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【書籍化】ネット通販から始まる、現代の魔術師  作者: 呑兵衛和尚
第七部・災禍の赤月、或いは世界滅亡へのカウントダウン

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第四百七十五話・色即是空・空即是色、賽は投げられた(魔神vs勇者)

 妖魔特区内・ピク・ラティエ領攻防戦。

 

 水晶柱を介在しない単独転移門より大量に発生した魔族の軍勢。

 それらと対峙し、大通一丁目から外に出さないように前線を敷いている特戦自衛隊と退魔機関の退魔官たち。

 だが、そもそも魔力を糧とし、変幻自在な能力を持つ魔族に対して、未だ正面から戦う術を殆ど持ち合わせていない人間サイドは防戦一方どころか、戦局は人間側不利に拡大しつつある。

 作戦の要である乙葉浩介は現在、肉体の支配権を白桃姫に託し、妖魔特区での対ディラック戦すべてを任せているのだが、妖魔の用いる大転移門からは、次々と妖魔の軍勢が押し寄せてくるため、敗北するのは時間の問題にも見え始めていた。


………

……


 新山小春の持つ勇者の力、全自動魔力中和盾であるミーディア。それが魔神ピク・ラティエの前方に展開し、魔神ディラックの放つ神威の塊を次々と受け止め、破壊している。


「ふむふむ。小春や、今しばらくはこやつの制御を任せるぞ」

「はいっ!!」


 ピク・ラティエの斜め後ろに控え、両手を突き出して意識を集中している小春。

 ミーディアの制御により、すでに保有魔力は限界ぎりぎり。

 それを白桃姫がカナン魔導商会から購入した魔力回復薬を飲み続けることで、どうにか維持しつづけているのである。

 かたや白桃姫は、カナン魔導商会のメインメニューからポーションの項目を開き、次々と回復薬を購入。並列思考によりポーションを次々と中空に投げ飛ばすと、液体操作術式により怪我人の頭からぶっかけ続けている。


「うあっ、怪我か癒される!!」

「これは、聖女の魔法か!! まだ戦えるぞ!!」


 傷ついた隊員たちも活力まで回復させられると、すぐさま立ち上がり戦線に復帰する。

 そして。


「新山さん、盾は任せる。俺は……鉾になる!!」


――シュンッ

 祐太郎もルーンブレスレットから豪爆棍を取り出し、魔神ディラックに向かって打ち下ろす。

 だが、それをいとも簡単に右手一つで受け止めると、ギリッと豪爆棍を握り返した。


「ははぁ。この武具、これは神具を組み替えたのか。まったく、何処のどいつが……と、そうかそうか、これも乙葉浩介とやらが作り替えたのか」

「ぐっ……な、なんて馬鹿力だ……」


 豪爆棍はがっちりと握られ、祐太郎の力では振りほどくことが出来ない。

 暗黒闘気により筋力を強化しても、今だディラックの膂力には届かなかった。

 上下左右、右回転、左回転、次々と豪爆棍を振り回そうとしても、それは全てディラックの力により御されてしまっている。


「ああ、本来の俺の力は、これほど強くはない。だが、今の俺はな、ブライアンの魔人核を器の中に取り込むことで、その力を自在に操ることが出来る……つまり!!」


――ダン、ドッゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ

 一瞬だけ豪爆棍から手を離すと、素早く震脚を行い、刹那のタイミングで祐太郎に向かって鉄山靠(てつざんこう)を叩き込んだ。

 豪爆棍が自由になり、一瞬だけ祐太郎の気が削がれた瞬間を、ディラックは目逃さなかったのである。

 そして正面からもろに鉄山靠(てつざんこう)を受け止めた祐太郎は、体表面に生成していたミラーヴァインの鎧すら粉々に打ち砕かれ、大量の血を吐きながら後方にぶっ飛ばされていく。


「ぐはぁぁっ!!」

「いかん、完全治療ポーションじゃ!!」


 右手を祐太郎に向け、購入したばかりの完全回復薬を放出する白桃姫。

 幸いなことに祐太郎が吹き飛ばされた場所が彼女の近くであったため、祐太郎は死線を越える手前で意識も肉体も再生することが出来た。


「グハッグハッ……いや、正直いって、シャレにならないわ……」


 そう吐き捨てるように呟くものの、祐太郎には今のディラックを倒す算段をはじき出すことが出来ない。

 器の中に取り込んだ分だけ、力が強くなる存在。

 それはまるで、乙葉浩介の持つ聖徳王の天球儀そのものだが。

 オリジナルは乙葉の魂と同化しているため、ディラックが同じ力を持っているとは考えにくい。

 それについては白桃姫も同意見であるが、今は被害者の治療に忙しく、ディラックをどうこうできる状況ではない。


「魔神ディラックとかいったよな……きさま、どうしてオトヤンと同じ力を持っているんだ?」

「同じ力……ああ、天球儀のことか。確かに俺は、オリジナルの天球儀を手に入れることはできなかったが、幸いなことに、天球儀の複製……いや、試作品を手に入れることが出来た。それと我が魔人核を同化させ、魔神核へと昇華させることに成功したのだよ……」


