第四百七十七話・一触即発、電光石火の如く(起死回生……いや、なりふりかまわず)
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黒狼焔鬼の周囲に展開した5つの魔法陣。
そこからゆっくりと、五つの矢が姿を現す。
炎、氷、雷、黒曜石、そして闇。
やがて五つの属性矢は同時に射出されると、銀狼嵐鬼に向かって一直線に飛来し、彼の肉体に深々と突き刺さる……筈であった。
「兄者はもう、忘れていたかも知れないが……私の得意な魔術は五つの属性。それらを自在に操り、さらに幻惑と呪詛を扱う……長き眠りについていた兄者に、この攻撃のすべてを躱すことはできませんっ!!」
高らかに叫ぶ黒狼焔鬼だが、銀狼嵐鬼は超高速で飛来してくる矢のすべてを目視で捉えている。
「四つの属性と、結界中和能力を付与された闇矢か。しかも、こいつだけは誘導弾っていうことは、狙いは雅だな……」
――バシバシバシバシッ
素早く踏み込み、炎、氷、雷、黒曜石の矢に向かって拳を叩き込む。
その瞬間、矢を形成していた術式が無効化され、音もなく消滅する。
「は……は、はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?」
必殺の一撃、それを5つ同時に放つことにより、銀狼嵐鬼の動きを阻害できると確信していた黒狼焔鬼だが、まさか放った矢よりも高速で動き、術式を破壊されるとは思っていなかった。
「だ、だが、闇矢には追い付けません。あれに追いつくことが出来るのは、この世界には存在しない……ってなんだとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
――シュンッ
銀狼嵐鬼は動かなかった。
なぜなら、雅を守っている深淵の書庫の目の前に、祐太郎が縮地で移動し、機甲拳を大きく構えていたから。
「まあ、ディラックは無理でも、こっちは楽勝だな……四の型っ、広範囲拡散拳っ」
――ドゴゴゴゴゴコゴゴゴコゴッ
一瞬で24発の拳を放ち、飛来する闇矢を破壊する。
それも、闇矢の真下に影のように存在していた、もう一つの矢まで。
「あ、悪い。この技って、そもそも対魔術用の迎撃技なんだわ。しかもほら」
祐太郎は、狼狽しかかっている黒狼焔鬼に向かって、グイッとブライガーの籠手を見せた。
神より授かりし神聖具ともいえる武具。
その拳で打ち砕けない魔術など……とりあえず黒狼焔鬼の魔術は破壊することが出来た。
残念ながらディラックに対しては有効打を叩き込むことが出来なかったが、それについては専門家に任せることにしたらしい。
「なんだと……な、なんだと……こんなバカなことが……こんなバカなことが、あってたまるかぁぁぁぁぁぁぁ」
空高く絶叫する黒狼焔鬼。
すると、着こんでいたスーツがびりびりと破れ、その中から漆黒の毛を持つ人狼の姿が現れ始めた。
「こ、これが奴の本体か……」
「ああ、そういうことだ。だけと築地くんといったね、ここは私に任せたまえ。君は乙葉くんの本体を守らなくてはならないのだろう?」
銀狼嵐鬼はグイッと親指を立てて、魔神ピク・ラティエの方を指さす。
その方角では、魔神ディラックの放った『剥奪の波動』の触腕に対して、次々と無数の正拳を叩き込んで迎撃しているピク・ラティの姿があった。
「あ、あれは……」
「ラティエ家伝来の戦闘術。かつて、魔人王ディラック、そしてフォート・ノーマすら屠りかけた伝説の技、桃撃羅漢百二十八連掌」
その技については、祐太郎もかつて聞いたことがあった。
プラティ・パラティの元で暗黒闘気体得すべく修行に明け暮れていた時代、師匠であるプラティから聞いた白桃姫の本当の強さ。
正面から戦った場合、ディラックとフォート・ノーマ、二人がかりでも勝てる可能性はゼロに等しいといわれているほど、白桃姫は強い。
それを今、祐太郎は目の前でまじまじと見せつけられているのだが。
「ふぅむ……やはり分が悪いか。築地くん、彼女は任せた……」
「え、あ、ああっ!!」
銀狼嵐鬼の放った言葉。
