第五話・備えあれば有備無患(魔導具にできること)
『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週火曜日と金曜日を目安に頑張っています。
翌日。
今日は土曜日で学校は休み。
できるなら、今日か明日あたりで新山さんに病気治癒ポーションを飲ませてあげたい。
でもどうやって飲ませたらいいのか、それよりも彼女がどこに入院しているのか、それが分からない。
「ああっ、俺って無能。折角の休みなのになんで身動きが取れないんだろうなぁ……」
などと困り果てていても仕方がない。
だったらアレでしょ?
困ったときのカナン魔導商会でしょ?
すぐさま画面を開いて魔導具の欄を確認する。
ちょうどチャージ可能になっていたので、キッチンから調味料各種を放り込んでチャージ残高を590万クルーラまで回復しておく。
…
……
『インビジリング‥‥装着者の姿を透明化します。これは所持しているもの、装備しているものも含まれますが物理的接触は可能なので注意が必要です。128万クルーラ』
『サーチライト‥‥アイテムや人を探すことのできる魔導具です。単体では使用不可ですが、TSレンズと融合することで使用可能です。350万クルーラ』
……
…
「きたきたきたぁぁぁ。そうだよ、サーチライトは前にお勧めであったよ。高くて買えなかったんだわ、お勧めじゃないから定価だけど、これは……行ける‼︎」
すぐさまインビジリングとサーチライトを購入。
「これで残高が112万、飛んで20クルーラ。万が一のために買物はここで止めておいて、問題はサーチライトとTSレンズの融合か。どーやるんだろ?」
添付してあった取説を見る。
ふむ、融合化の魔法があれば可能と。
そんなものはない、と言いたいが、今の俺は過去の俺とは違う‼︎
「えーっと、魔導書があったよな、今なら読めるんじゃね?」
魔力回路が使えるようになったのは結構前。
まあ、使えなかった魔導書のことをすっかり忘れて、ネットショップにハマっていたのは俺ですサーセン。
空間収納から魔導書を取り出して魔力を落とす。つまり魔導書も体の一部として魔力を循環させるイメージを試してみる。
──キィィィィィン
すると魔導書が輝き、サイズがスケッチブックサイズから週刊誌サイズに小さくなった。
厚さも半分の五センチ、これは使いやすい。
そしてスッ、と魔導書が消えた。
『ピッ…魔導書と乙葉浩介の魂の定着が完了しました』
「え?いや、そうじゃなくて、魔導書何処?」
──シュンッ
そう問いかけると、右手に魔導書が出現する。
つまり、魔導書が俺の魂と一つになったっていうことか。
『ピッ、スキル『魔術・第一聖典』を修得しました』
んんん?
このアナウンスはステータス画面の説明か。
すぐに画面を確認すると、確かにありましたよ魔術スキルが。
すぐさま魔導書を開くと、確かに新しいページに第一聖典という項目が増えていた。
‥
‥‥
●第一聖典一覧
視認
変異
融合化
力の矢
生活魔法
‥‥
‥
「おおおおお、来た来た来たぁぁぁ、スパァァァァク‼︎ 俺は現代最強の魔法使い…とは言えないか。色々と気にはなるが、まずはやることやるか」
魔導書が使えるようになったら、不思議と魔法の効果や方法まで頭の中に入っていた。
それならばと、さっそく融合化を発動し、出てきた足元の魔法陣にTSレンズとサーチライトを放り込む。
「これでよし。融合開始‼︎」
掌を魔法陣に向けて魔力を注ぐ。すると魔法陣の中で二つのアイテムが溶け合い混ざり合い、全く違うアイテムを生成した。
実にサイバー的なゴーグルが、魔法陣の中に生み出されている。
「なぁぁぁぁ。なんじゃこりゃあ。なんて言うか、装備したら目からレーザーが出そうなデザインだな。まあ取り敢えずは空間収納に入れて装備欄に登録して……」
我ながら、この辺りの手際が良くなってきたことは否めない。
さっそくTSレンズ改め『サイトゴーグル』という名称になったこれを装備して起動してみる。
『ピッ…モードを選択してください。TS/サーチ』
「サーチで」
『ピッ…対象を選択します。リストから選びますか?』
「リスト? まあ。それで」
『ピッ…乙葉浩介の『鑑定リスト』の登録数は45名です。何方を選択しますか?』
ああ、うちのクラスの女子と若い教諭の名前がリストに並んでいる。
ありがとうと鑑定しまくった俺に感謝しつつ、すぐに新山さんを選ぶ。
『ピッ…サーチ開始します。地図化の魔法を修得していないため、矢印による方向指示となります』
「オーケーGoggles。まあ、移動はちょっと後にして、リングも融合化しちゃいますか」
ついでにブーストリングとインビジリングを融合化しておく。
因みにこの融合化魔法は一度使うとMPが500ポイントも削られてしまう。
まだ余力のあるうちにやってしまえということで、二つ合わせてできたリングが『スーパーブーストリング』。
当然これも装備欄に登録、なお、俺はいついかなることがあっても困らないように、普段着と学校の制服、下着一式は装備欄にいくつも登録してある。
もう一度サイトゴーグルを装着して、それでは新山さんを探しにレッツゴー‼︎
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
土曜日の午後ということもあり、街には人が溢れている。そんな人混みの中を、俺はドキドキしながら歩いていた。
ゴーグルは透明化機能で見えなくなっているが、ひょっとしたら誰かに見られているんじゃないかって思うとドキドキするよね?
