第四百三十二話・(フットワーク、早すぎませんか?)
『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週火曜日と金曜日を目安に頑張っています。
俺が作った位相空間内での話し合い。
その場での結論には至ることはなかったものの、内閣府退魔機関としては俺たちの説明を信じてくれたというだけでもよしというところだろう。
むしろ、あそこにあった大量の書物、そこに所蔵されている『対妖魔戦術』や『対妖魔兵装』について記述されている本などは、持ち帰って研究したいという申し出があったのだが。
残念ながら、あの場所の書物については禁帯出。というか、そもそも外に出したら実体化が溶けてしまう。
それでもあきらめきれないらしく、定期的に訪れてデータを移したいという申し出もあったのだけれど、それについては俺の時間が空いているときという条件を付けさせてもらった。
ということで、位相空間から戻って来た俺たちは、一旦解散して英気を養うことにした。
まあ、夏休みに突入しているので、時間はいくらでもある。
とにもかくにも、とっとと黒狼焔鬼の尻尾を掴みたいというところが、俺たち全員の共通意見である。
――翌日・札幌テレビ城下
「それにしても、あの位相空間ってかなり厄介ね。あの図書館に収められていた蔵書については、私の深淵の書庫でも読み取ることが出来なかったのですから」
朝10時。
いつものように札幌テレビ城下に集まった俺たちは、今後のことについて対策を考え直すことにした。
一応、忍冬師範からは活動自体は構わないけれど、魔族がらみの事件とか証拠が手に入ったらすぐに連絡を寄越すようにと釘をさされていた。
まあ、だからといって自重するような俺たちじゃないけれどね。
「うーん。あの空間って、俺がかなり強引に作り出したものだからなぁ。どうにか図書館内部のすべての蔵書や資料の複製は作ることが出来たけれど、それを外に持ち出すことはできない。このあたりは魔族が作り出す空間結界と同じルールらしい。逆に考えると、全てが複製であるがゆえに、深淵の書庫が認識をしていないのではないかって思えるんだよね」
これは俺の推測。
だってさ、こう考えてみれば辻褄があうじゃない。
俺と祐太郎が初めて妖魔と出会ったのも、空間結界に閉じ込められた時だからなぁ。
「しっかし、祐太郎はいつ頃かえってくるのやら……」
「さすがに、転移門を開くための媒体である水晶の森がない以上は、ほかに媒体を探し出す必要があるのではないでしょうか。そうなると、おいそれと帰還はできないのではと思いますわね」
「先輩のいう通りか……と、なんだなんだ?」
ふと、俺の視界の右下で何かが点滅している。
何だろうとそっちを見ても、まだ俺の視界の右下が点滅……ってあれか、カナン魔導商会のメッセージか。
「カナン魔導商会、起動……って、あ、やっぱりメッセージでしたか」
メインメニューにあるメッセージを示すボタンが点滅している。
ということでそれをタッチしてメッセージを確認すると。
『ピッ……納品依頼、それも早急にお願いします。必要な商品……乙葉式結界発生装置を6つ。報酬は……』
ふむふむ。
大至急の納品依頼かぁ。
「って、なにんだなんだ? 大至急の納品依頼なんて、初めて見たぞ?」
「んんん? 乙葉君、なにが起きたの?」
「まあ、簡単に説明すると、いつものようにカナン魔導商会からの納品依頼が届いていてさ。ただ、早急にっていう時間制限のようなものが付いているんだよ」
「ははぁ……カナン魔導商会のある世界で、乙葉君が作ったそれを急いで使いたい出来事が発生したのではないでしょうか。でも、だからといってすぐに作れるのですか?」
お、先輩、いいところをついてくれましてね。
実は、純国産の素材を使って予備は作ってあります。
でも起動に必要な魔力はそこそこ高いので、そんじょそこらの魔術師では起動まで持っていけない筈なんだよなぁ。
