第四百五十九話・才色兼備? 急いで天下取った者なし(勇者の帰還? どっちかというと愚者ってかんじ)
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――プシューーーーッ
破壊されていた帝都ブラウバニアの復興というか再生は完了。
プラティ老師や現地の十二魔将に後を任せて、俺はとっとと地球へ帰還。
といっても、水晶の森は消滅していたので残りの小型漁船などを回収するために森へと移動し、そこでもひとというか元マグナム配下の奇襲にあったりしていたけれど、努めて平和に拳で解決して魔導鍵を使い扉を開いて地球に帰って来たのですが……。
「……何がどうして、こうなったんだ?」
水晶柱に扉を形成し、出てきたのはよい。
ただ、通り抜ける途中で何か違和感のようなものを感じたと思ったら、いきなり水晶柱から強制排出。
振り向くと扉は消失していたし、すぐ近くには大量の仮設テントと退魔機関第二課の退魔官やらがせわしなく走りく回ったり。
何処から持ち込んだのか分からない大型指揮車が幾つも並び、衛星システム搭載型のなんだかわからないものまで引っ張り出してあるんだけれど。
そして、近くでは俺の姿を見て涙を流し、駆けて来る新山さん。
「か、帰って来てくれたぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「はい、只今……って、まだ二日ぐらいじゃない?」
「……違うよ、乙葉君が戻ってこなくて、もう二週間もたっているんだよ……どうして今まで帰ってこれなかったの?」
「え……ええっと。ちょいまち、俺がいない間に二週間? ちょっと意味が解らないんだけれど。先輩、瀬川先輩、いますか?」
そうして周囲を見渡すと、深淵の書庫の中でエナジードリンクとサンドイッチ片手にモニターを眺めている先輩の姿を発見。助手席には、見たことのある人物……ってああ、喫茶・九曜の蔵王さんか。
ということは、この妖魔特区に集まるほどの事象が発生しているっていうことだよな?
「はいはい、今の会話の流れで、ある程度は察しましたわ。どうやら鏡刻界と私たちの世界で、時間経過の流れに誤差が発生しているようですわね。乙葉君の二日は、こちらの世界の二週間……時差は一週間というところでしょうね」
「なるほどなぁ……ということは、ついさっき、扉を超えるときに発生した違和感はその時差なのか、もしくは時差を修正してここまで縮めてくれたのか、どっちかだろうなぁ」
――ポンポン
ぎゅっと抱き着いている新山さんの頭を軽くポンポンと撫でて。
「ということらしい、ただいま」
「お、おかえりなさい……」
「ああ、何やら騒がしいと思ったら、オトヤンが戻って来たのか。おかえり」
「祐太郎も只今だわ。それで、こっちで何が起こったのか説明して貰らえると助かるんだけれど……まあ、なんとなく予想はつくんだけれどさ」
そう告げて、ようやく新山さんも落ち着いたのか真っ赤な顔で俺から離れると、近くにあったベンチに座った。
「まあ、オトヤンの予想がどこまでなのかってところだろうけれど。簡潔にいうぞ、災禍の赤月の影響で、世界各地の魔族が狂化・暴走状態になり、世界各地で大暴動が発生。それを抑え込むために各国の対妖魔機関が戦闘を開始し、現在は一進一退の攻防を繰り広げている最中なんだが……」
「いくつかの国は政府機能がマヒしていたり、いくつもの都市が消滅したり。とにかく状況は最悪であるだけでなく、魔族によって殺されてしまった人たちの魂が各地の水晶柱に吸収されているらしく、いくつかの水晶柱は活性化し、このように光を放ち始めているのよ」
さて。
俺の予想の斜め上だったわ。
「それで、日本政府の状況は?」
「札幌市内および近郊については、魔族の暴走あはある程度収められましたわ。【抵抗術式】によって狂化現象は抑えられることが分かったので、現在は喫茶・九曜の皆さんと龍造寺建設の社員、あとは札幌市の登録魔族と白桃姫の眷属のみなさんで札幌は日常を取り戻しつつあります」
「東京方面は、ほら、俺とオトヤンで往ってきた世界の対妖魔兵装の量産型が完成したので、それを持って有馬博士が東京方面に移動、翌日にはりなちゃんと紗那さんも東京に向かい、国会議事堂を中心に反攻作戦が開始、あとは元陰陽府の術師とかも活動を再開しているっていう感じだ」
「はぁ、これはまた、どうしたものか……」
