第四十四話・危急存亡、空念仏?(シリアス展開でも、本人たちが知らないと茶番?)
『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週火曜日と金曜日、日曜日を目安に頑張っています。
今回はグロ描写が盛り沢山です。
そういう方面が苦手な方は今回のは読み飛ばしても構いませんが、多分ストーリーがわからなくなるので注意です。
深夜。
札幌市最大の歓楽街・ススキノ。
その外れにある、古い雑居ビル。
消防法により建築基準が改定され、追加の補強工事ができないために、このビルは数年前に取り壊しが決定した。
だが、未だにビルの周囲には工事中の幕が張り巡らされたまま、手付かずの状態である。
──ズルッ、ピチョッ
一階奥にある、少し大きめのBAR。
その奥にあるボックス席では、恍惚に身を任せた女の姿がある。
よく言えば妖艶、悪く言えばだらしないアヘ顔。
何かを掴みたくて虚空を彷徨う右手が、目の前の青く太い腕を掴む。
「甘露だ……もっと嘆け、喘げ‼︎」
──ズルッ、ズルッ……
男の口元には、大量の血痕。
眼下で身悶えている女の臓腑を抉り出し、それを貪り食う。
だが、女は痛みを感じることなく、ただなすがままに身を任せている。
内臓が引き出されるたびに全身に快感の波が駆け抜ける。
腑が千切られた時などは、余りの快楽に失禁さえしてしまう。
けれど、女は死なない。
その身の中に、100を超える妖魔が這いずり回っているから。
妖魔から吐き出された体液は、女の感覚を麻痺させる、痛みを快楽に変える。
そして妖魔たちは、食べ残された臓腑を喰らい、さらに快楽物質を放出する。
「あ、ああああ……もっと、もっとよぉぉぉぉ」
「ふん。もう食らうところなぞ無いというのに、まだ身悶えるか、まだねだってくるか」
薄明かりの中、ポッカリと浮かぶ女の体。
先程までは僅かに残っていた内臓、それもすでにからっぽであり、骨格と皮、そして僅かな筋肉が体を支えている。
この女の中に残っているのは、あとは心臓と頭だけ。どうやって言葉を発しているのかなど、今の彼女には考えることもできない。
「お願い……もっと欲しいのよ……」
「ふん、まあ、お前にはかなり満足させてもらったからな。それじゃあ仕上げた後と行こうか」
──ボリッ
口を開き、牙を伸ばす。
そのまま女の右側頭部に齧り付くと、まるでチョコレートを齧るかのように頭骨ごと噛みちぎる。
「あ……私は、あなたと一つになれるのね……」
「そうだな。お前には散々楽しませてもらったからな、最後は美味しく頂かせてもらうよ」
「え?」
──ボキッ、ズルッ
突然、女の身体を侵食していた快楽が消滅し、激痛に変わる。
ほんの一瞬。
女は悲鳴を上げ、そして突然襲ってきた耐えがたい痛みに悶絶し、死んだ。
「ふ、ふは、ふはははぁ…いい。快楽が絶望に変わる瞬間の魂、その精気……最高に良い……」
男は笑っていた。
血溜まりの中、ようやく終わったディナーを思い出すかのように。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
いつもの学校。
いつもの教室。
朝イチで登校した俺は、ちょっと思うところがあって隣の席の祐太郎に相談することにした。
「ユータロ、ちょっと相談に乗ってほしいんだが」
「おう、ワセリンとゴム持って、ベッドの隅でしゃがんでいてくれ」
「だから、誰が俺に乗れと言った? あの子たちを見ろ、顔を真っ赤にして誤解しているだろうが」
ふと見ると、通称・祐太郎親衛隊の女子たちが真っ赤な顔でこっちをみている。
築地君が望むなら、後ろでもって聞こえたけど耳の錯覚だよな? ふざけるなよユータロよリア充め。
たまに公園のベンチに座っている、青いつなぎのナイスガイに掘られてしまえ。
おおっと、話が逸れた。
「それで、何の相談だ?」
「祐太郎の家の庭師さんって、幻の拳法とか使わない?」
「なんで八骸拳? そもそもオトヤン、なんで武術を習おうとしている?」
「そりゃあまあ、俺も色々と考えたんだよ。いくらステータスが高くても、スキル持ちには勝てないだろ? だったらしっかりとした下地も作らないとねって」
そう説明すると、祐太郎は腕を組んで考えている。
