第四百八十一話・画竜点睛、人は知らずに裁き、神は知って罰する(後始末と、別れと)
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魔力の渦から飛び出し、俺はすでに召喚していた身体と同化する。
同時に俺の体内から白桃姫も飛び出すと、周囲を素早く警戒し始めた。
うん、以前のようなロり白桃姫じゃなく、しっかりと元の姿を取り戻している。
あれはあれで好きな人もいると思うけれど、俺にとっては白桃姫はやっばりこの姿なんだよなぁ。
「ふむふむ。以前よりも身体能力が五倍増しというところか。常時魔神化の恩恵を受けているようだから、これは凄い神化じゃなぁ」
「へぇ。魔族も進化するのか」
「当然じゃよ。それが魔神化じゃからな……と、そんな阿呆なことを呟いている場合ではないな」
──シュンッ
一瞬で右手に巨大なデスサイズを召喚する白桃姫。
それならばと、俺も魔導紳士モードにチェンジして。
――バッギィィィィン
はい、俺の魔導紳士装備が音を立てて砕け散りました、どっとはらい。
「うおぉぉぉ、俺の装備が砕け散ったぁぁぁぁぁ」
「あ~、完璧で究極な亜神モードでは、あふれる神威に耐えきれなかったのであろうな。今まで壊れなかったのが奇跡じゃったわ」
「そ、それなら……」
フィフスエレメントを恐る恐る装備する、うん、これは大丈夫と。
ついでにセフィロトの杖はどうだ? これは鏡刻界の勇者装備だ。
――シュンツ
「ふむ、フィフスエレメントとセフィロトの杖は大丈夫。おおっと、ルーンブレスレツト……」
――パラパラパラパラ
はい、ルーンブレスレットも砕け散りましたわ。
つまり、魔導紳士も再起不能、なんというか、初期装備状態に毛の生えた感じの俺ちゃんなんだけれど。
まあ、白桃姫の説明から考えてみると、確かに今までよく持ちこたえたなぁとは思う。
かといって、カナン魔導商会の提携鍛冶屋で、亜神が装備できる防具があるとは思えない。
でも、普段着は吹き飛ばないところを見ると、俺の放っている神威と防具の魔力が干渉して壊れたのではないかと推測できる。
「こ、こら、とっととこっちにも力を貸さぬか!!」
「おおっと、力の矢、威力125倍で……って、指輪も全て砕けているのかよ!! 自前でブースト開始、増幅術式からの威力上昇64倍、範囲を全周囲に修正、敵魔族の魔人核をチェイス&ロック……俺の防具の仇ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」
両腕を体の前で交差し、体の全周から力の矢を放つ。
うん、これも一度でいいからやって見たかったんだよ。
そして俺たちの向かって群れて来る大量の魔族が、次々と魔人核を撃ち抜かれて吹き飛ぶ。
まあ、運が良ければ生きている、運が悪ければ死んでしまうってことで、悪いけれど、ここにいる魔族、いや妖魔については、手加減はしないからさ……。
俺の視界のあちこちに人骨らしきものが転がっていたり、死にたてのような死体があちこちに散乱しているからな。
「……なあ乙葉や。今の攻撃、妾を巻き込むとかそういうのは考えなかったのかや?」
「魔族の魔人核をターゲットにしたから、今の白桃姫の体内核は神核だから、対象外だが?」
「ふむ……あいも変わらず器用な。それで、残りの妖魔はどのあたりにいるのじゃ?」
「ちっょと待って、ゴーグルゴー……ってなし、今のなし!!」
――グゥラゴラグシャッ
頭に装着したセンサーゴーグルも、ものの見事に砕け散りました。
これはつまり、すべての装備を俺が一から作り出さないとならないということか。
はぁ……カナン魔導商会は魂と結びついているスキルだから大丈夫だよな?
――シュンッ
一瞬だけカナン魔導商会のメニュー画面を作り出す。よし、これは問題なし。
愛も変わらず『重要』というマークがついたメッセージが点滅しているけれど、ちょっと後始末を終わらせてからね。
「それで乙葉や、残りの妖魔は?」
「ちょいまち……全周囲、魔力感知……うん?」
頭の中に、このサンフランシスコ・ゲートの平面図のようなものが浮かび上がる。
そしてあちこちに点滅しているマークが写し出されているのだけれど、これって魔族の反応のようだな……うん、サーチゴーグルの効果を、無意識のうちに術式転換できたみたいだ。
「では、改めて……サーチ・マジック!」
――ブン
うん、頭の中に360度スクリーンのようなものが浮かび上がり、周囲が完全に見通せる。
隠れている妖魔、攫われている人々、そして、サンフランシスコ・ゲートの中央にそびえたつ、高さ1280メートルの銀色に輝く葉を生い茂らせた巨大な世界樹も。
「残存数、およそ3580体。人間の生存者4510人……どうする?」
「乙葉はどうしたいのじゃ?」
え、そこで俺に振る?
ここで妖魔を倒した方が、のちのち禍根を残さないで済むんだけれど……。
でも、生存者の救出が大事だよな。
ということで、魔法の絨毯を取り出して飛び乗って
――ブワッ!
