第五十一話・閑話休題、筆のあやまり(相談と、ぶっちゃけるぜ要先生)
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目の前には、椅子に座ってボロボロに疲弊した親父。
オトヤンに頼まれて、親父に渡した魔導具のレクチャーを引き受けたものの、正直言うと洒落にならない事態になっている。
魔力が一般の人と同じぐらいしかない親父にとっては、魔導具の扱いがかなり難しいらしい。
それでもオトヤンが工夫して魔力がない人でも使えるように作ってくれたのだが、そもそも魔導具という概念のない人にとっては、未知との遭遇待ったなしだったらしい。
それでもどうにか緊急時にはバリヤーを張ることが出来るようになったし、最低限の身を守るすべは覚えてくれたと思う。
「……この退魔法具も、浩介くんが作ったとはなぁ」
「親父、退魔法具じゃなく魔導具な。オトヤンはその辺り拘るからな」
「あ、そうかすまん。しかしだな、このような強力な魔導具を人の手で作れるとなると、浩介くんの力が周囲に知れ渡ったらとんでもないことになるとは思わないか?」
そりゃそうだ。
俺たちの世界には、魔導具を作れる存在なんてオトヤン以外はいないんだからな。
それ以前に、魔術が使えるのもオトヤンだけ、闘気についてはどうやら俺と忍冬師範以外に二、三人いるらしいが、俺のレベルまで到達したものはいないと思う。
瀬川先輩の深淵の書庫だってそう。
魔術による超解析能力なんて、指定範囲を国立図書館まで広げることができたら、日本が世界に誇るスーパーコンピュータ『富嶽百景』にも匹敵するかそれ以上だ。
恐らくは衛星軌道の計算とか、その辺りも簡単にやってしまうだろう。
そして、今まだ覚醒していない新山さん。
オトヤンと話し合ったのだが、実は一番まずい。
よくあるファンタジー小説とかで、現代にあって一番気まずい『死者蘇生』が行える可能性がある。
未だ救うことのできない不治の病でさえ、新山さんは魔術によって完治することができるだろう。
カナン魔導商会で販売している魔法薬、市販の薬でさえステージ4の癌を癒すことができるのだから、神聖魔術となるとそれ以上だと思う。
「はぁ。いざ『妖魔と人間の共存』だって叫んでも、問題は山積みなんだよなぁ。親父、国会とかではどこまで話が進んでいるんだ?」
「元々、妖魔に関しての法案は用意されていたのだよ。ただ、おいそれとそれを公開することができなくてな。現代人に妖魔の存在を公開した時に起こる混乱、これをどう纏めるかでいつも話は堂々巡りじゃったよ」
その言い分だと、既に手はあったというところか。
それで、親父が狙われたと。
「親父以外に、狙われる可能性があるんじゃないのか?」
「それはさっき連絡がついた。まあ、無傷とまではいかないが、妖魔退治のエキスパートは第六課だけではない。首相付きSPもその道についてのベテランが揃えてある。まあ、浩介君のように魔術が使えるものは皆無だがな」
「……それで、次はどうするんだ?」
そう問いかけると、親父は腕を組んで考える。
「いくつかの準備が必要じゃな。まあ、可能ならば我々に賛同する妖魔と手を組み、彼らにも表の世界に出てきてもらう。その架け橋としてワシは動きたいところじゃ」
「なるほどなぁ……」
──ピンポーン
ふと玄関のベルが鳴る。
インターホン越しに確認するとオトヤンが着替えて来たらしく、玄関に立っている。
そのまま上がってもらい、居間まで案内してもらうと、妙に清々しい顔のオトヤンがやってきた。
「よっ、おつかれさま。魔力は戻ったのか?」
「ああ。それよりもさ、ユータロもおじさんも随分と渋い顔をしているね。何かあったの? 妖魔と共存の道を進むために『穏健派の妖魔』と接触でもしたいの?」
「「 お前はエスパーか? 」」
………
……
…
なるほど理解。
祐太郎から顛末を聞いて、思わずさっきの俺に対するツッコミも理解した。
そうなると、ここで話をするのが得策なんだろうなぁ。
「なあオトヤン、何か隠しているか?」
「応。ということで隠し事は嫌いだから説明する。ついさっきだけれど初代妖魔王側近と接触した」
「「 は? 」」
いやいや、親子揃って茫然としないで。
俺だって今日1日でいろんなこと起こりすぎて、未だに頭の中の情報を整理するのが追いついていないんだから。
ということで俺が羅睺さんや計都姫から聞いた説明を祐太郎とおじさんにも説明すると、おじさんは頭を抱えたまま部屋の中をウロウロと歩き始める。
「それで、そのチャンドラとかいうのと戦って、よく無事だったな」
