第四百九十一話・閑話休題(カナン魔導商会の憂鬱、web出張版)
『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週火曜日と金曜日を目安に頑張っています。
七巻発売記念と、八巻発売確定ということで今回は特別に書籍版ではご存じの特別SS、『カナン魔導商会の憂鬱』の最新話を書き起こしました。
おそらくこれが書籍に掲載されるとすれば、15巻とか16巻ぐらいになるかと思いますので。
その日。
カナン魔導商会・本店大会議室は沈黙に包まれていた。
創業者であるマチュア・カナン・エーテルワイズを始めとした役員及び上層部が一堂に集まり、今回発生した、予測不可能だった事象についての対応を考えている最中である。
「しかし……これは予想外でしたな。まさか会長自ら手掛けた『カナン魔導商会システム』に、このようなエラーが発生するとは。どうでしょうか、この機会に各部署の担当役員の再配置など考えてみては?」
カナン魔導商会営業2課の課長であるサルート・ステゴマビッチが揉み手をしながらマチュアに進言する。
すると、会議室がにわかに騒めき始めた。
元々カナン魔導商会・ネット通販部は会長の暇つぶ……趣味……娯楽……いや、創業40周年を記念しての一大事業。当初は、各部署から経費の無駄遣いなどと揶揄されていたものの、ここ数年でネット通販部の業績はうなぎのぼり。周辺貴族だけでなく他国との取引も開始され、現在は他部署を押さえて業績壱位まで上り詰めていた。
そうなると、どうにか自分たちもその甘い汁を吸わせてもらいたいというクズ役員は発生するもので、他部署からの転属希望とか、あらたにもう一部署、新設してはという提案が後を絶たなかったのだが。
『乙葉浩介、ネット通販システムを不正使用疑惑』
これが発生した瞬間に、クズ役員たちは方向転換。
現在の部門長を糾弾し、そこに自分が後釜として入り込もうと考えるものさえ現れる始末。
それ以外にも、自分の管理する部署がすべて引き継ぎましょう、とか、部署そのものを切り取って外部委託にしてみてはという輩まで出ている。
この会議でも、それらの意見が後を絶たないのだが、そもそも今回の議題は『乙葉浩介のアカウント停止』をどうするべきかということ。
「サルート。それは今、話し合うべきではないな。それよりも問題は、カナン魔導商会のシステムを他者に使わせた乙葉浩介の処遇だ。現在はアカウント停止状態、本人からは再開、つまり停止解除を求めているが」
「そんなもの……アカウント剥奪でよろしいのでは? たかが一人のユーザーでしかないものの申請を受ける必要はないでしょう? それよりも、より利益をもたらすアカウントに恩恵を授けるべきではないでしょうか?」
「全くその通りです。乙葉とかいいましたか? そんな聞いたこともないような商人の相手をする必要はありません。それよりも、新しくネット通販部に登録させたい商人がいるのですが」
サルートに続き、営業3課のギヤマン・グネッツォが手を叩きながら進言する。
彼の担当は国内の商会へカナン魔導商会の商品を流通すること。
当然ながらあちこちから賄賂を貰い、私利私欲に溢れる生活を送っている。
今回の件も、親族が経営している商会をネット通販部お抱え商人として登用したいという思惑があったから。
そのあとも、それなら私が引き継ぎましょうとか、新しくもう一部門作ってはという案まで出てきて、乙葉浩介の処遇については『登録解除』ということでほぼ全会一致となるのだが。
「よし、乙葉浩介の処遇については保留。まあ、あいつの現状を鑑みるに情状酌量の余地はある。ただしレベルは1まで低下、共有アカウントは……情けとして残す。これで異存はないな?」
マチュアの言葉に、皆、不平不満そうに顔をしかめる。
「あの、そんな商人をどうしてそこまで重用したいのでしょうか? カナン魔導商会の通販システム、その恩恵を求めるものはかなりいらっしゃいます。ですが、現時点でアカウント登録されているのは20人、それがシステムの許容限界という事ならば、違反者のアカウントを停止して新たに登録した方が」
「ああ、ギヤマン卿のいうことも一理あるが。現在のカナン魔導商会・ネット通販部の利益の77%はこのアカウント一人で齎しているのだが。ギヤマン、お前が推挙する商人で、その77%を賄えるというのなら考えるぞ」
「な、なんですと……」