「なあオトヤン。喧嘩の素人でマッチョな人が、空手の有段者と喧嘩したらどっちが勝つ?」
「空手の有段者だろ?」
「そうだよな。なら、プロレスラーの棚橋と空手の有段者なら?」
「うーん。難しいなぁ。その場の状況だよな」
ふむ、祐太郎の言いたいことがよく分からん。
「では、棚橋と空手有段者の三歳児が戦ったら?」
「3歳じゃ段位は取れないだろうが」
「例としてだよ、どうだ?」
「いくらなんでもステータスが違いすぎる。基礎が全く違うから三歳児じゃ無理だわ」
「そういうこと。オトヤンもその域だと思うよ、なので武術を習いたいならなんかの道場に通うか、俺が詠春拳を教えるか。だけど、長物も使うなら少林拳なんだよなぁ」
まあ、そうなることも予想していた。
だからこそ、ここは発想を切り替えてだね、伝説の拳法とかの継承者を探して……すまん、厨二病拗らせた。
「そうなるかぁ。わかったありがとう」
「ま、道場行くなら見学してみてから考えるといいよ」
そんな話をしていて、気がつくとHRの時間になる。
学校では来月の文化祭についての話し合いが行われていた。
開校三年目の本校としては、1年から3年まで全て揃った文化祭は初めてであり、三日間かけて盛大に行われるらしい。
校舎敷地内には外部に依頼した露店が出るらしいが、各学年各クラス、そして各部でも催し物を行うようにとの通達があった。
「はぁ、部活参加者は、部活の催し物がある場合はそちらが優先で、クラスの催し物は手伝い程度で良いのか」
「私たち文学部も、なにかやるんじゃないかな〜なにかな〜」
「さあね….まあ、楽しく行きたいから、楽しくやりましょう」
「オトヤン、言いたいことはわかるが、言葉が支離滅裂だな」
そんな事を話していると、クラスの催し物が『喫茶店』に決定しそうになっている。
まあ、別に良いんじゃね?
俺は関係ないからさぁ。
ボーッと成り行きを見ていると、女子が手をあげて意見を話し始めた。
「これは提案ですが、普通の喫茶店では他のクラスと被って面白くないと思います。ですので、何かうちのクラスなりの特色を持たせるのが良いかと思います」
「例えばメイド喫茶とか?」
「「「 男子横暴‼︎ 」」」
「それなら執事喫茶は? 築地君にスーツを着てもらって、執事をお願いするの」
「「「 それだ‼︎ 」」」
「俺は部活のほうに参加するから、こっちには居ないぞ」
女子たちの黄色い悲鳴を一蹴する祐太郎。
まあ、それぐらいは当たり前だのクラッカーだよ。
「幽霊屋敷喫茶店とか?」
「漫画喫茶は?」
「インターネット喫茶店は如何かしら?」
まあ、喫茶店となると、その程度だよなぁ。
「それならさ、マジック喫茶は如何だ? 俺は手品部に入っているから、こういうステージで披露する機会が欲しかったんだよ」
お、一瞬ドキッとしたけれど、クラスメイトの織田は手品部だったのか。
でもさ、うちの部の催し物は如何するんだろう?
「手品部は、文化祭ではなにかやらないのですか?」
「やるよ。でも、ステージ公演だけだから、結構時間が余るんですよ。ですから、付きっきりというわけにはいきませんけれど、俺でよかったらみんなに手品を教えますよ?」
──ドヤァァァ
おお、何という上からドヤ顔。
それで気が済むのなら、織田はそのままドヤ顔していなさいよ。俺はノータッチだからね。
「そうだ、乙葉にも教えてやるよ、どうせ文学部だって大したことしないんだろう? 読み専オタク集団じゃあ、せいぜい展示ぐらいしかしないんだろうからさ」
「そうだな、乙葉もやれば良いぜ、あいつの手品、すげえからさ」
「大通り公園にいる正体不明のマジシャン、甲乙兵って知っているか? あいつは俺の弟子だぜ」
あ、イキりまくりましたよこいつは。
しかも甲乙兵がお前の弟子? ちゃんちゃらおかしくてヘソで茶が沸くわ。
「へぇ、甲乙兵がなぁ。お前程度のエセマジシャンの弟子なわけないだろうが」
「お前程度? いま、俺のことお前って言ったか? たかが文学部如きが、未来のスーパーマジシャンの俺に‼︎」
あ〜。
もう面倒だわ。
「そこまで言うなら手品で勝負すれば?」
場を収めるために要副担任が提案する。
おいふざけんなよ、何で俺が勝負する必要があるんだよ?
