第四百六十六話・一撃必殺、サルも木から落ちる(敵もさるもの引っかくもの……って、痛いから)
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妖魔特区内に出現した顎骨大蛇。
それと相対時し、乙葉を護るためにフルパワーで戦っていた築地祐太郎だが、突然のチャンドラら喫茶・九曜のメンバーの参戦により、一旦は乙葉の元へと後退する。
「しかしまあ……まさかここで顎骨大蛇とやり合うことになるとはなぁ……」
ゴキゴキッと拳を鳴らしつつ、左右の手を斜め上に向けて身構えるチャンドラ。
その前方では、全身にチェインソーの歯のように顎状の鱗を高速移動させている顎骨大蛇が、尻尾をユラリユラリと振り回している。
お互いに間合いに踏み込まないように距離をとっているのだが、顎骨大蛇の尻尾が次々とチャンドラに向かって振り落とされていくと、ぎりぎりの間合いでチャンドラもそれを躱し大蛇に向かって拳を叩き込もうとする。
「機甲拳45型っ、徹甲榴弾撃っ」
「甘い甘いっ」
――ガギィィィィン
拳に闘気を宿したチャンドラの一撃。
だが、それも高速で蠢く顎状の刃が弾き飛ばす。
それでもなお、同じ技を連撃で叩き込んでいくが、その全てが稼働する刃によって受け止められ、闘気が削り落とされていった。
「ちっっ……俺の闘気まで削り取るのかよ」
「ふふふっ、おバカなチャンドラ。私のこの顎鱗は、闘気も魔力も削り取り吸収するということを忘れていたのかね?」
「忘れちゃいねえな。だが、お前の吸収できる限界まで闘気を飲み込んでいったら、貴様の身体はどうなるとおも……って噓だろぉぉぉぉぉ」
顎骨大蛇が闘気や魔力を吸収し、己の妖気に変換するのは知っている。
だが、その吸収限界を超えた時、顎骨大蛇は一旦、全身から闘気を放出し無力化してしまう。
その隙に渾身の一撃を他叩き込もうと思っていたチャンドラだが、顎骨大蛇が無目の前で輝き始めると、肩からさらに二本の腕を生やし、鱗がより鋭利に輝きを放ったのである。
「ふっふっふっ。我らが主人、黒狼焔鬼様から授かりし新たな力。我は蛇の魔族ゆえ、脱皮をくりかえしていくことによりさらに強靭な肉体へと進化を行う。なお、脱皮時に無力化するのも克服し、今では脱皮なしで進化することも可能となったのだ!!」
「き、汚ったねぇぇぇぇぇぇ。普通はよ、その脱皮時の無力化するところを突かれて負けるっていうのが定石だろうが」
「チッチッチッ……これだから脳筋チャンドラは……そんな弱点を克服せず、ただ安穏と生活していると思っていたのか、我は日々切磋琢磨し、己が弱点を克服するために様々な努力を続けていたのだよ。悪役がいつでも安穏とした生活を送っていると思うな!!」
高らかに絶叫する顎骨大蛇に、後方で待機していた羅睺はじめ九曜のメンバーたちも頷いている。
「くっそぉぉぉぉぉぉぉ」
「いや、チャンドラももっと鍛えて居ればよかったのじゃないか……」
「チャンドラは、すぐに祐太郎や浩介の修行を口実にサボっていたから。一言でいえば、功夫が足りない」
「羅睺、それに計都姫まで……そりゃあんまりだわ……って、やばいっ」
まさかの羅睺と計都姫の駄目だしに困り果てた顔のチャンドラ。だが、そんなことは顎骨大蛇には関係がない。
素早くチャンドラの背面に回り込むと、勢いよく尻尾を立ててから横一線に振り回した。
その表面の鱗が逆立ち、尻尾が振られるたびに高速でチャンドラ に向かって飛んでいく。
それも、点ではなく広範囲の面で攻撃し逃げ場を奪うかのように。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
チャンドラの全身が金色に輝く、巨大化する。
かつて乙葉浩介と戦った時のような、黄金の毛を持つ虎の獣人モード。
その闘気の爆発により飛来する刃を弾き飛ばしたものの、やはりすべてを受け止めることなど不可能。
防ぎきれなかった大量の刃がチャンドラに突き刺さり、その肉体を穿ち、大量の血が噴き出した。
「うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「おうおう。その悲鳴、その怒りと絶望。それこそ、我が求めていたものだ……さて、これでもうチャンドラは戦えまいて……さあ、次はどいつだ、我に敗北し顎の骨を寄越せ!」
叫びつつ羅睺を睨みつける顎骨大蛇だが。
その視線の先には羅睺唯一人しか存在せず、もう一人の宿敵である計都姫の姿が掻き消えていた。
「……計都姫は逃げたか」
「いや、私はここ。戦闘中によそ見をしているお前が悪い」
声が聞こえてきたのは遥か頭上。
そして顎骨大蛇が見上げると、巫女衣装に姿を変えた計都姫が真っ赤に光り輝く刀身を持つ日本刀を携えて降ってきた。
「くっくっくっ。自由落下ではこの攻撃は躱せまい。喰らえ!!」
尻尾を計都姫に向かって振り回し、大量の刃を飛ばす。
だが、計都姫はそこに地面があるかのように空中でステップを踏むと、その刃のすべてを躱し、さらに空中を蹴って顎骨大蛇に向かって走り出した!