 子供を諭すように、ディラックは告げる。


「複製……だと。そんなものが、何処にあったというんだ!」

「ああ、これについては全く計算外だったのだよ。まさか、チベットの魔導具商人ごときが、この神具を所有しているとは思わなかったからな……」

「ジェラールか……」


 そう。

 ディラックの持つ天球儀の複製は、ジェラールが北海道のある地にて手に入れたもの。

 彼は石板の解答者として、『この世界に存在する、森羅万象すべてを記した書物が欲しい』と願い、蛙の姿をした守護者は『オリジナルではないが、複製ならば』とジェラールに『試製・天球儀』を手渡したのである。

 もっとも、天球儀は選ばれたものしか使うことが出来ないため、いつか乙葉浩介に高く売りつけてやろうとマジックバッグの奥底にしまい込んでいた。

 それが、ディラックの配下である銀狼嵐鬼(ぎんろうらんき)に囚われ、彼の記憶が脳から直接引き出されたときに発覚した。

 ただ、それだけのこと。


「……まあ、あんな人間風情が、神の力に等しい天球儀を持つことなど許されるはずはない。それに、俺は天球儀と契約を施すことが出来た。だからこそ、我が魂は魔人を越えた魔神へと昇華することが出来た……だが、これはオリジナルではない。この肉体もかりそめのものであり、もう限界に近い。だからこそ、俺は……」


――ヒュンッ!

 一瞬で魔神ピク・ラティエの正面に転移すると、両手から大量の糸を放出し、彼女を絡め取ろうとする。

 だが、放出された糸はミーディアの盾により阻まれ、そして消滅する。


「残念ですが、白桃姫さんには指一本触れさせませんっ」

「そして、復活した俺がいる事も忘れないでくれよなっ!! 」

「同じくっ!!」

「まだやられていないけれどなっ!!」


 ディラックの正面からは、機甲拳の構えを取った祐太郎が。

 同じく右後方と左後方からは、量産型ツァリプシュカを装着した佐藤一佐と富岡一尉が素早く駆け込み、三人同時に必殺の一撃を叩き込もうとする。


「……それじゃあ、こういうのはどうかな?」


 ニイッと笑うディラック。

 そしてぐるっと体を回転させると、両手に構えたイングランド製高周波ミスリルソードで、ツァリプシュカを切断。さらに祐太郎の機甲拳をも剣で受け止めるが、流石のミスリルソードも一撃で粉々に打ち砕かれてしまった。


「……ふん、所詮は拾い物のミスリルソードか。こっちの世界のミスリルは、大したことがなかったな」

「拾い物……か。それを持っていたやつはどうした?」

「ああ、あいつはいい魔力持ちだったよ……意味は理解できるよな?」


 祐太郎の知る中で、高周波ミスリルソードを二本所持していたのは、機械化兵士(エクスマキナ)のマックス一人のみ。

 つまりは、そういうことなのだろう。


「この野郎がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 一瞬で祐太郎の全身が真っ黒に染まる。

 暗黒闘気が全身にめぐり、今まで以上の闘気を生み出し始めた。


「いかん!! 小春や、祐太郎を止めるのじゃ!! 暗黒闘気の暴走モード、あのままではいかん!!」

「いや、それを待っていたんだ!『剥奪の波動』っ!!」


 両手を広げ、巨大な魔法陣を生み出すディラック。

 そしてその魔法陣から大量の触腕が伸びていくと、祐太郎の身体を捕まえようと絡み始める。

 だが、その触腕を掴み、引きちぎり、噛みつき、砕いていく祐太郎。

 必死に抵抗を続けていたものの、やがて防戦一方になりつつある。

 そして白桃姫の周囲でも、再び発生した魔法陣によって特戦自衛隊の隊員たちが次々と囚われ、そして食われ始めた。

 

 数の暴力、それこそが魔族の正攻法であり、切り札でもあった。


「築地祐太郎……貴様の暗黒闘気と、神の加護。まとめて俺が頂く!!」


 魔神ディラックは神の加護など持たない。

 だが、祐太郎の魂を器に閉じ込めることが出来れば、それは彼の力のすべてを継承することになる。

 彼がここに姿を現した目的の一つ、それは乙葉浩介の吸収だけではない。

 祐太郎を始めとする、神の加護を持つ三人の魂を吸収し、より完全な魔神となること、それが目的でもあった。

 


いつもお読み頂き、ありがとうございます。


・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。



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銀狼では無く、黒狼では?
[気になる点] 左開店、銅貨、返る、集荷、 今回に限らず誤字が多い 一回読み直してからアップしようよ
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