「そうだな、そこまで言うのなら、乙葉も手品ぐらいはできるんだろう? 勝負してやるぜ」
「……めんどくさいわ。お前の勝ちでいいよ。言っておくが、俺を腰抜け呼ばわりしてもブチ切れて喧嘩を買うようなマーティ思考は持ち合わせていないからな」
「「「「 やれやれー! 」」」」
ギャラリー諸君、俺の意見は無視かよ。
何で煽るかなぁ。
はぁ、面倒くさいわ。
「それじゃあ勝負してやるよ。その代わり、俺が勝ってもクラスの催し物には手を出さないからな。俺は部活のほうに集中するから」
「ああ、今のうちに負けた時の言い訳でも考えていろよ。勝負は3日後のHRだからな‼︎」
なんだこの盛り上がり。
………
……
…
そして、何事もなく部活の時間でございますよ。
「文化祭の催し物ですが、文学部はステージでスーパーイリュージョンをする事にします‼︎」
──ズルッ
先輩の言葉に、思わず椅子から落ちそうになったわ。
なんでそうなったの?
「瀬川先輩、なにがどうしてそうなるの?」
「まあ、それをやったら、確実にウケるだろうさ、けれど、うちで手品ができるのはオトヤンだけだぜ、負担かけまくりじゃ?」
「そうですよ、ただでさえ、3日後には乙葉君はうちのクラスの織田君とマジック勝負するのに‼︎」
三者三葉、それちがう、お嬢様と大食らいと腹黒い動物愛好家とやばい執事がいる奴。
三者三様な意見が出ましたが、先輩、判決はいかに?
「まず、うちの部は展示するようなものはありません。本は有りますので図書喫茶というのも考えましたが、人数が少なすぎるので無理です」
うむ、それは納得。
「それと、今回の文化祭はHTN放送の取材も入ります。開校三年目の高校での、初の文化祭。頑張る高校生を応援したいという放送局の提案を、校長が許可したそうです」
「「「 はぁ、それがどう繋がるの? 」」」
「ステージは中継が入るそうですよ? それこそ、目立って良いのでは? 高校生でここまでマジックができる存在がいる、マスコミは食いつくでしょう? デビューできるわよ。それにねぇ」
その、ねえ、の部分は察しがついた。
離れた席では要先生も話を聞いている。
そうか、堂々と魔法を使い、手品だってアピールする事で視聴者は俺たちに興味を持つ。
同時に第六課を敬遠できるということか。
「おーけー。そういう事なら、やりましょう。3日後までには手品を覚えますし、部活までは頑張ってイリュージョン成功するようにします‼︎」
「それじゃあ、俺もコスチューム用意するか」
「ユータロ、夏のコミケのやつを使え、新山さんと瀬川先輩の分も急ぎ作るぞ、俺のは自前のやつを使うから」
要先生は、なにも興味がないように頷いているだけ。
まあ、先生は俺の手品見たからわかっているし、その程度だって思っているんだろうなぁ。
と言うことで、明日からの三日間、おれは手品部の織田を相手にするためにマジックの本を買ってきて読み込み、祐太郎たちは部活用の衣装の準備を開始した。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
「拝み屋に連絡はついたのですか?」
「ああ。東京にいる天羽たちは、憤怒の配下が始末する事になった。北海道に戻った築地議員については、愛欲が始末するように手筈を整えてくれる」
参議院議員会館のとある一室。
盗聴の心配もない『位相空間』の事務室で、数人の議員が顔を突き合わせて話をしている。
「しかし、金を貰って殺しを請け負う『拝み屋』ですか。どうやったら、そのようなつてができるのやら」
「石神井さん、それは聞かないほうがいい。迂闊に首を突っ込むと、今度は狙われる立場になることもあるからな」
「ですが、その拝み屋とやらは、以前にも築地議員を狙っていたのでは? ああ、確か失敗したのですよね? そんなのを信用して良いのですか?」
