第四十五話・四面楚歌には旅をさせろ(マジックショーのその前に)
『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週火曜日と金曜日、日曜日を目安に頑張っています。
はぁ。
うちのクラスは美人が多い。
それなのに、その半分以上は築地の野郎に熱を上げていやがる。
あんな、顔が良くて頭が良くて運動神経抜群な奴のどこがいいんだ? 男なら、こう、他には勝てるっていう自慢できる特技があればいいんじゃないのか?
俺の趣味はマジック、手品なんて言葉じゃ表現できない、そう、マジックだよ。
俺様こと織田の中学時代は、俺は独学でマジックを身につけていた。狸小路外にあるマジックショップにも通い、いろんなマジックの小道具も買った。
それを練習してクラスで披露しているうちに、俺はクラスでもそこそこ有名になった。
それでも女にはモテなかった。
高校に入ってからは、大通り公園で簡単なストリートパフォーマンスもやった。
でも、立ち止まって見てくれるのはほんの数人だけ。
なんで?
俺のマジックを見ろよ‼︎
そう考えていた時、俺のいる場所から少し離れた場所に大勢の人が集まっているのを見た。
「なんだ? 俺のテリトリーを邪魔する奴は?」
小道具をしまってそこに向かう。
すると、そこでは俺の知らない世界が広がっていた。
ストリートマジシャン・甲乙兵?
へぇ、目立ちたいだけのマジシャンかよ。俺の超絶技巧なテクニックの前では.…なんだこれ?
本当に手品なのか?
俺は、どんなマジックでもある程度見ていたらタネが分かる、そう自負している。
けれど、甲乙兵のマジックは全くわからない。
物理法則を全て無視しているとしか思えない。
俺は、初めて手品を見た時のように興奮した。
これだ、俺の求めているものはこれなんだ。
よし、この人に弟子入りして.…いや、ダメだ。
それじゃあダメなんだ、俺は、この人を超えないとならない‼︎
だから、俺は、あんたの弟子にはなってやらないぜ、せいぜい腕を磨くんだな。
……
…
はぁ。新山さん、可愛いよなぁ。
あのクソ築地にも靡くことなく、なんとなく影の見える美少女だよ。
でも、乙葉の野郎は邪魔だ。
なんであいつが新山さんと仲が良いんだ?
あんなアニメ漫画オタクが? よし、俺のマジックで新山さんの目を開かせてやる。
ちょうど良い、もう直ぐ文化祭だからな。
乙葉の野郎を煽ってやれば、俺と勝負するに決まっているさ。
そこで、俺は乙葉をパーペキに打ち負かして、新山さんの愛を手に入れるんだ。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
なんだろう? いきなり寒気がしたぞ?
この三日で、俺の手品の腕は急上昇。
いやぁ、学業エキスパートってさ、『勉強する』ことに対しては無敵のスキルなんだよね。
お陰で買ってきた『初歩の手品入門』は全て理解したし、俺のステータスなら簡単にマスターもできた。
これでダメだったら、その時は空間収納使ってパームしまくるから良いんだけどさ。
さぁ、午後の授業が終わったらLHR、そこで織田と勝負だ。
………
……
…
「へっへっへっ、乙葉浩介、覚悟はいいな?」
「はいはい。面倒くさいからとっとと始めようぜ」
まあ、俺はチャイニーズリングと玉を使ったジャグリングで茶を濁す。
これが楽なんだよ。
「それじゃ、先に俺がやらせてもらうぜ。俺のを見て恥をかきたくなかったら、すぐにギブアップしなよ」
そこから織田のターン。
トランプを使ったテーブルマジックが織田の得意な手品らしい。
特にエレベーターという奴が得意らしく、なかなかうまく演技している。
相手が選んだカードを、裏のままデッキに差し込んでもらう。
そしてシャッフルしている最中に、一番上に持っていく手品で、実はカードにヒントがある。
それ、マジックショップに売っている奴だよな?
