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【書籍化】ネット通販から始まる、現代の魔術師  作者: 呑兵衛和尚
第八部・狂乱のアメリカ

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第四百九十四話・(乙葉浩介の悩みと、その対策について)

『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週火曜日と金曜日を目安に頑張っています。

――コポコポコポコポ

 特殊調整槽の中で、新山たち3人は静かに眠っている。

 すでに事前のチェックは終了し、あとは冬休みが終わるまでの10日間、スケジュール通りに調整を続けるだけ。


「うん、新山さんの魔力回路の損耗は予想の範囲内ね。このまま静かにしていれば、以前よりも強度の高い魔法を使えるようになるわ……うん、やっぱり鏡刻界(ミラーワーズ)真刻界(リアルコクーン)のコモンの肉体構成の違いが、明確に現れてしまったみたいね……」

「築地君も同じ感じだな。今は、心臓横に発生している魔石を定着させてから、術的処理により新たな『魔導経絡』を構築……と思ったんだがなぁ」


 治療棟一階にあるメディカセンター。

 そこで乙葉夫妻はも他のスタッフと共に三人の調整データの擦り合わせを行っている真っ最中。

 元陰陽府所属、そして数年前まではこのノーブルワンにおいて『人造妖魔プロジェクト』の責任者として就任していた二人にとっては、新山小春の魔力回路損耗や瀬川雅の魔皇紋制御および余剰魔力の処理パターン構築などの作業については、すでに数年前に通って来た道。

 ゆえに現存している資料を基に調整槽を改修し、二人の調整を開始していた。


 ちなみに築地祐太郎については、事細かな検査を行っているのだが、予想外のデータがボロボロと出てきたため、現在は魔石の定着作業に集中している。


「……これが築地君のデータね。まあ、何処の誰が処理したのか知らないけれど、こんなことまでできるとは……ってああ、プラティ老がやったのね」


 祐太郎の胸部レントゲンを見て、乙葉洋子が困った顔で呟く。

 レントゲンに写っているのは、魔石を心臓の形に加工した魔導具。

 それが祐太郎の心臓部分に埋め込まれ、そこを血液が循環している。


「んん、洋子はこれが何なのか分かるのか?」

「ええ。私が目指した目標の一つ。完全なる人造妖魔を作り出すために必要な心臓よ。本来なら『魔導結晶体』っていう高純度の魔石を用いるのでしょうけれど、私はそれを見つけることが出来なかったのよ。だから純魔石で代用していたのだけれど……この築地君の心臓は、まぎれもなく魔導結晶体ね。それで、ここの横に浮かんでいる魔石と、この魔導結晶体をリンクさせることで、築地君の今の問題点は全て解決すると思うけれど? 何か困っているの?」


 そう問いかける洋子に、京也が腕を組んで考える。

 そもそも、生身の心臓に対して魔石をどう定着させるかについて悩んでいたところ、まさかの疑似心臓であったためにほぼお手上げ状態になるつつあったのだが。

 その未知の心臓について、洋子があっさりと回答を引っ張り出したので、呆然とするしかなかった。


「いや……洋子はこの心臓について詳しいんだったな。そうか、それじゃあ魔石との融合についても問題はないか」

「あるわよ。それこそ浩介の治療と重なる部分があるわ。この手の仕事って、心霊治療師でないと無理。だから、今のところは祐太郎くんの魔石の調整と暴走を抑える措置が最優先。そうしないと、取り返しがつかなくなってしまうからね」


 その話を聞いて、京也も静かに頷く。

 それでも、この三人については特に焦るほどの状態ではないため、ひとまずは安心していた。


「それで、浩介は?」

「さあ? 陽光(シャンティーン)からの連絡が来るまでは暇だから、ミラージュと一緒に出掛けてくるって話していたが」

「はぁ。また目立つことを……本当に、自分のことについては無頓着すぎるっていうか……もう、何もなければいいのだけれど」


 その洋子の心配をよそに、浩介はのんびりとノーブルワンの近所を散歩している真っ最中であった。


 〇 〇 〇 〇 〇


――ボルチモア・サウスウエストエリア・パーク

 ノーブルワンの敷地であるサウスウエストエリア・パークから外。

 ウォーターフロント・プロムナードという観光地に、俺はノンビリとやってきた。

 ここは海岸沿いにつくられた観光地で、大勢の人々が行き交っている。

 ちなみに俺の治療については、アメリカ在住の心霊治療師の手が必要らしくてさ。親父たちがその人と連絡とってくれたらしくて、明日か明後日にはノーブルワンに来るらしいる それで新山さんたちが治療を行っている間、俺は暇だったので町に観光に来ています。

 ちなみにミラージュも同行するっていう話だったんだけれど、目的地を説明したら快く送り出してくれたよ。

 

 なんでも、まだ大勢の人の前に出るのは抵抗があるらしい。


「ムグムグ……っぷはぁ。濃厚だわ、しかもボリュームがありすぎる」


 シャクシャックインナーとかいうフードワゴンから、チーズバーガーとポテト、そしてコーラのセットを購入。そして魔法の絨毯の上でノンビリとランチタイムに勤しんでいたんだけれど、この巨大なチーズバーガーとポテトの山は何なんだ?