別の議員が問いかけるが、真ん中の席に座っている菅野は頷くだけ。
かわりに隣にいた蓮峰が集まっている議員に向かって口を開く。
「あの件については予想外だそうですわ。まあ、今となっては、妖魔を『素手で引きちぎる』ことが出来る
ような存在は確認することはできませんし、今回の件を失敗したら、もうあとが無いことも彼らは理解していますから」
「ま、まあ、蓮峰さんがそう言うのなら、なぁ」
「あ、ああ。すまない、我々としてもそんなつもりはなかったんだ」
「言葉には気をつけたほうがいいわね。今、この部屋にも三体の妖魔たちが待機している事に気付いていないでしょう?」
蓮峰が笑いながら告げると、議員たちは一斉に周囲を見渡す。
だが、霧散化して姿を消した妖魔など、肉眼では捉えることはできない。
「わ、分かった。それじゃあ、今回の会合はここまでとしましょう」
「ええ。天羽と築地の二人さえ仕留めれば、あとは烏合の衆だからな。妖魔を公表するなどという愚かなことを考える奴はいなくなるだろうからな」
「だが、妖魔が動くとなると、第六課が動くのでは?」
現時点での妖魔に対するエキスパート。
妖魔が動くとなると、第六課が黙ってあるはずがない。
「それは大丈夫だ。今回の件では、第六課は動くことはできないからな。そう上には要請をしてあるから」
それだけを告げて、菅野が立ち上がる。
それと同時に全員が立ち上がると、静かに部屋から出ていく。
部屋の外は現実空間。
全員が部屋から出ていくのを確認すると、傍で待機していた妖魔は静かに『位相空間』を解除した。
………
……
…
札幌、中央区
北海道警察本庁にある公安部特殊捜査課では。
「………」
御影警部補が腕を組んで、目の前の指令書を睨んでいる。
「警部補、何かあったのですか?」
「指令書だ。今日から一週間、特殊捜査課は捜査活動の停止、緊急時に対応するために庁舎待機だとよ」
御影が面倒臭そうに呟きながら指令書を井川に差し出す。それを受け取って目を倒すと、井川はワナワナと肩を震わせている。
「対妖魔組織である第六課に対して、このような指示を飛ばすとは言語道断です‼︎」
「かといって、命令を無視するとまた面倒な事になるよ?」
指令書を受け取って引き出しに放り込むと、御影も何か考え始める。
札幌での妖魔事件は、築地祐太郎誘拐事件から先は大きな出来事はない。
妖魔がらみの殺人事件など、東京などではここ数年頻繁に起きているが、北海道管区での報告例はない。
妖魔が巧妙に隠しているのか、それとも北海道に居る妖魔が好戦的でないのか。
いずれにしてもこのタイミングで、対妖魔活動を停止せよとの命令がくるということは。
「井川、近日中に妖魔絡みの大きな事件が起こるはずだ。とは言え、俺たちは宮仕え。指令書があるから動けない。という事は、何をすべきかわかるかな?」
そう問いかける御影に、井川も考える。
「私の有休は残っていますよね?」
「要君のも残っている。提出日を昨日にしておくから、二人で調査を頼む。それと、あのガキンチョ達にも一報入れておいてくれ」
「……それは、どういう事ですか?」
「直感だよ。まあ、このタイミングで妖魔が動くなら、彼らの組織も動く筈だからな。だから彼らの行動も追尾しておくように」
あとは動くだけ。
井川はすぐさま休暇申請を提出すると、部屋から出ていった。
「警視庁を動かす……議員か。ようやく尻尾が掴めそうだけどなぁ。あとが面倒になるのは、目に見えているよなぁ」
ポリポリと頭を掻いてから、御影もまたあちこちに連絡を入れ始めた。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。