あとはハンカチをスティックにしたり、スポンジボールを握って消したり増やしたり。
うん、よく見る奴だよね?
しかも喋りが下手。
マジックってさ、話し方や目線で相手に錯覚を起こさせないとダメだよ? マジシャンズチョイスっていう心理トリックができないようじゃ二流だよ。
まあ、おれも人のこと言えないし。
──パチパチパチパチ
ほら、拍手はあるけどまばらだし。
それでも女子には受けているから良いのか。
「ほら、次は乙葉だ、ギブアップしないのか?」
「するわけないだろ。俺の超絶技巧テクニックをご覧あれ」
真っ直ぐにステージである黒板の前に向かう。
そこでわざとつまづいて、右手を前に差し出して何かを掴むフリをする。
──シュンッ
一瞬で右手の中に直径30センチのチャイニーズリングを取り出して掴むと、それを見ていた全員が驚いた‼︎
「な、なんだその手品は、どこから出した‼︎」
ほら、織田が叫んだ。
理解できないよなぁ、俺も説明できないからさ。
「ということで、簡単な手品ですよ。チャイニーズリングっていう、輪っかを使った手品ですよ」
まあ、織田なら知っているだろうなぁ。
チャイニーズリングは、演者になって差異はあるけれど四つの輪のうち二つは繋がっていたり、切れ目が入っていたりするんだよ。
それを知っているからか、織田がニヤニヤしているので、目の前の女子に全ての輪っかを手渡す。
「タネも仕掛けもないから、確認してくださいな」
「……うん、普通の輪っかだよね?」
「普通さ、こういうのって切れ目入っているよね?」
「何もないね?」
次々と回して確認しているけれど、あるわけないでしょ? 融合化で完全接合したんだよ?
でも、織田が慌ててみんなから輪を集めて必死に見ている。
「な、ない。切れ目もない、磁石の反応もない。普通の輪っかだ」
「ほら、織田、とっとと返せよ」
「ちっ……ほらよ」
──ヒュンッ
一つを受け取ると、残りを投げて寄越しやがる。
だから、投げてきたやつを全て残りのリングで受け止めたよ。
融合化を使って接合し、そのまま素通りさせて元に戻す。
見た目には一瞬で輪の中に全て通り抜けたように見える。
──ジャラジャラ
一つの輪の中に全てが通っている。
それを音を出して振り回すと、織田の顔色が青くなる。
「全く、マジックやっているなら道具にも敬意を払えよな。あ、全部入っちゃった、ほらよっと」
──ブゥン、ジャララッ
軽く振ってやると、輪っかは全て鎖のように繋がる。これには全員驚くしかない。
「あ、こんがらがったのでこれでおしまいね。次は……」
黒布を取り出して手の上に広げる。
そして黒布を取り除くタイミングで、空間収納から、体育館から拝借したバスケットボールを取り出してみせる。
「悪い、バスケ部、これ借りていたから返しておいて」
「お前が犯人かぁ‼︎」
そのままバスケ部にパスすると、周りのみんなが笑った。
チラッと織田を見ると、ぶつぶつと下を向いたまま何かを呟いている。
まあ、そんなのは無視して、黒布から次々とボールを取り出す。
ソフトボール、野球の硬球、バレーボール、ピンポン玉、バドミントンのシャトル。
全て体育館から拝借した。
該当する部員に投げつけると、しまいには投げ返された。
そんな感じで俺のマジックはおしまい。
そりゃあもう、拍手喝采さ。
「乙葉‼︎ 文化祭でうちの喫茶店でもステージやれ」
「俺にも教えてくれ!」
「それって女子にモテるだろ‼︎」
まあ、気持ちはわかるけどさ、俺はやらないよ。
「だから、俺は部活の方でマジックショーやるからダメ。喫茶店の方でやる簡単なテーブルマジックなら、織田の方が上手いから織田に教えてもらえよ。俺のはスーパーイリュージョンだからさ」
「そ、そうか、なら織田、俺たちにも手品を教えろよ‼︎」
「簡単なやつでいいからさ‼︎」
いつのまにか、織田の周りには男子が集まっている。それで織田も気を良くしたのか、何やら話を始めていた。