やっべ、いきなりの大事件状態で、どこから手を付けたらいいのかさっぱりわからん。
ただでさえ頭脳戦は苦手だっていうのに、災禍の赤月まで活性化しているのなら、数の暴力じゃねーかよ。
「それで、白桃姫は? あの様子だと只じゃすまないっていうところだろうけれど……って、そういえばオトヤン、その体の痣はなんだ?」
「お、ようやく聞いてくれたか。これは、俺が進化して神の器が定着したらしくてさ。なんていうか、亜神に固定されちまったらしい。そう白桃姫が教えてくれた。ということでね、ご紹介します、魔族を超えて魔神化した白桃姫です!!」
――シャキーーーン
華麗に変身ポーズをとり、主人格を白桃姫に切り替える。
その瞬間、俺の身体が発光し、みるみるうちに魔神ピク・ラティエに姿が変わった。
「……ということじゃな。ああ、小春や、そんな泣きそうな顔をするでない、診察で妾を確認するがよい、神の器の中に乙葉はしっかりといるぞよ」
「あ、本当だ……」
俺に向かって手を翳し、診察でステータスを確認したんだろう。
泣きそうな顔がほっとした表情になり、胸をなでおろしている。
「その様子だと、やっぱり何らかの事件に白桃姫は巻き込まれたっていうところか。それで、肉体の再生を待つため、一時的にオトヤンの身体の中に間借りしているというところでファイナルアンサー?」
「『ファイナルアンサーだ(じゃ)』」
おっと、ハモった。
「一眼や、今の札幌市内の状況を全て寄越してたもれ。それと・なぜ、ここに伯狼雹鬼の魔力の残滓が漂っておる? この程度の残余なら二週間は経過しているというところじゃろうが」
「「「「「「え?」」」」」
俺以外の全員が驚いているんだけれど。
え、ここで伯狼雹鬼と一戦やらかしたとか、そんな感じじゃないのか?
それなら無事でいられるとは思わないが、そこのところどうなっているんだ?
「待って、白桃姫さん。ここに伯狼雹鬼がいたっていうの?」
「うむ。ただ、かなり魔力が変質しておる……というよりも、奴の波長を持った神威……というところか。あ奴め、魔神化したな? それで、本当に奴に襲われたとか、そういうことはなかったのか?」
「ああ、この場所が伯狼雹鬼に襲われたという事実はない。奴については、俺は一度手を合わせたことがあるから、奴がいたのなら気が付くはずだ」
「じゃが……ふぅむ。彼奴は神威をうまく使いこなしているようじゃな……だが、魔神化したということは、魔族としての力もかなり失っておるはず。奴は何を企んでおるのじゃ?」
腕を組んて考える白桃姫。
しかし、それについては俺もよく理解していないし。
『待て待て白桃姫、伯狼雹鬼が魔神になり神威を使いこなしているっていうことか? 一つの世界・時代に魔神は一人だけじゃなかったのか?』
「神威を使えるものは一人……じゃ。魔神なぞ、そなたの母や羅刹という存在もおるし、妾も今は魔神じゃ。じゃが、神威は使えぬ」
「つまり、今のこの世界では、いくつものイレギュラーが発生しているっていうことでよろしいのでしょうか?」
白桃姫の言葉に、瀬川先輩が問い返す。
ふむ、イレギュラーが発生しているっていうことなら納得だわ。
「そうじゃな。ということで、まずは災禍の赤月を止めるか」
『……はい? あれって止まるのか?』
「驚くな乙葉や。以前の妾なら見当もつかぬが、今は聖徳王の天球儀に刻まれた秘術と、おぬしの神威がある。消すことは叶わぬまでも、今以上の進行は食い止めることは可能じゃ」
『まじか……俺の今までの努力って、いったい……』
ガーン、ショックっていうところだけれどさ。
そもそも災禍の赤月について、俺や祐太郎が体を張って調査しなかったら、もっと大惨事になっていたと思う。それに、今の日本は暴走妖魔に対してある程度の対応は出来ているみたいだから、災禍の赤月を止められるだけでも大したものだよ。
「はっはっはっ。その聖徳王の天球儀を受け入れられるだけの器となり、鍵を全て開けることが出来たのはおぬしたちの功徳によるものと理解せい。ということで、始めるぞ乙葉や」
『はいはい。秘術はどれを使うので?』
神の器の中で、俺は天球儀に刻まれた秘術を一つ一つ開放する。
さて、魔神化した白桃姫と、器の俺、その力を今こそ見せるときが来た……っていうところか?
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




