第四百九十九話・進退両難、席の暖まる暇もない(裏が取れた、いや、黒幕がいた)
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乙葉浩介の偽者が姿を現した翌日から。
祐太郎とクリムゾンの二人は、調整槽にて治療を受ける時間の合間を使って、ノーブルワンを中心としたボルチモアエリアの調査を開始した。
といっても、祐太郎は魔術を用いた広範囲感知術式や深淵の書庫が使えないので、基本的には闘気を蜘蛛の巣状に射出し触れた対象の魔力を感知する『闘気伝達』という技しか調査方法がない。
それでも、この闘気術はかなり優秀であり、すくなくとも触れた対象の魔力の強度だけははっきりと感知することができる。
そして、祐太郎たちが住むこの世界で、化け物級の魔力を有している奴など乙葉浩介以外は考えられないという単純な判断方法が採用され、祐太郎が黙々と闘気を放っては、対象者をクリムゾンの魔眼で感知して貰うという調査を続けていた。
「……ふぅん。アメリカって、予想よりも魔力値の高い人が多いな。お、これはまた、結構な魔力強度だが……クリムゾンさん、あの信号を渡っている人を、魔眼で調べられますか?」
「おいおい。オトハの性別は男だろう? どうして女性を魔眼で確認する必要がある?」
クリムゾンの見た人物は確かに女性の外見だけれど、祐太郎の判断では男性。
外見で物事を判断してはいけない。
「え? いま渡り終った人ですよ、彼はれっきとした男ですよ?」
「マジか!!」
慌てて魔眼で男性を確認すると、クリムゾンが自身の頭をぼりぼりと掻きむしる。
彼の目で見た対象者は確かに男性であり、しかも保有魔力が120マギカスパルという高い数値をはじき出していた。
「参った……俺は人間不信になりそうだ。それはそうと、対象者の魔力眼誘致は120マギカスパル、38歳男性だ。魔力が高い理由については、恐らくは半魔人血種である可能性が高いからだろうな。若干だが、魔族の血が混ざっているとおもわれる」
「ああ、なるほど。それじゃあ反応するはずだな。しっかし、どうしてこうも、魔力値が高い人が多いのだろうかねぇ」
やれやれとダッシュボードに足を乗せて、体を思いっきり伸ばす祐太郎。
だが、そんな行儀の悪いことをしてもクリムゾンは咎めることはない。
「以前のボルチモアでは、魔力が高い人間などこれほど多くはなかった。例の魔族の暴走事件があっただろう? あの前後あたりから、水晶柱から膨大な魔力が噴き出しているという兆候があった。恐らくは、その湧出している魔力に当てられた半魔人血種が覚醒を始めた……っていうところだろうな」
「それで増えるのなら、日本でも今以上に大勢の魔術師が生まれてもおかしくはないんだろれどなぁ。そうすれば、オトヤンの負担もかなり減るんだけれどさ」
「魔力値が高いだけでは、魔術師にはなれない。それは築地も知っているだろう?」
魔力弁の解放、それが魔術師になるための最低条件。
乙葉浩介曰く、そのための条件は魔導書などの発動媒体を所持すること。
それを用いた訓練を行うことで、魔術師に覚醒する。
このことは、祐太郎は高遠先輩という実例を見ているから理解はしている。
ただし、物事には例外がある。
元機械化兵士のキャサリンたちは、それらの媒体をいっさい用いずに、直接乙葉からレクチャーを受けただけで覚醒した。
このことから祐太郎は一つの仮説を持っている。
魔術師になるのに必要なものは、魔力と天賦の才能。
ようは適性があるかどうか。
事実、祐太郎も保有魔力は高かったものの、魔術師適性はなく闘気適性があったために魔力回路が経絡に変質した。つまり、生まれつき魔術師としての適性があるのなら、それは乙葉のような高魔力の持ち主が導くだけで覚醒するのではないかと。
「……あ~、考えていると頭が爆発しそうになるわ……って、クリムゾンさん、車を出してくれ!! まっすぐ走って、二つ目の信号を左、パタプスコ川に向かって走ってくれれば、それでかまわない」