「あー腹減ったわぁ。なんでマジックショーすると腹減るのやら」
「なんか消費しているのか?」
「少しね。ちょっとね。融合化でね。まあ、約束通り俺はクラスのは手伝わないし、これでいいんでない?」
「そうだな。織田も満足だろうさ、オトヤンに新山さんを取られないように、新山さんの気を引くために頑張ったんだけど負けたんだからな」
「えええ、そうなの?」
「待てユータロ、俺はその件は初耳だぞ、そうなのか?」
小声でコソコソと話しているが、祐太郎は頷いている。しかし、なんでまたそんなことを知っているのかなぁ。
「ユータロ!まさか相談されたのか?」
「まさか。鑑定眼で織田を見ただけだよ。コンディションの欄に、好意的対象とか敵対対象とか表示されるだろ?」
「俺、コンディションはフィルター設定してみないようにしているんだよ。そんなに便利なのか」
「ああ。お陰でクラスの女子の全てのスリーサイズも、俺に対しての気持ちも全てわかるしな。俺のスキル『女の敵』もあるから、対女性シフトは万全フベシッ‼︎」
──スパァァァァァン
ほい、新山さんにもパス
──スパァァァァァン
俺と新山さん、ダブルのハリセンツッコミ。
顔を真っ赤にした新山さんが、祐太郎を睨んでから俺まで睨む。
「あ、あの、まさか……乙葉君、私のスリーサイズまで鑑定でわかるの?」
「わかるらしいが、俺はフィルター設定してあるから見えてないよ、安心して」
はい、優しい嘘です。
ちゃんと見ましたごめんなさい墓まで持っていきます。
けど、新山さんは俺をじーっとみてから、ため息を吐いた。
「そうよね。私の全てが見えたのなら、そんな態度しているはずないわよね」
「ん〜、意味がわからんがそういうことにしておこう。そしてユータロ、今日の帰りにクレープ奢れな。文学部全員に」
「うわ、なんで俺が……分かったよ、奢るよ」
「イェイ‼︎」
そのまま手にしたハリセンを仕舞い込んで……あ。
慌てて黒布を取り出して振る。
「はい、消えた‼︎」
「オオオオオ、またなんか出したり消したりしているぞ‼︎」
あぶねぇ。
ここが教室でみんながいるの忘れたわ。
でも、さっきの続きで黒布から何か出し入れしているっていう手品と思ってもらえたからOKさ。
要先生が複雑な顔しているけれど、無視さ。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
「ということがあったのですよ先輩。もう、乙葉君の手品は最高でしたよ」
半ば興奮気味に瀬川先輩に説明する新山さん。
それも全て、この場に要先生がいるからのフェイク。
祐太郎が鑑定でみんなのコンディションを見ていたことについては、linesで連絡済み。
なので、先輩も半ば呆れたような顔で祐太郎を見ていた。
「そうですか。では、文化祭の本番を楽しみにしていますね。さぁ、早くこれを仕上げてしまいましょうね」
──チカチカチクチク
瀬川先輩と新山さんは針仕事、魔法学院のコスプレを製作中。
「そうそう、文学部の演題は『ヘンリーフォッカーと魔導の城、ステージショー』で申し込みましたので。台本は一応こちらでお願いしますね」
そう告げて、瀬川先輩は俺と新山さん、祐太郎に台本を手渡す。
けど、要先生には渡さない。
「あら、顧問の私にはないのかしら?」
「はい。要先生には、当日楽しんでもらいたいので。今から手品のタネを知ったら面白くないですよね?」
「そ、そうね。それじゃあ当日を楽しみにしますわ」
ナイス話術。
そもそも、顧問ならちゃんと台本や出し物の確認はするはず。でも要先生は本業は教師ではなく警察官、この辺りの対応が甘すぎる。
それが俺たちにとっては実にありがたかった。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