そんなこんなで午後3時には、矢印に従って新山さんの入院しているらしい病院に到着。
札幌市でも癌関係に強いと噂の病院なので、まずは一安心というところだ。
「さてと、新山さんは何処の病棟だろうなぁ」
病院に入って案内板を確認、まあ、重篤な患者はここですよなんて書いてあるわけないので、ゴーグルの矢印を信じて先に進む。
そしてようやく見つけたのが、病院の中庭にあるベンチ。
そこで新山さんは、のんびりと本を読んでいた。
よし落ち着け俺。
順番を間違えるな、まずは挨拶だ。
「やあ新山さん。こんなところで奇遇だね?」
はい失敗。
病院で奇遇なんてあるかーい。
「あら、乙葉くん? 本当に奇遇ね。誰かのお見舞い?」
「そ。そう。知り合いが入院しててね。新山さんが入院したっていうのは聞いたんだけれど、ここに入っていたんだ、偶然だね」
「ええ、そうね」
ナイスフォローだ新山さん。でもなんとなく元気がない。
よし落ち着け俺。
リア充たちの真似をしてもたぶん無駄だ、ならば正攻法で行こう。
「は〜、今日は暑いよね。まだ6月終りなのにさ。喉乾いちゃったよ」
あらかじめ用意して置いた水のペットボトルを空間収納から取り出して、喉に流し込む。
「ふぅ。落ち着いた。新山さんもどうぞ」
もう一度空間収納からペットボトルを取り出して、新山さんに手渡す。
そっちの中身は病気治癒ポーションだ、飲んでくれれば効果は絶大。
なのだが、新山さんはペットボトルを受け取ってくれたものの、茫然とした表情で俺を見ている。
「あ、あのね乙葉君、このペットボトル何処から出したの?」
「え? えーっと……」
しまったぁぁぁぁ、俺の馬鹿、時間が巻き戻せるなら巻き戻したいわ。なんで彼女の目の前で空間収納使ったかなぁ。
「ひょっとして手品?」
「そ、そう、それ、手品。俺はイリュージョン使えるからね。新山さんに元気になってもらおうと思ってね」
ナイスフォローだ新山さん。
どうやら空間収納の黒い球体は見えていないらしい、よしセーフだ。
「へぇ。乙葉君ってマジシャンなんだ」
「まあ、どっちかというと魔法使い?」
戯けたような顔で返事を返すと、新山さんも笑ってくれる。これで掴みはオッケーだ‼︎
あとはポーションを飲んでもらうだけ。
「へぇ。もし乙葉くんが魔法使いなら、私の病気を治してくれる?」
「お、オッケー、なら、そのペットボトルを貸して」
新山さんからペットボトルを受け取ると、俺は右手をペットボトルに翳して適当な詠唱を始める。
しかし、俺の思っていたことを全てフォローしてくれるとは、なかなか気配りのできていらっしゃる子ですこと。
「(確か、ユータロが魔法の詠唱はこれしかないって言ってたよなぁ)。はぁぁぁぁ、モモマミナウシカモモマミナウシカ、パロセルコミケパロセルコミケっっっ!!!!」
ついでに生活魔法にある(光球も発動する。
魔力を2倍消費すれば魔法の発動に必要な詠唱はカットできるらしい。
そして光り輝くペットボトルを新山さんに手渡すと、彼女はお腹を押さえて笑いを堪えるのに必死であった。
「な、なにその魔法。変な詠唱……でもペットボトルが光ったり、すごい手品だよね?」
「まあね。詠唱はユータロから教えてもらったやつな。漫画のアブナ○ズとかいうやつに出ていたやつだってさ」
「へぇ。笑ったら喉乾いちゃった。これ、もらって良いの?」
「構わないよ。新山さんの病気が治る、万病を癒すポーションだからね?」
決まった、完全に決まった。
この言葉、この笑顔。
これで落ちない女はいない‼︎
なんていう妄想は置いておくとして、新山さんはペットボトルを開けて飲み始める。
先に味を見たから大丈夫、あれは無味無臭。
なんとなくなんだけど、飲んでいる新山さん、光ってね?
