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【書籍化】ネット通販から始まる、現代の魔術師  作者: 呑兵衛和尚
第七部・災禍の赤月、或いは世界滅亡へのカウントダウン
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第四百三十八話・天衣無縫? 一難去ってまた一難(さて、そろそろやばいかも)

『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週火曜日と金曜日を目安に頑張っています。

 八雲によって洗脳された特戦自衛隊隊員の放った凶弾。


 運悪く、俺の装備している白銀のローブに守られていない部分を撃ち抜かれたらしく、突然の激痛と大量の出血で意識が消えていった。


「なるほどなぁ……」


 そして目覚めたら、いつもの見慣れた病室です。

 札幌医科大学附属総合病院の個室です。

 俺をはじめ、魔術師チームに何かあった場合の入院先として指定されているらしくてさ、いつものように個室だよ。


「つまり、俺が倒れてから、特戦自衛隊の隊員たちも意識を失って倒れたと。そして八雲は逃げたということか……」

深淵の書庫アーカイブで検査した結果、八雲の放った毒によって一種洗脳状態に陥ったそうよ。付け加えると、全員が魔障中毒に侵されていて、今は自衛隊中央病院で検査入院中。退魔機関第6課の井川巡査部長が呪符よる診断を行ったそうだけれど、現時点では魔障中毒を緩和する方法は皆無っていうことになったらしいわね」

「乙葉君は倒れてすぐに私が魔法で傷をふさぎ、身体活性を行ったので失血によるショックは防げたけれど……ねぇ、普段なら、ローブに護られていない部分も魔力の膜によって守られているはずだよね? 二日も意識が戻らなかったんだよ?」


 新山さんの言葉に、俺は静かに頷く。

 そう、俺は平時でも体表面に魔力をコートして、ある程度の怪我を防げるように努めている。

 これはマスター・羅睺との魔導体術の訓練によるもので、普段は意識しなくても勝手に体を魔力が覆っているのだけれど。

 魔障中毒になって、俺の体内の魔力は枯渇している。

 つまり、俺を護っている魔力膜は存在しないんだよ。

 いやぁ……忘れていたわ。


「魔障中毒による影響だよなぁ。神威の魔力変換は意識して行わないとできないから、普段から全身を包むように魔力で覆うっていうのは難しいのか。これは、それなりに身を護るすべを考えた方がいいなぁ」

「無茶はしないでね。それでなくても、呪詛を受けて魔力が常時枯渇している状態なのだから……築地君みたいに、暗黒闘気を身に付けるとかすればいいの?」


 うーん。

 新山さんの意見はごもっともだけれど、暗黒闘気は闘気法を身に付けていないとできないから、俺じゃあ無理。俺の経絡は魔力回路として完成してしまっているからね。

 回路からあふれる魔力を闘気に変換することはできても、回路の中を暗黒闘気によって満たすなんて言うことはできないから。


「残念だけれど、魔力回路に闘気は流れない。だから、今は神威を完全に使いこなせるようにしないとならなくてね……それに、そろそろ時間が無くなって来たかもしれないから」

「時間?」


 うん。

 黒狼焔鬼こくろうえんきが転移術式を完全に把握し、転移システムを自在に使えるようになったのか、それとも有馬式魔導発電機により水晶柱への魔力供給が可能になったのか、それは分からない。

 ただ、窓の外、空には赤い月がうっすらと見え始めている。


「新山さんたちには見えないか……空に、赤い月が浮かび上がった」

「「え!!」」


 大慌てで新山さんと瀬川先輩が窓辺に走る。

 そして勢いよく窓を開け、乗り出すようにして空を見上げ……表情が凍り付いた。

 やっぱり、二人にも見えているんだよなぁ。

 まだ重なってはいないものの、札幌の空には三つの月が浮かび上がっている。

 やがてこの三つは一つに重なり、そして【災禍の赤月】が発生する。

 そうなると、この俺たちの世界から魔力が消滅し、封じられていた魔物が一斉に姿を現す。

 世界は一瞬で、魔族によって支配されてしまう……。


黒狼焔鬼こくろうえんきの目的は、封じられている魔神の復活……っていうところかしら。魔族を統べる神の復活そして世界の破壊。でも、すべての魔族がそれを望んでいないとしたら……」

