第四百六十二話・七転八倒、瑠璃も玻璃も照らせば光る(細工は流々、仕上げを御覧じろ)
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白桃姫と二人で『三種融合術式』を発動し、俺は神威枯渇状態で意識を失った。
そしてずっと、暗い闇の中を彷徨い歩いていたような気がする。
今現在も目の前は真っ暗で、前後左右上下すべての方向感覚が狂っている。
足元に何かあるのか、それとも中空に浮かんでいるのか。
ここが地球なのか、それとも鏡刻界に迷い込んだのか、それすら俺は理解していない。
『まあ、そんな感じじゃよなぁ。乙葉や、妾の声が聞こえているか?』
白桃姫の声が頭の中に響く。
念話? いや、耳に聞こえていた声が直接脳を揺さぶっている感じだ。
手足にも力は入らない、そもそも俺は目を開けているのか? こんな暗い空間が広がっている世界なんて俺は知らない。
ということは、目を閉じて何も見えていないっていうことかも知れないよなぁ。
『ふむ。さすがは深層意識体となった状態、おぬしの思考するものは全て妾の頭にも響いてくるわ』
「あ、マジ? ちなみに今の俺ってどんな感じなの?」
物は試しに問いかけてみるけれど、白桃姫も腕を組んで考えているんじゃないかな。なんとなくだけれど、俺が腕を組んで頭を捻っている姿が俯瞰的に見えているんだよ。
これって、俺は霊体になってしまい、体から抜けているとかそんな感じ?
『それは違うのじゃ。今の乙葉は、魂と融合した天球儀により構築された【神の器】の中に存在している。目に見えているものは感覚で捉えているものを思考として認識しているにすぎず。そしてその神の器の大きさが、そなたが受け入れることが出来る魂の大きさを表している』
「へぇ。でもさ、俺の視界って無限に広がる大宇宙だよ? 一介の高校生の持っていい器の容量じゃないと思わない?」
もしも目の前に広がる世界が器の大きさだとしたら。
俺は宇宙すら丸呑みできるっていうことになるんじゃないか?
それってもう、人間じゃないよ……って亜神か。
『まあ、おぬしの器の大きさというよりも、神の加護の大きさを表しているのではないかのう。しっかし驚いたぞ、三種融合術式を発動した直後にぶっ倒れて、主人格を妾に切り替えるとはな。おかげで小春には心配して抱き着かれるし瀬川や築地に状況を説明するのにも骨が折れたわい』
「あ~、なんとなくサーセン」
『それにな、おぬしの術式により北海道の大地は元の姿を……もとい魔族の暴走を鎮圧することに成功したぞ。ついでに言うなら、この結界術式により、札幌テレビ城横の大水晶柱のコントロール権を取り戻すことが出来た。ということで、今現在の【災禍の赤月】についての状況を説明しよう』
「はい、簡潔にお願いします」
そう告げると、俺の体がだんだん形成されていく。
それと同時に、少し前方に日傘をさした白桃姫の姿も浮かび上がり、空間収納にフワフワと漂っている。
『まず、この地球に存在する水晶柱を用いた大規模魔法陣、これは6割が稼働している。その結果、災禍の赤月の進行がさらに進み、魔族は大暴走状態に陥ってしまっている。世界各地で発生した暴走については、各国の対妖魔機関が暫定的にではあるが対処を行っている……のじゃが、実情は各国に駐留しているヘキサグラムと現地の対妖魔機関が手を組み、暴走妖魔を霧散化しているだけにすぎぬ』
ふむふむ。
そりゃあ、北海道みたいに結界を形成できる人間は存在しないからなぁ。
『付け加えるなら、瀬川の深淵の書庫にて調査した結果、すべての起点はサンフランシスコ・ゲートと札幌市妖魔特区、この二つの場所にある大水晶柱にあると結論が出た。サンフランシスコを始めとする世界各地の水晶柱はな、その付近に住んでいた住民の魂によって活性化を始めている。残り4割の水晶柱については、そもそも未開の荒野であったり前人未踏の大森林地帯という感じになので、このあたりが稼働限界じゃろうて』
「それじゃあ、いよいよ災禍の赤月が発動するのか?