「ちょっと、予備はあるんですけれど、起動条件が高くて……せめて、向こうで何が起きたのか分かったら、こっちとしても対処方法はあるんですけれどねぇ」
そう呟いてみるが、何が起きたかなんて聞きようがない。
あっちへの連絡手段なんて、ウインドウからのメッセージ機能だけだし、それも定時の朝と夕方しかこないからね。
「ねぇ乙葉くん。それならさ、聞きに行ってみようか?」
「へ? 聞きに? カナン魔導商会に? どうやって?」
新山さんのトンデモ発言に、俺も突っ込みを入れてしまったけれど。
「ほら、駅前の『ネクスト45』にある『カナン魔導商会・札幌支店』があるじゃないですか? あそこなら本店での出来事ぐらいは簡単に確認できるのではないですか?」
――ポン
思わず手を叩いて納得。
そっか、あの支店の存在をすっかり忘れていましたよ。
「それだぁぁぁ。ナイスだ新山さん。でも、よく覚えていたね、あのわかりづらい支店のことを」
「私と瀬川先輩は、だいたい週に一回とか二回は訪れていますからね。ほら、スタンプカードも貰ったのですよ?」
「はぁ、それまた面白い……って、結構溜まっているよね、このカードを見る限りは」
来店時スタンプ一個ってことはないよなぁ。
お会計時の金額に応じてスタンプを押してもらうんだろうなぁ。
もう10個以上溜まっているし、7つごとに何かが一つ無料になるみたいだし。
「うん。色々と面白いものもあるし、最近はようやくりなちゃんと紗那さんも会員証を貰えるようになってね。それで、今日はどうするの?」
「行かないという選択肢はない。俺はいくけれど、新山さんと先輩はどうしますか?」
「私はパスですわね。深淵の書庫での解析とか、追跡調査とかもありのすので、ここから離れるのはちょっと」
「それじゃあ、私と乙葉君でいってきていいですか?」
そかそか、新山さんの今の状況は、深淵の書庫のサポーターだからね。
それって神聖治療師の役割じゃないけれど、けが人もなにもないのだから平和でいい。
「いいのでは? おみやげなんて必要ないからね」
「だそうで。それじゃあ、行ってきますか」
ということで、俺は新山さんと二人っきりでネクスト45ビル地下にある、カナン魔導商会・地球支店へレッツらごー。
………
……
…
――ネクスト45地下・カナン魔導商会
俺と新山さんは会員証を持っているので、階段を降りる時点でカナン魔導商会へとたどり着くことが出来ましたが。
──ピンポンパンポーン、ピンポンパンポーン
自動ドアが開いて来客を告げる音が響く。
それと同時に、『StaffOnly』と書かれた扉が開き、店長の安里真夕さんが出てきた。
「あら、乙葉さん、お久しぶりですね……って、ここに来るのは二回目かしら?」
「まあ、俺にはこれがありますからね」
そう告げてから、シュンッとカナン魔導商会のウインドウをオープンする。
すると嬉しそうに頷いているので、顧客である俺としてもうれしい限りである。
「新山さんも三日ぶりかな? それではごゆっくりとどうぞ」
「あ、あのですね、ちょっとお尋ねしたいことがあるのですけれど」
接客モードで話している安里真夕さんに、俺は今回ここにきた用件を説明する。
「はい、どのようなことでしょうか」
「つい先ほどですが、俺のところにカナン魔導商会からメッセージが届いたのですよ。なんでもね、乙葉式結界発生装置を6基、大至急納品して欲しいって……でも、あれってかなり高位の魔術師とかじゃないと起動できませんし、万が一にも悪用されるようなことになったらと思って……それで、用途について教えてもらえたらなぁって、ここに来たのですよ」
一つ一つ丁寧に説明すると、安里真夕さんがフムフムと頭を縦に振っている。
そしてiPadのようなものを取り出して何かを確認していると、こめかみに指をあてて渋い顔をしている。
「あ、あの、教えられないようでしたら構いません」
「いえ、これはご説明した方がよろしいですわね……」
そう告げてから、安里真夕さんがため息を一つ。
うん、これはよほどのことがあったんだろうなぁ。