黒狼焔鬼こくろうえんきを止めて、水晶柱を全て停止する。恐らくだけれど、すべての水晶柱に魔導発電機を―設置することなど不可能だから、きっと何らかの手段で、水晶柱に魔力を送り込否んでいる何かが存在するはず。それを突き止めることができれば、まだ災禍の赤月は止めることが出来る」


 そう告げてベッドから身を起こし立ち上がる。


――フラッ

 その瞬間に眩暈がおこり、ベッドに倒れてしまった。


「まだ無理よ、呪詛の影響だってあるのでしょう?」

「まあ、それはそうだけれどね。でも、動かないとやばいっていうのは理解できるからさ」


――コトッ

 空間収納チェストから回復薬を取り出して一気に飲み干す。

 これも魔力によって体を癒す効果があるのだけれど、ここ最近は魔力回復薬と同じように、俺の身体には効果が無くなってきている。

 それでも無いよりはまし。

 

「瀬川先輩、忍冬師範に連絡をお願いしていいですか。災禍の赤月が発生したということは、おそらく魔族が暴走を始める恐れがあります。位相空間に作った国立国会図書館の封印書庫、そこに残されていた文献では、災禍の赤月は魔族の本能を奮い起こす。つまり、人間を襲う魔族がいつ現れてもおかしくはない」

「わかったわ。それで乙葉君はどうするの?」

黒狼焔鬼こくろうえんきの居場所を探します。俺が八雲と戦った場所、あそこにはまだ彼女の体液と魔力の残滓があるかもしれない。それらをヒントに、転移先を絞って追撃を掛けます」

「無茶よ!!」


 俺がそう告げると、新山さんが叫ぶ。

 うん、無茶は承知だけれどさ、これは俺しかできないことだからさ。


「まあ、無茶だろうなぁ……魔力が使えない、神威を無理やり魔力に変換しても、そもそも神威の回復速度は遅い。いずれは枯渇してしまうかもしれないけれどさ。今、戦えるのは俺しかいないからね。祐太郎だって、今頃は誰かを護るために戦っているかも知れない。そう考えたら、立ち止まってなんていられないからさ」

「私も戦う」

「……へ? いや、だって新山さんは戦う力なんてないし」

「でも、守ることはできる。私の力は浄化と癒し、魔族相手には有利な力だから」


 ふう。

 そこまできっぱりといわれると、断れないよなぁ。

 むしろ、断ってもついてくるのは判っている。

 軽く右手を広げ、そして握る。


『ピッ……魔障による身体侵蝕率28%。まもなく魔法回復薬は受け付けなくなります。加えて、30%を超えると乙葉浩介の身体が【神の器】に作り変わる可能性大』


 眼が覚めてから聞こえはじめた、魔導執事と天啓眼による解析データ。

 この【神の器】というのが何か判らないけれど、中二病的発想で考えると、災禍の赤月によって世界が崩壊し、目覚めた魔神の魂が俺の身体に入りこんで完全体になる……っていうところだろう。

 不思議なことに、この【神の器】は発現していないため深淵の書庫アーカイブでも見通すことが出来ないようで。

 この体がもしも器となったら、黒狼焔鬼こくろうえんきは俺を捕らえるために姿を現すかもしれない。

 それなら、残り2%の浸食が行われる前に、すべてを終わらせる必要がある。

 神に関することなら、俺たちの中でもっとも神に近い新山さんなら何か判るかもしれないか。

 そう考えて、俺は新山さんに手を差し出す。


「一緒に、戦って欲しい。そして俺に何かあったら、助けてくれる?」


 おそらくだけれど、俺が彼女に戦って欲しいなんて言ったのは初めてだろう。

 それを新山さんは理解しているのか、涙を浮かべて頷いている。


「うん。築地君のように戦うことはできないけれど、乙葉君の背中を護ることぐらいはできるから」

「頼りにしているよ……」


――ゴホン

 あ、先輩の咳払い。

 

「ということなので、ここから先は忍冬警部補とも合流して頂戴。私は引き続き、妖魔特区で観測を続けているので」

「了解っす。それじゃあ!!」

「では、行ってきます」


 俺と新山さん、二人で病室を飛び出すと、急ぎ戦闘現場である妖魔特区に移動……って、結局はあとで全員合流じゃねーかよ!!

 格好つけて損したわ……って、いいか。


いつもお読み頂き、ありがとうございます。


・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。



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