第四百七十八話・悪因悪果、旭日昇天の勢い(神を目指すもの、それを止めるもの)
『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週火曜日と金曜日を目安に頑張っています。
大爆発。
魔神ディラックを中心とした、直径100メートルが、魔力の拡散爆発により吹き飛ぶ。
爆風が瓦礫と化していた建物群を更に破壊し、大通一丁目はおろか、二丁目の1/3までの大地が抉られ、粉々に砕け散っていた。
そのさらに外周には、爆発により吹き飛ばされた退魔官や特戦自衛隊の隊員たち、さらには二丁目周辺に点在していた書くセクションのベースキャンプまでもが吹き鯖され、死屍累々とした屍の山を築き始めている。
運よく生き残った者たちはうめき声を上げ助けを乞う。
その中には、ディラックが出現した時点で撤退指示を受けていたにも関わらず、少し離れた程度でカメラを回していた報道関係者たちの姿もあった。
そして最悪なことに、奇跡的に無事であったらしい倒れたカメラが撮影を続行。
ファインダーの中にも生きたまま魔族や魔獣に食われている人間たちの姿が映し出されてしまった。
急遽、放送局では中継を中止、渓谷を進む客船の姿を流しすと同時に、『放送倫理上不適切な映像が流れたことにお詫び申し上げます』というテロップが映し出された。
「……くっくっくっくっ……ああ、この人間共の悲鳴、血の香り、本当に滾ってくるな。しかし、貴様たちが無事なのは癪に障るが……」
目の前で二枚の盾を構えている小春と、その背後で血を流しつつもどうにか意識を保っている魔神ピク・ラティエを見て、ディラックは忌々しそうに吐き捨てる。
そのディラックの身体自体も、あちこちがひび割れ、砕け、大量の破片が地面へと零れ落ちている。
元々、この肉体はしかりそめの肉体であり、早急に乙葉浩介の肉体に入れ替わらなくてはならなかったのだが、今の大爆発により限界を迎え、いよいよ崩壊が始まっていた。
「ハァハァハァハァ……まあ、小春の盾は、いかなる攻撃も中和する勇者の盾じゃからなぁ」
「その通りです。私が鏡刻界で体得したミーディアの盾は、いかなる魔術も中和します!!」
地面にへたり込むも、なお、軽口を叩くピク・ラティと、その手の前で片膝を付き、両手で盾を支える小春。
ミーディアの盾は魔力によるコントロールにより、浮遊し敵の攻撃を的確に受け止め、中和する。
だが、小春の魔力がほぼ空になっているため、浮遊させることも出来なくなっている。
今は両手で前方に構え、ディラックの周囲に発生するであろう『剥奪の波動』に対し応すべく、じっと力を蓄えている。
「白桃姫さん……魔力回復薬はまだありますか」
「とっくに切れているわ。今、妾が出来るのはここまでじゃな」
両手で印を組み、アイテムボックスの内部に収納してある『購入済み回復薬』を全て放出。
倒れている人間たちに向かって、最後の『癒しの雨』を振りせることしかできていなかったが。
――カツカツカツ……
ディラックはゆっくりと半球状に抉れた地面を進み、小春の前に立つ。
「ああ、なるほどな……こやつ、神の加護をうけている聖女か……それならば、まずはこいつの魂を器に取り込み、癒しの力を手に入れるとしようか」
「そうはさせませんっ!!」
ディラックが手を伸ばすと同時に、ミーディアの盾の裏からスクロールが飛び出し、ディラックに巻き付いた。
あまりにも一瞬の出来事故、ディラックも反応が遅れてしまい、両手を巻き取られてしまう。
「束縛のスクロールです。私の神威を注ぎ込んで発動しました、今のあなたにはそれから逃れることはできませんっ!!」
「神威……だと?」
小春の口から出た、神威という言葉。
それを聞いてディラックはほくそ笑み、そして高らかに笑った。
「くっくくくっ……こんなものが神威だと……これは、加護を纏った魔力であり、神威ではないわ……そもそも神威とは、生身の人間が纏うことが出来ない力。いいか小娘、この裏地球の人間が魔術をあつかえないように、選ばれしものでなくては神威を扱うことが出来ない。だから」
――ブチブチブチィィィィッ
力任せにスクロールを引きちぎると、ディラックは右足を上げ、そのままミーディアの盾ごと小春を蹴り飛ばす。
――ガギィッ
「キャッ!」
「……と、あぶねぇなぁ……」
ディラックの蹴りが小春に直撃する直前。
彼女とディラックの間に祐太郎が縮地で飛び込んでくると、左腕に装着しているブライガーの籠手で、ディラックの蹴りを受け止める。
だが、ずたずたにされた全身では、その力を全て受け止めることはできず、そのまま後方へと吹き飛び小春を巻き込んで振って飛ばされてしまった。
「……ふははっ……鴨が葱を背負ってきたか……暗黒闘気使いは右腕と左足を失い、聖女は魔力が枯渇し神器も扱えない……面倒な魔人王も、あの爆発には耐えられなかったようだが……まあ、あの状況で死んでいないのは合格点だな」
ちらっと離れた場所で深淵の書庫を展開していたらしい雅を見る。
そこでは、深淵の書庫の手前で大の字になり、爆風から雅を守りずたずたになった銀狼嵐鬼と、魔力枯渇で魔人王モードが強制解除され、意識を失っている雅の姿があった。
さらにその手前では、魔人核が傷つき、シュウシュウと黒い霧が音を立てて噴き出している黒狼焔鬼の姿もある。
「デ、ディラックさま……何卒、私に癒しの力を……」
「うむ。黒狼焔鬼よ、一番厄介であった銀狼嵐鬼と魔人王をそこまで追い込むとは、あっぱれである……」
――シュルルルッ
倒れそうな黒狼焔鬼に向かって右手を向けると、そこから剝奪の波動を放ち、黒狼焔鬼の胎内になある魔人核を引き抜き、そして吸収する。
「傷ついた魔人核の再生には、莫大な人間の魂を必要とする。それまでは、我が器の中で眠れ」
「ありがたき……しあ……わ……」
――ブワサッ!
