第四十九話・以心伝心、盗泉の水を飲まず(敵の敵は味方という見方もある)
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どうするべきか。
早朝、突然起きた妖魔の襲撃。
先代から伝えられてきた退魔刀は、失われた退魔法具の一つで、魔力を込めることにより精神体である妖魔の肉体すら切り裂く。
うむ、ワシの魔力は常人よりも多いのだが、それでもあの妖魔には歯が立たなかった。
窮地を救ってくれたのは乙葉浩介君と息子の祐太郎、話には聞いていたのだが、まさかここまで浩介くんの魔術師としての実力が高いとは思わなかった。
相手は拝み屋の放った上級妖魔、かなり前に噂されていた二人組妖魔の始末屋。
ぶっちゃけると、第六課でも手出しできない強力な妖魔。
それが、まあ、あっさりと消滅した。
嘘じゃろ?
最初は信じられないものを見た感じがするが、まあ考えてみると、失われた魔術師の力だと言うのなら納得するしかない。
そのあとで浩介くんは、ワシのために身を守る道具を作ってきてくれた。
え?
魂との融合? これで盗まれることもない?
妖魔の攻撃ぐらいなら、簡単に防げる?
それって伝承級の退魔法具よりも強力なんじゃが。
専門機関が喉から手が出るほど欲しがる逸品で、個人が持っていていい代物じゃないんだが。
これって、どれだけの希少な材料が必要なんだ?
あ、ワシのうちから持って帰ったお中元で作ったのか。
あ、これはお中元に同封されていた封筒で、現金が入っていたのか。うむ、処理についてはあとで秘書に任せるとしよう。
え?
退魔法具の使い方のレクチャーは祐太郎がしてくれるのか。すまん、お父さんはもう思考が追いつかないので、なるべくわかりやすく頼む。
目の前でテーブルマジックを見せられて、それを覚えなさいって言われている感じがする。
あ、祐太郎、そんなに闘気を拳に纏われせなくていいぞ、まずは素手で、そう、優しく頼む。
だから、本気で来るなって言っているじゃろうがぁぁぁ‼︎
………
……
…
「ん? おじさんの悲鳴? 祐太郎がいるし緊急事態でもないようだから、おじさん特訓モードか」
目が覚めると午後。
軽く喉を潤すために冷蔵庫からエナジードリンクを取り出して流し込む。
うむ、翼を授けてください。
このあとは、先輩達の魔導具作成と行きたいところだけどさ、先にやらないとならないことがあるんだよ。
「魔力感知球は残っているから、これと魔石を組み込んで。いつもの魔力吸収回路と連結して消費魔力は周囲から自動吸収と。魔導化で対象魔力の強さが測定できるようにして」
淡々と作り出す新しい魔導具。
それよりも、今回の目玉はこれ。
「スキルオーブに、俺の魔法スキル『視認』を組み込む。此処に変異を発動して、効果を『妖魔を見る力』に変異……おお、出来たぞ‼︎」
身につけることで、妖魔を見ることができるオーブ。これをさっきの魔力感知球と融合化、縮小、変形で指輪型に……ジャジャーン‼︎」
完成したのは『妖魔視認の指輪』。
身につけるだけで妖魔を見る力、妖魔の発する魔力を感知することが出るようになる。
「今回は、井川さんに助けてもらったも当然だからなぁ。せめてものお礼として……やり過ぎた」
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こんなの、対妖魔バーサーカの井川さんに持たせたら、嬉々として町中の妖魔を殺害せよ、殺害せよってなるよね。白い顔でヘッドバンキングしながら。
「……まあ、ついでだから井川さんだけでも誤解を解いておく必要もあるよなぁ。あの柳瀬警部補は相変わらず俺たちのことを信用していないだろうけれど、いつまでも誤解されているのも癪に触るから……」
まあ、今後は第六課にも妖魔関係に動いてもらえば、俺達は戦闘に出るようなことはないだろうからな。
それなら、これをもう一つ作って……いや、材料が勿体無いし、そこまでする義理もない。
一つあれば十分だ。
万が一のために魂登録で俺に登録しておくことにしよう。
そんじゃあ行きますか。
「ゴーグルセット、ゴー。サーチ開始、対象は少し垂れている井川さん……あ、メモリーに入っているので、ポチッと」
──ピコーン
矢印が出るので、あとはこれに従って追跡するか。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
「‥‥これでよし」
車内でノートパソコンを開き、第6課に提出するための書類を作成。
小鳩符で見ていたすべてを書き上げて、あとは今後の指示を待つばかり。
それにしても、乙葉浩介と築地祐太郎の能力は大したものです。
あれだけの実力があれば妖魔などいくらでも討伐できるのに、何故、彼らは妖魔と共存する道を歩もうとしているのでしょうか。
――コンコン
ふと、助手席の窓をだれかが叩いている。
急ぎパソコンを閉じつつ視線を送ると、ニイッと笑っている乙葉浩介が立っているではないですか。
「‥‥あら、奇遇ね。何か用事ですか?」
「朝のお礼でね。手紙のおかげで、祐太郎と晋太郎おじさんの命を救うことが出来ました、ありがとうございます」
学生らしく素直に頭を下げる浩介。
あらら、これは予想外の出来事ですよね?