「ば、馬鹿な、空を自由に走るだと!!」
「私の能力を忘れたの? 我が足は全てのものを蹴り、大地とする。そしてこれが、函館五稜郭から回収してきた『斬魔の一刀・真打和泉守兼定』。刀匠・和泉守兼定が鍛えし刀ではない、之定が魂を込めし魔族の核を砕く刃なり」
――スパァァァァァッ
肩に担ぐように構えた刀を、大きく振りかぶって振り落とす計都姫。
その攻撃は受けてはやばいと顎骨大蛇は尻尾で受け止めるものの、計都姫は刀を構えたまま高速回転し、刃を生やした車輪の如く大地を蹴り、顎骨大蛇の胸元に軽い傷を負わせた。
「ぬぁああ……って、掠っただけではないか、そんな一撃が効くとでもひゃ?」
――スパァァァッ
叫ぶや否や、顎骨大蛇の身体が真っ二つに裂ける。
その体内にあった魔人核すら、一撃で切断されていたのである。
「だから、当たった時点で終わりなの。それがたとえあなたの指先、爪の先であろうと、この刀は『切った魔族を切断』するのだから……」
――チン
そう呟いて、計都姫が刀を鞘に納める。
そして新山の手当てを受けて、どうにか一命を救われたチャンドラは、今更ながら羅睺と計都姫に頭を下げてしまった。
「め、面目ない」
「はっはっ。おぬしもまだまだということじゃよ。明日からは、築地君と共に修行に励むがよい」
「ああ、そうさせてもらう。しかし、その刀があれば黒狼焔鬼も魔神ディラックも一撃じゃないのか?」
そう苦笑いをしつつ呟くチャンドラに、計都姫は一言だけ。
「私より格下なら。これは、格上の魔族・魔神には傷一つ付けることが出来ない。そして『大魔斬』を開放するとき、それを持つもののの力を全て奪うから……」
「ほい、計都姫にパスだ。おつかれさまです」
祐太郎が計都姫に向かって闘気玉を放り投げる。
それを受け止めて、両手で包むように吸収すると、計都姫の顔に生気が戻っていく。
「うん……祐太郎の闘気玉で全開。つまり、祐太郎は私の横で常に闘気玉を作り続ければいい。私が『大魔斬』で魔族を切るから」
「あはは……それは勘弁だな。と、先輩、他の魔族の反応は?」
顎骨大蛇を倒し一瞬だけ気が緩んでしまった一行。
幸いなことに瀬川の深淵の書庫では、他の魔族の襲撃反応はない。
「今のところは平穏っていうところかしら。ここに来そうな妖魔はという意味でね。世界各地の水晶柱については、乙葉君がコントロール権を奪ったものは周囲の魔力や魂を吸収する能力を失っているのだけれど……ねぇ乙葉くん、この術式は一体なんなの?」
乙葉がコントロール権を得た水晶柱には、白桃姫が新たに術式を組み込み始めている。
それが一体なんの術式であるのか、まだ瀬川にも理解できない。
そして乙葉は、今もなお必死に、吸収された魂を救うべく意識を集中していた。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