マチュアの人子人で、会議室は静まり返る。
所詮は違反を犯した個人商人、切り捨てても害はないと思っている役員が大半で会ったのだから、今のマチュアの言葉に驚愕するのは致し方ないこと。
「それにな、奴のもたらした商品、それの一部は王室ご用達として指定されている。いや、貴族のご婦人たちの集うサロンで扱われているものの中には、彼以外では納品できないものもある。それらも全て、ギヤマンが手配できるというのなら、乙葉浩介のアカウントは停止しようじゃないか。さあ、どうする?」
ニマニマと笑うマチュア。
これにはギヤマンも顔面汗だらけとなり、あの……とかその………とかしか呟くことが出来なくなっている。
「よろしい。それでは、乙葉浩介の処遇については通販levelの初期化ということで対処し、年明けから再開とする。なお、今日の議題はまだいくつかあるのだが、その前に……」
――ガタガタッ
そのマチュアの言葉と同時に、部屋の扉が一斉に開き騎士たちが入って来る。
「こ、これは!!」
「ああ、我がカナン魔導商会を内部から食い荒らそうとしている不良役員の一掃だ。これについては王家および貴族院からの許可も得ている。以上だ……つれていけ!!」
王室が正式に発効した逮捕状。
それを室内にいる役員全員に提示すると、室内の役員の約半分が騎士たちにより捕縛、そのまま部屋から連れ去られてしまった。
「さて。それじゃあ、次の議題にはいるとしようか。すまない、資料を回してくれ」
そこからは粛々とした会議が続く。
商会が大きくなるにつれ、内部から腐敗が始まる。
それをどのように制御するのか、役員たちは改めてマチュア会長に畏怖の念を抱くこととなった。
………
……
…
――カナン魔導商会・ネット通販部
大量の書類が積み上げられたオフィス。
それらは全て、乙葉浩介と融合していた『魔神ピク・ラティエ』が査定に出した商品についての問い合わせである。
カナン魔導商会・ネット通販部は乙葉浩介を始めとしたユーザーからの買取について、適正な鑑定スキルで価値を算出。それに対して10%から最大80%を掛けることで買取価格を決定している。
今までは地球産の商品ばかりであり、価値としてもそこそこ高かったもののそれほど爆上がりするものではなかったのだが、魔神ピク・ラティエのアイテムボックスに納めてあったものには先史古代魔導具も混ざっていたため、システムがオーバーフロー。
最高額の買い取りが次々と発生し、システムのチャージ上限まで到達してしまった。
これはまだいい。
問題なのは、買い取ってしまった未知の魔導具の販売先。
最悪なことに、この騒動に乗じてサルートとギヤマンがこの情報を自分の取引先に漏洩。
そこから問い合わせが殺到し、現在に至る。
カナン魔導商会には存在しない物品、それも伝承級の魔導具。
そのようなものが手に入るとするのなら、それこそ一国一城の主、いや、この国の王座を手に入れることも可能ではないかと野心を抱くものもいるだろう。
事実、すでに王位転覆を企む組織がこれら神聖具を入手すべく、暗躍を開始している。
「はぁ……これから、どうなるのでしょうか」
「販売についての問い合わせ、納品するようにという貴族からの指示。あまつさえ、他部署の職員がこっそりと魔導具を持ち出そうとするとは思っていませんでしたよ」
「それでもまあ、今は会長のアイテムボックスに保管されているから大丈夫なのでしょうけれど……」
――ドサドサッ
そんな話をしている職員の前に、さらに追加の書類が届く。
「さあさあ、そんなしけたツラしている輩には、口からマヨネーズ流し込んでやりますわよ!! それともタルタルソースがいいですか!!」
「それは飲み物ではありませんっ」
「でも、マイウー伯爵は町の中を歩きながら飲んでいたわよね……。ひょっとして、美味しいのかしら?」
「「「「「「「「「「「太るわよ!!」」」」」」」」」」
同じことを考え、実践した職員たちの魂のツッコミ。
それを聞いて、職員たちは、また作業に戻っていく。
なお、この数日後、魔神ピク・ラティエからの買取商品は全て王家が買い取り、宝物庫にて保管することが決定。
大量の書類はまとめて、焚き付けとして暖炉に放り込まれることとなったのは、いうまでもない。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




