第四百四十一話・(厄介なものは排除する……)
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乙葉浩介たちが鏡刻界に封じこまれた直後。
妖魔特区では、藍明鈴が瀬川雅を始末すべく銃を持って近寄っている。
「うん、黒狼焔鬼さま曰く、この地球上でもっとも注意する必要があるのは瀬川雅とパールヴァディの二人だけって話していたのですけれど。それって、貴方たちがムーンライトの加護を得て、禁呪である深淵の書庫が使えるからよねぇ?」
明鈴はトントンと、右手に持ったサンダラーで自身の肩を叩きつつそう問いかける。
彼女の能力で生み出された二丁拳銃、その効果は絶大であり、結界ごときは一撃で破壊できる……と彼女は信じている。
だからこそ、ここまで余裕の構えで話を続けているのだが。
「そうね。確かに私とパールヴァディの二人は、深淵の書庫を共有している状態ね。でも、それが判ったからと言って、今のあなたに何ができるっていうのかしら?」
焦りを顔に出すことなく、雅は明鈴にそう嘯く。
だが、明鈴は左手の銃を構えると、いきなり深淵の書庫の結界に向かって打ち放った。
――ガギィィィィン
それは貫通することなく結界の表で弾き飛ばされたものの、ほんの僅かだけ結界部分に亀裂を生じさせていた。
「嘘、この深淵の書庫を傷つけることが出来るっていうの?」
「ええ、そうよ。だって、その結界ってつまりは『神の力』によるものじゃない。それなら、その神を上わまる力で攻撃したら壊れるなんて当たり前と思わない?」
――ドウッ……バッギィィィィン
続いて右手のサンダラーで結界を狙い、撃つ。
するとその一撃で深淵の書庫の無敵の結界が破壊され、そして消失した。
「馬鹿な……そんなことってできるの?」
「ええ。だって、所詮はムーンライトは世界神の一柱。私の持つサンダラーには、統合管理神である『破壊神ダーク』の欠片が使われているのだからね。ということで、これで追いかけっこはおしまい。あなたという頭脳を失ったら、黒狼焔鬼さま、そしてダーク神父の悲願をとめることなんてできなくなるのだからね……」
――カチャッ
剥き出しになった雅に向かって、明鈴が二丁拳銃を構える。
そしてじかんをかけてゆっくりと引き金を絞ろうとしたとき。
「りなちゃん、すらっしゅきーーーーっく!!」
――ドッゴォォォォォォッ
遥か後方から駆けてきたりなちゃんの右回し蹴りが明鈴の側頭部に直撃。
そのままもんどりうって横に吹っ飛ばされていく。
「せがわ先輩、まにあった?」
「ええ、ありがとう。それにしても深淵の書庫が破壊されるだなんて、予想もしていなかったわ……どうしてこんなことに……」
そう呟いた時、雅はハッとした表情で空を見上げる。
そこには、三つの災禍の赤月が浮かんでいる。
「そう、そうなのね……災禍の赤月によって、私の深淵の書庫の守りの力も弱まりつつある。そういうことなのね?」
「その通り。そして同時に、私たち魔族の力は高まりつつあるのよ。ということで、今度こそおしまいよ。そこの獣人っ娘もまとめて、始末してあげるわ」
明鈴が立ち上がって、二丁の拳銃で二人を狙う。
だが、雅も右手に魔力を集め、それを明鈴に向けると。
『跪きなさい!!』
魔力のこもった声で、明鈴に命じる。
使った力の名は『百鬼夜行』、魔人王オーガス・グレイスである雅の持つ、生まれながらの力。
これにはいかなる魔族と言えど抵抗することは叶わず、彼女の命令に従うしかない。
そしてそれは明鈴にも例外ではなかった。
――グググッ
必死に抵抗するものの、魔人王の声は絶対。
明鈴はなすすべもなく、その場に跪き頭を垂れてしまう。
「こ、こんなことって……」
「うぎぎ……」
「あら、りなちゃんは跪かなくていいのよ?」
「あ、そうなの?」
明鈴につられて跪いたりなちゃん。
でも、すぐに頭を上げると、明鈴の後ろで右腕に装着している魔導兵装・火之迦具土を構える。
『さてと。それじゃあ明鈴さん、貴方たちの拠点、そして災禍の赤月についての次の一手を教えてもらえるかしら?』
魔力の籠った声で問いかける雅。
それに対して、必死に精神抵抗をつづけるべく唇をかみ切って耐えている明鈴であるのだが、やはり言葉がゆつくりと口元から紡がれていく。
「私たちの拠点は……サンフランシスコ・ゲート……今は大規模術式を展開し、一人でも多くの魔力ある人間を集めている……」
『それは、どうしてかしら?』
「『始まりの水晶柱』を作り出すため。それを作り、魔導発電機を繋いで魔力を注ぐ……始まりの水晶柱は世界中の柱と連動し、巨大な転移魔術式を構築する……あとは任意の地域を鏡刻界と入れ替え、災禍の赤月を進めるだけ……」
――ブシュッ
明鈴の口元から、大量の黒い血が噴き出す。
肉体構成を行っている彼女の身体は人間と同じように構成されているため、体内には血液のような魔素が流れている。
それがとめどなく零れていき、地面を黒く染めていった。
「大規模転移術式、それを作り出すために巨大水晶柱を生み出す……ふぅん。そこまで作戦が進んでいるのですか。これは完全に後手に回っていますわね」
「りなちゃん、サンフランシスコにいってくる?」
そう問いかけるりなちやんだが、雅は頤に指をあてて考え込む。
『始まりの水晶柱、それはもう完成するのかしら?』
「いや、必要な魔素が集められていない……ただ、儀式に必要な分はどうにか賄える、お前たちは月の門が開く日までに、邪魔な存在を排除しろと……」
『月の門? それってつまり、災禍の赤月のことよね?』
そう問いかけた時。
――ブシュッ
明鈴の右頭部側の空間から、巨大な腕が伸びてくる。
そして一瞬で彼女の頭を掴み、捻じり切ると、明鈴は黒い霧のように散っていった。
――ビシッ
そして右腕の生えてきた空間が砕けると、そこから黒いスーツ姿の男性が姿を現す。
「全く……これだから、使えないって言われるのですよ」
メガネを杭っと指で上げると、男は雅の方を向く。
「さて。これ以上は余計な詮索は無用。加えて、今の情報を知ってしまったあなたを生かしておくことはできませんね」
「そうなの……でも、貴方も私には、何もできないわよ……『そこに跪きなさい』っ」
男に向かって、雅が百鬼夜行の力を発動するが。
まるで涼風に吹かれたかのように、男はニイッと笑みを浮かべる。
「貴方の力では、破壊神ダークの使徒である私、黒狼焔鬼には傷一つ付けることはできませんよ。ということて、まずはこちらの小娘から始末するとしますか」
そう告げると、黒狼焔鬼は狼獣人のように変化した腕を構え。りなに向かって近寄り始めた。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