『いや、それは無理じゃ。実はな……』
もう絶望しかない、そう思った時の白桃姫のニヤリという笑みは、ぶっちゃけると心臓に悪い。
一体何を企んでいるのやら。
『テレビ城横の大水晶柱をはじめ、北海道の各地に点在する柱は、大規模結界術式の理から外れた。というか、三種融合術式により魔法陣としての力を奪い取ってしまった。ゆえに、災禍の赤月はこれ以上は進行しない、が消滅もしない。現状が維持されたままということじゃよ』
「それって、最悪がいつまでも続くっていう感じじゃないか」
それじゃあ、この水晶柱のコントロール権を次々と奪っていけるのなら、いずれは災禍の赤月は消滅……いや、あれは一度でも起動したら停止は不可能、ただ事の次第を先送りする状態になっただけ。
完全に災禍の赤月を停止・消滅させるには、この大規模転移術式を逆手に取り、4種融合術式による『破壊神封印』を施すしか方法がない。
無いんだけれど……その破壊神がどこにいるのか、さっぱりわからん。
『そこで、今度は水晶柱に吸収されてしまった多くの人々の魂を、天に返さなくてはならぬ。そうすることで柱のエネルギーは枯渇し、儀式は停止する。あとは、その状態を維持しつつ、根本である存在をもとから断たなくてはならぬ……と言いたいところじゃが、そのためにはおぬしの回復を待たねばならなかったのじゃよ』
「はい、現状報告有難うございます。それで先輩や新山さん、祐太郎の状況は?」
『新学期を迎えてな、今日も元気に登校しておる』
「は?」
いや、ひょっとして夏休みって終わったの?
また俺の青春の一ページが、音もなく崩れ去っていったわぁぁぁぁぁ。
『ということなので、一時的に肉体を返すぞ。状況を確認したらまた声を掛けるがよいぞ』
「状況って、何、俺ってまさか、また単位が危険なわけ? 卒業できないとか?」
『さあな……ということで、目覚めよ!!』
………
……
…
暗黒空間の中で、白桃姫が柏手を打つ。
その瞬間、俺の意識が現実に戻って来た。
そう、気が付くと母校・北広島西高校の教室で、ノンビリと窓の外を眺めていましたが。
「え……待って、今、どんな状態なの? どうして俺はここに、Tell Me Why?」
「あ、オトヤンが帰って来たか。おはよう」
「ああ、良かった。白桃姫さんから、そろそろ意識が戻ってくるって言われていたけれど、本当に戻ってこれたんだ。おかえりなさい」
「ああ、只今……って、なんで俺はここにいるんだ? 今は何月何日だ?」
たしか夏休みにはぃってから、災禍の赤月関係でずっと走り回っていたからなぁ。
だから今日が何月何日なのか、よく覚えていないんだよ。
鏡刻界で二日ほど過ごしていたはずなのに一週間経過していたとか、三種融合術式を発動して意識がぶっとんだとかいろいろとありすぎ。
「9月2日だ、土曜日だが今日は半ドンで終わり、今は放課後でそろそろ帰宅しようと思っていた時、白桃姫がオトヤンの帰還を告げたということだ」
「ずっと意識が戻っていなかったけれど、乙葉くんの留守の間は白桃姫さんが体を動かしていたから大丈夫だったよ」
なるほどねぇ。
しっかし、この神の器って使い方によってはなんぼでもパワーアップできる反面、器に注がれるものの同意無くては力を存分に奮えないっていうのはよく分かったよ。
どれだけ回復したのか確認するため、右掌に力を入れて、光球を生み出してみる。
──ボウッ
よし、神威の魔力変換も問題はない。
あるとすれば、今だ3桁程度までしか回復していない俺の神威だな。
それでも魔力換算したら化け物なので、大切に使うことにしようか。
「それで、俺たちは今後、何をすればいいんだ?」
「そのことなんだが……オトヤンの意識が戻らず白桃姫が制御している最中にな、幾度となく日本政府からの打診があったんだ。北海道を囲む結界、あれで日本国すべてを包めないかって」
「ちなみに打診元は野党の燐訪議員ですけれどね。まずは自国を絶対防衛状態にしてから、対妖魔戦略作戦を構築するんだって」
はあ、それはまた無茶なことを。
そんなこと出来る筈が……ってちょい待ち、ようは北海道を包んだ結界のようなものを日本全域に構築すればいいんだよな?
つまりはあれだ、俺と白桃姫の二人で唱えたものじゃなく、もっと術式の触媒になるそうにものを使えば、低コストでいけるんじゃね?
幸いな事に、魔力媒体ならあるじゃない、巨大な水晶の柱がさ……。
吸収された魂じゃないよ、柱そのものだからね。
「ふぅん……ちょいと二人とも、耳を貸してくれるか?」
「お、何か思い付いたか? さすが裏技のデパート」
「誰が舞の海だ、そもそも裏技じゃなく技だ技」
「それで、何が思い付いたの?」
ということで、二人には今、思い付いた作戦を説明することにした。
まず二人に説明しておけば、俺の意識が途切れそうになっても白桃姫に状況を説明してくれるからさ。
さて、それじゃあ本格的に反攻作戦の準備と洒落込みますか。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