「はぅあ、またやっちまったぁぁぁぁぁ」
音もなく絨毯が塵になってしまいました。
「はぁ。もう、乙葉は少し、考えてから行動せい。完全に亜神化した状態にも関わらず、神威を制御しきれておらぬ。いや、完全覚醒したからこそ、今までとは制御方法が異なっているのかもしれぬが……体内の魔力回路が破れ、そこから神威があふれているということにとっとと気付くのじゃ!!」
「ああ、そういうことか……」
――スッ
意識を集中し、体内の魔力回路を流れる神威を最小限にとどめる。
亜神の場合、この流れを完全に止めると体が弱体化し、いずれは死ぬ……つていうのは理解できた。
ようは、今の俺にとっては、神威は体内をめぐる血液と同じ。
それを止めるだなんて、とんでもない。
「こ、こんなかんじか」
「そうじゃな。では、乙葉は生存者の救出を、妾は残存妖魔の殲滅をしてくるとしようか……」
「任せていいのか?」
「無論。全て終わったら、魔力ストッカーの横に神威ストッカーを作って寄越すのじゃ、そこに神威玉を満杯でな」
「り、了解だ」
そう返事を返すや否や、白桃姫が面倒くさそうに翼を広げ、飛んでいった。
「さて、それじゃあ俺も始めますか」
どおれ、生存者はどこだぁぁぁぁぁぁ。
………
……
…
――8時間後
サンフランシスコ・ゲート入り口に設置されている、俺が作った聖域。
そこに向かい。、外で警戒しているアメリカ海兵隊とヘキサグラムの機械化兵士が警戒していることを確認すると、俺は外に出て責任者らしき人物に事情を説明。
すぐに裏を取ってもらい、俺が日本から転移して来た『現代の魔術師・乙葉浩介』であることを証明すると、俺に対しての警戒は解かれた。
そして内部に残っている人たちの救出を頼み、俺は再び転移門の中へ。
ちょいど嬉々として妖魔を刈り取っていた白桃姫とも合流し、ようやく精霊樹の麓までたどり着くことが出来た。
「……ここが、災禍の赤月の起動術式が施された巨大魔法陣の中心じゃな……」
「……最悪だな……」
目の前には、巨大な蛞蝓の姿をした妖魔が横たわり、ゆっくりと塵になって消えている最中。
そしてその中から人間の死体が次々と姿を現すものの、それも静かに黒い塵となり、消えていく。
ジェラールが話していた、妖魔と同化した人間は助からない。
それを目の当たりにして、俺は言葉も発することができないぐらい焦燥感に包まれている。
もっと早く来ることが出来れば。
俺にもっと力があれば……。
だが、この妖魔に囚われていたらしい人たちの、魂の残滓も見当たらない。
つまり、妖魔に吸収され、糧となったのか。
それとも、この魔法陣を起動するために使い切られてしまったのか。
「あ……」
そして、俺の目の前、手を伸ばせるほどの位置に、まるで眠っているかのような顔をしているジェラールの姿が現れたが。
――フワサッ
それもゆっくりと、塵となって消えていった。
やがて蛞蝓の身体も全て消え去ると、そこには何も残っていなかった……。
「……乙葉や、己を責めるな。これは魔神ディラツクが謀ったこと、奴の行った計略。そなたには何も非はない。もっと力があったら、もっと早く動いていたらなどというエゴは捨てよ。そなたは、やるべきことを行った。よいか、これで済んだ、そう思え。災禍の赤月が完全起動しておったら、この星と鏡刻界、そしてそれに連なる小さな世界の全てが、破壊神によって消滅させられていた……」
うん。
それは理解しているさ。
でも、もっとほかにも方法がなかったのか、もっと早く決断できなかったのかって後悔は残っているさ。
「はぁ……そうだな、白桃姫の言う通り、いつまでもクヨクヨしていたら、なにも始まらないか」
「うむ。ということで、ここの後始末はヘキサグラムとやらに任せて、日本へ帰るとしようではないか」
そう告げてから、白桃姫が精霊樹の樹肌にそっと触れる。
「我、ピク・ラティが誓願する。ここよりかの地へ、道を繋げ給え」
そう白桃姫がつぶやいた瞬間。
彼女が触れていた場所に、水晶で出来た扉が生み出された。
今まで俺が作っていたような金属質の扉ではない、なんというか、暖かく優しい光を放つ扉。
「これって……」
「これが、水晶柱により生み出されるターミナルゲートの本物じゃな。今はまだ、乙葉の支配領域へしか繋ぐことが出来ぬが、いずれは鏡刻界へも繋がるやもしれぬな……まあ、向こうの精霊樹と、あとはフェルデナント聖王国の水晶柱にじゃが」
「前者は大歓迎だが、後者については封印しておいてくれ。誰かが勝手に使ったりしたらまずいからな」
いや、フェルデナント聖王国なんて、二度と行きたくないわ。
それにな迂闊に繋がるものなら、また奴らが進軍してくるに決まっている。
「はははっ、それを決めることができるのは、妾と乙葉のみじゃよ。もっとも、決めるのではなく頼む、というのが正解じゃがな。精霊樹は支配できない。ただ、開放してくれた乙葉と妾は、交渉権を持っているようなものじゃから」
「そっか……」
「そういうことじゃ、では、開くぞ!!」
――シュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ
静かに扉が開く。
その向こうには、見たことがある大通り一丁目、札幌テレビ城があった場所。
いまは巨大なクレーターと残骸、そして大勢の自衛官たちが作戦行動のようなものを展開している。
がれきの撤去、生き埋めになった隊員たちの救出。
そんな姿が、目の前に広がっている。
そして。
「乙葉……くん……無事だった……」
俺の姿を見て、涙を溢れさせながら走ってくる新山さん。
うん、無事だよ。
「ああ、どうにか決着はついた。あとは、本業の人たちにお任せ……だ……」
「乙葉くん!!」
ああ、格好つかないよなぁ。
新山さんの姿を見て、そしてどうにか無事だったらしい人たちの姿を見て、力が完全に抜けてきたわ。
やっぱり、俺にはヒーローなんて似合わないよなぁ。
もっとゆったりと、ノンビリとした高校生活を送りたかったんだよなぁ……。
でも。
良かったなぁ。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