黒狼焔鬼の肉体が消滅し、ほんの僅かだけディラックの身体の傷が再生する。
それでも、一度崩壊を始めた肉体を止めることはできず、すぐにまだ皮膚が裂け、砕け、その中にある漆黒の空間が剥き出しになった。
「ああ……築地……小春……雅まで……」
あまりにも無残な状況に、白桃姫の言葉も震える。
だが、今の彼女でも、目の前のディラックを仕留めることはおろか、止めることもできない。
一度に大量の魂を吸収したことにより、ディラックの神格が高まりピク・ラティエのそれを大きく上待ってしまったのである。
「さて、それじゃあ、そろそろ加護もちの魂も頂くとしようか」
笑いつつ小春に近寄るディラック。
そして力なく首を垂れる白桃姫。
「もう、魔法薬での回復も不可能……このままでは、小春たちの命すら危ういではないか」
そう呟くと同時に、白桃姫は目を閉じて心の中で叫ぶ。
『乙葉や、はようなんとかせい!! このままでは、皆、ディラックに取り込まれるぞよ!!』
………
……
…
目の前の二人、こいつらの対策は理解した。
とはいえ、これほど複雑に絡み合った高難度術式を制御できるかどうか……。
そう思いつつも、必死に二人の攻撃をかわしまくっていた時。
『乙葉や、はようなんとかせい!! このままでは、皆、ディラックに取り込まれるぞよ!!』
おおう、白桃姫の悲鳴が聞こえる。
とはいえ、こっちも限界一杯。このままここを離れる事はできない、そうすると、ここまでやってきたことが全て無になってしまう……。
こっちも安定させつつ、向こうをどうにかする方法は……あるわ。
「白桃姫、主従を入れ替える。こっちで百道烈士とマグナムをどうにかするのは任せた、高難易度封印術式は組んであるし、ジェラールがバックアップをしている。俺は、切り札を使う」
『切り札じゃと? 今更そんなものが通用するとでも思っておるのかや!』
「あるさ、とっておきのやつが……という事で、亜神モードに移行っ!!」
──シュンッ
一瞬で魔神ピク・ラティエの姿が亜神乙葉浩介に切り替わる。
俺の目の前では、両手を広げて、倒れている俺と祐太郎を、砕けかかったミーディアの盾で防いでいる新山さんの姿があった。
だが、彼女ももう限界。
だから、ここからは俺のターン。
「さてと……どこからやろうか」
主自由が入れ替わる瞬間、白桃姫が俺の身体で何をしていたのか理解できる。
すでにカナン魔導商会のチャージ残高はマキシマム、加えて公式サイトから『重要』と記されたメッセージが点滅している。
白桃姫がここまで蓄えてくれたんだから、これを全て使う覚悟で行かせてもらうさ。
「さて、カナン魔導商会のメールは後回しとして……カナン魔導商会オープン!! 特殊兵装コーナーをセット!」
全力で叫ぶ。
モニターはフルオープンチャンネル、俺にしか見えないことをいいことにサイズは最大まで展開する。それを新山さんの目の前に開くと、俺はメニューから一つの商品を選択し、それの購入を始める。
「乙葉くん!! それは駄目っ! この光景は全世界に中継されているかも知れないのよ……」
「ご安心っ。登録者にしか見えていないし、今はこのサイズがどうしても必要だからさ……出し惜しみをしていたら、全てがディラックに取り込まれて終わるから。購入品の指定、超大型浮遊戦艦『尾張』の残骸から、謎の人型起動兵器の右腕のパーツを選択……それじゃあ購入手続きも完了。納品指定先はモニター正面。ついでに一発、ぶちかませやぁぁぁぁぁぁ」
『ピッ……ご購入、ありがとうございます。商品名・天使型マーギア・リツター、所有者コードの変更も完了。並行世界故、実体化時間は12.5秒』
電子音のような声が聞こえたのと同時に、巨大化したカナン魔導商会の画面から巨大な腕が飛び出してくる。それは俺たちの真正面に立ち両手から『剥奪の波動』を放とうと近寄っていたディラックの体に直撃し、奴を遙か後方へと吹き飛ばした。
「え……これって……」
「う〜ん。なんというかさ、俺がかなり昔に、カナン魔導商会で見かけた浪漫商品でね。俺が購入したのは、どこかの世界の巨大ロボットのジャンクパーツ。ただ、こいつは魔力切れで動かなくなって放置されていたらしいから、俺の神威を全力でチャージしてやるよ。武装展開っ!!」
──ガッゴォォォォン
巨大ロボの腕部装甲が展開する。
そこから巨大なランスが剥き出しになると、俺はその先端に神威を集めた。
「な、なんだそれは……いや、そんなガラクタでは、この俺の力を越えることなどできない……」
「それがさ、越えられるんだわ。この槍の正式名称は『ランス・パニツシャー』っていうらしくてね。いかなるものも原子分解する。神罰そのものだとさ。グッバイ・ディラック!!」
――キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィン
右腕に構えたランスの正面に魔法陣が展開すると、一瞬でディラックに向かって虹色の光線が放出される。
「こんな……こんなところでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」
ディラックも目の前の『剥奪の波動』に神威を注ぎ、どうにか威力を相殺しようとするものの、残念ながら神威値は俺の方が上。
どっちが先に尽きるか、時間の勝負といこうじゃないか!!
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