「わかった!!」
祐太郎の闘気伝達に高濃度魔力反応が引っかかる。
それも尋常ではない魔力が。
そして法定速度ギリギリを責めるクリムゾンの運転のおかげで、ルート895に乗ると、そのままターゲットの乗る高速バスを追跡開始。
その真横まで一気に詰め寄ると、一番前の席で金髪の乙葉浩介の姿を発見する。
「あのバスに追いついて……と、もう追い付いたのか。クリムゾンさん、魔眼、いけますか?」
「この速度でのわき見運転とは……一瞬だが……ってちょっと待て、撤収するぞ!!」
――キキィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィッ
急ブレーキを踏み、バスから距離を離す。
その瞬間、バスの真横に5本の魔力の矢が出現したかと思うと、一直線にクリムゾンの操るランドクルーザーめがけて高速て飛んでくる。
「嘘だろ、こいつはシャレになっていないって!! ブライガァァァァァァァァァァァァっ」
――ダンッ
勢いよくドアを開くと、祐太郎はぐるりと回りつつランドクルーザーの天井に立つ。
足の裏に闘気を流し見込み、磁石のように屋根に足を固定すると、ブライガー装備を身にまとった。
そして一直線に飛んでくる魔力の矢に向かって闘気糸を飛ばすと、そのターゲットを自分に向ける。
そして。
「機甲拳・四の型っっっ広範囲拡散拳・黒龍っ」
飛来する魔力の矢に向かって機甲拳を放つ。
広範囲対空攻撃技に暗黒闘気を乗せ、無数の黒龍を魔力の矢に向かって叩き込み、対消滅させる。
「クリムゾンさん、一体何があったんだ!!」
「あのバスに乙葉浩介と……伯狼雹鬼が乗っていた。しかも、俺の魔眼に瞬時に反応し、カウンターで魔法を放ってきやがった……」
「マジか……追跡は可能か……いや、反応が消えたか。くっそ、また奴の掌の上かよ……」
ダンッとランドクルーザーの屋根をぶん殴る祐太郎。
そして窓縁に掴まってぐるりと車内に移動すると、すぐさま念話で小春たちに状況を報告する。
「オトヤンのクローンを発見。ただし、伯狼雹鬼が一緒にいた……奴が裏で動いていることは、これで確定だ。オトヤンにも連絡を頼めるか」
『分かりました。築地くんはどうするのですか?』
「転移の範囲なんてわからないけれど、もう少し周囲を探してみる。また中あったら連絡をするから……」
そう念話で話している最中、ランドクルーザーがゆっくりと停止する。
「ガス欠だ……あの野郎、しっかりと燃料タンクに穴をあけてくれやがった。どういう魔法のコントロールをしたら、車の底から燃料タンクを撃ち抜けるんだよ」
「まじかよ!!」
慌てて後ろを振り返ると、ランドクルーザーの車体から、ガソリンが零れた跡が糸のように伸びている。あの魔力の矢だけでなく、別の魔法も同時に放ち、追撃の手を止めたのであろうと祐太郎は考えたが。。
「くっそ、いくら丈夫なランドクルーザーでも、燃料タンクをぶち破られたら終わりってことかよ」
「急いで離れるぞ、流石に燃料を垂れ流しての高速走行はまずい」
慌てて路肩に車を止めると、祐太郎は急いでランドクルーザーをルンーブレスレットに収納する。
これで零れた燃料に火が付き、車まで火が襲い掛かってくることはない。
だた、今いる場所はルート895、間もなくハーバートンネルに到着する地点。
出口は遠く、ここから帰るには空でも飛ぶしかない。
「さて、これ以上の追跡は不可能か……一旦、ノーブルワンに戻ったほうがよそさうだな」
「了解。それじゃあ、飛んで帰りますか」
祐太郎は魔法の箒を、そしてクリムゾンは背中に翼を発生させると、一旦、ノーブルワンへと飛んで帰ることにした。そして祐太郎からの報告を受けて、小春と雅たちは絶句し、より慎重な調査が必要だという結論に達したという。
そのころ、乙葉浩介本人も、ちょっと面倒な事態に巻き込まれていた。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