 ジャブロナルドのハイメガバーガーの二倍の大きさはあるぞ。しかも、そこに挟まっているチェダーチーズが外にこぼれてくると、ポテトだってLサイズの三倍の量に、やっぱりチェダーが掛かっているし。

 コーラのサイズは750ml、いくら食が太い俺でもどうしたらいいか困るレベルだわ。


『ハ~イ、貴方はひょっとして、日本の現代の魔術師さんかしら? 握手してくれる?』

「ん? ああ、握手……って、ちょっと待ってて」


 自動翻訳って凄いよなぁ。

 海外に来たら、その有効性に驚かされるわ。

 ということで空間収納(チェスト)からウエットティッシュを取り出して手を拭いてから、軽く握手してあげよう。


『サンクス。観光かしら?』

「いや、ちょっと仕事でね。それじゃあね」

『オーケー、頑張ってね』


 うんうん。

 金髪の美人のお姉さんと握手しちゃった。

 このあとも次々と握手を求めてくる人が大勢来て、一次的に大混乱状態。

 ということでさっさと握手を終わらせてから、この場所から離れ始めたんだけれど。


『ハイ!! マスター・乙葉。ご無沙汰ね』


 後ろから声をかけて来る女性が一人。

 しかも聞き覚えのあるこの声は、元機械化兵士(エクスマキナ)のキャサリン?

 そう思って後ろを振り向くと、金髪姿にジャケットというラフなスタイルのキャサリンと、白いジャケットを着た老人が立っていた。


「ああ、やっぱりキャサリンか。久しぶりだね、魔術の調子はどう?」

「うーん。今は新しい魔術についての勉強をしている最中でね。あ、こちらの方が、今の私の師匠よ。マスター・シャンティーン、こちらが私の魔術回路を開いてくれたコースケ・オトハよ」


 そうキャサリンが俺を紹介してくれると、マスター・シャンティーンという方が楽しそうに俺に近づいてくる。


『そうかそうか。君がキョーヤ・オトハの息子か。まだ下半身は動かないようだね』

「……親父から聞いたのか?」


 一瞬だけど、警戒してしまった。

 俺の下半身のことについては、新山さんたち現代の魔術師チーム以外には、親父とか本当に身内しか知らない筈。でも、それをこのシャンティーンという老人は言い当ててしまったからね。

 警戒してもいい状態だよ。


『うんうん。私はシャンティーン。故郷のナバホの言葉で陽光を表す。そして、君の父親から依頼された心霊治療師であり、シャーマンでもある』

「おっと、それは失礼しました。ということは、キャサリンがシャンティーンさんを連れてきてくれたのか? 助かったよ」

『残念だけれど、それはノーなのでーす。私は修行でこの地にやってきました。というか、昨日までマスター・シャンティーンに稽古をつけて貰っていたので~す』


 ああ、つまりキャサリンの修行でこっちに来ていたので、それが終わってから俺の治療をお願いしようとしていたのか。

 

『しかしマスター・オトハ。君に双子の男の子はいるかね?』

「いえ、俺は一人っ子……から妹が増えた程度で、弟はいませんけれど?」

『そうか……うん、それじゃあ、今のはなしなかったことに。わしの気のせいだったようだな。と、しかし、見事に幽体と肉体が分離しているね。君はこれをどうしたいかね?』

「え、どうしたいって……治療して、元のように歩けるようにしたいんだけれど。シャンティーンさんは、そのためにボルチモアに来てくれたのですよね?」


 そう問いかけると、シャンティーンさんは軽く頭を左右に振る。


『そうではない、そうではないのだが……さて、何処から話をした方がいいかねぇ。キャサリン、君から説明できるかね? これも修行の一端だと思うが』

『ん~、ちょっと待ってくださーい。ちょっと頭の中で整理しますので、マスター・オトハもちょっと待っててくださーい』

「ん、そのマスターっていうのなくていいよ。普通にコースケで構わないからさ」

『オーライ……』


 そう告げると、キャサリンは腕を組んで俺の近くをうろうろと徘徊している。

 そしてシャンティーンさんはというと、近くにあるフードワゴンからポテトの大盛りを買って来て、困った顔をしている。


『これは……量が多いねぇ。と、マスター・オトハ、海の方から妖魔が飛んでくるが、あれは君の知り合いかね?』

「いや、こんなところにくる魔族に知り合いはいないよなぁ……ゴーグルもないけれど、あれは明らかにやばいよなぁ」


 額に手を当てて、遠くをのぞき込むように海の向こうを見る。

 そして目に魔力を集めると、確かに海の向こうから『翼を広げた巨大な蛇』が飛んでくる。

 まあ、あれって地球上の生物じゃないよなぁ。

 ということは、多分、敵だろうなぁ。


『やっぱり敵だね。ということは、君の体内からあふれている魔素を狙ってきたということか。それじゃあ、よろしく』


――ポン

 シャンティーンさんは楽しそうにポテトを食べつつ、俺の肩をポン、と叩く。

 

「ええ、まじかよ」

『まじだね。君の体内の魔力の循環、魂の経路、幽体の質と強度、それを見させてもらうからね』

「え、あ、はい……」


 やっべ、これはマジでシャレになっていないぞ。 

 さて、どうすっかな。

いつもお読み頂き、ありがとうございます。


・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。


注)ジャブロナルドのハイメガバーガー

 マクドナルドのビックマックと思っていただけると。



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