──ホワワワ〜ン
やっぱり、薄らと光ってる。
まあ、直射日光下だから、多分バレないセーフ‼︎
「ん、少し甘いね。スポーツ飲料か何か?」
「お? そ、そ、それ。カロリーはゼロだから大丈夫だよ、砂糖が少しだけ入っているから」
「それなら大丈夫ね。食べ物とかも制限されているけれど、水とスポーツドリンクは大丈夫だから」
よし、よーし誤魔化したぞ俺。
「あ、私、そろそろ検査の時間だから病室に戻るね。お水ありがとう」
「そうか。なら俺もそろそろ帰るかな。じゃあね、お大事に」
軽く手を振って帰宅する。
あとは、病気治療ポーションの効果を信じて日課に励むとしますか。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
私の病気が分かったのは一週間前。
ちょっと身体が重苦しかったので、お父さんに頼んで病院で検査を受けて。
「甲状腺ガンです。Stage IV、気管浸潤及び喉頭部リンパの転移も認められてます」
私は病気には詳しくはない。けれど、私の後ろで、お父さんとお母さんが泣いていたのはわかる。
だから、私も泣いてしまった。
泣いていたから、それ以上の話は聞いていなかった。
未分化がどうとか話していたけど、もう私には分からなかった。
怖い。
インターネットで調べたら、若い人でこの病気にかかる人はそんなにいないらしい。
若い故に転移もガンの進行も早いらしく、ステージ4まで進んでしまうと助からないかも知れないとか書いてあるところもあった。
怖い。
色んな話が書いてあった。
どれが本当かわからない。
だから怖い。
毎日、検査を受けている。
病室にいると、どんどん落ち込んでくる。
だから、毎日昼には中庭で本を読んでいる。
読書なんてあんまりしなかったのに、今は本を読むのが楽しい。
病気が治って退院したら、文学部に入ろうかな。
ただ本を読むだけだよって、後ろの席の乙葉君と築地君も話していたっけ。
「やあ新山さん。こんなところで奇遇だね?」
そんな時に、偶然乙葉くんが来た。
知人のお見舞いらしいけど、何故か助かったような気持ちになる。
そのまま乙葉君と話をしていた。
彼は手品をしているらしく、何もないところからペットボトルを取り出して手渡してくれた。
「手品?」
「そ、そう、それ、イリュージョン。新山さんに元気になってもらおうと思ってね」
「へぇ。乙葉君ってマジシャンなんだ」
「まあ、どっちかというと魔法使い?」
魔法使いかぁ。
きっと私を元気つけてくれるんだよね。
「へぇ。もし乙葉くんが魔法使いなら、私の病気を治してくれる?」
「お、オッケー、なら、そのペットボトルを貸して」
そのまま乙葉君は、魔法使いのような真似をしていた。たぶん手品なんだろうけど、ペットボトルがキラキラと輝いて、それを私に戻してくれた。
「な、なにその魔法。変な詠唱……でもペットボトルが光ったり、すごい手品だよね?」
「まあね。詠唱はユータロから教えてもらったやつな。漫画のアブ◯ーズとかいうやつに出ていたやつだってさ」
「へぇ。笑ったら喉乾いちゃった。これ、もらって良いの?」
「構わないよ。新山さんの病気が治る、万病を癒すポーションだからね?」
魔法なんてあるわけがない。
けど、乙葉君は私のために頑張ってくれた。
そのままペットボトルの水を飲んだけど、少しだけ甘かった。
「ん、少し甘いね。スポーツ飲料か何か?」
「お?そ、そ、それ。カロリーはゼロだから大丈夫だよ、砂糖が少しだけ入っているから」
「それなら大丈夫ね。食べ物とかも制限されているけれど、水とスポーツドリンクは大丈夫だから」
あ、そろそろ検査の時間だ。
「あ、私、そろそろ検査の時間だから病室に戻るね。お水ありがとう」
「そうか。なら俺もそろそろ帰るかな。じゃあね、お大事に」
そう笑いながら手を振って、乙葉くんは帰っていった。
また来てくれるかな?
また手品を見せてくれるかな。
それまで、私、生きていられるかな……。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。
・今回の判りずらいネタ
アブナ○ズ / いくた○き 著
・カナン魔導商会残チャージ数
112万20クルーラ