「まあ、無事かというとそうでもなくてね。魔力はかなり消費したし、まだ俺も実戦での魔法の使い方には慣れていない。ラノベとかでみた知識を動員して手探りでやってみただけだし、強化された身体能力がないとマナフォトンセイバーなんて使いこなせないからね」
もしも俺が剣術を学んでいたら、もっと早く決着はつけられただろう。
でも、その場合はチャンドラを殺していたかもしれないから、計都姫達と話し合いなんてできなかったろうなぁ。
テーブルの上のセイロンティーを飲みつつ、そんなことを考えている。
「結論から言うと、我々日本政府の妖魔情報公開推進派としては、その初代妖魔王側近たちと接触し話し合いの機会を設けたいと思うが」
「う〜ん。ぶっちゃけたねおじさん。けど、それってかなり危険だよね? 羅睺たち側近さんの情報が出るっていうことは、反妖魔派にとっては殲滅のための格好の情報提供になるよね?」
つまりはそこに帰結する。
共存派の情報が第六課に流れた時点で、彼らは共存派妖魔の殲滅を始める。
まあ、俺の知る限りの第六課の情報なんてたかが知れているけど、今の戦力で妖魔をどうにかできると思っているのがすごい。
それよりも問題なのが、第六課の動きを止めて晋太郎おじさんたちの暗殺を命じた議員の存在感。
明らかに妖魔と手を組んでいるのがはっきりとわかる。
そんな奴らが国会議員にいる時点で、この妖魔との共存については難儀するのが目に見えている。
だってさ、今回の晋太郎おじさん暗殺だって証拠は残っていない。
妖魔を扇動して暗殺を命じたとしても、妖魔は死んだら霧散化消滅するから死体も残らない。
つまり、暗殺に成功しても失敗しても、状況証拠すら残らないのだから責任追及も何もできない。
それに共存派と現妖魔王派の対立もあるだろうから、妖魔情報を公開したくない野党関係者は喜んで共存派のデータを現妖魔王派に流すだろう。
そうなると、妖魔同士の対立が始まるのは目に見えているし、最悪は市民まで巻き込んでしまうかも知れない。
「そのあたりは、信じてもらうとしか言えないのが現状だが」
「まあ、俺からなんとなく話してはみるよ。おじさんはおじさんなりに、色々と手を考えてみて。それよりもさ、第六課って、背後に神楽境って人がいるよね?」
「……そうか。浩介くんはその辺りまで知っているのだったな」
「その人に会えない?」
これは俺なりの考え。
綾女ねーさんの話から、第六課を後ろから支援しているのはその神楽境って人。
それって初代妖魔王・卑弥呼だよね?
それなら、今回俺が出会った十二魔将の件も合わせて、会って話してみたいと思うのは普通だよね?
「難しいじゃろうなぁ。まず、わし程度で連絡が取れることはない。総理に話したとて、その上で宮内庁にも許可を取らないとならん」
「へ? なんで宮内庁?」
「神楽堺様がいらっしゃるのは、皇居地下遺跡だからな。立ち入るには宮内庁の許可が必要じゃ」
え?
皇居ってあれだよね?
江戸城跡地だよね?
そんな所に地下遺跡があるなんて話ないよね?
「親父、なんで江戸城跡地にそんな遺跡があるんだ?」
「逆だ。地下遺跡を隠すために、その上に江戸城が建造されたのじゃ。そもそもあの地に江戸城を築くように太田道灌殿に話をしたのも神楽境様だそうじゃからな」
「へぇ。その人はあれだろ、確か江戸城を築城した人だよな。なら、最初から遺跡を隠すために江戸城を作ったっていうことか」
はあ、成程。
祐太郎とおじさんの話が始まった。
俺はその辺りの歴史については詳しくはないので、取り敢えず祐太郎にパスして話を聞く側に回るとしよう。
「そういうこと。他にも、神楽境様の力で、国内のあちこちには妖魔関連の遺跡を封じているからな」
「ええっと、例えばだけど、東京ドームの地下に巨大な闘技場があったりしないよね?」
思わず緊張感をほぐすために呟いたけど、おじさんはニイッと笑って肯定も否定もしない。
いや、そこは否定してお願いだから。
地上最強トーナメントも拳願試合も俺は興味ないからね。
「話を戻すとしよう。取り敢えず総理には話をしておく。そこでだ浩介くん、ワシが持っている退魔法……魔導具と同じものはいくつか作れるか? できれば関係者に配りたいのじゃが。それに、神楽境様にも献上してみたい」
「ええっと、すぐには無理。材料が足りないし、それを手に入れるための資金もない」
おじさんから貰ったお中元を査定に出してチャージした分は使い切ったのよ。
ちょっとした端数はあるけれどさ、そもそもカナン魔導商会でも品切れの材料があるから。
「そうか。資金については面倒を見る。材料は、何が必要じゃ?」
