第四百七十三話・(切り札なんて、星の数ほどある……わけないだろうがぁ)
『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週火曜日と金曜日を目安に頑張っています。
再生魔族。
魔神ディラックによる反魂の儀式によって、冥府から呼び戻された存在。
通常の反魂法ならば、死者の近親者の命を代償として行われるものであるが、ディラックは水晶柱に取り込んだ大勢の魂を代価として、儀式を行ったという。
結果として儀式は成功し、俺によって殺されたはずの百道烈士やマグナムといった奴らが復活している。
しかも、取り込んだ大勢の人々の魂は自我を残したままらしく、その苦痛を糧として奴らは力を得ているという……。
「ははぁ、なるほどねぇ」
俺と相対時している百道烈士とマグナム、その背後で必死にハンドサインを送っているジェラールの説明では、再生魔族というのは大体そんなかんじらしい。
(俺の肉体が取り込まれ、脳まで浸食されている。人格の一部を並列思考によって切り離してここにいるのだが、俺の本体は魔族と完全融合しているため、おそらくは助からない)
ふむふむ。
手旗信号のようにも見える、全身を使ったハンドサイン。
それで、なんで時間を稼げっていうんだ?
チラチラッとジェラールの方を眺めつつ、百道烈士たちを警戒する。
ちなみに奴らは、どうやって俺に復讐するか考えているらしく、こっちをニヤニヤと眺めつつ何かを口ずさんでいる。
奴らの身体に傷を付けたら、取り込まれている魂が傷つくことになるからな。
それを理解しているからだろう、奴らは俺が手出しできずにイライラしていると思っているようだ。
「くっそぉおお。この卑怯ものが、堂々と勝負できないのかよ!!」
敢えて二人を挑発するように叫んでみるが、百道烈士たちはそんな俺を見てほくそ笑んでいるじゃないか。
(俺の本体とこの魔力の回廊を、細いパスでつなぎ終わった。あとは、お前がすべてを終わらせろ)
ふむ。
ちょっと待て、それってつまり、この状況をどうにかしてクリアしたのち、ジェラールの魂を辿って最短コースでサンフランシスコ・ゲートに向かえっていうことだよな?
こんな目の前の化け物相手に、取り込まれた魂を傷つけることなく、奴らの魔人核のみを破壊しろっていうのかよ。無茶ぶりにもほどがあるだうが。
――ピシッ
「痛っ……なんだ?」
突然、俺の右腕に激痛が走る。
百道烈士たちはまだ、俺に向かって攻撃を仕掛けてはいないように感じる。
つまり、俺の本体がなにものかに攻撃を受けて居るっていうことじゃないか。
白桃姫よ、しっかりと守ってくれよな。
「ん? ほほう、どうやらお前の本体も攻撃を受けているようだなぁ……」
「それじゃあ約束どおり、俺は奴の上半身を喰らう。マグナムは下半身を喰らえばいい。それで取引は成立するだろう?」
「ああ、俺はそれで構わない……」
何を勝手なことを。
「うん、勝手に俺の死体についての取り決めをするのはやめて貰えるかなぁ。この通り、俺はまだピンピンしているし、好き勝手にやられる気もなくてね」
「ほう、この状況で、まだ勝ち筋を探しているというのか?」
「だったら、そのような無駄な思考は放棄したまえ。君の意識体は我々が引き裂き、空になった器にディラックさまが入り込み、新たな肉体として定着する。これはもう、決定事項なのだよ?」
「それこそ、勝手なことだよ……」
意識体が引き裂かれる、つまり俺の自我は消失し、空っぽになった身体をディラックが支配し、災禍の赤月を進行させるっていうことなのは重々理解している。
それが行われないように、リアル世界では俺の身体の防衛戦が始まっているし、俺自身もとっとと目の前のいかれた野郎どもに鉄槌を叩き込んで、天の柱を破壊しなくてはならないんだが。
――シュンッ
百道烈士は一瞬で俺の目の前に姿を現すと、がら空きになった腹部に向かって拳を叩き込もうとしたが。
(助けて……)
(苦しい……もういやだぁぁぁ)
(お願い……もう、つらいのは嫌なのぉぉぉ)
百道烈士の拳の表面には大量の人間の顔が浮かび上がった。
そのどれもが苦痛に呻き、助けを求めていた。
「その程度はお見通し……ってこの畜生がぁ!!」
迂闊にブロックしたら、浮かび出した人たちの顔にも傷がつく。
かといって、そのまま拳を受けでもしたら、百道烈士の一撃は重く、内臓まで傷がつきかねないことは以前受けた俺がよく知っている。
「はっはっはっ。ほら、どうするんだ?」
「こうするしかないだろうがぁ」
両足に魔力を送り込み、力いっぱい後方に飛ぶ。
だが、それぐらいはお見通しだったのだろう、俺の着地した場所の足元がいきなり爆発し、俺は宙高く吹き飛ばされた。
「まあ、攻防ともに不可能となれば、躱すことしかできないでしょうねぇ。ちなみにその程度は想定済みということは、今の一撃でご理解いただけたかと思いますが?」
口元に下卑た笑みを浮かべているマグナム。
まあ、今の俺に出来ることは、この状況を打破するための手段を探しつつ、すべての攻撃を躱し続けることぐらいか。
それよりもジェラール、お前も何か対策ぐらいは考えてくれるんだろうな。
そもそもなんで、お前はこいつらを召喚したんだ?
