第四百三十六話・四面楚歌? 背に腹は変えられない(統率された魔族の組織と、個人プレーと)
『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週火曜日と金曜日を目安に頑張っています。
アラクネという魔物を知っていますか?
具体的に説明しますと、巨大な蜘蛛の頭部あたりから女性の上半身が生えている感じの魔物でして。
元々はギリシア神話に登場する織物が得意な女性で、アテナと織物対決をした挙句、仕上げた織物には人間と女神の怠惰な情愛のシーンを織り込んで挑発まがいのことをやらかしたそうで。
結果的に怒りを買って蜘蛛の姿に変容させられた挙句、生涯織物を続けなくてはならないという呪いまで科せられたとか。
それゆえに、蜘蛛の巣はあのように美しい幾何学模様を描いているそうで。
え、なんでこんな説明をしているのかって?
そりゃあさ、目の前の八雲っていう魔族がアラクネのような姿に変化しただけでなく、両手や蜘蛛の口から執拗なまでに糸を噴射して俺をからめとろうとしているからだよ。
──シュシュンッ
目の前まで飛来する位置をギリギリ躱しつつ、白銀のローブに付着した糸は炎の術式で焼き落とす。
アラクネの糸が可燃性で助かったわ、これが燃えないようだったらその糸で耐熱スーツでも編み込めそうだよなって思うところだったからさ。
「ええい……忌々しいですね。この私の糸から逃れるとはどういう身体能力をしているのですか……」
「こういう身体能力なんですけれど。まあ、魔力を全身に循環させて身体強化を施しているだけなんですけれどね……」
「馬鹿な……黒狼焔鬼さまの呪詛を受けて、貴様の体内には魔力など残っているはずがないというのに……」
そう呟いたタイミングで、俺は空間収納から魔力回復薬を取り出して一気飲み。
薬の効果で全身が輝くけれど、それを見て八雲がニイッと笑っていた。
「そうかそうか……体内では魔力を生み出せないから、外部から取り入れているのですか。でも。それもいつまで続くのでしょうかねぇ」
「チッ……」
とわざとらしく舌打ち。
これで俺が神威変換による魔力生成を行っていることはごまかせるし、相手に切り札が露見することもなくなった。
ぶっちゃけと、魔力回復薬を使ったところで、魔障中毒の効果で魔力は蒸散してしまうんだけれどね。
それでも、これで俺に対しての注意は引き付けることが出来たので、あとはどうにかして八雲対策を考えるしか……って待て待て。
「うっそだろ……逃げ道がないってどういうことだよ」
八雲の糸を躱しつつ必死に逃げ回っていたんだけれど、気が付くと四方八方が糸によって囲まれ、糸の壁によって包み込まれていた。
「だって……ねぇ。私は女郎蜘蛛の魔族ですから。そろそろ私の毒も回って来たんじゃないかしら?」
腕を組んでクックッと笑っている八雲。
はて、毒といいましても抵抗したので、どういったものでどういう効果なのか分かっていないんですけれど。
「あの、つかぬ事をお尋ねしますが。毒ってどういう効果なのでしょうか?」
「どうって、そりゃあ魔力中和と麻痺、そして媚薬効果の二つに決まっているじゃない。あなたのような神威を持つものの体液を啜れるなんて初めてですし、次いでにあなたの精を頂こうかしら? 現代の魔術師と私の子なら、神威を持つ魔族が生み出せるんじゃないかしらねぇ……そうすれば、あの方の望みも叶うかも……ね、だからそろそろ、貴方の精を頂こうかしら?」
そう呟きつつ、八雲の蜘蛛の頭の部分、巨大な顎が左右に開く。
そこから黄色いガスが噴き出し、周囲に充満していくけれど。
『ピッ……魅了の毒霧に抵抗失敗。だが隷属無力化効果により、乙葉浩介には魅了は効果がありません』
「うぉっと!!」
あっぶねぇ。
急ぎカナン魔導商会から抵抗の指輪を追加購入……って。在庫が二つしかないぃぃぃぃぃぃ!!