「今回の納品依頼、実はうちのスタッフが勇み足で乙葉さまに送りつけたようです。本来ならば本店の倉庫にある在庫を確認、適切な商品がない場合や在庫切れといった場合にのみ、乙葉様に納品依頼を行っているのですが。今回は『とある顧客』からの要望であったらしく、それを見たカルラ本部長……もといカルラ主任が乙葉さまに依頼したようですわ」
ちょっとまって、いきなり本部長が主任に降格しているだけれど。
このケースって、そんなにやばいことなのですか。
「そうでしたか……ちなみに、これは無理なら教えていただかなくて結構なのですけれど、どこのどなたが注文したのでしょうか」
「築地祐太郎さまです」
………
……
…
「はぁ?」
「ですから、発注主は築地祐太郎さま。どうやら共有画面のメッセージ機能を使って、乙葉式結界発生装置の発注を行ったようです」
「ちょ、ちょっと待ってください、祐太郎は無事なのですか?」
「それにつきましてはお答えできませんけれど、結界装置を欲している状況とだけご説明させていただきますわ」
――シュンッ
一瞬で空間収納から結界発生装置を6つ取り出すと、それをカウンターの上に並べる。
「はい、これで納品はクリアになりますか?」
「あらあらあら。これはまた、ずいぶんとお早いことで」
そう告げてから、安里真夕さんが結界発生装置を一つ一つ確認している。
そして6つすべてを確認すると、満足そうな笑みを浮かべて結界装置を一瞬で消した。
「はい、それでは納品は完了とさせていただきます。チャージも増やしておきましたので、またのご利用をお待ち申しています」
「ふぅ……これで祐太郎は少しは安全ってことか」
「でも、乙葉式結界発生装置を6つっていうことは、築地くんは何か守らないとならないものがあって帰ってこれないっていうことだよね?」
「そういうことになるか……そうだ、あの、ここって商品検索ってできますか?」
「ええ、私のマギアパットは本店のマザーシステムと直結していますので、すぐに調べることは可能ですわよ?」
よっし。
これはいいことを聞いた。
「それなら、災禍の赤月っていうことについて詳しく記されている書物とかはありますか?」
「ありませんね。それにつきましては神級プロテクトがかかっている情報です。こちらとしてもご協力したいところではありますけれど、私たちの世界はそれらについては干渉することはできませんので」
「ああ……ここでもプロテクト。いえ、ありがとうございました」
がっくりと肩を落とす俺ちゃん。
だけど、新山さんが安里真夕さんに一言。
「安里真夕さんは、災禍の赤月についてはご存じなのですか?」
「存じているかどうかと問われますと、よく存じているとお答えできます。また、それらについての対策、対処方法についても存じておりますが、不干渉を言い渡されていますので」
「うわ……では、それが起こった場合、世界がどうなるのかまでは知っているんですよね?」
おおっと、新山さんがいつになく食いついています。
「はい」
「では、そのうえで、災禍の赤月のことではなく、ここの支店長さんにお尋ねします。こちらの支店を閉店する予定はありますか?」
「いいえ? そんな必要はないと考えていますけれど」
「そうですか……よかった、ありがとうございます」
「いえいえ、新山さんもなかなか狡いですね……と、それよりも手ぶらで帰られると、こちらとしても困ってしまうのですけれど……」
「はいはい、ちゃんと買い物はしていきますよ。支払いはチャージからでも大丈夫ですか?」
その問いかけに、安里真夕さんは右手でオッケーマークを作っている。
さて、それじゃあ買い物を始めますか。
それにしても、相変わらずの商品ラインナップ、中級以下の武具とかも健在だし、俺の見たことのない魔導具も並んでいるよなぁ……。
どれを買おうか、これは一つ一つ吟味する必要があるっていうことか。
実に悩ましい。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