「ミスリル銀やアダマンタイト結晶、魔石って分かる? 俺たちの世界で手に入るかどうかも怪しい代物だよ? それこそ賢者の石を見つけてきなさい、オリハルコンを生成しなさいっていうレベルだからね」
「つまり無理ということか、分かった、すまなかったな」
「でもさ、資金面についての提供は助かるよ。余ったお歳暮やお中元を大量に処分してあげるから」
「はぁ。それは構わんが、それがどうして材料に代わるのか、そこはよくわからんなぁ」
流石おじさん、物分かりが良くて助かるわ。
そのあとも色々と話し合ったものの、結局は良案は思いつかなかったので夕方に俺は自宅に戻った。
明日は学校に出ないとなぁ。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
ということで、やってまいりました学校でございます。
登校後すぐに新山さんに色々と心配されたけどさ、昨日の夜にはとりあえず無事だったって話をしていたから問題はないよね。
そして退屈な授業シーンなんてすっ飛ばして、放課後いつもの部活動でございます。
「なあオトヤン、ナレーションっぽく話しているのは今更突っ込まないけど、本当にデッドプールみたいな能力は持っていないんだよな?」
「うん? 当然持っているわけないじゃない。という事で第528回『これから妖魔共存派としてどう活動するか』会議を始めたいと思います」
――ブーーーーーッ
あ、俺以外全員がお茶吹いた。
要先生に至っては、目を白黒させているよ。
「ゲフッゲフッ‥‥オトヤン、いいのか?」
「いいも悪いもないさ。ここでコソコソと隠していて時間が足りなくなるぐらいなら、警視庁公安課・特殊捜査部捜査第6課の要巡査にも協力してもらえばいいんだから!!」
――ブッホォォォォッ
あ、要先生が再びお茶吹いてぶっ倒れそうになっている。
「あ、あの、それっていつ知ったのかしら?」
「最初から。俺、見た対象の情報ソースを魂から解析することが出来るから」
はい、嘘です。
センサーゴーグルの力です。
「ふぅん。そのこと、私に話すっていう事は、第6課にばれてもいいってことよね?」
「ばれるも何もさ、井川巡査長には話しているし。だから開き直ってここでも対策考えることにしただけだから」
とは言うものの、右手は机の下。
高速でlinesを打ち込み、瀬川先輩と新山さん、祐太郎にはメッセージを入れておく。
『初代妖魔王派および共存派と接触した事実は伏せる。俺たちが妖魔とどう渡りをつけていくかって話題にしておくので』
『了解ですわ』
『オッケー』
『はい、わかりました』
すぐさま戻ってくる返答。
要先生の視線は俺に向いているから、こっそりと返信してくれたサンキュー。
「それで、あなたの力は何かしら? それと背後にいる組織について教えてもらえる?」
「組織なんてないよ。俺は『後天性・覚醒魔術師』だから。ここにいる皆は、そのことを知っていて付き合ってくれているからね」
「へぇ。でも、第6課ではここの4人全員が魔術師の可能性ありって話がでていますけれど?」
「残念。魔術師は俺だけ。校内に設置している魔導具の作成も俺が作って、みんなに頼んで配置してもらっただけさ。俺たちに目を付けたのはいいところだけれど、実は俺だけだったんだなぁ」
そう説明すると、瀬川先輩たちもうなずいている。
「要先生。残念ですが乙葉君の話は事実ですわ。私や新山さんは魔術の素養がないそうですし、築地君は魔術の才能がゼロですから。その代わり、築地君は第6課の忍冬さんの下で修業して、闘気を身に着けたと伺っていますが?」
ナイスだ先輩。
そのフォローは正しい。
瀬川先輩は魔術ではなく深淵の書庫という能力だし、新山さんは覚醒していないから嘘ではない。
「そ、それって本当なの?」
「ああ。俺は詠春拳・札幌道場で忍冬師範に師事していたし、この夏に埼玉道場で訓練をつけてもらった時に闘気が覚醒した。つまりは、俺以外にも闘気が使えるようになれる人はいるっていう事じゃないか?」
ここで祐太郎の援護射撃とは有り難い。
しかも嘘じゃないらしいから、要先生は第6課に戻ったときに頭を抱えることになるんだろうなぁ。
まあ、俺は知ったことじゃないからかまわんし。
そのあとも淡々と話をしていたけれど、要先生にとっては寝耳に水だったことが多すぎたらしく、いったん本部に戻ってから今後のことを検討すると言って部屋からでていった。
よし、完勝だ!!
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。
今回の隠しネタは4っつ。