貴方は八流の偽者であると決定しましたわ」
――パッチィィィィィン
両手を前に突き出し、同時に指パッチンするミラージュ。
その瞬間、高速で飛来して来た術式が二つとも消滅した。
「……ああん、なんだそりゃあ。消滅術式かと思ったら、魔力零空間を形成して、そこに対象の魔術を納めて消しただけじゃないか」
「そうともいうわ。でも、貴方相手なら、この程度で十分よ」
「ふざけるなよっ!!」
ミラージュの言葉にブチ切れるイエムセティ。
素早く印を組み始めると、先ほどよりも高速で術式を完成させ、さらに大量の魔術を同時に飛ばし始める。
だが、それらも全て、ミラージュの指パッチンにより消滅する。
ちなみにミラージュは魔力零空間の『壁』を形成し、自分の前に展開しているだけ。
そしてそのエリアにイエムセティの魔法が飛び込んできたタイミングに合わせて指を鳴らしているだけである。
一番最初の術式消失、そしてはったりを混ぜた種明かしを伝えることで、相手の判断能力を鈍化させて攻撃手順を単調化させたのであるが、そのことにイエムセティは気が付いていない。
本物の乙葉浩介なら、魔力の流れである程度の想像がついているのだが、実践経験の乏しいイエムセティでは、そこまでの判断が追い付いていない。
そしてしばしの間、イエムセティとミラージュの術式攻防が続いたのだが。
――ブゥン!
深淵の書庫の背後に、突然の空間湾曲が始まる。
「一体なんですかっ!!」
小春が慌てて後方を確認すると、そこでは深淵の書庫表面に手を当てて結界を中和しているイシスの姿があった。
なんのことはない短距離転移、それで深淵の書庫の背後に回り込んだだけ。
だが、その程度の事は雅も予想の範疇。
すぐさま結界を再構築し、深淵の書庫の強度を高めていく。
「先ほどの会話から、ここを狙ってくることは想定済みですわ。そしてそのための対策もすでに完了していますので……」
背後に居るイシスに向かって、雅が立ちあがって右手を翳す。
「ふぅん……でも、私の結界中和能力を舐めて貰っては困りますわよ」
ニイッと笑いつつ、イシスの右手に集められた魔力が炸裂。
その瞬間、深淵の書庫の結界が切り裂かれ、ガラスが割れるように砕け散った。
――バッギィィィィィィィィィィィィィッ
そして小春の腕を掴もうと手を伸ばすが、そのイシスの腕は雅の『右第一腕』によってがっしりと掴まれてしまう。
「おあいにく様……このモードを見るのは、貴方たちが初めてですよね」
雅は一瞬で魔人オーガス・レイヤーに姿を変えると、イシスの腕をかっちりと掴んでいる。
それと同時に小春も自分の正面とイシスの後方にミーディアの楯を展開、完全防衛モードを発動していた。
「私たちが乙葉くんの枷になることぐらいは、去年の段階で想定済みです。そしてそれから私たちは、そうならないために切磋琢磨を続けてきましたから」
「まあ、魔人王ではないですけれど……魔皇紋はしっかりと継承していますので……」
「「ということで、ここから出て行ってください!!」」
雅の左第二腕掌から魔力が放出。
そしてイシスの背後にあるミーディアの楯に向かって雅の魔力が飛んでいくと、それを受け止めて増幅し、イシスの背中めがけて弾丸のように飛んでいった。
――ドスドスドスッ
合計24発の魔力弾がイシスの背中に直撃する。
「うそ……でしょう……」
大量の血を流しつつ、イシスがその場に崩れていく。
そして再び転移しようと右手を構えるが。
「逃がしませんっ、呪縛の茨ですっ!!」
小春が右手にscrollを取り出すと、そこから大量の茨を形成、イシスを縛り上げて腕と口の動きを完全に封じた。
「ングングググツングンガアッ……」
「それは神聖魔法とスクロールを組み合わせた魔術です。精神を縛り上げる術式ですので、貴方はもう何もすることはできませんっ!!」
小春が叫ぶと、イシスはがっくりと頭を下げて抵抗するのを止める。
だが、その最中、イエムセティとミラージュの戦いは、さらに激化していた
………
……
…
「くっそぉぉぉぉ、なんだよお前、どれだけ魔力を持っているんだよっ。この俺は乙葉浩介のクローンだぞ、その俺の魔力を越える力を持っているっていうのかよ!!」
いくら魔術を飛ばしても、ミラージュに届かない。
全て指パッチンだけで消されてしまっているため、イエムセティもだんだんと焦りを感じ始めている。
そして彼がミラージュの気を引いている最中にイシスが深淵の書庫の後方に転移し、二人を捉えて形勢逆転……という計画も、まさかイシスが逆に掴まるだなんて思ってもいなかった。