まあいい、無いよりあった方がまし。
『ピッ……お買い上げありがとうございます。こちらの商品は材料費高騰のため、当面は入荷未定となります』
材料費高騰ってなに?
世知辛すぎて涙も出てこないんだけれど。
まあ、ネット通販で商品の入荷未定とかもよくあるけれど、ここまで俺たちの世界のように合わせてくれなくてもいいんじゃね? 材料だって魔力で作り出すとか……まあ、俺でもできないから無理か。
「わ、悪いな……俺は初めての相手は決めているんでね……」
「あら、そうなの? モテない童貞君だと思っていたわ。魔族の女性を一度でも抱いたら、もう普通の女性を相手になんてできなくなるっていうわよ……試してみる?」
「訂正。俺は好きな女性以外とはそういうことはしない主義ですから」
あっぶね、昔のことをすっかり忘れていたわ。
いや、あれは事故ということで、取引だったんだよいいね?
「ふぅん。でも、そろそろ限界なんじゃないかしら?」
こっちを見てニヤニヤと笑っている八雲。
まあ、効果は全くないんだけれど、わざとふらふらした振りをして、必死に抵抗しているそぶりを見せていることにしよう。
さて、この糸の対策をどうしようか……。
(乙葉くん!! 右に三歩、前に二歩)
へ、新山さんの念話?
素早くふらふらと、まるで酔拳のように指示通りに歩みを進めると。
──チュィィィィィィィィン……
さっきまで俺が立っていた場所の背後、そこにあった糸の壁が熱を帯びて白熱化を始めると。
──ドッゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ
爆音と同時に、いくつものレーザーが飛び込んできた。
それは八雲の身体を掠め、火傷のようなもの負わせることが出来たが。
「呼ばれたから来ましたっ!!」
巨大な籠手を装着した獣人・りなちゃんがドロドロに溶け始めた糸壁を押しのけて入ってくる。
うん、それツァリプシュカじゃないよね。それよりもさらにごっつくなっているよね。
「りなちゃん……ふう、助かったわ」
「悪いな浩介、俺も一緒なんだが」
忍冬師範もりなちゃんの後ろから入ってくる……て、師範もその右腕の装備ってなんですか?
りなちゃんのツァリプシュカを一回り小さくしたような兵装はなんですか。
「うん、これはりなちゃんの最新型ツァリプシュカ。今度は純国産風の名前で『火之迦具土』っていうんだって」
「へぇ。それで師範のそれは?」
「これは、有馬博士が異世界のテクノロジーから作った新型魔導兵装らしい。向こうの世界で西欧の魔術師が使っていたものらしくてな。それをツァリプシュカの機動システムに組み込んだものらしくて……」
ガシャガシャと籠手のマニュピレーター部分を動かしつつ説明をしてくれる。
「それは、魔法の杖を籠手の形に変えた武器。ええっと、有馬とーちゃん曰く、ガンドっていう古代ノルドの杖を指し示すものらしいって」
「へぇ。ガンドねぇ」
「だから、ガンドを用いた兵装っていう意味で・ガンド・アー『はいはい、そこまでそこまで』ムってへ? そうなの?」
いくら終わったこととはいえ、あぶねぇから。
いや、一部の人にとっては未だ放送は続いているらしいから、そこに触れてはいけない、いいね。
「……何故……どうしてわたしの身体が傷つけられるの……その武器は一体なんなのよ? この魔導装束は私の糸を用いて作った最強の防具なのよ? それを焼き切るなんて……ああっ、どうしてくれるのよぉぉぉぉ」
あ、八雲の全身が光始めた。
これはやばいってことだよなぁ。
とりま、今のうちに穴から外に逃げた方が無難だよな。
そう思っているのもつかの間。
光がやんだと思ったら、八雲の背後に黒い球体がいくつも発生し、そこから無数の魔族が姿を現したんだけれど。
それも……人の姿をした魔族……いや。
「まさか……人間の魔族化……だと?」
そう。
アメリカ海兵隊の制服を着ている魔族の群れ。
それが一斉に姿を現すと、俺たちに向かってライフルを構えたんだよ。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