俺とお前の話し合いの後で、パスをつないでくれれば何も問題はなかったんじゃないか?
それなのに、どうしてこの二人を呼び出し、俺と戦わせている?
絶対に、何か意図があるはずだ。
探せ、考えろ、その意図こそが重要じゃないのか?
「おらおらぁ、何をボーッと考えているんだよっ」
――ドッゴォッッッ
百道烈士が両腕に魔力を込め、俺に向かって魔力砲を放った。
ああ、それってあれだろ、あの漫画の必殺技をパクったんだろうなぁ。
そしてそれに合わせて、俺が逃げる地点を推測してピンポイントで爆砕術式をくみ上げるマグナムも、どうせ同じように漫画のキャラの必殺技を真似しただけだろうなぁ。
そもそも、そんな練りの弱い魔力じゃあ、俺を殺すほどの威力は引き出すことはできないだろうが。
「おや、また躱しますか」
「当たり前だわ。そもそも、そんな弱い魔力で俺を殺そうっていうのが……魔力?」
待て、百道烈士が魔力だと?
奴は闘気使いの獣人じゃなかったか? そもそも魔力と闘気は共存することが出来ない能力の筈。
それが何故、奴は魔力を使えている?
「ふん。何を訳の分からないことを……喰らえっ、生まれ変わった我が闘気砲をっ!!」
――キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィン
再び両手を重ね、魔力を練り始める。
だが、百道烈士は今、『闘気砲』って叫んだよな?
それって、奴は自身の身体の中に流れている闘気と魔力の区別がついていないのか?
魔力を闘気と思い込んでいる? いやいや、それよりもあの一撃は懐かしくて、でも危険だわ。
「どこが生まれ変わったのか、見せてみろやぁぁぁぁ」
足の裏から魔力を放出し、スケートを滑るように地面を高速で滑る。
それで闘気砲の軌道から逃れ、さらにマグナムの放った爆砕術式をジャンプして躱すが。
――ドッゴォォォォォォォォォォォォォォォッ
その爆砕術式が消滅した瞬間、爆発した地面と俺の目の前に黒い空間が生まれたかと思ったら、そこから百道烈士が放った闘気砲が飛んできた。
さすがに躱しきれないと思い両手で頭を庇いつつ力の楯を無詠唱展開したが、流石にすべてのダメージを防ぎきることはできなかった。
「ぐはぁっ!!」
地面に叩きつけられ、口から血を吐き出す。
やっべ、予想以上にダメージ受けたかもしれない。
それよりも、さっきの攻撃なんだ? 百道烈士の闘気砲が転移して飛んで来た?
「くっくっくっくっ。あなたは恐らく、彼の闘気砲が転移したと思っているでしょう。ですがそれは間違いです。私の膨大な魔力によって形成された『魔鏡』により、百道烈士の闘気砲を遠隔射出したにすぎません」
「グブッ……グハッグハッ……」
やっべ、胃が破れたか、それとも喉か?
声が全く出せない。
「そして魔術師にとっての致命傷、それは詠唱を封じられること。残念ながら、この仮初めの肉体では私の持つ能力の真価を発揮することはできませんが。でも、貴方の喉を潰すことぐらいはできたようですね」
ああ、普通に考えればその通りだよ。
でも、俺には無詠唱がある。
ちょいと余剰魔力が必要になってくるけれど、まだ手詰まりっていうほどじゃないからな。
そしてジェラール、その手の動きはなんだ?
まだ何か教えたいのか……。
(巫術の書……対策……)
んんん、ああ、ジェラールから購入した巫術書か。
すまん、まだ完全解読は終わっていない。
せいぜいが封印術式と、その延長上にある魔術が幾つか、あとは憑依魔族を視認するための術式しか理解できていないんだが。
まて、ジェラール、そういうことかよ!!
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




