第四百五十話・(災禍の赤月は、ゆっくりと進行する)
『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週火曜日と金曜日を目安に頑張っています。
乙葉君たちと別れてから。
私はりなちゃんと紗那さんの二人とともに、今後の対策について話し合うことにしました。
現時点では、鏡刻界へと向かった乙葉君たちが帰還する待って、こちらで情報を集め続けることしかできません。
逆に考えるなら、それこそが私たちのなすべき事。
「紗那さん、貴方は有馬博士の元に戻って、災禍の赤月についての説明をしてほしいのよ。初代ファウストの知識を持つ博士なら、なにか解決策もしくは対策を考えてくれるかもしれないから」
「はい、分かりました。それでは急ぎ、いってきます……と、災禍の赤月についての情報を詳しく教えてください。出来るならば、知識のオーブを作って渡していただけますか?」
「りなちゃんにもください!!」
「そうね、ちょっと待っててね」
たしかに、今までは二人を巻き込まないようにしていたのは事実です。
でも、ここから先は時間との勝負、なりふりなんて構っていられません。
「深淵の書庫……災禍の赤月についてのすべての情報を精査し、知識のオーブを形成して頂戴」
『ピッ……了解しました』
私の周囲に展開した深淵の書庫が金色に輝く。
そして魔法文字が次々と浮かび上がると、私の手の中に小さなオーブを作り始める。
全周囲モニターから魔力が噴き出し、知識の奔流となってオーブに向かって注がれていくのがはっきりと見えます。
そして10分ほどでオーブが完成すると、それをいくつも複写してコピーを作成。
そのうちの二つを紗那さんへ、そしてりなちゃんにもふたつ手渡します。
「これは、知識のオーブですか。お父さんの作ったものよりも綺麗です。一つは私ので、もう一つをお父さんに渡せばいいのですね?」
「そういうことね。それで急いで大谷地まで向かってね。それと、りなちゃんにはお使いを頼まれてほしいのよ」
「ふぇ? おつかい?」
大きな口を開けて、知識のオーブを飲み込んでいるりなちゃん。
そう、私はここで深淵の書庫を維持しつつ世界中の情報を集める必要があるので、ここから動くことはできません。
「ええ。そのもう一つのオーブを、あるところに持って行ってほしいのよ。そして私たちの力になって貰えるように、そこにいる人たちを説得してくれるかしら?」
「あいあいさ!! それじゃあ地図をください」
「ちょっと待っててね」
急ぎ手帳を取り出して、住所と名前のメモを手渡す。
そして二人が札幌テレビ城から走っていってから、私は魔人王・オーガス・グレイスに姿を変えると、すべての魔皇紋を発動。可能な限りの情報を集めることにした。
深淵の書庫はそれと並行で、世界中の様々なニュースや事件を精査してもらい、妖魔関連の事件が発生していないか、それを調べてもらうことにした。
「ふふふっ……ムーンライトの加護も全開。おとうさんが帰って来たのです、瀬川家長女の無様な姿なんて見せたくはありませんからね!!」
さあ、すべての情報は私の元に集いなさい。
そして人類存亡をかけたこの一大事件に終止符を打つのです。
〇 〇 〇 〇 〇
――丸山・裏参道・喫茶九曜
カランカラーンと、りな坊が勢いよく扉を開く。
喫茶・九曜の店内では、羅睺や戦捺羅 、計都姫といった八魔将たちが集まり、静かにティータイムを楽しんでいる。
性格には、災禍の赤月の発生により、魔族は多かれ少なかれ『狂化』の影響を受けるため、今現在は羅睺の力によって店舗を建物ごと対魔力結界によって遮断。ここから外に出ることが出来ない状態になっていたのである。
「たのもーーーーう。瀬川先輩から手紙を預かって来た唐澤りなちゃんです。こちらの手紙はここのオーナーのマスターさんにお渡しするように頼まれてきました」
元気よく右手を上げて叫ぶりな坊。
だが、その突然の来訪に羅睺たちは目をぱちくりしている。
そしてチャンドラは、入って来たりな坊をみてポン、と手を叩いて立ち上がった。
「ああ、この獣魔力は、山猫族のものだな。ということは、お前は族長の娘か……親父殿は元気か?」
「毎日毎日、焼き鳥を焼いていますよ。それよりもチャンドラさんは元気がないようですけれど」
「この魔障嵐の中で、元気に魔族がいたら教えて欲しいぐらいだわ……と、羅睺、この娘は山猫族の族長の娘で、リューハ・ゴッチ・リンクスの末裔だ」
「……なんとまあ。まさかここで、八魔将第八位のゴッチの末裔と再会できるとは思わなんだ……」
りな坊には意味が解らないのだが、彼女の祖父は元・初代魔人王が八魔将の一人。
不死の拳聖の異名を持つ獣人族である。
「へ、そうなの?」
「ああ、それでりなさんは手紙を持ってきたって言っていたが」
「違うよ」
「んんん?」
いきなり否定されて、チャンドラも頭を捻るが。
「りなさん、じゃなくてりなちゃんです!!」
「そっちの違うかよ……と、まあいいか、それで手紙を渡してくれるか?」
「はい、これ!!」
そう告げてから、ルーンブレスレットより知識のオーブを取り出してチャンドラに手渡す。
それを受け取ったものの、チャンドラは訳が分からないままに羅睺に手渡してしまう。
「すまん、羅睺ならわかるだろう?」
「どれどれ……開放……」
手渡された知識のオーブを開放し、そこに記されているメッセージと知識のすべてを吸収。
そして瞬く間に羅睺の顔色が悪くなっていった。
「魔障嵐の原因と、その対策か……」
すぐさま両手を開き、高速で印をくみ上げる羅睺。
そして五分ほどで術印を完成させると、そのまま勢いよく柏手を打つ。
――パァァァァァン
その両手から発せられた『浄化の響き』、それがその場にいる全員の身体に浸透していくと、それぞれの身体に『対抗術印』を浮かび上がらせる。
「うぉっ、これはなんだ!!」
「瀬川殿からの伝言を伝える。我ら八魔将は、これより札幌市全域にて発生している暴走妖魔の鎮圧に向かう。災禍の赤月が収まるのならば、この暴走事件も解決するのだが、もしも収まらず災禍の赤月が完成した場合、我ら魔族は魔力を全て奪われ、消滅すると知れ」
「マジかよ……と、それじゃあ俺は羅刹にも伝えて来る。ここに来るように告げておけばいいんだよな?」
「うむ。それと計都姫、龍造寺建設にも連絡を入れておいてくれ、すぐにここにくるようにな」
「理解。あそこは人魔が多いから危険、急ぎくるように伝えておく」
羅睺がそう告げてから、チャンドラは九曜を飛び出す。
そして計都姫はいくつかの心当たりのある人魔に連絡を入れると、すぐに九曜までくるようにと伝言を開始した。
「りな坊とやら、ありがとうな」
「んんん、ん~、りなちゃんだけど、りな坊でもよし!!ということで、りなちゃんはサンドイッチが食べたいです」
「はーい、ちょっと待っててね~」
すぐさま蔵王がキッチンへと移動する。
そして30分後、災禍の赤月の影響で片頭痛と戦っていた綾女たちが到着するまで、喫茶・九曜にはのんびりとした時間が過ぎていった。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