「それで、何かお礼がしたかったのですが、何かありますか?」
「あなたたちの正体を教えて頂戴。組織に所属していないというのなら、その力はどうやって身に着けたのかしら?」
‥‥‥
‥‥
‥
車に乗って監視しているらしい井川巡査長にお礼を伝えた。
そこまでは良かったのだけれど、やっぱり能力について聞かれることになった。
「そうですねえ。詳しいことは言えませんが、俺のこの力は、目が覚めたら使えるようになっていたという事で認識してくれると嬉しいですね。組織にも所属していませんよ?」
「まあ、組織云々については、こちらで調べていても出てこなかったからフリーだったというのは理解しているわ。そして、目が覚めたら魔術が使えるようになっていたっていうのも、御神楽様のいう『後天的覚醒』というのに該当するから疑いはしないわ。まあ、それが覚醒したのは1000年ぶりぐらいになるけれどね」
おおっと、ここにきてツンツンキャラがデレたのかというぐらいに掌を返してきたぞ?
これは予想外の反応であるけれど、俺も内心ほっとしている。
「それじゃあ、今後は俺たちを監視しない方向でファイナルアンサー?」
「それは無理よ。貴方のことについては理解したけれど、築地祐太郎についてはまだ裏付けが取れていないのですから」
「多分、祐太郎に聞いても同じだと思うよ。俺と同じく目が覚めたら覚醒していたパターンだからね」
こっちは事実。
武神ブライガーの加護は、寝ている最中に貰って戦闘中に覚醒したって言っていたからさ。
まあ、俺の言葉に腕を組んで考えている井川さんではある。
「一つ教えて。貴方の学校の敷地内の結界、あれは誰が用意したのかしら?」
「俺が作った。俺の能力は、そっちにも特化しているのでね」
そう告げて、先ほど完成させた指輪を見せる。
「これもさっき作ったんだ。妖魔を見ることができない井川さんでも、妖魔を見たり奴らの発する魔力を感知することが出来るようになるよ?」
「へぇ。本当に?」
「試して構いませんよ。まさか警察官が人の物を盗んで逃亡するとは思っていませんから」
そう告げて指輪を手渡すと、井川さんは躊躇しつつも指に嵌めてみる。
「使い方は?」
「魔力を捧げば判ると思いますが」
そう告げると、井川さんはゆっくりと魔力を体内で循環し始めた。
でもさ、こんなに少ないの?
常人よりも少しだけ多い魔力って、こんなに弱弱しいものなの?
それでも指輪の起動には成功しているところは、数少ない術師なんだなぁと納得。
一度起動したらあとは、魔力吸収回路があるから永続効果なんだよね。
って、突然井川さんが周囲を見渡し始め、渋い顔をしている。
「こ、この、周りを飛んでいるクラゲみたいのは全て妖魔なの?」
「あ、見えました? それなら魔力を指輪に流して周囲の魔力を感知するように意識してみてください。それで妖魔の発する魔力も広範囲で確認できるはずですから‥‥と、そうだ、いきなり魔力を注ぎすぎると魔力酔いをおこして」
――オエェェェェェェェ
突然運転席を開けていろんなものを吐き出す井川さん。
まあ、そうなるよね、学校でも、俺も一度やらかしたもの。
少し待っていると、どうやら落ち着いたらしく口元にハンカチを当てて運転席に戻ってくる。
「こ、これほど強烈に感じ取ることが出来るなんてね。でも、これであなたのことは理解したわ。魔術師だけでなく、退魔法具を作ることもできるって。そのうえで、貴方に妖魔の殲滅の協力を要請してもよいのかしら?」
「それは断るよ。ぶっちゃけると、俺は妖魔に知り合いもいる。そういうのを見てね、共存できる妖魔もいるって理解したからね」
「妖魔と共存ですって?」
「‥‥まあ、井川さんは知らないだろうけれどさ、今、俺たちの住んでいる世界にやってきて人を襲ったり、国会議員と契約して人間を餌にしている妖魔っていうのは現妖魔王派閥の配下なんだよ? 先代妖魔王とか初代は、人間と共存する道を歩んできたんじゃない? そのあたり、神楽境‥‥御神楽様にちゃんと確認したほうがいいよ」
まさか俺の口から神楽境の名前が出るとは予想していなかったのだろう。
目を丸くしてこっちを見ている。
「‥‥その名前はどこから?」
「知り合いの妖魔さ。ということで、井川さんがむやみやたらに妖魔を殲滅しないっていうのなら、その指輪は晋太郎おじさんのピンチを教えてくれたお礼として差し上げるよ。けど、それを使ってすべての妖魔を殲滅するっていうのならあげない」
さあ、どうする?
