第四百九十六話・刮目相待、生まれながらの長老なし(修羅場とは、これいかに?)
『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週火曜日と金曜日を目安に頑張っています。
ボルチモアを出発して、すでに3日が経ちました。
前略、ノーブルワンの新山さん、祐太郎、瀬川先輩。
俺はマスター・シャンディーンとキャサリンの二人と共に、一路、グランドキャニオンへ向かっています。
これは俺が新しい力を得るための試練。
無事に修行が終わったら、また、みんなで集まって馬鹿騒ぎをしようぜ。
大学受験がない分だけ気楽だけれと、あまり羽目を外さない程度に楽しもうじゃないか。
だからみんなもしっかりと調整をして、元気な顔を見せてくれ。
それじゃあ、親父たちとミラージュにもよろしく。
「これでよし……送信、と」
モーターホームの中で、俺はノーブルワンのみんなにメールを送っておく。
しっかし、グランドキャニオンまでは一体、どれぐらいの時間が掛かるんだろうか。
今の運転はキャサリンで、マスター・シャンディーンは車の免許を持っていない。そして俺は高校生で、魔法の箒などの飛行魔導具免許は所持しているけれど、普通自動車の免許は持っていない。
っていうか、別に必要ないような気がしている。
ちなみにマスター・シャンディーンはというと、モーターハウスの中でベッドに横になり、腹部のあたりで指を組んでじっと瞑想を続けている。
こうすることで大自然に存在する精霊や英霊の声を聴き、交信を行えるらしい。
俺も試すかねと誘われたんだけれど、どうにも邪念が混ざっていて上手く精神集中が出来ない。
うん、邪念の理由はただ一つ。
久しぶりにカナン魔導商会のサイトを開いたら、重要マークが点滅していて、システムからのお知らせが届いていたんだよ。
………
……
…
『カナン魔導商会より、乙葉浩介さまへ。
凍結中のアカウントについて、以下の措置を行い凍結を解除しましたので、ご報告します。
1.カナン魔導商会レベルの初期化
2.それに伴い、サイドチェスト鍛冶工房のリンクサービスの終了
3.ウォルトコグループのリンクサービスについては、継続とする
4.アカウント共有サービスとして登録されている『築地祐太郎』については、サービス継続とする
5.会員レベルの初期化に伴い、割引その他のサービスも初期化
6.納品依頼については継続とする
以上、第三者のアカウント使用についての処罰については、以上となります。
今後もカナン魔導商会をどうぞご贔屓にお願いいたします。
カナン魔導商会会長 マチュア・カナン・エーテルワイズ 』
………
……
…
これで、久しぶりにカナン魔導商会での買い物とかも出来るんだけれど、アカウントレベルの初期化ということで割引は効かないし納品依頼は大量に届いているし。
チャージしてあったポイントの剥奪ということもあって、現在のクルーラポイントはゼロ。
これは、かなり厳しい。
これから日々、修行の合間にコツコツとチャージを増やすべく納品をおこなわないとならないんだけれど、このモーターハウスの移動中は、個室というものが存在しないので、かーなーり、厳しい。
幸い、夜に停車する時は車内が左右に広がりベッドが下ろせる。
しかもカーテンで仕切られているので、そこでこっそりとカナン魔導商会の画面を開いてこそこそと納品をしていんだけれどさ。
やっばり深夜にこそこそとベッドで作業していると要らぬ誤解を受けてしまってさ。
「ま、まあ、マスター・オトハも年頃の男性だから、気持ちは分かるけれどね……うん、そういうのは、モーターハウスの外とかでやったほうがいいと思うよ?」
納品作業をしていた翌朝、やや顔を真っ赤にしているキャサリンに、そう耳打ちされましたが。
ほんっ~とうに、解せぬわ!!