それが事実であるかのように、白桃姫の正拳ラッシュがどんどん押し込まれ始めた。
その理由は至極単純。
出力の違いである。
胎内に取り込んだ人間の魂、それをエネルギーとして好き勝手に使っている魔神ディラックとは異なり、白桃姫は自身の保有魔力と本体である乙葉浩介の神威しか使えない。
しかも、その神威すら万全でない状態ならば、やがて押し込まれてくるのは道理である。
………
……
…
――ズズッ、ズズズッ
ディラックの両手から放たれた『剥奪の波動』。
それは徐々に白桃姫の迎撃をすり抜け始めると、彼女の肉体に一つ、二つとかすり傷を付け始める。
「しまった!」
「ははっ、ついに命中したぞ……」
たった二つのかすり傷。
だが、その傷口から黒い霧が吹き出すと、剥奪の波動に向かって吸い込まれ始めた。
「小癪な……だが、甘いわ」
――シュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ
突然、白桃姫の頭上から大量の水が降り注いだかと思うと、傷が瞬時にふさがっていく。
何のことはない、彼女がカナン魔導商会から大量に購入した様々な回復ポーション、それをアイテムボックスから直接、傷口に向かってぶっかけただけ。
手元がくるってしまい全身がずぶぬれになってしまったが、それでも結果オーライというところであろう。
「はぁ……本当に、あなたはどれだけの回復ポーションを所持しているというのですか。それも、見たところかなり上質なものですね……」
「まあな。これは妾の切り札じゃよ……と、小春や、今のうちじゃ!!」
「大丈夫です、すでに処置は続けています!」
左右にミーディアの盾を浮遊させつつ、小春は大量のスクロールを展開し銀色の結界を次々と形成すると、そこに怪我人たちを収容していく。
魔神ディラックの気を白桃姫が削いでくれたからこそ、大量の犠牲者を出さずに死んでいたのであるが、その小春の魔力も枯渇寸前。
短時間で大量に魔力回復薬を摂取していた結果、すでにいくら飲んでも効果は発揮されなくなってしまっていたのである。
それでも小春は笑顔で笑う。
治療を担当としている聖女が、表情を曇らせてはいけない、そのことを十分に理解しているから。
「と、いうことで。先輩は銀狼嵐鬼さんに任せてきたので、ここからは俺たちのターンだ」
「ふっ……鴨が葱を背負ってやってきたか……いいだろう、何処まで抗えるか……いや、そうか。貴様たち、時間を稼いでいるのか!!」
魔神ディラックは、ここにきて白桃姫たちの取っている作戦を理解した。
一方的な防戦状態を維持しつつ、自分たちに対して攻撃を続けさせている理由。
少しでもディラックを疲弊させるつもりかと最初は疑っていたのだが、ここにきて乙葉の立てていた作戦のすべてを理解した。
「そうか……乙葉の本体は、天の柱を目指しているということか……だが」
――バン!
ディラックが両手を合わせる。
その瞬間、大通周辺の魔力が突然、揺らぎ始めた。
「い、いかん、こやつ、リミッターを外しおったわ!!」
ディラックの周囲に、陽炎のように神威がたなびく。
それと同時に彼自身の肉体もビシッビシッと崩壊を始める。
「ぐははははぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。これを受けてもなお、防戦状態を続けられるかぁぁ」
「皆の者、身を守るのじゃ!|」
「なんだとっ!!」
「嘘でしょ!!」
――ドッゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ
白桃姫の絶叫と同時に……大通一帯の浮遊魔力が一斉に爆発した。
それはディラック自身の肉体にも大ダメージを与えてしまう自爆に等しい技。
だが、神威によって誘発された爆発は、神威でなくては防ぐことが出来ない。
やがて爆炎と大量の煙が収まって来た時。
白桃姫と小春以外の、すべての人間も魔族も吹き飛ばされ、その場に力なく倒れてしまっていた。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