「そうね、魔力量というのであれば、私は貴方と互角かそれ以上。魔術についての造詣は貴方よりもあると自負しているわ。それに、貴方はどうしても私には勝つことができない。これは真実よ」
腕を組みポーズを決めるミラージュ。
その瞬間、指を鳴らさなくてはならないタイミングがずれてしまい、イエムセティの放った魔術が見えない空間にぶつかり消滅する。
「……うぉい、なんだそりゃあ、さっきまでの消滅術式はガセだったのかよ、ふっざけるなよお前ぇぇぇぇえ」
「バレたわね、その通りよ!!」
ミラージュは再びポーズを取りつつ、堂々と嘘であることを宣言。
するとイエムセティが自分の頭をガンガンと殴り始める。
頭部が裂け、血が滲み、そして流れ落ちていく。
そしてイエムセティの瞳が狂気から、もとの穏やかな目に戻っていく。
「ハアハアハアハア……ああ、騙されましたねぇ、すっかり騙されたしたよ。なるほど、私は全てを理解しました。貴方、その外見は幻影ですね、そしてあなたこそ、乙葉浩介ですね……すっかり騙されましたよ」
一体、この男はなにを言い始めたのか。
そんな疑問と疑問符が、ミラージュの頭の中と周囲を駆け巡る。
そして深淵の書庫を再構築した雅と小春も、イエムセティの言葉に頭を傾げてしまう。
「この私が、新山小春と瀬川雅を誘惑して、失敗するはずがない。だって私はオリジナルの行動パターンや思考ルーチンまで、完璧にコピーして来たのですよ。ドゥアムのような失敗作じゃない、私は……俺は完璧な乙葉浩介のクローンだ……いや、俺は乙葉浩介なんだ、だから二人は俺を愛するのが決定しているんだ、瀬川雅、貴様だって表向きは俺に、乙葉浩介に惚れているはずだ、今の関係を崩したくないから黙っているだけなんだ、そうだろう、そうに決まっている……」
ガシガシと頭を掻き出し、両手も血に染まっていくイエムセティ。
かたや突然の彼の言葉で、深淵の書庫内部の小春が雅を見るが。
「うん、ないですわね」
「ですよね……だって、瀬川先輩には好きな人がいることは知っていますから」
「え、そうなの?」
「はい。だって、バレバレでしたよ……」
などと突然の乙女の会話モードに突入しかかる二人だが。
いきなり自分の推測が否定され、イエムセティが呆然としている。
「嘘だ……嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ……」
ブツブツと呟きつつ、一歩、また一歩とミラージュに近寄っていく。
「お前だ、お前が悪い、なんなんだよお前は、お前のような存在、俺は聞いていない……ああ、計画が崩れたじゃないか、お前という存在がいたから、俺の華麗な計画が崩れたじゃないか……このクソガキがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
――バギャッ!!
突然、イエムセティの魔力が膨れ上がったと思ったら、ミラージュが展開していた『魔力零空間』が吹き飛ばされる。
そして一瞬でミラージュに向かって短距離転移したかと思うと、その無防備な腹部に向かって右手から生み出した魔力剣で切りかかった。
だが。
――ギンッ
その一撃を、ミラージュもマナフォトンセイバーを構築し、素早く受け止めてはじき返す。
殺った!! そう確信していたイエムセティは素早く後ろに飛び、左手でまた頭をガシガシと掻き始める。
「今、貴方は一体何しましたか? 私は貴方を殺す気でいたのですよ、なぜ死んでいないのです、どうして私の剣を止めるのですか? たかがメスガキごときが、貴方の力を越えている私に対してそのような態度、実に不愉快です、ああ、とっても不愉快ですよ」
左手の爪を立てた状態で、自身の左頬をバリバリと掻きむしるイムセティ。
頬が傷つき血が噴き出しても、イムセティは笑みを浮かべたまま自身の頬を掻きむしっている。
「ああ、本当に不愉快です。私はオリジナル、私こそが現代の魔術師……それを、貴方は邪魔をした……ああ、もういい、全て殺そう、何もなかったことにしよう。私の作戦は失敗していない、そうでしょう、ねぇイシス、貴方の考えた計画が……頓挫したのですよ、どう責任を取ってくれるのですか……」
その場に呆然と立ち尽くすイエムセティ。
だが、そのイエムセティの体内に宿る魔力が急激に膨れ上がっていくことに、小春や雅、そしてミラージュも気が付き始めた……。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