魔導書を読んで色々と調べていただけと言い訳をして、必死に誤解をといてようやく平穏な日々が帰って来たけれど。マスター・シャンディーンには、夜はしっかりと眠るように仰せつかってしまったので、今はカナン魔導商会の件は後回し。
途中の町に滞在するときに、改めてどっかで納品させてもらうさ。
すでに納品して獲得したチャージについては、錬金術の素材を大量購入してほぼゼロ。
それでも、久しぶりのガチ錬金が出来ると思って、もう気分はワクワク状態。
「ふぅ……マスター・オトハ。出番でーす」
「まじか。今回はどんなやつだ?」
現在地点はオハイオ州コロンバスとインディアナ州インディアンポリスのほぼ中間。
ルート70をまっすぐに西に向かって走っているんだけれど。
ここまでの妖魔の襲撃回数、じつに7回。
そのほとんどが、俺の身体から発している魔力を狙ってきている。
今の修行が、常時魔力を体に纏うっていうやつだから、そりゃあもう俺の潜在魔力に惹かれて野良妖魔も集まって来るってもんよ、くっそう。
「ふむふむ。あれは風の魔人だねぇ。潜在魔力から察するに上級、魔術型で知性はそこそこ……というところかね?」
「はぁ。マスター・シャンディーン、どうして見るだけで分かるのですか?」
ずっとこう。
キャサリンが妖気感知という常時発動型魔術で妖魔を探知すると、マスター・シャンディーンは助手席まで顔を出して、見るだけで妖魔のタイプを理解している。
この妖気感知については俺も教えて貰ったんだけれど、常時発動型を使いこなすには、やっぱり体内の魔力を常に体全体に巡らせなくてはならない。
「なんでって言われても。ほら、あの竜巻の中にいる風の魔人は、体からつねに魔力を放っているじゃないか。その濃度と強度、あとは妖魔の周囲に存在している魔障。それを頼りに、精霊に問いかけているだけじゃな」
「ん~、ちょっとまだ、俺には分からないのですが」
「そりゃそうじゃ。この域に達するまでには、長い年月が必要となる。まあ、まずオトハくんの場合は、その体を修復するところから始めなくてはならないからな……ということで、奴を解放してやってくれ」
「了解です」
モーターハウスが停車するのを待って、俺は車の外に出る。
すでに体中に魔力は循環しているので、あとは魔導書を召喚し、相手の動きに警戒しつつ詠唱を開始するだけ。
すると、俺の魔力に反応したのか、風の魔人が竜巻を身にまとい、高速で突っ込んでくる。
『グブゥアアアアア……マリョク、ノウコウナマリョク……』
「ああ、妖魔にとっては、魔力を纏っている俺は恰好の餌だろうからなぁ」
『ヨコセ……ソノマリョクヲ、ヨコセェェェェェェェェェェェェェェェ』
両腕に竜巻を纏い、俺に向かって拳を叩き込んでくる。
だが、魔導体術でその攻撃を大きく躱すと、右手一つで高速印を描いていく。
「我が魔力を20使い、力の弾丸を構築せよ!! 20式・理力弾っ!!」
目の前に生み出された魔力弾が、高速で風の魔人へと飛んでいく。
距離にして5mの至近距離、打ち出した魔力弾は5発。
その全てが風の魔人を貫くと、一瞬で黒い霧へと変化し、大気に溶けていった。
「ぬわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、またやっちまった、霧散化しちまったわぁ」
周囲を見渡すが、すでに時遅し。
すでに風の魔人はその場から消え去ってしまった。
倒すのなら一撃で、妖魔の魔人核を貫くようにと言われていたのだが、どうやら全弾、魔人核を掠めることなく相手の耐久値を削り切ったらしい。
「はぁ……またやっちまった……」
猛反省しながら車に戻る。
そして中に乗り込むと、運転席でニマニマと笑っているキャサリンと、助手席でウンウンと頷いているマスター・シャンディーーンの姿が見える。
「さっきの風の魔人だと、余剰魔力20は必要ないね。10で一発、それでいい。魔人核の位置を早く見極められるように、戦闘時は目に多めの魔力を宿らせること。そうすることで、対象の体内に存在する魔人核をよりはっきりと感知できるようになる。まあ、35点というところかな?」
「とほほ。了解です……と、キャサリン、あんたにはさっきの魔人を仕留められたのか?」
こっち見て嬉しそうに笑っているので、つい問いかけてしまったけれど。
「いやいや、私の魔力では弾丸を形成することはできないわ。以前のマスター・オトハの使っていた力の矢なら形成できるけれど、あれは速度と貫通力が物足りないじゃないですか。さっきの妖魔に通用するほど、私の魔力はまだ練り込まれていませーん」
「はぁ、だったら、さっきのニマニマはなんだよ」
「ああ、あれは私とマスター・シャンディーンで賭けをしていましたでーす。マスター・オトハの使う魔術が何か、それを当てる勝負でーす。そして私が勝ちました」
まじかよ。
つまり、マスター・シャンディーンは、俺が使う魔術を読み込めなかったって言うことか。
「それってつまり、俺の使う魔術を読み切れなかったということで?」
「逆ですな。相手が風を纏っているということは、風系魔術を使用するタイプと読めます。このあたりの法則は、不思議なことに異世界・鏡刻界と地球で酷似していてね。錬金術の祖であるパラケルススの提唱した四大精霊理論。それを知るのなら、風を纏うものに対しては、大地の力を以て弱点となすのじゃが……」
「あ~、すいません、そこまで理解が及んでいませんでした」
やっべ。
そういう属性についての勉強も学ぶ必要があるのか。
「いや、それはゆっくりと学ぶとよい。幸いなことに、オトハくんに魔術の基礎を教えたものは、しっかりと君の資質を開花させている。ゆえにキャサリンのように初歩中の初歩から学ぶということは必要ないが、かえって自己流を貫いてきた結果、悪い癖が身についてしまっているね」
「ああ、基礎はマスター・羅睺の教えですね。それで悪い癖というのは?」
「膨大な魔力を保有している。それを言い訳にして、無詠唱発動ばかり使っていたね。詠唱について、力が及んでいない部分がある。しっかりとした詠唱文と、それを実体化するための意識。そのあたりも踏まえて、次は戦ってみるとよい……さて、そろそろ出発するか」
再びモーターハウスは走り出す。
ずっと独自の技術だけで戦っていた。
だから、余計な魔力を使ってしまい、いざというときに魔力が枯渇してしまっていることがあるということらしい。
それと、魔力があるからと油断してしまうこともあるらしく、そういう気の緩みを引き締める必要もあるそうで……。
はぁ、まだ三日なのに、色々と詰め込まれた感が満載しているよ。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