井川さんの気持ち的には、こんな強力な魔導具を手に入れた以上はすべての妖魔を殲滅するっていうのは目に見えている。それならそれで返してもらうし、俺の情報はある程度さらけ出したのでお礼にはなっていると認識している。
「ふぅ。敵対する人魔相手なら、問答無用で殲滅するわ。今までとは違って警告はいれるから。それでいいかしら?」
「警告を入れてすぐに殲滅ではなくて? そもそも井川さんの理屈なら御神楽様だって殲滅対象だよね?」
その言葉には、井川さんはどうしてって顔をしている。
「御神楽様が殲滅対象?」
「だって、神楽境って初代妖魔王だよ? その配下にあたる第6課ってさ、妖魔を司令塔に置いていながら妖魔を殲滅しているんだよね?」
ああっ、今ので井川さんが頭を抱えてしまった。
まさか知らなかったとは言わないよね?
「‥‥分かったわよ。私たちの最大の秘密である神楽境さまの正体まで知っているような相手との約束を破ることはできないわ‥‥ただ、一つだけお願い‥‥『伯狼雹鬼』っていう妖魔を見かけたら教えて」
真剣な顔で告げる井川さん。
「それは構わないけれど、どうして?」
「‥‥私の家族は、その妖魔に殺されたから‥‥」
絶句ってこういうタイミングのことを言うんだろうね。
家族を妖魔に殺されたのなら、そりゃあ妖魔を殲滅したくはなるわ。
今の言葉だって、心臓が握りしめられるぐらいつらい気持ちをぐっとこらえて吐き出したんだろうなって理解できる。
もしも俺が、同じ立場なら。
この能力を駆使してでも妖魔を殲滅するだろうから。
「‥‥分かった。その妖魔を探すためにも指輪はあったほうがいいだろうからね。それと、これも持っていくといいよ、万が一の時に怪我をしてもある程度は回復するから」
空間収納から中回復ポーションを一本と軽回復ポーションを三本取り出して手渡したんだけど。
またやっちゃったよね、俺。
「‥‥これ、何処から出したのかしら?」
「秘密。これも俺の能力だからさ。そんじゃあ、今朝の件はありがとうございました。約束はちゃんと守ってね」
「ええ。でも、私が第6課にこの情報を流すことに対しては止めないのね?」
「俺の代わりに代理で説明しておいて。それでいて、俺たちを都合のいいように利用するのなら、実力行使に出ることだってできるんだからね」
「それは上の判断ね。ともかく、これはありがとうね。大切に使わせてもらうわ」
これで話し合いはおしまい。
俺は車から出て井川さんを見送った。
路上にあった嘔吐物は魔法で水を生成して流したし、これですっきり。
もうすぐ夕方だし、あとは帰って魔導具作成の続きをしましょうかねぇ。
――キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィン
のんびりと歩き始めたとき、世界が変わった。
虹色の結界壁が遠くに見えている。
これはあれだ、秋葉原で見た『空間結界』だ、妖魔の能力だ。
「‥‥ちっ。また新手かよ」
思わず周囲を見渡してみる。
すると、道路の向こうから虎の頭をした妖魔が立っていた。
口元に怪しい笑みを浮かべたかと思ったら、それは素早く俺に向かって走ってきた!!
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。
そして今回はネタ4っつ、さあ、みんなで考えてみよう。
なお、戦闘の続きは次回!!




